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地球に居るクレイとどうやって連絡を取るのか――、その手段を聞いていないままだったが、二人が出て2時間と少し経った頃、ハーロットが「マスター」と口を開く。
どうやらクレイから特定の信号を受け取ったらしい。そんな方法あったのかと思えば、指定されたのは荻窪ダンジョンの入り口。なるほど、と納得して二人を迎えに行き、すぐにハーロット・セブンに戻り、早速リムーバーを使う。
「お」
「お?」
「…………なんだろうなこれ」
『階梯上昇』のスキルカードを使用したが、スキルスロットにその文字は現れなかった。だが19/20が20/20になったので、少なくとも1枠は消費しているようだ。
立ち上がり、背伸びをしたり拳を開いたり閉じたりする。
……うん、何も分からん。一体何のランクが上がったのだろう。
ステータスを確認しても、レベル上限は50/50のままだ。『上限解放』のようにレベル上限が解放される可能性もあるなと考えていたが、ここでいう『階梯』は、ファーストランクとかの『ランク』とは違うものなのだろう。
2枚目もあるが、流石に効果も実感出来ないものを2枚使う気にはなれない。――なんて考えてると、クレイが俺のことをじーっと見つめていた。
「……なんだ?」
「や、ごしゅさ」
「あ、うん」
「……なんも変わんない?」
「体感は特に」
「ふーん…………」
なんで意味ありげな反応をされると、気になって仕方ない。
え、顔も……たぶん変わってないよな。手足の挙動も同じ。見た目じゃない何かが変わったってこと? 内面とか? 内面って視覚情報で見れるものだっけ。
「き、気になるんだが……?」
猫屋敷とリンはというと、首を傾げている。どうやら人間には分からないものらしい。
「や、さ、これまでは一応、保護対象的な? そんな感じで見てたんだけどさー、や、これはちょっとダメだわ。ごめ、ごしゅ狙う」
そう言ってクレイが俺の腕を抱き締めようと手を伸ばすと、リンがその手をぺちんと払う。
「待て、意味が分からない。そもそもお前は誰だ」
「そこから!?」
俺とクレイの視線を遮るようにリンが動くと、クレイはスッ――、と消え、俺のすぐ後ろに現れ抱きついてくる。なんか前までとはちょっと柔らかさが違うなぁ……。
「誰も何も、ごしゅのメイドだけど?」
「いや瞬間移動はズルだろ!?」
「なんもズルくないでーす。てかそんなん出来なくてごしゅの隣にいられなくね? ぷぷー」
「で、出来るが……ッ!?」
煽られたリンは大きく息を吐くと――
消えた。
とはいえ、ただの目にも止まらぬ高速移動だ。そう右に――居ない!?
「ふ、引っかかったな海里」
「その速度でフェイント入れるのはズルだろ……」
完全に見失ったリンは、左に居た。でもこれはただの馬鹿みたいな運動能力だ。明らかにドヤ顔だが、クレイが再び消える。次に現れたのは――
外。
外だ。
窓の外から俺たちに向かって手を振ってる。え、嘘だろ。宇宙!? 生身で!?
「……海里!」
リンが、顔を窓の外に向けたまま声を掛けてくる。
「……なんだ」
「私も瞬間移動がしたい!!!!」
「お前は人間の領域で脚力とか鍛えて頑張れ」
「もうちょっとアドバイスとかないのか!? 宇宙戦艦だろう!? なんか超科学文明の力で――」
「それはあるが、リンには出来ないんじゃないかなぁ……」
「何故だ!?」
「何故って……」
試したことはないが出来そうだな、と考え、リンの後ろのあたりの空間をイメージし――
――転送。
距離が短いからか、暗転すら無しで、瞬きよりも早く転送が完了する。カード無しで転送できるということは同じモジュール内でも転送出来る気がしたけど、やっぱ出来るっぽいな。
「俺のこれは、身体をナノマテリアルで作り替えてんのと、ここの管理者になってるから出来るってだけだ」
「な、なら私もそのナノマテリアルとやらで――」
「在庫がない」
「ぐっ…………」
悔しそうに拳を振り上げたリンだが、何かを叩く気にもなれなかったかゆっくりと下ろす。
ドヤ顔のクレイが戻ってきて、リンの頭を撫でる。あれ、嫌がるかと思ったけど普通に悔しそうなままだな。格付けは完了したということだろうか。
ふと思いついたか、つい先程までクレイと買い出しに行ってくれていた猫屋敷が手を挙げた。
「ナノマテリアルって、文脈的には何にでも変化させられる特異物質的なものって解釈で良いのかにゃ?」
「良いんだにゃー」
「にゃらこれは? 割とナノマテってない?」
そう言うと猫屋敷は、テーブルに置いていた1枚のカードを手に取った。つい先程、スキルリムーバーで外した俺の『重複』のカードだ。
この場合、カードの中身は問題ではない。カードそのものを指しているのだろう。
「んー……、ハーロットー」
クレイが首を回し、ハーロットの方を見る。
「はい」
「チェックしてる?」
「簡易スキャンを行います。――|フィプロアワティウスロト値《注:翻訳不能概念です》の違いはありますが、広義のナノマテリアルではあると推定されます」
急に聞こえたピー音に、リンと猫屋敷は身体をビクリと震わせる。猫屋敷の方はこれまで置物としてしか認識してなかったハーロットが普通に喋ってることにも驚いてるっぽいけど。
「溶かせん?」
「設備がないため、現時点では不可能です」
「設備?」
「研究モジュールにアクセス出来れば、恐らくカードからナノマテリアルを抽出出来ると思われます」
「「おー……」」
ナノマテリアルの重要性が分からない二人はともかく、俺とクレイが声を揃えた。
なるほど、確かに言われてみればカードってなんにでも変化するな。ナノマテリアルの特徴と一致している。
クレイもそこには思い当たらなかったようだが、それはやはりハーロットの性格の問題だろう。ハーロットはこれまで聞かれていなかったから答えなかっただけだ。
それに、そもそもの得意分野の違いがある。管理プログラムであるハーロットと違って、クレイは商業モジュール内の案内プログラムでしかない。戦えるから忘れがちだけど、そもそもがそれ用に作られてはいないのだ。
「もしどんなカードからもナノマテリアルが作れるって分かったら、もう買い集めんのはゴミカードでも良いってことになるよな」
「んね。たぶんレアリティ高い方が|フィプロアワティウスロト値《注:翻訳不能概念です》も高いだろうから、なるだけ高レアのゴミカード集めてもらう感じ?」
「お、そういうの得意だぞ俺」
「海里くんは得意そうにゃ」
「海里はゴミ集めが趣味だもんな」
「なんか語弊があるんだけど!?」
確かに俺の趣味――フレーバーカード集めって人に理解されるものじゃないんだけどさぁ! だってフレーバーカードってレア5からなんだぞ! ハーロット・セブンなんてレア7だ。
同じレアリティの装備カードとかスキルカードと比べたら主に取引サイトで流通しているが、それでも高レアなりのドロップ率ではある。フレーバーカードはモンスターのレベルに関わらずドロップするので、乱獲しやすい低レアモンスターからのドロップ報告が多く、結果的にドロップ量が多くなるだけなのだ。ドロップ率自体は、実際のところ同等のレアリティのカードと変わらないと言われている。
「結局、乱獲しかないか……」
「んでもなー、ちょい厳しいかも? ごしゅ、モジュールいくつに別れてるか聞いてる?」
「……怖くて聞いてない」
「2162」
「多すぎんだろ!!!!」
「研究モジュールは、そのうち3枚かな?」
「……入るのに必要なのは?」
「もち3枚」
「だよなぁー…………」
びしっ、と3本指を立てられる。2162枚中の3枚をピンポイントに引き当てるの、どんだけ厳しいんだよ。1枚ならともかく3枚て。全部カードがある中で集めるのと、まだ数十枚しかドロップしてない状態で集めるのとでは話が違う。
いくらクレイのドロップ率が鬼といっても、4桁集めるのは容易ではないだろう。品川区の広さ舐めてたわ。
「……あれ、でも商業モジュールとか、他のモジュールはどうなんだ? 2000枚の中から偶然2枚引いたってことなのか?」
「あ、や、商業モジュールって実はいっぱいあんのよ」
「……まぁそりゃクソ広いもんな」
「合計枚数的には結構? 50枚かー、60枚かー、そんなもんはあるかな? ごしゅはそん中の2枚を見つけただけなわけ」
「へー……、ってことは別にどの組み合わせでも良かったってことか」
「そゆことそゆこと。同名のモジュールが複数ある場合は下位のモジュールから解放されてく仕様っぽ? 医療モジュールとか、ここ――射撃管制モジュールも一緒ね」
「……なるほどな」
ギリ分かる俺とは違い、リンは宇宙猫になってる。猫屋敷は――こいつは猫だけど宇宙猫にはなってないな。うんうん頷いてる。いきなりこんな話聞いて理解出来んのかよすげーな……。




