37
20しかないスキルスロットの中でも重要となるのは、クラススキルなんて呼ばれる、一つしか装備出来ないスキルカードだ。
俺が装備しているのは知力に補正のかかる『魔法使い』。
他にも力と耐久力に補正のかかる剣士、器用と俊敏に補正のかかる盗賊など、RPG的なクラスロールに近いものだ。
勇者は、そんなクラススキルの一つ。
クラススキルは、一つのスキルの中にいくつかの内部スキル――モジュールスキルなんて呼ばれるものが設定されている。
『勇者状態』は、勇者の持つモジュールスキルのうち一つだ。
その効果は、パーティメンバー全員のステータスに莫大な補正を掛けるというもの。俺たちがファーストランクでありながらダンジョンボスに挑めたのは、このスキルの効果があったからだ。
「……あれ、パーティメンバーじゃなくても適用されんだな」
「らしいな」
「昔はそこまで調べなかったけど、まぁ、俺にも残ってるしなぁ……」
「知っている」
「…………話したっけ?」
「魔法の威力が高すぎるんだ。それだけで勘のいい者なら気付くんじゃないか」
「……それもそうか」
射撃魔法は、不人気魔法だ。
それは単純な話、魔法でありながら魔法属性を持たない、物理属性の魔法だから。
お陰でだいぶ安く買えた。正直、ソロで雑魚モンスターしか狩らないなら魔法属性にこだわる必要なんてなかったから、安いもので良かったのだ。
知力に特化していれば、誰でも俺のように使える――わけではない。
魔法属性を持たないということは、敵の弱点に応じて魔法属性を切り替える、『魔法使い』としての基本の動きが出来なくなる。
もちろん、『魔法使い』にも一つの属性に特化している者は居る。一つの魔法属性で下級・中級・上級と全ランク揃え、他のスキルにも『火属性強化』みたいな強化スキルを重ねてカバーする、シングルウィザードなんて呼ばれるスキル構成だ。
とはいえ、射撃魔法において、シングルウィザードと同じ強化は難しい。物理属性の魔法を強化する専用スキルなんてなく、『重複』のようなスキルで魔力の消費量を増やすことで威力を強化することしか出来ないからだ。
単純に特化効率が悪いため、精々属性魔法の通りが悪いモンスター対策に、魔法使いがサブウェポンとして持つくらい。安くなるのも当然だった。
「荻窪で、一度狩りの実演をしてくれただろう。あの日に、分かった」
「……いや、数分だよな? 射撃魔法なんて前から知ってたのか?」
「全振りしたファーストランク魔法使いの知力は良いとこ2000だろう? 『射法・偽』の威力係数は72.215。短縮詠唱で最終倍率に0.7倍の補正を掛ければ威力は10万程度。九重奏2回で81分割され1248。フォルミナスの精神力は17だから最終ダメージは1035。上層のフォルミナスの体力は個体サイズによって変わるが総じて1900から2300程度だから、81分割された『射法・偽』一発でフォルミナスを倒すには、更に2倍程度の倍率を掛ける必要がある。無条件で2倍ものバフが乗るなんてありえない。そうなると勇者状態の可能性は非常に高くなる。違うか?」
「なんで戦闘に関するIQだけバカ高いんだよ!!!!!!!!」
リンがここまで長尺で喋んの久しぶりに聞いたよ!! 別に頭が良いわけでもないのに頭の回転が速いってのは、つまりこういうことなのだ。興味があることにだけ異常な集中力を発揮してるんだ。馬鹿がよ。
「? ただの記憶と暗算だ。このくらい誰でも出来るだろう?」
「俺でも出来ねーって!!!!」
「…………そうか」
哀れみの目で見られてるけど、そういうとこだぞ。
リンは、本当に天才なのだ。ダンジョンに関するところだけだが。
っていうか威力係数とかダメージ計算式なんて俺でも覚えてないよ。頭攻略wikiとかに繋がってたりする?
「リンが槍をぶん回してキャリバーの後ろ脚に当たった時のダメージは?」
「6327。関節部なら9962」
「そろばんとか習ってた?」
「習ってないが……」
即答じゃん。怖いよ。だって別にダメージの数値って目で見えるわけじゃないんだよ? もっと言えば相手の体力だって専用のスキルなりアイテムなりを使わないと確認出来ないので、戦闘中は基本的に感覚だけで戦うことになる。
上層でのフォルミナス狩りを安定させたのだって、机上で計算したんじゃなくてただ実践しただけだ。いくつまで分割しても一撃で倒せるか、細かくチェックして最適解を見つけただけである。
戦闘スタイルはバーサーカーみたいなのに、実際は緻密な計算をした上で暴れてるってことなのかよ。
「私に勇者状態があり、それがまだ消えていない以上、海里も同じ状態だと判断したのは自然だと思うが」
「……まぁそうだな」
『勇者状態』の効果は、単純なステータスアップ。――ただ、その倍率が異常なのだ。ステータスが2.5倍になるバフなんて、勇者状態の他に存在しない。それなのに、何のデメリットもなく永続効果。
なお、クラススキルとして持つ勇者当人は7倍なのでもうこっちは無法通り越してる。チートだチート。
ちなみに一般的なクラススキル――たとえば魔法使いは知力に2倍の補正がかかるので、2.5倍という倍率自体はクラススキルとして見ればありえない数値ではない。
しかし勇者状態自体はただのバフなので、これにプラスして更にクラススキルを持てるというのだから、無法さは伝わるだろう
まさかパーティに入ったことすらないリンにまで適用されるとは思ってなかったが、とうに勇者はいなくて、なんなら勇者を託された俺にもバフが残っているのだから、実の妹であるリンが持っててもおかしくはない。
「海里が私たちを庇う時に使ったのは、『勇者の盾』だな」
「……待て、ダメージ計算は計算式と倍率覚えてれば出来るのは分かる。でもそれが分かるのはおかしいだろ」
だって、『勇者の盾』は別にバフなどではない。発動している間、仲間へのダメージを肩代わりするという勇者のモジュールスキルの一つでしかない。
それに、存在を知っているのは俺や、あのパーティに居たメンバーだけのはず。過去に勇者が居たなんて知らないし、他の所有者だってたぶんいない。
何故、それをリンが知っているのか――
「? 話していたぞ」
「誰が?」
「兄と、海里が。昔に」
「いやなんで普通に覚えてんだよ!!!!」
「知らん」
「知らんって…………」
そりゃあなぁ。りんが居るとこでも、普通に話していたと思う。
勇者のモジュールスキルは他のクラススキルに比べて多すぎたので、暇なときに一つずつ検証したことがあったのだ。
だってあれだぞ、俺の魔法使いってモジュールスキル2つだぞ。
知力の上がるパッシブスキルの『魔法適性』、威力が落ちる代わりに詠唱を短縮するアクティブスキルの『短縮詠唱』だけだ。
それなのに、勇者のモジュールスキルは30個くらいあった。馬鹿だろ。まぁ魔法使いのスキルカードはレア2で、勇者はレア9なんだけどさ……。
「『勇者の盾』はパーティメンバー外でも有効なんだな」
「……あぁ、言われてみるとそうだな。まぁ勇者だしな」
「それを使えたということは、……やはり、そうか」
リンは、ようやく確信したようだ。
俺が誰にも話していなかった、このスキルのことを。
「今の勇者は、海里なんだな」
――そう。
二度目の死を迎えた、あの日から。
スキルを託されただけの俺は、勇者になった。




