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「廣重麟、――うぅん、東谷麟ちゃん」
『林原海里』と名が掘られた墓石の前で立ち尽くしていた彼女に、後ろから声がかかる。
二十歳に満たぬ歳でありながら、名前を知らない人など居ない日本で最も有名だった探索者、廣重麟が振り返った。
その目は、驚きの色を映していた。
「……どうして、その名を?」
「調べたから。リンちゃんのお兄さんのことも、もちろん知ってるよ。第一次迷宮災禍の後に失踪した勇者――、そりゃあ、無関係なわけないよね。中で死んだって考えるのが、自然でしょう」
「……猫屋敷みや、あんたは何者なんだ」
愛用の、猫耳パーカー。棒付きキャンディーのように加えているのは、紙巻煙草。
その童顔に似合わぬ紫煙を吐きながら、猫屋敷みやは薄ら笑いを浮かべる。
――まるで、黒幕か何かのように。
「わたし、ADF入るまではルポライターやっててさー。第一次の時、ちょーど入社したてで張り切って色々調べてたんだよね」
「……ずっと、黙っていたのか。私にも、海里にも」
「うん」
「何故?」
「だって、面白いじゃない。勇者を託された者と、勇者に残された者。二人が同じとこで働いてるのに、託された方はそのことを知らない――。逆に聞くよ、何でリンちゃんは話さなかったの? 兄の名は大和で、旧姓は東谷と言いますって、海里くんに言えば良かったのに」
「…………」
廣重麟は、答えない。
代わりに、殺意を込めた目で猫屋敷みやを睨んだ。
「あー怖い怖い。ごめんねー? 悪気はないんだ」
「兄を調べて、海里を調べて、私を調べて――、それであんたは、何がしたいんだ」
「何も?」
「…………は?」
「いやね、ルポライターはとっくに辞めたワケ。どんだけ本気で取材しても、上が気に入らなかったら記事の片隅にも乗らない。そりゃあ廣重麟の過去と今をネタにしたら多少は売れるだろうけど、そんなの多少止まり。だって、リンちゃん――君の冒険は、もう終わっているから。もう君は、世間の話題を搔っ攫えるほどの存在じゃない」
「……だろうな」
「今は、友人に片思いしている女の子にお節介を焼いてるお姉さんってとこかな?」
「オバサン」
「ぶっ殺すぞクソガキ」
「やってみろ」
廣重麟は、腰に手を当てる。そこに収めていたカードに触れると、手の中に三叉槍が現れる。
それに対峙する猫屋敷みやは、両手を挙げた。
「まさか、勝てない相手に挑む気はないよ」
「オバサン、今日はあのキモいキャラじゃないのか」
「……仏の顔は三度までって知ってる? 二度目だよ?」
「ずっと前から思ってたけど、猫キャラ似合ってないぞ、若作りが下手くそだな」
「…………遺骸・起動」
猫屋敷みやはそう呟くと、両手の中に2対の短剣が現れる。刃よりも柄の方が長いほど、小さな短剣だ。
そして、二人がじりじりと、間合いを測り――
「いや何してんだお前ら」
ごつん。
「みゃっ」
チョップを受けた猫屋敷みやは、小さな悲鳴を上げた。




