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転送先は、元居た墓地だった。偶然人気はなかったので誰かに見られることはなかったけど、着地点に人が居たらどうなったんだろう。混ざるとかない? 海里くん、何も分からず使ってそうで普通に怖い。
目的のカードは、値は張るが必死に探さないといけないほど流通していないカードではない。とはいえ取引サイトで買うと到着まで数日かかってしまうので、高くはなるけど確実に在庫があるダンジョン協会で買おうと、無人タクシーを拾って乗り込む。
「ねぇ」
「んにゃ?」
隣を見て聞くと、クレイが首を傾げてくる。可愛いわ。ナニコレ?
「…………なんか前あった時よりちっさくなってない?」
「気のせいかにゃー?」
あれ、そうだっけ。前はもうちょっと大人っぽかった気が――
「いやそんなわけないからね!? 誤魔化してるの分かってるからね!?」
「ごしゅに身体あげちった」
「そんなアンパンマンみたいに…………え、マジ?」
「まじまじー」
ほっぺぷにぷにしてくる。このぐいぐい来る感じなんなんだろう。っていうかちょいちょい語尾取られてるんだけど。
「えーと……、生き返らせるのに使ったってこと?」
「そゆことそゆこと」
「……まぁハッキングくらい出来るんだから、そのくらい出来るか……」
「はっきんぐ?」
「あなたたち、前に支部来た時カメラのデータとか全部書き換えたでしょ」
「でーた?」
「……あれ? 誤魔化してるわけじゃなくて?」
「んー……?」
はて、おかしい。
リンたちが荻窪ダンジョンを攻略した後、消えた海里くんと一緒に目撃されたメイドについて知っているか、上に問い詰められたのだ。
その時には、「以前支部でメイドを見かけた」という目撃証言があった。私と海里くん、クレイの3人で談話室に入っていくところを見ていた人が居たのだ。
同じ人物が見ていたわけではないにせよ、メイド服を着て歩いている人はそうそう居ない。もしかしてあのメイドだったんじゃ、という連想をされるのも、当然だろう。
日付や時間の確認が取れたので、上の人が監視カメラのデータをチェックした。その場には、説明要員として私も呼ばれていたのだが――
――けれど、なかった。
そこには、私が一人で配信をする姿しか、映っていなかったのだ。
クレイどころか、海里くんすら映ってなかった。意味が分からない。日付も時間も間違ってないのに、存在ごと消えたみたいになっている――
あぁこれは説明出来ないなと、即理解した。なので、ダンマリを貫くことにしたのだ。
でも、このクレイの反応はおかしい。そんなことしたっけと、そんな顔だ。
「あー……、なるなる」
「何が分かったの?」
「ちょい、ネコチャンスマホ持ってる?」
「あるけど……」
「あーし映してみ?」
「……じゃあ失礼して」
カメラを起動し、彼女に向けるが――
何もいない。
スマホの画面には、窓の向こうで流れる景色が映っている。肉眼でならそこに居るし、触ることだって出来る。
なのに、カメラには写らない。
「今あーし、4類生命体の可視領域にしか合わせてないから、機械のレンズじゃ映んないんだよねー」
「……じゃあ海里くんは? 海里くんは人間……よね?」
「ごしゅは人。けど状況としてはおんなじ。ちょっとこれはこっちの言語で説明出来ないけど」
「…………本人が意識して何かしてるわけじゃないってことね」
「そゆことそゆことー。んだからごしゅ、カメラとか映らんこと気付いてないんじゃね? 自撮りとかしなそーだし」
「絶対しないわ……」
ようやく通じたかと、クレイはにっ、と笑う。
これ惚れるわ。普通の男は惚れるわ。金髪メカクレ黒ギャルメイドっていくらなんでも性癖盛りすぎでしょってツッコミ入れたい気持ちはあるけど、なんか動作が可愛いのよね。計算されつくされてるというか。ここまで来ると属性メガ盛りの方も意識的なアレなんじゃって思えちゃうくらい。
「ネコチャンさぁー」
「うん?」
「ごしゅのこと、好きなん? しゅきぴ?」
ぶふっ、と思わず噎せた。急に何言い出すのこの子、と思ったけどそういえば初対面の時にも彼女かとか聞かれたっけ。宇宙人ってだいぶ恋愛脳なのね。
「……え、いや全然。好感は持ってるけど異性としては……」
「ふーーーーん…………」
ニヤニヤされてるなぁ。いや、本当に、本当にね? そういう感情はないから。誤魔化してるとかじゃないから。
そりゃあ15年前の出来事調べてるうちに結構気になっちゃったけどさ、これは興味の問題であって、異性恋愛に関する感情じゃない、はず。そのはずよ。というか私にとって興味の対象は元はと言えば海里くんじゃなくて東谷大和の方で――、これ説明した方が言い訳臭いから黙ってよう。
「く、クレイさんはどうなの」
「しゅきぴだけど?」
「うぐっ……」
これ堂々と言われるとこっちがダサく思えてくる。彼氏とか20年くらい作ってないし……。
で、でもモテないわけじゃないのよ。結構モテるわ。ネットで不特定多数のロリコンにね! ADF契約探索者としての収入より配信収入のが多いしぃ……?
「ま、狙ってるって言われても負ける気しねーけどー」
「そ、そう」
「身体分け与えるとか、人間には出来んしね?」
「それは間違いなく出来ないわ」
もう思考がアンパンマンなのよ。現実的に可能なのが臓器移植とか献血レベルじゃない。繋がりの線が太すぎるのよ。
「あのカード使っちゃったら、もっと魅力的になんべ。にししっ」
そう言って笑うクレイは、どこか確信しているようで――
「何が起きるか、知ってるの?」
「んー?」
「友人のことだから、友人のことだからね、一応聞いておきたいんだけど、何が起きるの?」
「翻訳むずいんだけどなぁ」
「……ちょっと間違ってても良いから、伝えるの優先で」
「4類生命体から、3.5類生命体くらいにはなるかな? や、ハーロットは認めねーだろうけど、認識としてはそんな感じ?」
「…………人間としての格が上がるって認識で、間違いない?」
「んま、そんな感じ?」
「……なるほどね」
自分たちの領域に近づくから、だからもっと魅力的になる――ということか。たぶんこの認識で間違いない。
だが、これくらいなら私より海里くんの方が理解しやすそうだけど、本人に直接伝えていないのはどういうワケなのだろう。無地のスキルカードについて調べる前に、聞かなかったはずはない。ならば答えなかったのだ。何故?
(分かんないなぁ……)
この子が何を考えてるのか、全然分からない。
これに比べたら、ほぼイノシシみたいなリンのがだいぶマシね。言ってることは分かるし、思考回路もまぁ理解出来るから。
「ただ、一つ問題があってー」
「……それは私に伝えて大丈夫なこと?」
「ん、まぁしゅきぴじゃないんならね」
「……しゅきぴじゃないわ」
自分で言ってて恥ずかしくなってきた。よく素面で言えるわねこんな言葉。
「たぶん、生殖能力なくなったんじゃないかなー」
「それ本当に本人に言わなくていいの!?」
思わずツッコんじゃった。え、結構重大な話じゃない? っていうか過去形ってことはあの無地のカード関係なしになくなったってことで――、あ、そっか。そういえば身体をナノマテリアルで作り替えたとか言ってたっけ?
……あれ、これ本当に私が聞いて良かったの?




