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「ま、なんならリンの方が詳しいかもしれないけどな」
兄の話を実の妹にするとかこっぱずかしいけど、まぁざっと説明は出来たと思う。
最後まで話を聞いていたリンは、首を横に振った。
「そうでもないぞ」
「そこは忘れてるのかよ!」
「いや、兄は海里たちが家に居ない時、ダンジョンの話なんて口にしなかったからな」
「…………え、マジ?」
俺たちが顔合わせてダンジョンの話しないことないのに? 家ではしなかったの? マジで? 意外と理性あるじゃん……。暴走機関車みたいな性格の癖に……。
「母が、ダンジョンについてあまり快く思ってなかったようでな」
「あー……」
それめっちゃ気まずいやつじゃね? 勝手にたまり場にしてたし……。よく出てけって言われなかったなぁ……。
「……あれ、でも旧姓ってことは、リンってその母親と一緒に暮らしてるんじゃないのか? ライセンス取るとか、止められなかったのか?」
「止められたから勝手にライセンス取りに行ったし、ダンジョン行くって言うと止められるから勝手に入ってた」
「まぁそうだよねぇ!!」
子供の行動なんて、親が制御出来るものではないのだ。それにリンは、妹の――
「……そっか、リンがりんってことは、前にインタビューで話してた亡くなった妹って、こうのことだったんだな」
察しが悪い俺は、今更気付いた。
リンがADFに入ったのは、妹をADFに救われたから。けれど、その妹はとっくに死んでいて――
「私がダンジョンに興味を持ったのは、凰が探索者になりたいと、ずっと言っていたからだな」
「……あ、そうなんだ? でも昔は全然興味なさそうだったけど」
「海里たちがウチに集まってる時は、いつも楽しそうに話を聞いてたよ。気付かなかったのか? いつも近くに居ただろう」
「…………マジか」
言われてみると同じ部屋には居たような気がするなぁ……。え、あれ楽しんでたんだ。感情の変化が乏しい……ッ! 分かんねえよそんなん!
俺の反応が面白かったか、リンはくすり、と笑う。
「まぁ、少し人見知りする子だったからな。なんなら両親にも人見知りしてたし」
「それは人見知り通り越して普通に結構変な子だよ!」
もっと心開いてやれよ! 実の両親が可哀想だろ!
「なんでも話すのは、私にだけだった。苦しいも、痛いも、眠れないも、医者にも、母にも伝えなかった。……それでも、いつか海里たちみたいになりたいと、ずっと、ずっと言っていたよ」
「…………」
「私が代わりに探索者になると、そう伝えた時。――あの子は、本当に嬉しそうに笑ったんだ。もう、痛み止めがないと眠れないくらいの身体だったのに」
リンは、言葉ほど苦しそうな顔をしていない。
――きっと、もうとっくに乗り越えた後なのだろう。
こうが、いつ亡くなったのかは知らない。けれど、最近というわけでもないのだろう。
分け身である、双子の妹が病に侵され、そう長くは生きられないと知った、その時から。
ずっと、リンは覚悟していたのだ。一人になるということを。
「だから、なった」
「なったにしては、強すぎんだよなぁ……。なんか変なスキルでも持ってるのか?」
「スキルはない。――が、」
「が?」
リンは、少しだけ悩むように視線を逸らせる。
小さな声で「まぁ海里になら良いか」と呟いた。
「初めてダンジョンに入ったその日から、私にはバフがかかってるんだ」
「バフ?」
「バフの名は――『勇者状態』。海里なら、知ってるんじゃないか」
「…………あ、」
あぁ、そうだ。
俺は、そのバフをよく知っている。
だって、勇者とパーティを組んでいる者には、常にそのバフが掛かっていたから。
たとえ、どれだけ距離が離れていても。
たとえ、勇者本人がダンジョンにいなくとも。
――そして、今でも。
俺のステータス欄には、そのバフが残っている。




