26
「海里!?」
ボスの攻撃が不発に終わり、最初に俺の存在に気付いたのは、リンだ。
こちらに駆け寄ろうとするので、なけなしの体力で腕を前に伸ばした。
俺を気にせずボスを殴れと。あの大技は戦闘中に一度しか使ってこない。だから、次は大丈夫。
ひどく辛そうな顔で俺を見たリンは、何も言わず反転しボスに向かって行った。そう、それでいい。
他のメンバーも、――あぁ、6人ちゃんと生き残ってる。これなら、倒せるだろう。今残っているのは、契約探索者の中で上澄みも上澄みだ。契約探索者になんかならなくても、富も名声も稼げたような奴らだ。
ばたり、と背中から倒れる。身体はどこも痛くない。――けれど、分かる。もう、長くない。
「悪いな、ここまで付き合わせて」
「……んーん、気にしないで」
すぐ傍に座り込んだクレイを下から見上げると、前髪で隠れていた瞳がよく見える。
青緑色の綺麗な瞳は、俺をじっと見下ろしていた。ひどく、穏やかな顔で。
「あー……、次に来る奴にさ」
震える手で、カードホルダーを外そうとしたが――
そんな力は、残っていなかった。
俺の手を、クレイはぎゅっと握る。
「一人じゃさみしーでしょ。最期まで、一緒にいたげる」
「…………そっか」
目を瞑る。
もう、音も聞こえない。
――あぁ、楽しかったなぁ。
俺が集めていたのは、なんの効果もないフレーバーカードじゃなかったんだ。宇宙戦艦だぜ。男子はみんな好きに決まってんだろ。
二度目の死は、思ったより怖くなかった。
だって、一人じゃないから。
(……ヤマト)
あいつは、どんな気持ちで俺たちを守ったのだろう。
そして、どんな想いで、このスキルを俺に託そうと思ったのか。
(『勇者』……最期にようやく使えたよ)
もう、次の誰かには託せない。どうやって他人にスキルを渡すのかなんて、俺には分からないから。
ゆっくりと、目を閉じる。
暗い。――けれど、暖かい。
その日、林原海里は人生二度目の死を迎えた。
ボスとの戦闘中突如乱入してきて、塵になって消えるところを見たという目撃証言はあったが、数時間前まで中層に居たはずの彼がどうやって最下層まで辿り着いたのか、一緒に消えた謎の黒ギャルメイドの正体も不明で、討伐報告書には、攻略参加者や被害者として彼の名前が書かれることはなかった。
緊急回線のログから、林原海里に独断で救援を要請したことが判明した猫屋敷みやは黙秘を貫いており、攻略に混乱を招いたとして1年間、2階級の降格処分が決定された。
攻略参加者すべての等級を1階級昇格、主力となった廣重麟および小木野武の等級をB3からA2に2階級昇格、不運にも命を落とした者の遺族には弔慰金が支払われた。
また、最後まで戦い続けた6名には討伐報奨金が支払われることとなったが、全員が受け取りを拒否した。支払われるべき人間が他に居るという彼らの主張により、一旦プール金として荻窪支部が預かることとなった。




