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どれだけの時間、戦っているのだろうか。
戦車から放たれるすべての弾丸を、リンは両の槍で叩き落としていく。
何度も爆風を受けたリンは、とても無傷には思えなかった。全身は傷つき、ウェットスーツのような服はボロボロだ。
目の前にいるリンにも、当たり前のように炸裂弾をぶちかましてくる。普通の戦車の構造なら真下への砲撃など不可能だが、そこは戦車風の謎生物。主砲はぐねぐねと変形し、真下だろうがお構いなく弾丸をぶちこんでくる。
リンは爆風を避けるために大きく動くことは出来ない。射線上に俺が居るからだ。
当たらない弾も含めてリンがすべて弾いているので、こちらには飛んでこない。だが、常に砲塔は俺に向いていた。恐らくヘイトを無視して後衛を狙う仕様があるのだろう。
ならば足を狙おうにも、超高速回転しているキャタピラはハーロット・セブンの質量弾を砕く勢いで回る。
これまで誰にも討伐されていなかった23層のボス――ダイヤモンドゴーレムは、再生を上回る速度でクレイとリンの二人が攻撃し続けることで倒した。だが、こいつはいくらなんでも、固すぎる。
「……クソ!」
何百発もの質量弾を受けてようやく剥がれた装甲が、すぐに再生された。脆い部分を狙ってもこうだ。
――撤退。その文字が浮かぶ。
倒せるイメージが湧かない。このままじゃ、タンクを続けてるリンが限界だ。
「リンッ!!」
リンは、こちらを見ない。返事もせず、汗を拭い槍を振るった。
こちらに突っ込んで来ようとした戦車のキャタピラに無理矢理槍を刺し入れると、軌道が無理矢理変えられる。ヘイト無視行動をされたところで、リンは壁役としての役割を全うしている。
何をしてでも、後衛に敵を向かわせない。そうすれば、いつか後衛の攻撃手が敵を倒してくれるから。
――そう、信じている。
だから、リンは返事をしない。
自分にできることがある限り、それを限界まで続けるのだ。
今、何をすればいいか分からない。正解は何だ? 質量弾以外はダメだ。リンを巻き込む。『呪詛』も試してみたが、ほとんど通らなかった。
そもそも今のパーティ編成だと、俺がデバフを入れたところで攻撃する奴が居ない。状態異常使いは壁役も攻撃手も揃っている環境で、初めて仕事が出来るのだ。
二人しか居ない状態なら、もっと単純に役割と分担しなければならない。つまり敵のヘイトを引き付ける前衛と、ダメージを出す後衛だ。
だがこのダメージの通らなさ――根本から、俺のステータスが足りていない。
クレイが居れば、きっと変わった。だけど、ここには俺しか居ない。
冷や汗が、ぽたりと垂れる。魔力の残量に、然程余裕はない。
――ふと、誰かの声が聞こえた。
『無限再生持ちを倒す時、海里ならどうするよ』
それは、ずっと昔に聞いた声で――
『決まってんだろ。ドカンと一発最大火力。――だろ? ヤマト』
俺の言葉に笑った、ヤマトは、
『仕方ねえな。ちょっと使い方教えてやるよ。――だからもう、失くすなよ』
声は、すぐに聞こえなくなる。
――でも、充分だ。
「……『勇者状態』」
呟くと、すぐに全身を脱力感が襲う。15年間続いた全ステータス2.5倍のバフが、解除されたからだ。
――だけど。
「……ははっ。こんなん、チートだろ」
すぐに、活力が漲ってくる。それは、これまでのものとは比べ物にならなくて――
ステータスなんて、見なくても分かる。
「『射法・格納庫218・重複・重複・重複・重複・重複・重複』」
6重に重ねられた、『重複』。魔力消費量が、実に7倍に跳ね上がる。
こんなことなら7枚目も残しておけばよかったななんて、今更思う。
最初はボーリングのボールくらいだった鈍い色をした弾丸は、俺よりもずっとデカくなって――
「リン!」
「あぁ!!」
こちらを見ないでも、伝わる。
きっとこの勇気が、伝わっている。
「――『発射』ッ!!!!」
弾丸は、リンの背中に当たる寸前――
リンは、跳躍した。弾丸のサイズを完全に見切ったような、お手本のように完璧な背面飛び。
超巨大質量弾は、戦車に直撃し、主砲をひん曲げ――
「「通ったッ!!!!」」
俺とリンの、声が重なった。
リンは、背面飛びの姿勢のまま、着地することなく空中を蹴る。
一番固い真正面の装甲がひしゃげ、中から黒い液体が零れる。そこにリンは――
突き刺した。
両の槍をぶっ刺して、力任せにこじ開ける。
めきめきと、がりがりと、
再生を阻害された戦車は、少しずつ損傷を拡大させていき――
ばぎっ、と。
ついに、戦車の車体は真っ二つに分かたれた。
きゅるるるる、と断末魔のようにキャタピラの音が聞こえ――
ぱきんと軽い音を立て、戦車は塵となって消えた。
「……いやなんつー怪力だよ」
思わず漏らした言葉に、リンは何も言わない。
歓声でも上げると思ったのに、しかしリンは黙ったまま、両手に握った槍をじっと見ている。
そして、小さく何か呟いた。
距離が離れている俺のところには聞こえないくらいの、小さな声。
だけど、何を言ったかは分かった。
「ありがとう」
リンは、そう呟いたのだ。
ぱきん、と。
小さな音を立て、槍は砕けて消えていった。




