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「ごしゅーーーー!!!!」
「うぉおおおお!?!?!?!?!?」
そのままの勢いでクレイは俺に――
――直撃ッ!!!!
ノーバウンドで吹っ飛ぶ俺!
何故か視界がスローモーションに映る。目を見開く猫屋敷と、冷めた目でこちらを見るリンが――一瞬にして消えた。
どーん。
なんて可愛い音じゃない。
普通に潰れる勢いで、壁に直撃した。
といっても、クレイが衝撃を受け止めてくれていたようで、潰れないで済んだが。
「いつまで待たせんのってまーじで。てかっなんかめっちゃ男前になってない? なんかあったん?」
「苦しい! 放して!?」
背骨を折るスレスレまで抱き締められてる。柔らかさを堪能する以前に、普通に痛い。
なんかテンション高いな? つっても、何か変わったことも――
「なってるぞ」
リンが言う。猫屋敷は「へ?」と首を傾げた。
「アプロスエフィトめっちゃ上がってる。ぜってーあーし見てないとこでなんかしたでしょー」
「待って待って何!? 何が上がってるって!?」
「あー……んー……」
クレイは俺を抱き締めたまま、小さく唸る。
「……魅力的な?」
「……なるほど?」
だが、そう言われてもなぁ。何か変わったことなんて――
「……あぁ、そういえばこれか」
勇者の内包するモジュールスキル、『勇者状態』を発動させる。
二度目の死を迎えたあの日以来、何度試しても『勇者の盾』すら使えなくなっていた。けれど、今は――
猫屋敷が「みゃっ!?」と叫び、リンは「?」と首を傾げ、クレイは――
ぱっ、と俺を抱き締めていた手を離した。顔を赤くし、一歩、二歩と下がって。
「え、やば」
「バフ入ったよな? なんか問題ありそうか?」
「……ごしゅのが、なんか、……入ってきてんだけど」
恥ずかしそうに俯いて。
お腹を押さえて、クレイはそう呟くのだ。
「そこには入ってないだろ!?」
「や、や、ね? |ティアドラクルフィアト《注:翻訳不能概念です》ってこのへんにあんじゃん? こう、ぎゅんぎゅん来るというか……」
「ないよ!!!!」
そんなものはそのへんにはないよ!!!!
「だから、こう、なんか身体にあったかいのが入ってくる感じがしてぇ……」
「卑猥な表現やめてくんねぇ……!?」
「えー、ごしゅがしたんでしょー?」
顔を上げたクレイは、にかっ、と笑う。顔は、まだ赤い。
髪が靡き、隠れていた目が見える。青緑色の瞳が、うっとりした目で俺を見ていた。
「……気持ち悪いなら止める」
「止めたら怒るよマジトーンで」
「うっす。……猫屋敷はどうだ?」
猫屋敷の目周辺が緑色に光っている。俺と同じタイプのマクスウェル視光学系網膜投影デバイスを装着しているのだ。
瞳に映像として直接投影する仕組みのため、目に優しい色になってるとかなんとか。
ちなみにデバイス無しでもステータス情報を確認することは出来るが、その場合は半透明の仮想ディスプレイが眼前に現れるため、視界の邪魔になるという欠点がある。
その点、瞳に直接投影するデバイスであれば必要な情報だけを選別出来るし、背景などもなく視界の邪魔にならないので、付けっぱなしで行動も出来る――ということで、割と愛用者は多い。
ちなみにリンはデバイスなど付けていない。曰く「そもそもステータスもスキルも装備も、普段から確認する必要はあるのか?」とのこと。そう言われたらぐうの音も出ない。でも魔石の数とか数えるのに使ってるしなぁ。1個単位で全部記憶してる奴はかなりおかしいと思う。
「……え待ってこのバフ量エグくない!?」
「2.5倍だ。すげーだろ」
「時間制限ある? いくらなんでも破格すぎじゃない?」
「……たぶんない。後、ちゃんと機能してたらパーティ外でも有効……だと思う」
「…………異常でしょ」
ぼそり、と漏らす。それはそうだ。
ヤマトのことは知っているのに、どうやら勇者のスキルについては知らなかったらしい。言われてみると、スキルの存在はともかく、倍率まで人に話しているのは聞いたことがない。ヤマトが他の奴とパーティを組んだのも見たことないし、そうなると知らなくても当然か。
「リンは……、そっか何も変わらないか」
「ああ。戦闘中に一瞬だけ上書きされたように感じたが、倍率はそのままだな」
「……んじゃ、俺だけだよなぁ、これ」
デバイスから、自分のステータスを確認する。――なんか全体的に見たことない数値になってる。
これが自身のステータスを7倍まで跳ね上げる、勇者の能力の中でも最もチートなモジュールスキル――『勇者状態』の本領だ。
(これ、絶対リンが持ってた方が良いよなぁ……)
口には出さず、思案する。
とはいえ、他人にスキルを渡す手段が分からない。勇者のモジュールスキルの中にそういうものがあるのかもしれないが、一緒に検証したのがあまりに古い記憶すぎて曖昧だし、他人にスキルを渡せるスキルなんてのは流石になかった。
スキルスロットから勇者のモジュールスキルを確認すると、大量のスキル名が並ぶ。見覚えのあるものもあれば、全く見覚えのないものもある。普段から使ってないもの、印象に残らなかったものは正直覚えていないのだ。
のんびり検証したい気持ちは山々であるが――
「海里」
「ん?」
「それを私に渡そうとなんて、考えるなよ」
「……よく分かったな」
まるで俺の思考が読めたかのように、リンは言う。
その表情は、冗談を言っている顔ではない。というか普段からそこまで冗談を言う奴ではない。……いや、本気で冗談みたいなことを言うのだが。プロポーズとかな。
「あぁ、でも指輪くらいなら貰ってやる」
「……指輪? 欲しい装備でもあるのか?」
「薬指がちょうど余っててな」
左手をじっと見て言うので――
「いや婚約指輪じゃねーか!!!!」
思わず突っ込んだ。このタイミングでアホなことぬかすな。




