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しばらく走ると、すぐに分かれ道が現れた。それも十字路。
初見のダンジョンだ。どちらに進むか分からず一瞬立ち止まった俺の腕を、リンが掴む。
先導していた猫屋敷は迷うことなく左の道に入っていった。正面の道も、右の道も一瞥すらしていない。
「マッピング終わってんのか!?」
「流石にそれはないだろう」
リンと並走するように走る。猫屋敷は時折通路の先で破壊されたゴーレムのドロップを回収しているのですぐに追いつけるが、休憩もなく1時間ほど走りっぱなしだ。
流石に疲れてきた――と言いたいところだが、不思議なことに息が切れない。33歳の体力ってこんなじゃないよな?
再び十字路。猫屋敷は迷わず右に進んだ。
再び十字路。猫屋敷は迷わず正面に進んだ。
「迷ってるとかじゃないよな!?」
一応聞くと、猫屋敷は「違うにゃー!!」と答える。どうやら明確に正解のルートを選んで進んでいるようだ。
マップ情報すらなく、今初めて足を踏み入れる階層でどうして正解のルートが分かるのか。さっぱり分からない。これが本職の斥候ってことか。
そんな迷路をしばらく進んでいると――
突如、扉が現れた。突き当りの壁に、ぽつんと。周辺にゴーレムは見当たらない。恐らく安全地帯だ。
両開きの扉には、鍵穴すらない。ここが終点のようだ。
「ボスか、安全地帯のどっちかにゃ」
「ボスならヤバくないか? クレイ居ないぞ」
「リンちゃん的には?」
「問題ない」
槍をちらりと見たリンが、頷いて答えた。
「んじゃ、行くにゃー!」
「おい休憩とか――」
「……海里くん」
扉に手を掛けた猫屋敷が、真面目な顔でこちらを見た。
「クレイちゃんを、1秒でも早く解放しないといけない。違う?」
「……違わない」
「休憩は、合流した後。んじゃ、バトルだったら二人に任せるにゃ!」
扉を開けた猫屋敷は、一人で部屋に飛び込み――
高速でバックジャンプ。扉の前に立っていた俺たちの頭上を一瞬で飛び越えた。いや猫か?
「ボスっ!!」
「……りょーかい」
逃げ足速すぎだろ。確かにボス戦で役に立つ構成じゃない猫屋敷は、足手まといにならないためにもボス部屋に入るべきじゃないけどさぁ。
槍を構えたリンが、静かに部屋に入る。すると、すぐに部屋に明かりが灯り――
「……なんかハーロット・セブンみたいだなぁ」
セラミック状の壁。空間の広さは、体育館よりずっと広い。
障害物の一つすらないその大部屋の中央に鎮座するのは、戦車のようなゴーレムで――
「二人か」
「……だな」
「二人でボス戦といえば、少し前もあったな」
「だなぁ」
戦車の砲塔が、ぎちちち、と動いてこちらを向く。
そして、轟音。
――どがんと、目の前で爆発した炸裂弾。
爆風に吹き飛ばされそうになりながら、俺の前に立つリンを見る。
両手に、三叉槍を構えたリンは、
平然とした顔で立ち、首を回して俺を見た。
「タンクは任せろ」
「あぁ、任せる。――攻撃は、俺に任せろ」
「任せる」
しゅんしゅんと、三叉槍が風を切る。
一瞬リラックスしたかのように槍を下ろしたリンは、姿勢を低くし――
「――吶喊ッ!!!!」
――突っ込んだ。
飛んでくる弾丸を、切り払い。
爆風を物ともせず、前進していく。
「『射法・偽・格納庫218・重複』」
射撃魔法のものとは違う、鈍い色の質量弾が現れると、ぶわりと一瞬膨らんで――
「――『発射』」
放った。
リンの頭上を放物線を描いて追い抜いた弾丸は、戦車に直撃する。
――が、装甲で弾かれた。宇宙戦艦に搭載されている弾丸を弾けるほど、非常に高い物理耐性を持っているようだ。俺とリンの二人では、荷が重い。
――だが、関係ない。
「入ってる!」
リンの言葉に、微笑みが漏れた。
こちらのことを見てもいないのに、考えていることがよく分かったものだ。
ダメージが、0でないのなら――
「……倒せる」
いくら、無敵とも言える物理耐性があろうとも。
俺とリンの、敵ではない。




