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「……いや、」
剣を持つのは久しぶりだから慣らしということで、次の階層は自分一人でやる、とリンに言われた。
ので、後ろで3人で眺めているのだが――
「速すぎねぇ!?」
リンの動きが、明らかに槍を持っていた時より速いのだ。
プロペラもなく飛翔している、巨大な目玉のようなドローンのようなそいつを――
リンが歩くと、綺麗に中心で両断になっていく。
剣を振り上げ、振り下ろす。その動きはあまりに滑らかで、ゆったりとしていて。一瞬、速く動いていることが分からなくなる。
けれど、気が付くとリンは目玉の脇を通り過ぎ、目玉は真っ二つになって地に落ちる。
「……なんか槍持ってた時より速くないかにゃ……?」
猫屋敷も同じ意見のようで、目玉を切り続けるリンをぼーっと眺めている。
クレイは――、爪弄ってる。きょ、興味なさそう……っ!!
「さっきまで2時間以上戦ってた奴の動きじゃないんだよなぁ……」
「異常にゃー……」
分かるのは、ただ動きが速いというだけだ。しかし目玉ドローンは、動きを止めているわけではない。浮いているという仕様を全力で活かし四方八方からリンに襲い掛かり、その動きは俺の目でギリギリ追えない程度の速度である。
目玉ドローンの大きさは、人の頭より少し大きいくらいか。巨大なスイカくらいだ。そいつが、何体も、いや何十体も通路の向こうから現れ、リンが悉く切り捨てて行き――
くるり、とリンの首がこちらに向く。見たのは、俺ではない。それより後ろ――
「うぉああ!?」
「にょわっ!?」
後方から目玉ドローン集団が現れた。先程通り過ぎた分かれ道の反対側からこちらに向かってきたのだろう。リンはこちらに来ようとする動きを見せたが、しかしすぐに自分自身が囲まれる。
「『射――」
間に合わない。いくらなんでも速すぎる。
そもそも、『射法』より速く動くものに当てられるはずが――
ぺちん。
爪を弄っていたクレイが、そちらに視線を向けることもなく俺の眼前まで迫っていた目玉ドローンを素手でひっぱたいた。
「「え」」
ドローンは壁に直撃し――
どかーん。
爆発した。
「うおおおおあああ!?!?」
「自爆ドローンだったのかにゃああああ!?!?!?」
叫ぶ俺と猫屋敷を横目に、爪弄りを終えたクレイがモップを構える。
――して、悉くを打ち払う。
まるで、虫でも払っているかのように。
モップで払われ壁にぶつかった目玉ドローンは、どかんどかんと爆音を立てて破裂していく。
というか、クレイのモップを食らってもそのままの形を保って壁にぶつかるって、めっちゃ固いってことじゃねえ!?
すぐに壁にぶつけるのは非効率だと判断したか、クレイはモップの握りを変え、正面に向かって打ち払っていく。すると、吹っ飛んだ目玉ドローンが別の目玉ドローンに直撃し、どっちも爆発し――
「最悪のぷよぷよだよ!!!!」
爆発が連鎖っ!! 向こうから飛んでくるのが爆発しては吹っ飛ばされて爆発して爆発して爆発して――
耳がどうにかなりそうだ。幸い爆風の範囲はかなり狭いようだが、まぁ直撃したら俺の身体は四散するよね、と確信出来る威力ではある。
それが、まぁ連鎖するわ連鎖するわ。どがんどがんと音が途切れない。
「『射法・偽』――――いや無理だって!!」
視線誘導で先読みしてこちらに近づく前に当てようにも、目玉ドローンの動きが不規則すぎる。もうちょい重力下の動きとか覚えて欲しい。つーかほとんど休憩も無しで降りてきたから、先の戦闘の影響で魔力も大して残っていないのだ。
魔力回復ポーションを飲んではいるが、あくまで回復速度を高める程度のものなので、飲んだらすぐ魔力満タンとかになるものではない。というか、満タンにするのに、知力全振りの俺の総魔力量は多すぎる
「んー、動かないでくれたらごしゅには当たんないよ?」
「はい! 動きません!」
「わたしは!? 守ってもらえるのかにゃ!?」
「ネコチャンもー、まぁごしゅの近くに居たらたぶん?」
「優先度低いにゃぁー!!!!」
べちーんどかーんどかーんどかーんどかーん。べちーんべちーんどかーんどかーん。
――それを繰り返すこと、30分ほど。
ようやく前後の湧きが止まったのか、リンが剣を肩に乗せてこちらに近づいてくる。
「すまん。一人でやると言った手前、なんとかそちらも対処しようとしたが厳しかった」
「やー、気にしないで良いよー。無理なのは分かってたし」
当たり前のようにクレイが言うと、リンが「うっ……」と胸を抑える。だ、大丈夫なのか?
「リン、剣の調子はどうなんだ?」
「少し軽いが、悪くない」
「……なんか槍の時よりめっちゃ速かったような気がしたけど、そんな特性付いてないよな?」
「ん? まぁ、そうだろうな。『海龍の蓋』は攻撃速度低下のデバフが入るんだ」
「あれでデバフ入ってたの!?」
「何を驚くことがある。耐久値が高く自動修復機能まであってレア6平均以上の攻撃力があったのだから、どこかにマイナスの補正が入るのは自然なことだろう?」
「自然なこと……かぁ!?」
駄目だ、分からねえ。そういうものなの!?
俺は耐久値の計算がダルくて武器持つのやめたからなぁ。武器持ってたのなんて高1とかだ。それこそレア4で精一杯だったような時代だぞ。何年前だと思ってる。
「……ってことはリンは剣持って速くなったんじゃなくて、槍持ってる時に遅くなってたのが元に戻っただけってことか。だから軽く感じたのもある、と」
「そういうことになるな」
「あの速度は自力ってことね」
「そういうことになる」
「…………そういうことになるか」
とはいえ、リンのステータス的にはいくらなんでも速すぎると思うのだが。盗賊がスキルで速度上昇入ってる時でもあんな速くない。一体どういう理屈なんだ。
「……リンちゃん、俊敏無振りだった気がするけどにゃー……」
「そうだが?」
「速度上昇系のパッシブスキルなんて入れてた?」
「ない。純粋な脚力だ」
「「脚力かぁー……」」
「流石に俊敏補正ほどじゃないが、力に振れば筋力が上がるから、移動速度も相応に上がるぞ」
「「そうなんだ……」」
聞いたこともねえよ。力全振りの世界どんなだよ。
あとリン、普段から接してると忘れそうになるが、日本に3人しか居ないフィフスランク――レベル90もあるのだ。俺なんてずっとレベル50だよ。ステータス増強スキルもリンほど鍛えてないし、勇者の7倍補正かかってもリンのがステータス高い気までする。
「あっ」
ぴぴーんと、猫屋敷のパーカーについてた猫耳が立つ。どうやら何かしらのセンサーになっているようだ。いやどんな仕組みだよ。
後ろを振り返り、指差した。
「次来た次っ!! 移動移動! また囲まれちゃうにゃぁー!!」
「道は?」
「えーっと……先導するのは怖いからリンちゃん前出て! 道は指示するにゃ! 全力疾走ならたぶん撒けるっ!!」
「了解した。――この階層は面倒だ。とっとと抜けるぞ」
リンが駆け出す。その移動速度は、猫屋敷の全力疾走以上に速い。すぐに見えなくなってしまった。
「待ってぇえええええ!!!! 置いてかないでぇええええ!!!!」
その後を猫屋敷が追走し、俺たちは――
「えーと、クレイ」
「んー?」
「すまん、担いでくれ」
「りょっ!」
クレイが、俺を小脇に抱き抱え――るのをやめ、お姫様抱っこに持ち替えた。
「マジで!?」
「喋ってると舌噛むよー」
「マジでぇえええええ!?!?!?!??!?」
クレイは、駆け出した。
リンたちの後を追走し、曲がり切れず壁にぶつかりそうになり――
「いやいやいやいやいや!?!?!?!?!?!」
そのまま、壁に足を付けた。
壁を蹴って方向転換――とかではない。まるで重力の向きが変わったかのように、そのまま壁を走るのだ。
「あああああああああああああああ!?!!?!?!?!!?」
「あははは! ごしゅ叫びすぎウケる」
「笑いごとじゃねえええええ!!!!!!!!!!」
――あぁ、さっきの階層ではこうやって走ってきたんだなぁと、お姫様抱っこをされながら思案する、海里なのであった。




