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「にゃっ、にゃああああああ!?!?」
圧倒的な回避力で遠くから飛んでくる石弾を回避し続ける猫屋敷!
「……近づけん」
静かに呟きながら、石弾を両手の槍で弾き続けるリン!
「ほーむらーん!」
モップをバットのように構え、超高速バッティングセンターのようにピッチャー返しを続けるクレイ!
「詰むの早くね!?」
クレイの陰に隠れながら、『射法・偽』で通路の先に居る砲塔型ゴーレムを壊し続ける俺!
「遠距離は海里だけだ。頼むぞ」
「……つってもなぁ!?」
リンが近づけないというのは、冗談ではないのだ。
というのもこのマップ――
「いくらなんでも無法が過ぎる……っ!!」
ほとんどが蟻の巣穴のように洞窟状に掘られていた荻窪ダンジョンと、明らかに違う。
人工物じみたセラミックの床に天井。通路は真四角に作られ、曲がりくねったりもしていない構造は非常にシンプル。
――が、通路の突き当たりには砲塔型ゴーレムが無数に置かれており、通路に入ってきたものに大量の石弾を飛ばしてくる仕様だ。
「爆風来たらすまん! 『射法・偽・格納庫761・発射』っ!!」
砲塔まで距離はある。砲塔一つずつ潰しているんじゃ、キリがない。
この通路構造だと打ちたくなかった、ハーロット・セブンに搭載された761番の擲弾を放つ。
これまでより少し遅い速度で飛んで行った銀球は、遠くのゴーレムに当たり――
――大爆発。
「うにゃあああああ!?!?!?!?! 爆発したぁ!?!!?!?!?!?」
「やっぱこうなるぅううううううう!!!!!!」
ほとんど密閉されたような通路構造だ。爆風の行先は、決まっている。
そう、直線で繋がれた射手である。
爆風のアオリを受けて吹っ飛んだ俺をクレイが受け止め、飛んでいく猫屋敷の首根っこをリンが掴む。なんとか壁に潰れて死ぬことはなかったようだ。――が。
「もう再生されてるの!? おかしくない!?」
「おかしいって!! 何ここ攻略させる気ある!? どうやって攻略すんのが正統ルートだよ!!!!」
大爆発を受けたというのに、壁には傷一つついていない。いや焦げ跡は付いているが、荻窪ダンジョンの洞窟のように抉れたりはしないのだ。
そうなると、爆風の行先がない。761番はやっぱりダメだな。いやダメな気はしてたんだけどさ。
那須ダンジョンに入って、今日で3日目。
リンがどうしても倒せなかったフロアボスの巨大蜘蛛は、俺とクレイの二人であっさり倒した。子蜘蛛を無限に生み出し、親蜘蛛は遠くから隠れながら毒弾を打ってくるいやらしいボスで、遠距離攻撃手段と、子蜘蛛を散らすための範囲攻撃がないと詰む相手ではあった。
――とはいえ、ハーロット・セブンの弾を解禁した俺にとっては、然程厳しい相手ではない。子蜘蛛と毒弾を全部クレイが弾き落としているうちに、ちまちまと視線誘導で質量弾を当て続けてたら普通に倒せた。
んで、その流れで進んだ俺たちは快進撃を続け、一度も攻略されたことのないという23層のフロアボス――全属性攻撃軽減かつ超高速再生持ちのダイヤモンドゴーレムをクレイ・リンのコンビネーションで2時間ほど掛け削り倒し、報酬でダイヤモンドの素材カードが大量ドロップし猫屋敷が興奮しすぎて鼻血を出して――
ボス部屋でひとまず仮眠を取り(ボス部屋から出ない限りボスはリポップしないのだ)、翌日、前人未到の地下24層に足を踏み入れた。
――したら、これだ。
通路の先から、砲塔型ゴーレムがひたすら石弾を打ってくる。
本当に、ただそれだけだ。細かいギミックも、迷路のような構造もない。
だが、石弾の密度はリンが『自動反射』をもってして前進出来ないほどの飽和攻撃。ならばと遠距離攻撃で壊したところで、数秒で同じ場所にリポップする。
脇道はない一本道なので、逃げ場は降りてきた階段くらいしかなく、リポップの隙をついてほんの僅かずつ前進してなんとか次の通路に入っても、再び通路の先に設置されたゴーレムが石弾を連打してくる。
「猫屋敷っ!」
「にゃにぃいいいい!?!?」
「たっ、たぶんこれ! 謎解きだ!」
「りどっ!? えぇぇええマジで!?!?」
「普通に攻略できるわけねーんだってこんなん!!!!」
試しに荻窪ダンジョンのように地面を掘削出来るか試してみたが、重複を重ねたところで地面に弾がめり込む程度だった。いくらなんでも通路が固すぎる。土で出来た荻窪とか、コンクリで出来た新宿のような地形破壊が可能なダンジョンとは、そもそもの構造が違うようだ。
ズルは許されていない。それなのに。侵入者を拒むこの構造――
覚えがある。謎解きと呼ばれる類の罠だ。
質問すらないのに謎解きを要求される。これは日本だと静岡――浜松ダンジョンや青森の八戸ダンジョンに見られる特徴で、正解のルートを通るか正解の動きをしないとほぼ詰む仕様となっている。事前情報のない階層でそれは、かなりキツい。
っていうかもしゴリ押し前提だったら設計者を呪うね。馬鹿がよ。
「えーっと……5分っ!」
「了解!」
「クレイちゃん借りるよ!? ちょい戻る! なんとかここで耐えてて!」
「……それはリン次第!」
「問題ない」
「だそうだ!」
「戻るにゃぁー!!」
リンとクレイが元来た道を戻っていく。そうすると当然、元の通路のゴーレムが再起動しガンガン石弾を飛ばしてくるが、クレイが器用に弾く姿が見える。
どこからか取り出した片眼鏡をかけた猫屋敷が、石弾に当たらないよう床に這いつくばって砲塔型ゴーレムを見ている。このへんはスキル構成もあるし慣れもある。迂闊なことを口にしない方が良いだろう。
「リンは、大丈夫か?」
「身体は問題ない。ただ――」
「ただ?」
「……槍の耐久値が心配だな。クレイの空きスロットに『修復』は入れておいたが、再使用時間短縮関連のスキルは入れてない。この通路構造が延々続くとなると、持って――」
いつも通りの口調、焦った様子もなく『自動反射』で石弾を捌きながら、リンは口を開く。
「5時間といったところか」
「……かなり厳しいな」
「あぁ。23層の構造からして、恐らくこの層の直径は1.7km。通路幅が5m弱、壁の厚さは不明だが、仮に壁の厚みが1mあるとすると直線距離300km程度の道を作ることが出来る構造だ。普通に歩いたら60時間。――どう考えても無理だな」
この時折バカ高くなるIQはマジでなんなんだよ。頭に計算機でも入ってる?
「攻略させる気がないならともかく、真っ当に攻略するには、いささか理不尽がすぎる」
「……リンでもそう思うか」
「あぁ。新宿の72層を思い出した」
「72? なんかあったのか?」
記憶では、リン達が攻略した新宿ダンジョンの最下層は89階だったはずだ。どこで長年詰まっていたかは曖昧だが、60階かそこらだったはず。リンのパーティは、およそ30階も記録を塗り替えたのだ。それも、ヤマトたちと俺が組んでいた時と同じ、一人を除いて全員がファーストランクのパーティで、一人の犠牲者も出すこともなく。
「リアルタイム生成型の迷路でな。結局最後まで謎解きの答えは見つけられなかったが、1週間彷徨って偶然階段を見つけたんだ」
「1週間!? ……物資足りる?」
「1か月は持つように持ってきたが、装備の方はな」
「だよなぁ……」
装備の耐久値を回復させる修復だって、万能ではない。再使用時間はあるし、耐久値を全快に出来るわけではないのだ。
そうなると、再使用時間待ちの待機時間が発生してしまう。最速攻略を目指す上で無駄な時間を食うのは避けたいところだ。
「にゃぁー!!!!!!」
なんて叫び声が、元居た通路から聞こえてくる。
猫屋敷を肩に担いだクレイが戻ってくる。何か見つけたのだろうか。
「リンちゃんっ! パターンみっけたにゃ!」
「……続けろ」
「順番通りに69発! 毎回位置は一緒で開始地点は――クレイっ!」
「んーと、時計で言うと2、8、10、4――」
「理解した」
えっ何を!? ハテナしか浮かばないの俺だけ!?
「んで、このパターンは通路ごとに曲がり角の角度をズラすように――」
「……そういうことか。つまり――海里」
「はいっ!?」
あれここで俺に振られるの!?
「曲がる方で、元の通路の右下あたりのゴーレムを壊してくれ」
「……了解っ!!」
視線誘導――は無理だな。元の通路のゴーレムは見えない角度だ。
だが、大体の距離が分かれば問題ない。頭の中でラインを引けば、『射法・偽』はその通りに飛翔する。
「――『射法・偽・格納庫79・発射』」
射出した弾丸が、通路の向こうに消え――
ぼんっ、と破裂音。次いで石が砕けるような破砕音が聞こえる。
風呂敷のように広がる、ハーロット・セブンの持つ対人鎮圧弾頭だ。大雑把な照準しか出来なくとも、あの広がり方なら当たったはず。
「たぶん壊れたけど、次は!?」
そう問うと、リンは無言で槍を向けた。それは、今まさにこの通路に居る俺たちに向けて石弾を放っているゴーレムで――
壊れていた。
俺の弾くらいしか届かないはずのゴーレムが、何体か。
全部が壊れたわけではない。右側の一部だけだ。それでも、一時的に石弾の勢いは落ちる。
「え?」
「やはり損傷状態もリンクしてるな。つまり攻略法は――」
「は……!?」
珍しく、リンが言い淀む。俺を見、猫屋敷を見、そしてクレイを見た。
「んー……、どっちやる?」
クレイの問いに、石弾を捌きながらリンが答える。
「……いや、私がやる。恐らく一人を置いていく前提の構造ではないはずだから、どこかで合流出来ると思うが――」
「流石に楽観視しすぎじゃね? それならあーしのが適任でしょ。リンチャンはごしゅの傍にいたげて」
「…………すまん、任せる」
どうやら、二人は分かっているようだ。猫屋敷も気付いたか、「あっ……」と声を漏らす。
待て、分かってないのは俺だけか? 今のやりとりは――
「ごしゅ、こっちみーて」
「ん?」
「ちゅっ」
俺の頬を両手で包んだクレイが、背伸びをし――
急に、キスをしてきた。
それも、唇に。
「は?」
「んーじゃ、また後でねー」
すぐに唇を放したクレイが、元居た通路に戻って走っていった。しばらくすると破砕音が聞こえる。そして――
こちらに飛んできていた石弾が、ぴたりと止まった。通路の先に居るゴーレムが、粉々に砕け散っていた。
――そこで、察しの悪い俺もようやく理解した。
「損傷状態が全部リンクしてるから、誰かがゴーレム壊し続けてる間は他の通路がフリーになるってことか……!?」
「……んにゃ。一人は絶対足止め食らうし、後で合流手段があるかも分かんない。でも、仲間を置いて進むしかない。嫌らしいにゃー……」
「……だな」
クレイなら一人でも問題はないだろう。だが、こんな急に――
「海里」
「……あぁ、行くぞ」
今生の別れというわけではない。ただ、ギミックを突破するために別行動を取っただけ。
ならば、今考えるべきはクレイの心配でなく、速攻でダンジョンを突破することだ。




