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「てかごしゅ、さっきから聞きたかったんだけどさ」
最下層のデフォルトモンスター――盾タイプの『フォルミナス・キャリバー』に剣タイプの『フォルミナス・ソードマン』を薙ぎ払いながら、上層よりもずっと暗い道を進んでいると、クレイがこちらに視線だけを向けて聞いてくる。
「ずーっとレベルアップ! レベルアップ! って聞こえてるこれ、止めらんない? ミュートボタンどこ?」
「普通にレベルアップしてんのかよ!!!!!!!!」
ききーっ。思わず急ブレーキ。
いや、そういえばライセンスとか持ってなくてもダンジョンの中でモンスター倒せば経験値は貯まるけどさ! 俺もうそれ15年以上聞いてないから完全に存在忘れてたよね! 人間じゃなくてもカウントされんのかよ!!
「ライセンスも端末もなんもないから、えーっと……『抽出』って言えばステータスが表示されるはずだ」
「ほいほい、『抽出』ぉー。んー? なんか色々出んね? ゲームみてー」
「ステータスの横に+マーク付いてるだろ? そこを指で触れば操作出来んだけど、-するのはアイテムが必要だから慎重に――」
「んじゃ全部力でいいや」
「慎重にっつったろぉおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!?!?」
「叫びすぎウケる。あ、全部振り終わったんだけど次は?」
「即断即決! 良い心がけですねぇ!! こういう状況じゃなきゃなあ!!!!!!」
だってステータス再振りアイテムってかなり希少なんだよ!? レベル上限解放よりドロップ率はずっと低い。上限解放と違って使わない人も居るから売る人も居るけど、ステータス一つあたり1000万くらいする。俺も使ったことないくらいだ。
それに何より、ファーストランクがレベル50でカンストということは、ステータスポイントが入るのは1から50の間だけ。そこからは上限解放をしたところで大量に獲得する手段はないので、50以降はステータス増強スキルを駆使してステータスを確保することになるのだ。
序盤のステータスの振り方は今後の探索者人生に関わる、本当に重要な選択である。そ、それを――
「お、なんか力湧いてきたかも?」
「そりゃポイント全部力に振ればそうだろうねぇ!?」
「ちょ、ここ入ってい? 慣らし運転的な」
「見るからに巣っ!!」
俺の了承を得ずに脇道に逸れたクレイは、上層にあるフォルミナスの巣と同じ構造の部屋に突入するので慌てて着いていく。
体育館よりちょっと狭いくらいの広間で、上層よりずっと広く、全方位に無数の穴が空いている。どう見ても巣だね。え、キャリバーの? 1匹あたりレベル50はあるんだよ? 俺、レベル50だよ? 何百体も湧くんだよ? ……マジで?
「く、クレイっ! レベルは!? さっきのとこの左上に書いてあったんだけど!」
「えーと、37?」
「普通は即死っ! ヤバかったらアレ撃つからな!? 761番撃っちゃうからな!?」
「うぃうぃー。んじゃま、ごしゅは安全なとこで見といてちょ」
「一番安全なのはクレイの近くなんだよなぁ!!」
「おー? んじゃくっついちゃう?」
「無茶言うな!」
クレイは「ウケんだけど」と笑いながら、モップを構える。
広間はその構造上、通路に繋がる入り口を含めた全方位に穴がある。この構造だと湧いた後に通路から遠距離攻撃すれば安全じゃん? と思うかもしれないが、それすると前方からは物量攻撃、後方からも定期的な不意打ちを食らってしまうので、少なくともソロじゃ厳しい。
ソロで最高率を出そうとするなら、ただ立ってるだけで敵から近づいてくる習性を活かして俺のように中央に陣取って全方位攻撃で戦うか、リンのように好きなように動きまわりながら1匹ずつ葬るかの2パターンになる。
ともかく、巻き込まれない程度にクレイから離れる。巣の中に入ってしまえば、もう安全な場所なんてないのだ。
「『射法・偽・格納庫218』」
ハーロット・セブンの格納庫に繋がるようになった射撃魔法を準備、無数に湧いたキャリバーがクレイに殺到すると――
「嘘やん」
軽く振るわれたモップが、キャリバーの頭部を一撃で欠損させた。
先程までのように、吹っ飛ばしたのではない。ただ振るわれたモップの先端に当たっただけで、空間ごと削り取ったように抉られたのだ。
2匹目、3匹目――、クレイに近づくキャリバーは、どれもがモップに触れただけで削られていく。それまでは吹っ飛ばしていたのに、吹き飛ぶ様子もない。むしろ直撃した部位が千切れて吹っ飛んでいるようだ。
削れたのが末端部位であるなら即死はしないようだが、モップの範囲内に居る限り、すぐに頭部や腹部――重要器官を欠損し葬られていく。まるで上層で通常個体と戦っている時のような余裕さ。
「ステータスは身体能力に乗算……そっかぁー……」
レベル50を超えるキャリバーの突進を、レベル1にしてフルスイングで壁まで吹っ飛ばせるクレイの膂力。レベル37分の力振りによって強化された結果、キャリバーのキャパを超えたのだ。
恐らく今のクレイの単純な攻撃力は、攻撃に特化したリンを上回っている。きっとただモップを振るうだけで、女王蟻――フォルミナス・レジーナクラスの装甲だろうと削ることが出来るかもしれない。
もうちょっとまともな武器を持てばどうなるんだろう。それともダンジョンでドロップする最高級品より、あのモップの攻撃力が高いのだろうか。
「おかしいってぇ……」
宇宙戦艦と地球の技術レベルの差は、理解しているつもりだった。
――でも、違うのだ。
ベースが人間である以上限界のある俺達と違って、ナノマテリアルによって肉体を形成しているプログラムであるクレイに、恐らく人体の肉体構造における限界など存在しない。このまま成長していけば、一体どれほどの強さになることやら。
これでクレイは戦闘用でなくただの案内プログラムというのだから、戦闘用のプログラムが存在したらと思うと恐ろしい。
「あ、ごしゅそっち」
「分かってるよ。――『発射』」
灰色の弾丸を射出。軌道を終点までコントロールできる『射法』・偽』の特性を活かし、自分を中心に竜巻のように高速回転させる。
普段であればこんな軌道は勢いが乗らないし、何よりどこで耐久限界を迎えて破砕するか分からないので使えないが、貫通力の高い質量弾であれば別だ。
地より少し高い位置で、自分を中心に3mほどの範囲を回し続ける。近づいてきたキャリバーの頭部を、腹部を破壊し続け、まだ止まらない。まだ、まだ、まだ止まらない。
――湧き1回分、およそ300体。
動くものがいなくなるまで止まらなかった弾丸は、俺が意識を切らしたことでゴトリ、と地に落ちた。
「いや燃費良すぎだろ……」
『重複』すら使ってない、通常攻撃だ。『射法』・偽』は自由に動かせるとはいえ銀球自体に耐久限界があったので、今と同じように使っても数匹しか倒せなかったはず。
――だが、なんだこれは。威力はキャリバーを一撃で倒せるほど高く、どれだけぶつかっても壊れないほど固い。いくらなんでも、『射法』との相性が良すぎる。
「うっし、出るべー」
「慣らし運転はもう大丈夫なのか?」
「いーかんじー。んー、でも、制御利くようになるまではちょいかかると思うから、巻き込まれないようにしてくれると嬉しいかなぁ」
「……了解だ」
キャリバーを削り取るほどの威力のモップだ。もし掠りでもしたら、俺の命を容易く奪ってしまうことだろう。
……なんか急に怖く見えてきた。メイドさんが持ってるモップが怖くなることあるんだ。
ステータスを振っただけでこれなのだから、もしスキルを取ってしまえば――
ぶんぶんと、首を振る。気にはなるが、今検証している余裕はない。スキルカードだってドロップしているだろうが、一旦考えるのはやめておこう。
そのまま、通路を進む。時折方向指示をしながら先を進んでいるであろう面子を追いかけていると、ふと、クレイが立ち止まった。
「ごしゅ、そなへん、さっきまで人居たかも?」
「……安全地帯かな」
クレイが指差した場所は、ここから見たらただの袋小路にしか見えない。足跡とか残ってるわけでもないし、使ったものが残っているわけではないが、どうして分かったのだろう。
すんすんと、クレイが鼻を鳴らす。俺も真似してすんすんしてみたけど、駄目だ、なんも分からん。土の臭いがするな。
「半日くらい前かなぁ」
「ってーと、攻略パーティの可能性も高いか」
「かも?」
「んで、何で分かるんだ?」
「なんか焦げ臭いんだよねここ、分かんない?」
「分かんねえ……」
え、全然分からん。っていうか半日も前の臭いなんて残るんだ。確かに空気の通りが悪そうな袋小路だけど、え、ここで火起こしたってこと? 普通に一酸化炭素とか……危なそうだ……。
なんて無駄な心配をしてしまうが、ここまで降りてこられるような奴らがそんなこと分かってないはずもない。よく分からんがたぶん大丈夫なのだろう。




