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「つっても、俺とクレイが入ったとこで、6人フルは要らないにせよ色々足りないんだよなぁ……」
「足りない?」
「最低限欲しいのは、未踏破領域の攻略経験がある斥候だな。火力と回復はどうとでもなるし、俺もリンも別に支援ありきの構成じゃないし」
「それ、あーしにも出来る?」
クレイが自分を指差し、首を傾げる。
そういえばレベルもあったんだからスキルも覚えられるんだよな。だが、リン並みの火力を誇るクレイを斥候構成にするのはかなり勿体ない。火力に関わらないスキル取得がいくつも必須になるからだ。
それに、攻略を意識するなら、未踏破領域――つまり攻略されていないエリアに潜ったことのある経験者が必要だ。未踏破領域で活動する斥候には、他のマップでは求められない特殊技能が必要とされるのだ。
「厳しいな。だが――」
俺とリンが見たのは、まるで他人事のように宇宙空間に目を向けていた、最後の一人。
「にゃっ!?」
「……猫屋敷」
「い、嫌にゃっ! Sのダンジョンとか絶対行かないにゃっ!! 死ぬにゃぁーーーー!!!!」
ダッシュで逃げようとする猫屋敷! しかし射撃管制モジュールは逃げ回れるほど広くないし扉は開かない! こいつ一人でここから出る手段はないのだフハハハハ!!
「リン! 捕まえろ!」
一瞬で回り込んだリンが、猫屋敷を羽交い絞めにする。血の気が引いた顔の猫屋敷に、俺は――
「報酬全部持ってって良いぞ」
「え、マジ?」
事後承諾になったが、一応リンの方を見る。「別に要らん」と頷かれた。
猫屋敷の目の色が、一瞬にして変わった。
「海里、この女がなんの役に立つんだ?」
「一応、一応な? 本職の斥候だぞ」
「一応って言ったにゃ!?」
「…………はぁ」
明らかに信じてなさそうな顔で、リンは羽交い絞めにしたままリンを見下ろした。この感じ、これで干支一回り以上離れてるとは思えないな。
「うにゃっ!? これでも新宿は49層まで行ったし青梅は攻略済みなんだけどっ!?」
「青梅? あんなBのダンジョン、誰でも攻略出来るだろう」
「10年前はAだったんだっての!! 今は情報揃って難易度下がってるだけっ!! 情報揃えて協会に売ったのわ・た・し!!!!」
「「へー……」」
そこは普通に知らなかった。新しいエリアのマップデータとか罠とかモンスターの情報は、ダンジョン協会がまぁまぁ高く買い取るとか聞いたことがある。
青梅ダンジョンは東京に3つあるダンジョンのうち一つではあるが、絶妙に遠かったから昔に数回行って満足しちゃったんだよなぁ。当時は高校生なので、泊りがけ前提のダンジョンは厳しかった。行って潜って帰るまでを1日のうちに済まさなきゃなんないんだ。
「初見じゃないのか? 未踏破領域の斥候なんて出来るのか?」
「舐めないでよ!? 出来ないわけないでしょ!?」
「よし、メンバー揃ったな」
「へ?」
リンが満足したかのように頷き拘束を解くと、張り合っていた猫屋敷が一瞬フリーズする。
数拍置いて、「や、やられたにゃ……」と猫屋敷が漏らす。売り言葉に買い言葉というやつか。これで猫屋敷もS級ダンジョンに挑むことになったというわけだ。
「で、でも待ってにゃ!? この4人で!?」
「? 何か問題でもあるのか? 6人揃えなきゃいけない理由があるわけでもない」
「いやそれはそうだけど……、火力不足じゃない!?」
「「それは大丈夫だろ」」「大丈夫でね?」
「なんでぇ!?」
そもそも、こちらにはリンが居る。クレイも居るし、ついでに言えば俺も居る。火力は過剰すぎるくらいだ。
相手が難攻不落のダンジョンであろうと、物理攻撃が効かない相手でもな……け……
「リン」
「なんだ」
「一応聞くんだけど、物理無効とか軽減持ちのモンスターはどう対処してきたんだ?」
特定の属性でないと触れることすら出来ない幽霊系のモンスターとか、スキルで物理攻撃を無効化してくるモンスターだって存在する。ワントップアタッカーのリンのパーティはどうしていたのかと思えば――
「そういう時は、こっちだな」
リンが取り出したのは、錫杖のようなじゃらじゃらがついた棒だ。槍っぽくはないが――
「等級7、『聖者の腕』――、触れたものを一時的に聖属性にする効果がある。左手でこちらを持って殴って、あとはいつものこっちだな」
もう片手に取り出したのは、三叉槍。確か名前は『海龍の角』だったか。リンの代名詞のような槍だ。
「の、脳みそ筋肉で出来てるにゃ……」
「あー……、属性上書きするってことか……」
聖属性は、属性相関図にはない特殊な属性の一つだ。相関関係にある属性が一切存在しないため、あらゆる相手に弱点を付けない代わりに、どのような相手にも等倍で通るという特殊な属性である。
なお聖と名が付いているが、別に闇と反対なわけでもないし、幽霊によく効くわけでもない。それは光属性の役割だ。
聖属性はもっぱら回復魔法のために存在する属性で、どのような相手にも等倍で通るというのは、対象がどんな状態であっても通常通りの回復が出来る属性――というわけである。まさかそれを利用して物理攻撃が通らない相手を殴るとはね。脳みそ筋肉で出来てらっしゃる?
「つーかリン、レア7の槍なんて持ってたんだな……」
「あるにはあるが、これと、――あとこれくらいだな」
錫杖をカードに戻し、次に取り出したのは異常に長い槍。天井に着くスレスレの長さで、3mくらいはありそうだ。
見たところ装飾もない、ただの木の棒に見えるが――
「て、10フィートの棒!?」
驚いて声を漏らしたのは、猫屋敷だ。有名な武器なのだろうか。
「れ、レア7の10フィートって何!? え、そんなの実在したの!?」
「待て、説明抜きにテンション上がんな。なんだそれ。有名な武器か?」
「有名も何も……海里くんTRPGやったことない!? D&Dとか!!」
「ない」
「…………マジでか」
ドン引きした猫屋敷は一応リンの方を見たが、「私もない」と即答される。
TRPGってボードゲームだろ? そのくらいは分かるぞ。まぁやったことはないし、やってる奴を見たこともないが。
ジェネレーションギャップ……と言いたいところだがほぼ同年代だろ。いや猫屋敷のがちょっと上な気もするが。
「えーと…………、罠感知が出来る棒にゃ」
「え、そんだけ?」
「そんだけにゃ」
「それだけだな」
「そんでレア7?」
「そんでレア7にゃ」
「それでレア7だな」
え、思ったより地味すぎんか? そんなのレア1でもレア7でも大して意味はないんじゃ――
「耐久値が8000はあるから、雑に使っても壊れないくらいか」
「8000!?」
普通の武器なんて、耐久値は精々2桁、多くて3桁。だからこそ耐久値の回復や破損武器の修復を得意とする非戦闘系構成、修復師なんてのがあるわけだしな。
長く使う武器なら、定期的なメンテナンスが必要となるのだ。
「まぁ攻撃力は、いいとこレア3くらいか。分類上は槍だが、ただの硬い棒だな」
「無駄な高レアだ……」
「海里にだけは言われたくはない」
「海里くんだけは言っちゃ駄目でしょ……」
二人して俺をじっと見てくる。お前らそんなモジュールカード嫌い? 集めて並べるだけで異世界の風景とか見えて楽しくない? 楽しくないか……。そっか……。




