20
「やべーなこれ」
この世界にダンジョンが現れて、10年以上が経った。
いくつかものダンジョンで確認されている迷宮災禍という現象は、富を生むと考えられていたダンジョンが、世界に牙を向く現象だ。
俺達――『荻寺高校探索部』の6人は、高校近くにある荻窪ダンジョンを拠点に活動している。
寝る間も惜しんで探索をする馬鹿ばかりの集まりだから、高3の時点で全員レベルはファーストランクのカンスト。『上限解放』を優先しているタンクのヤマト――東谷大和なんかは、一人だけ68レベルだ。
ここ最近、荻窪ダンジョンの様子がおかしい。それは、中層から下層で狩りをしている俺達はとうに気付いていた。
だが、異変はそれだけで収まらなかった。先日ネットにアップされた動画は、『フォルミナス』が街路樹に登っていたり、早朝の商店街を闊歩する様子。
まだ怪我人は出ていないが、偶然だろう。フォルミナスは1階に出てくるような最低レベルでも一般人くらいなら余裕で殺せる、れっきとしたモンスターだから。
どうやってモンスターが地上に出てきたのかすら分からない。だがそれがフェイク動画ではないことは、日々増えていく目撃証言によって分かってきた。
ここまでダンジョンに異変が起きた場合、ダンジョンを攻略して初期化するしかないらしい。まだ日本で攻略されたことのあるダンジョンは少ないが、海外ではそれなりに攻略されているため、その法則が知られている。
「それは分かるけどさぁ、俺達には無理だろ。まだヤマト以外ファーストだぜ?」
「いーや、出来るね」
「なんの根拠があんだよ」
「神林の『霧の帳』がフォルミナス系に通じることは分かってる。俺達なら、たぶん最下層までは安全に降りれる」
「降りて、どうすんだよ。ボス倒すってか?」
俺が吐いた言葉に、回復職、神林が「行けないことはない……とは思うけど……」と小さな声を漏らす。
「倒すんだよ、俺達が」
「無理だ」
「なんでだ!? 出来るだろ! 俺達なら――」
「無謀ね。下層でまともに戦ったこともないアタシ達が、急にボス戦? ヤマトが真っ先にやられて終わりでしょ」
「やられねえ」
「何の根拠があるの?」
「俺は、……勇者なんだよッ!!!!」
ヤマトは、そう叫ぶ。
先程否定したパーティの紅一点――赤野まで、言葉を詰まらせる。
「こんな状況で、勇者が、勇者が逃げちゃ、ダメだろ……!!!!」
ヤマトの持つスキル、それはレアリティ9――『勇者』。
取引ログのない、世界中で見ても一度もドロップ報告のない、ユニークスキル。
これがあるから、俺たちはここまで来れた。
ヤマトが引っ張っていくから、俺たちは命を落とさず突き進めた。
勇者パーティの一員になることで、決して仲良くなれるはずのない、性格の違いすぎる俺たちは結束出来た。
そんなヤマトには、小さい妹が居る。
ダンジョンのすぐ傍に住んでいるヤマトにとって、迷宮災禍――地上にモンスターが湧くという現状は、耐えがたい恐怖なのだ。
だから、攻略する。
家族を、街の皆を守るために、ヤマトはそう決意をした。
「……ま、出来るとこまでやってやるか」
そう漏らしたのは、いつもは否定から入る攻撃手の久米で。
「ま、まぁ、回復なら任せてよ! ……他は何もしないよ?」
気弱な回復職の、神林で。
「ヤマトが無理だと思ったら、どんな状況でも撤退。それでいいなら」
パーティ内最高火力、フォルミナスと相性の良い火炎魔法を使う、魔法使いの赤野で。
「……タンクはお前だけなんだから、即死だけはするな」
寡黙な仕事人、弓使いの寺内で。
「ヤマトがやるってんなら、付き合うけどさ」
渋々声を漏らす、ヤマトの幼馴染――俺、林原海里。
そして俺たちは、ダンジョンを攻略した。
一人の犠牲者を出して。
そのほとんどをファーストランクだけで挑む無謀なダンジョン攻略で、たった一人の犠牲で済む例は、世界的に見ても稀であろう。
――それが、誰であったかに関わらず。




