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 とまぁ、ハーロット・セブンに出会ったところからここまでをかいつまんで説明すると、猫屋敷は「不死身とか素でキモいにゃー……」なんて漏らすので再びチョップをかましておいた。

 なお俺はあと5回は完全に死んだところから蘇生させられるらしい。創生処理にはクレイの身体を構成しているナノマテリアルを消費するので、5回目でクレイは消滅するわけだが。


 して、リンの反応は――


「か、かっこいい……! わ、私も入れないか!? そ、そのハーロット・セブンとやらに……!」


 ほらー! こうなると思ってた!

 一応、外部の人を連れ込んで良いか分からないのでクレイの方に視線を向ける。ダメだ、目が合ってはいると思うが、やっぱメカクレから感情読み解くの無理だよ。俺も信号通信とかしたい。


「……良いのか?」

「いーんじゃね? 知らんけど」

「おし、じゃあ――」


 手を伸ばすと、リンは俺の手を掴み自分の身体にぎゅっと押し当ててくる。……まぁ、うん、それでいいか。

 そして、それに対抗するように反対の手を猫屋敷が掴んでくるので、手が空いたクレイが背中に掴まってきた。どんな状況だ、これ。


(……射撃管制モジュールに転送)


 ――暗転。


 二度目の死を乗り越えてからは頭の中で唱えるだけで艦内への移動が出来るようになったが、これはどうやら創生処理の影響らしい。

 というのも、俺の肉体は本格的に人間――ホモサピエンスのものではなくなり、ハーロット・セブンの元乗員たちにだいぶ近づいてしまっているようだ。『iubeo(ユベオー)』と唱える必要も、カードを手にする必要も、もうない。

 まぁ身体を作り替えたといっても、病院で臓器を調べられても違いは分からないはず、とハーロットは言っていた。まぁ文明レベルが違いすぎるだろうからなぁ。


 リンは華麗に着地、猫屋敷は「み゛ゃっ!」尻打って悶絶。

 射撃管制モジュールを選んだのは、ここが一番宇宙っぽいからだ。やっぱテンション上がるんだよな、外見えるって。


 リンは無言でふらふらと窓に近づき、貼りつくように外を見ている。男の子みたいな反応だ。でも分かるよ、俺も初めてきた時やったし。とりあえずそっとしておこう。


「……うーわ、まーじにゃー……」


 猫屋敷は座ったまま窓の外を見、頭を抱えて声を漏らす。脳のキャパを一発で超えたようだ。


「信じてなかったのか?」

「あの状況で海里くんが嘘つく理由がないから信じてはいたけどにゃー……。こうして見るとさ、……メイドもう一人居る!?」


 最初からずっと立ってたんだけど、今更存在に気付いたか、猫屋敷がべたーんと背中から倒れた。。

 ハーロットがペコリ、と頭を下げるが、挨拶はしない。


「……え、あれヒト? 宇宙人的にゃ?」

「違う。船に乗ってるAI的なアレだ」

「あー……、にゃるほどにゃるほど……」


 立ち上がった猫屋敷が、ハーロットに近づき触れようとし――「触れねーにゃ」と苦笑を漏らす。

 ハーロットは無言で視線だけ猫屋敷を追っている。店頭に立ってるペッパー君みたいなもんかな。特に声は掛けてこないけどめっちゃ見てくるよね。

 たぶんこれ、マスターと()()()()()()()を完全に線引きしているのだろう。ひょっとしたらハーロットにとって俺以外の人間は全部ただの有機物Aなのかもしれない。

 でも前に人型の相手は全部マスターって呼ぶって言ってなかった? 人型にも見えてない? それはそれで怖いよ。


「ここ、酸素とかどうなってるのかにゃ」

「知らん」

「……てかここどこ?」

「知らん。宇宙のどっかだ」

「…………よく調べずにいられるにゃー」

「男はな、……よく分からん時はよく分からんで思考を停止出来る生き物なんだ……」


 猫屋敷は軽く引いた様子で「単細胞生物にゃ……」と漏らす。うるせえ。

 して、ようやくリンがこちらを振り返った。


「か、海里っ!」

「なんだ」

「出れるのか!? そ、外っ!!」

「いや流石のお前でも死ぬだろ!?」

「死ぬ……そうか……! くっ……、悔しい……! 折角こんな近くに宇宙があるのに出れないなんて……」

「……好きなんだな、宇宙」

「宇宙を嫌いな人間がどこに居る!?」


 怒鳴られるので、ちらり、と猫屋敷の方を見る。

 リンとは真逆で、外にはあんま興味なさそうだなぁ。むしろ宇宙戦艦の艦内の方に興味が向いてそうで、コンソールに触れてぱっ、と慌てて手を離した。あ、うん、あのクソUI――ユーザーインターフェースという概念があるかも分からないあれ――ね。


「あ、そうだクレイ。行けるとこ増えたのか?」

「んー? あ、そっかまだそなへん検証前だっけか」

「慌てて出てきたからな。おっしゃ、じゃチェックと行きますか」


 クレイがエプロンの前ポケットから、じゃらじゃらとカードや魔石を取り出していく。いや容量無限か? これ前も言った気がするな。

 今取り出しているのは、俺が死んだあの日――、荻窪ダンジョンのドロップだ。


 というのも、俺が目を覚ました時には死んでから49日経ってたらしい。肉体自体は1日で再構築出来たが、そこに魂的なアレを定着させる作業に時間がかかったようだ。それが偶然49日になったのは、ちょっと面白い。いや全然面白くない。

 そんで外がどうなってるか猫屋敷に聞いてみたらさ、俺、死んだことになってたみたいで。いや実際死んだんだけど、普通に墓まであるって言われてビビったよね。勝手に作るなよ、墓を。

 それから指定された墓所に行ってみたら、一触即発ってわけ。何の話してたかは知らないが、二人があそこまで仲悪いとは思わなかったよね。街中で武器出すのって違法なんだけどなぁ。


 そんなわけで、あの日のドロップチェックを行っていない。もっとも中層でソルダを狩っていた時間が長いし、そっから全部すっ飛ばして最下層に行ったから大した量のドロップはないと思っていたが――


「……3枚か」


 ハーロット・セブンのモジュールカードが、なんと3枚も。いやクレイの運良すぎだろ。どうなってんだよ。こんな落ちまくったら相場崩壊するぞ。買う奴俺しか居ないけどな!

 とはいえ、どれも移動には枚数が足りない。行ける場所は増えなそうだ。そう上手くはいかないな。


「い、いやそれ以外っ! どう考えても重要なのはそのゴミカードじゃないだろ!?」

「ゴミって言うなよぉ!!」


 テンション上がってるリンが手に取ったのは、レア7の装備カードだ。そういえばリンの槍はレア6だっけ。俺は無手の魔法使い構成(ビルド)だから武器持たないんだけど、リンや猫屋敷にとってはそちらの方が重要らしい。

 まじまじとカードを見て、スキルカードを手に取った猫屋敷が「にゃ?」と首を傾げる。


「あれ、これ前のかにゃ?」

「前の? ……何のことだ?」

「にゃにゃにゃ、これこれ」

「『階梯上昇(ランクアップ)』か。何のランクが上がんだ?」

「「らんくあっぷ?」」

「……? お前らも知らないカードなのか」


 そう問うと、二人は顔を合わせて首を傾げる。あれ、なんか反応違うな。一般的なカードなのか?

 すると、クレイが背中からどしん、ともたれてくる。前までより明らかに軽いな。


「んーとー、たぶん二人にはそれ、無地のカードに見えてる系?」

「……無地ってーと、前のアレか?」

「そそそ。ちょい出してみ」

「確かこのへんに……」


 カードホルダーをぱらぱらめくっていると、確かこのへんに入れたはず、というところに見覚えのない『階梯上昇(ランクアップ)』のカードが差し込まれている。あれ、俺前から持ってたっけ?

 ――いや、違う。


「あー……、そういうことか」


 納得出来た。そうか、ナノマテリアルで作り替えた俺の身体は、()()()()人間のものではなくなってしまっている。

 宇宙戦艦の中に入れるただの人間――()()()()。この宇宙戦艦の元乗組員に、近い存在に。


「使ってみるか」

「お、ごしゅ覚悟決まった感じ?」

「まぁな。人間やめたんだ、今更だろ」


 売れないし、効果も定かではないスキルを他人に使ってみるわけにもいくまい。とりあえず2枚あるので、1枚使ってみても良いだろう。


「つっても――、どれ外すかなぁ」


 腕時計型端末をタップし、網膜にステータス画面を映し出した。

 スキルスロットを確認する。ほとんどのスキルは現役で使っているものだし、使っていないものは現在入手が困難なためとりあえず保持しているもの、思い出深いものばかりだ。

 一度使用してしまったスキルをカードに戻すには専用の消費アイテム――『スキルリムーバー』が必要だし、それは大抵の場合、スキルカードを買うより高い。そのためリムーバーを常用している者は少なく、そうなるとスキルを外すイコールスキルを失うということになる。


「……ま、『重複(オーバーラップ)』でいっか」


 確かに俺のビルドにとっては重要なスキルではあったけど、『射法(バレル)』でハーロット・セブンの弾を扱えるようになった今、そこまで重要とは思えない。3回重ねるだけでダンジョンの地面掘削出来るんだから、7回も重ねたらオーバーキルにも程があるだろ。


「「オーバーラップ!?」」


 ――が、リンと猫屋敷が声を揃えて叫んだ。

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