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しっかり寝れたぜ。あの前置きからな。嘘だろ? メイドの膝枕、安眠効果ありすぎるだろ。そりゃメイドにそういうサービスさせる店も生まれるよ。
起きた時には、リンと猫屋敷が作戦会議をしていた。俺が一番お寝坊さんってわけ。
時間を確認しようにも、寝る前の時間もそれより前の時間も覚えていない。ダンジョン内は時間の感覚が狂いやすいので仕方ないが、体感しっかり一夜分寝た気がする。
夢の中で、誰かと話していた。それでようやく気付いたのだが――
「なぁリン」
身体を起こし、リンの方を見る。
リンは少しだけ驚いた顔をこちらに向けてきたが、「なんだ」と返した。
「ここに迷宮災禍の予兆があるって、……あれ嘘だろ」
「嘘だ」
「だよなぁー…………」
即答された。誤魔化す気はないんだな。
だて、外で調べても、ダンジョンの中にも、異常らしい異常はなかった。毎日潜ってたら気付く程度の小さな異常かもしれないが、思えばリンの反応はおかしかった。
異常はあるというのに、どこが異常か話さない。
情報提供者と俺を、頑なに会わそうとしない。
ダンジョンの中に入ってみても、忘れたとばかりにそんな話はしない。調査をする気配すらなかたt。
情報は揃っていた。でも、疑ってはいなかった。理由もなしにそんなことを言う奴じゃないからだ。
でも、夢の中で誰かと話していて、はっきりしたのだ。
あれ、これ嘘ついてんじゃね? と。
「近場で未踏破のダンジョンは、ここしかなかった。ああいえば海里なら着いてくると思ったんだ」
「……どこでも良かったってわけか」
「あぁ。騙して悪かったな」
「…………いや、別に良いけど」
ちらり、と猫屋敷の方を見る。俺は気付いたが、こいつは――
驚天動地、そんな顔で口を大きく開いていた。
「にゃ、にゃ、にゃ……」
震えた猫屋敷が、リンに掴みかかり――
珍しく、避けることも抵抗もせずリンは揺さぶられる。
「だ、騙したにゃぁー!?!?!?!?!?!」
「あぁ、悪かったな」
「異常ちゃんと調べようと思ってマップとかモンスター配置全部覚えてたのにぃいいいい!!!!」
そんなことしてたのかよ。
「悪かったな」
「海里くんもっ、こっ、ここで、このタイミングでネタバラシする!?」
「すまん、さっき気付いたんだ」
「軽くない!? 結構報奨金貰えるはずだったんだけど!?」
え、そうなんだ。
「いくらくらい貰えるものなんだ?」
リンが問うと、猫屋敷は俯いて小さな声で答える。
「……規模によっては1000万くらい。迷宮災禍ってかなり重大な事故に繋がるから……」
そんな貰えるんだ……。
「それっぽっちでいいのか」
しかし、そう言ってスマホを操作したリンは――
「にょわっ!?」
通知で震えたスマホを取り出した猫屋敷が、ぴょんと跳ねる。
「り、りりりりんちゃん!?」
「? なんだ」
「お、お金っ! 間違ってるよ!?」
「金が欲しいんだろう。これで満足か? まだ足りないなら――」
「満足だけど!?!?!?!?!??」
え、今の今で払ったの!? 1000万を!?
「……リン、貯金いくらあんの?」
「貯金…………」
首を傾げたリンは、銀行アプリを開いたスマホをぽい、と放り投げてきた。
キャッチして、その画面を見る。えーと、1,10,100…………
「…………270億? え?」
「使い道のない金だな」
「あるだろうがッ!!!!!!!!!!!」
「? 新居とかか? まぁ買えるだろうが――」
「いやもっと他に――ほら――武器とか!?」
「今すぐ手に入るなら買うが、今すぐ手に入らないなら別に要らん」
あっさり返され、ぽかーんと口を開ける猫屋敷と目を合わせる。
二人で頷きあって――、決めた。
「リン、金の管理は? パーティの誰かがしてたのか?」
「? してないが」
「……じゃあこれどうやって稼いだんだ?」
「ADFに入る前のスポンサードと、あとはまぁ戦利品を売ったりしてたらこうなった」
「普通はこうならねーんだって!!!!」
「なったぞ。なったものは、なったんだ」
むすっとふくれっ面を見せて、少しだけ不機嫌そうにリンは言う。
あぁ、分かった。分かっていた。
リンは、そもそも金に困ってない人間だ。これまでの人生、必要なものを必要な時に買うことが出来た人間。
金のせいで欲しいものを買えないこともなければ、金のせいで買うのに悩むこともなかったのだろう。何が高く売れたかくらいは覚えてるかもしれないが、高く売れるものがドロップしたから嬉しい、という感覚はなかったはず。
だって、金で手に入るものはなんでも買えていたからだ。
そのせいで、分かっていないのだ。この金額を持っていることの、意味が。
「……よし、リン」
「なんだ」
「帰ったら、お金の話をするぞ」
「? 構わない。どうせそのうちすることになるしな」
「そのうち?」
「夫婦のどちらが財布を握るか、普通は話し合うものなのだろう?」
「…………まぁするかもしれないなぁ!?」
ここで「知らねーよ!」ってツッコんだら負けだ。
すっとぼけてるわけではなく、こいつは真面目に言ってるんだ。
……覚悟決めなきゃ、なんないのかなぁ。
教えてくれよ、ヤマト……。お前の妹、なんか押しが異常に強いよ……。




