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二人に再会する、少しだけ前のこと。
「…………ん?」
知ってる天井だ。
なんだか、めっちゃ見覚えある部屋で目が覚める。
「医療モジュール……」
思考は正常。視界も正常。身体も、動く。
手を天井に伸ばし、考える。どうしてだろう。手が届くはずのない天井に、届きそうに思えたのは。
確かに、身体の様子は今までと変わらない。でも、違う。――何かが違う。けれど、何が違うのか、全く分からない。
だから、試した。
手には何も持っていない。周囲には誰もいない。
(射撃管制モジュールに、転送)
目を瞑り、誰に言うでもなく心で唱える。
すると、ほんの一瞬の浮遊感。
身体の向きを90度回転、足を下に着くようにして――
――着地。成功。
やっぱ俺、ちょっと人間やめたかもしれん。
「お」
「お?」
「目が覚めましたか、マスター」
二人のメイドが、俺を出迎える。なんとなく、ここに居ると思ったんだよな。
クレイとハーロットが向かい合って立っていた。でも話してたみたいな雰囲気じゃないけど――、あれか、信号通信的なやつやってたのかな。俺居ないなら口に出す必要ないって言ってたし。
「ごしゅ、おはー」
クレイが「いぇーい」と手を合わせようとしてくるので、手を掲げ――
――空ぶった。
あれ、と一瞬感じたのも無理はない。クレイの身長が、見るからに縮んでいる。165cmくらいはあったと思うのだが、今は150cmくらいしかなさそうだ。
速攻聞きたいのは山々だが、なんとなくその姿を見ただけで察してしまったな。
「……状況の説明を」
「かしこまりました」
ハーロットが頷く。クレイは片手を挙げたままじりじりにじり寄ってきたので、ハイタッチをやり直しておいた。
「クレイのナノマテリアルを用いてマスターのマテリアルボディを作成した後、先日死亡したマスターより回収したティフトスケルタをエフィテスアパターンから、マスターの創生処理を行いました」
「……うん、ピーピーうるせえことが分かったな。そんな気軽に新しい身体なんて作れるものなのか?」
「以前治療を行った際、マスターの肉体スキャンデータを保存していました」
「…………なるほどなぁ」
うん、分からない部分は分からないが、それはそうとして言えることがある。
「……俺は人間をやめたってことか」
ナノマテリアルで身体作ってて、人間なわけないよなぁ。触っても元の身体と同じように思えるけど、根本的に違う。
まぁそりゃ、俺死んだもんな。刺されてからゆっくり死んでいったので治療する余裕のあった前回と違って、今回は体力全損により、肉体すら失ったはずだ。そっからも再生出来るって、宇宙文明すげーわマジで。
「通常、マスターからの承諾無しで創生処理を行うことはハーロット・セブン内プログラム規約により制限されておりますが、私が代理マスターとして超法規的措置を行いました。罰はクレイが受けます。お好きなようになさってください」
「クレイが!?」
そこはハーロットが罰を受けるパターンじゃないんだ。クレイなんだ。
明らかに小さくなったクレイは、「へへー」と微笑を浮かべて頬を掻く。うーん、スケールが小さくなったわけじゃなくて、単純に幼くなった感じだな。でも乳はデカいままだ。そこは譲れないんだ。かわいいぜ……。
「んだって罰も何も、ハーロットに感情とかないからね? ごしゅいなくなったらそれはそれって考えちゃうから、ほら、それならあーしが決めるしかなくね?」
「……身体もないしな」
「そゆことそゆこと。ハーロットはあーしの要請に従っただけ。んで、どする? 折檻……しちゃう?」
「ギリ犯罪臭がするなぁ……」
スカートをぺらり、と捲って――見えないッ!
それはともかく、推定高校生くらいにしか見えなくなったクレイに折檻とか、絶対エロいやつじゃん。絶対エロいやつじゃん! これは非常に大事なことなので二回言いました。
以前の姿だと現実味がなかったのだが、今はどうしてだろう。かなり現実的になったというか、うん、イメクラじゃなくて秋葉原とかにありそうなメイド喫茶になったな。そんな姿のクレイに折檻? うーん、エロいことしか浮かばねえ。俺はカスだ。
「ま、経緯はともかく、助けてくれたんだろ。ありがとう」
ぺこり、と頭を下げる。
「良いってことよー」
鼻を高くして、胸を張るクレイ。うん、お前はそれだけのことをしたよ。好きなだけ誇ってくれ。
「……一応聞いておくんだけどさ、この船に乗ってた人間、そうやって生き返らせるの普通だったりする?」
「一般的です」
「ふつーだねー」
「…………そういうことね」
そりゃあ慣れてるわけだよ。初めての処理じゃなくて、ここでは一般的な処理だったのだ。創生処理って言ったっけ? 身体がなくなったところからもう一度作り直すとか、やっぱ意味分かんねえわ。
でも記憶って脳に紐づいてるはずなのに、死ぬ瞬間までの記憶が今の俺には確かに残っている。どういう理屈なんだろう。でもあれか、聞いたら絶対ピー音出るよな。理解出来るわけがないもん。
「てか、生身の身体じゃ2000年も旅出来るわけなくね?」
「……待て!? もしかしてお前らの元主人……寿命って概念も超越してる!?」
「寿命――細胞分裂によるテロメアの短縮限界ですね」
「すまんそれを言い換えられても分かんねえ」
逆にピー音鳴らないのかよ。理解出来るってことなのかよ。理解出来ない俺が馬鹿ってか? うっす。
「ハーロット・セブンの乗組員の大部分は定期的な創生処理を施されていましたので、基本的にはマスターの認識する寿命という概念は存在しません」
「やっぱりぃ……、でもあれ、そうすると増えすぎない?」
「増えるすぎる、とは」
「死なないのに、繁殖能力はあるんだろ? なら減らずに増えるだけだと思うんだけど――」
クレイとハーロットは、一瞬だけ視線を合わせた。恐らく信号通信。なんとなく分かってきたぞ。
「んーと、あーしらもデータでしか知んないんだけど、確かにむかーしはそれが社会問題になったっぽい? それ防止するために、臣民を3つの階層に分けたわけ」
どうやら説明担当はクレイになったらしい。階層構造――なんか嫌な予感がするなぁ。
「1等臣民は、まー貴族とか王族的な? ここは自由に繁殖しても良いけど、創生処理は7回まで、イフィストアラバ――あ、これダメか。ごしゅの認識してる『魂』を複製する処理は2回までって制限があるわけ。実質14回ってことね」
「……そういう制限は破るもんだと思うんだが」
「そ。だから遺伝子設計の時点で制限掛けたわけよ。この階層に生まれた者はこれ以上の創生処理に耐えられないように。まー脱法創生処理もありえなくはないけど、少なくともこんな狭い船ん中じゃ出来ないかな?」
「おぉ、デザイナーズベイビー……」
まぁそんくらいあるよなぁ。宇宙だし。むしろ普通に生まれる方が驚きだわ。
「2等臣民は、軍人とその家族。この船に乗ってたのは9割がたそれね。創生処理は4回、魂の複製処理は1回」
「9割? ふつうもっと民間人連れてくもんじゃないのか?」
「デフェット――ダメかぁー! んと、慰安婦! 慰安婦的なのが一応いて、それが残り1割ね。軍人以外で働いてるのは軍人の家族とそれくらいかなー」
「あー……」
連れ歩くんだ。まぁみんな家族持ちってわけじゃないだろうしなぁ。
狭い戦艦の中を2000年も旅する前提とか、娯楽もないとそりゃあ狂うわ。
「3等臣民はー、クドゥト――ヒェハ――ウィドゥトゥハ――あぁもう! 生産とか繁殖っ! それが仕事の人たちね。創生処理は0回、魂の複製処理も0回。ここは一応寿命? っぽいのあるけど、だいたい200年くらいは生きるし、ティウルゥハ係数によってはもっと生きる人もいる感じ? 決まった年齢で大体みんな死ぬみたいのはないかなぁ」
「繁殖が仕事!?」
「まーぶっちゃけ? 子供とか誰も作りたがらないわけよ」
「…………そっか、先進国ほど出生率下がるって言うもんな。そりゃこんだけ文明進んでたら……」
「そそそ。1等臣民も子供作んのは創生処理使い切ってからだしね。最期まで作んない人も結構居るし。だってほら、生きてるうちに作っちゃったら自分の財産分け与えることになっちゃうじゃん? しかも生きてる間はずーっと面倒見なきゃいけないし。すぐ自分の年齢超えんのに、親としての責務とか果たさないといけないし。むりむりー」
「……そうか、若返りが前提だと年齢も逆転するのか……」
「んねー、キモくね?」
「キモいって言葉で表して良いのか分からないけど、気持ちは分かる」
便利すぎだろこの言葉。エラー吐かないし。
でも、世知辛いな宇宙戦艦……。でもそうか、そのくらいされているから人間が増えすぎることはないのか。繁殖を仕事にされない限り誰も作らないって、出生率めっちゃ低そうだなぁ……。
避妊もゴムとかより圧倒的に便利な道具が発明されてそうだしなぁ。むしろ性欲はどうなんだろ。流石にあるのかな……。性欲無しでクレイをデザインされたらそれはそれでビビるのだが。こんなん性癖の塊じゃん。欲しかないよ。
「そんなわけで、ごしゅの想像してる人増えすぎ? みたいなのはないわけ、おっけ?」
「お、オッケーだ」
ふとした疑問がとんでもねえ爆弾になって返ってきちゃったがな。




