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迷宮災禍ダンジョン・カラミティなぁ……、そんな頻繁に起こるもんなのか?」


 猫屋敷と二人でダンジョン協会に向かう道すがら、ふと漏らす。

 実際、荻窪ダンジョンでは二度発生した。ちょうど15年周期――といえばそうなのだが、ならば30年間攻略されてなかった新宿ダンジョンでも発生したかというと、そうではない。規模も時間も、場所によって様々だ。

 何せ世界に数百とダンジョンがあり、至る所で迷宮災禍ダンジョン・カラミティが起きているというのに、明確な共通点というものがない。基準が全く分からないのが現状である。

 とはいえ、ダンジョンの中からモンスターが出てくるようなレベルの異常は、ダンジョンがこの世界に現れて30年以上の時があっても、国内では一度しかないわけだが。

 

「予兆が見えたとこで攻略しちゃうから、ってのはあるだろうけどにゃー」

「あー、そういうことか……。国内だと何回くらいあったんだ?」

「流石に知らないにゃぁ……。んでも、ADFの管轄でそんなことあったら前みたいに耳には入るはずだから、そこまで多くはないのかにゃ?」

「だよなぁ。……リンのパーティメンバーはなんで分かったんだろ」

「さぁ……?」


 さて、と二人で向かっているのは、ダンジョン協会。民間組織ではあるが、ダンジョンのある国では大体似たような組織が作られており、友好的な他国との情報交換などもしているらしい。

 ここが管理しているのは、探索者ライセンスやダンジョンのデータだ。それだけでなく、ドロップ品の仲介取引や店舗を構えた直接取引なども行っているので、連日数多くの探索者が訪れる。

 新宿駅近くに巨大ビルを何棟も持っていることから分かる通り、相当儲かっているのだろう。


「俺たちの役割は?」

「情報集めかにゃー? あと海里くん」

「ん?」

「ぶっちゃけたこと聞いて良い?」

「……なんだ?」

「性欲ある?」

「ないわけないだろッ!」


 いきなり何聞いてくるんだこいつ。


「や、最近、最近ね? ほら、クレイちゃんとかすぐ傍に居るのに手出してる感じしないというか……、どうしてるのかなーと……」

「余計なお世話すぎるだろ……」

「……同年代だし、そういうぶっちゃけトークをしたいなーと……」

「語尾消えてんぞ」

「真面目な話する時ににゃーにゃー言ってたらダメじゃない?」

「これ真面目な話のフリだった!?」


 めっちゃ往来ある歩道橋で聞くことじゃなくねぇ!?


「せめて酒飲んでる時とかに聞いてくれねえかなぁ……」

「……お酒あれば話す?」

「いや、まぁ、時と場合によると思うが」

「おっけ、ちょっと待ってて」


 そう言うと、猫屋敷は通り沿いにあるコンビニに入り――

 30秒もしないでビール(しかもロング缶だ)を2本買って出てきた。


「はい」

「昼間っから道でビール飲んでる奴居たらヤバくねぇ!?」

「新宿だしそういう人も居るでしょ」

「……いや、まぁ、居るだろうけど」


 それは普通にいると思うが。いままさにコンビニ前のガードレールにもたれて酒盛りしてる大学生くらいのグループ居るしな。めっちゃ目ぇ合ったわ。ダメ? って顔でこっち見ないでくれ。


「……まぁ、付き合うけどよ」


 カシュッと缶を開けた猫屋敷が、普通に飲みながら歩きだす。推定10代の猫耳パーカー女による突然の飲酒に、大学生たち素でビビって無言になってんじゃん。


「せめて立ち止まんない!? 歩きながら酒飲む習慣とかないんだけど!?」

「あ、串買っていい?」

「お前だいぶ自由だなぁ!?」


 通りがかった店から炭と脂の焦げる匂いがしてきたのはちょっと気になったけどさぁ! ランチ時かな? 仕方ねえわ。

 缶を俺に押し付けた猫屋敷が店に入っていくので、仕方なく近くにあった分電盤っぽい箱に缶を置いて待っていると、ものの数分でビニール袋を手に戻ってくる。


 流石にその場で飲み食いする量ではなかったので、「こっちベンチあったはず」という猫屋敷について歩くと、オフィス街の真っただ中に突如公園が現れた。

 新宿詳しくないけど、こんなとこに公園なんてあったんだな。新宿の公園とか御苑と中央公園くらいしか知らないわ。


 地価が非常に高そうなエリアにしては珍しくまぁまぁ広い公園で、酒盛りしている人は流石にいないが、近隣住民とか休憩中のサラーリマンが優雅に時を過ごしていた。

 空いてるベンチに腰掛け、ビニール袋を開くと――20本くらいの串焼きが。いや買いすぎだろ! 普通に昼飯か?


 しばらく無言で串を食べビールを飲んでいると、先に缶を空にした猫屋敷が背もたれに身体を預け、だらぁ、と猫のように垂れる。


「海里くんさぁ……」

「早くもダル絡みの気配すんだけど……」

「彼女とか作らないの? 結構高収入でしょ?」

「やっぱダル絡みじゃん…………」


 『彼女とか作らないの?』、公園で砂肝食べてる30代未婚女性に言われたくない台詞の中でかなり上位に位置するだろ。


「普通に、出会いがねえ」

「……ADFの契約探索者、結構女の子も居ると思うけど」

「知ってる。……知ってはいるが、ほぼ20代だろ。急に30代未婚男性に声掛けられたらどう思うよ」

「通報?」

「流石にその手前までにしてくれねえ!? ナンパと思われるだけだろ!」


 初手で通報されるほど不審者だっけ俺!? ADF契約してから割と長い方だと思うんだけど!? 不審度で言えば30代(外見10代)の猫耳フードパーカー女もまぁまぁな不審人物だと思うが?


「ナンパと思われて良くない? 実際恋愛目的ならさ。そのくらいの恥もかけない、努力も出来ない人って、一言目には『出会いがない』って言うのよねぇ……」

「…………」


 胃に直接ダメージ入るんだよそれは。もうちょっと落ち着いて肉食わせてくれねえかな。まだ結構残ってんだけど。


「すぐ隣に数年付き合いある超絶美少女の猫屋敷ちゃんが居るのに、一度も『俺たち、付き合わない?』とか言い出さないし」


 うぐっ……。


「プロポーズまでしてくる10代後半の若い女の子がいるのに適当にあしらうし」


 ぐぁあ……。


「何しても許してくれそうな金髪メカクレ黒ギャルメイドとは何もしてなさそうだし」


 あぁぁああ……。


「こんだけ慕われてて頭撫でるだけって……、小学生カップルでもキスくらいするわよ……。恋愛観幼稚園くらいで止まっちゃった?」

「流石にバカにしすぎじゃねえ!?」

「事実にゃー」


 串焼き頬張る顔面に猫パンチ! 海里に1のダメージ!


「あと俺ロリコンじゃないし……」

「え、リンちゃん実年齢と性格はともかくロリじゃないでしょ」

「実年齢と性格は見事に10代のガキだろうが」


 干支一回り以上離れてんだけど? 成人してりゃ気にならないと言われたところで、俺にとってリンは子供のままなのだ。()()ということを知った今でも、その感覚は変わらない。


「わたし、乖離くんに個人的な要件で誘われたことないよ? ほらこんな可愛いのに」

「なんならリンよりお前の方がロリ枠だろ」

「年上だよぉ!!」

「年上なんだ…」


 あっ、って顔してる。これで年上かぁ。嫌だ……。


「つっても、誘ったことあるだろ、前もほら、無地のカードの件とかさ」

「仕事の関係者に仕事の話するのを異性を誘ってるに含めちゃった?」


 ぐぁっ……。


「ほら、出会い自体はこんなにあるのに何かと言い訳つけてないことにしてる。これがモテない中年男性ってわけにゃー」

「ある……のか……」


 クレイのように頬をつんつんされる。かなり控えめに。しかも顔ちょっと赤い。恥ずかしいならすんなよ。

 でも知らなかった。あったんだ、出会い。でもなぁ……。

 じっと、猫屋敷の顔を見る。可愛いとは思うよ、でもさぁ……。


「こ、好みじゃねえ……」

「ぶっ殺すぞ」

「怖いよ!!」


 急に低音出すのやめてくんない!? せめてにゃーにゃー言ってくれよ頼むから!!


「つーか、俺のことばっか言ってるけどお前の方はどうなんだ」

「出会いはいくらでもあるしモテるけど?」

「相手は?」

「……」

「あ・い・て・は?」

「…………」


 すっと目を逸らしてきた。さてはこいつ自覚あんな?


「あれだな、選択肢が多いからこそ『もうちょっと良い相手が……』とか言ってるうちに適齢期を超えて――」

「や、やめるにゃー! 事実陳列罪っ! 逮捕にゃっ!!!!」


 そうそう、にゃーにゃー言っててくれ頼むから。そっちのがまだマシだ。


「前のパーティメンバー、男ばっかだったんだろ?」

「それはそうだけどにゃー……」

「良い感じにならなかったのか?」

「……ちょっとサークルをクラッシュしちゃって」

「いい年してサークラすんじゃねえよ!!!! っていうかパーティ解散したの色恋なの!?」

「そうだけど!? 悪い!?」

「それは100%(ヒャク)お前が悪いよ!!!!」

「にゃぁー!!!!」


 猫屋敷のひっかき攻撃! 海里に30のダメージ! それは普通に痛い!!!!


「と、ともかく、わたしのことはさ? おいとこ?」

「俺よりまずい状況な気がするんだけど……年上ってもうすぐ四十路とかか? 流石にキツいだろ……」

「そこまで上じゃねーよ!!」

「そ、そうか」


 本当に分かんねえ。いくつなんだこいつ。でも2個上でも35、適齢期は確実に超えてるな。人のこと煽る前に自分の方がヤバいだろ。


「今なら失敗しても笑い話で許してあげるよ? 言いふらしたりしないし、ほらほら」

「…………お前結構顔赤いぞ」

「えっ」


 頬をぺたぺた触った猫屋敷は、だんだんと顔が赤くなっていく。変なこと言ってる自覚はあったのだろう。間抜けは見つかったようだな。


「そもそもなんで性欲の話とか始めたんだよ」

「……30代って性欲落ちてくって言うじゃん? そろそろ将来のこと考えないのかなーって……」

「それ言えば女だって妊娠率下がってくとか言うだろ」

「ごめん今はその話はやめよっか」


 顔がマジだよ。怖いよ。


「別に、昔と変わってないと思うけどなぁ」

「……あ、そう?」

「何が意外なんだ?」

「や、……ふーん…………」


 何かに納得したように頷いた猫屋敷が何を考えてるのか、マジでさっぱり分からない。

 急ぎではないとはいえ、こんなしょうもない話に脱線するようなことは滅多にないと思うんだけどなぁ。


 ……性欲、なぁ。

 俺、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 だから、昔と変わってないと答えたのは、別に嘘じゃない。

 それに、別に女体に興味がないわけではないんだ。クレイがよく身体くっつけてくるの、全然慣れないしな。


 大昔、偶然良い感じになった相手に「林原くんって性欲とかないの?」って言われたのを思い出してしまった。海里に3万の自傷ダメージ!

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