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「だいぶキツいみたいな顔してんのバレんのよ……」
「……いや、生で見るとキツいな。鏡見たことあるか?」
「毎日100回は見てるわよ美少女でしょうが!!!!」
「自分を美少女って言う30代女性、素直にキツいよ……」
「30代言うなぁーっ!!!!」
机をべしーんと叩かれる。動作もなんか、オバサン臭いよ!
実際そうなんだけど、これはマジでキツい。これ、少なくとも1000歳は超えてる(スリープしてたらしいが)クレイが言ってもそう思えないだろうけど、30代ってのがまた生々しいんだよ。せめて20代であってくれよ。
「んーで、この情報で足りた?」
「あ、うん。助かる。あとはこっちで調べるわ」
「お礼」
「……金で良いか」
「じゃなくて。情報。その子、誰?」
「宇宙戦艦ハーロット・セブンの商業モジュール案内プログラム」
「そういうんじゃなくて…………、…………あ、や、マジなやつ?」
「残念ながらマジなんだよそれが」
正直に伝えると、猫屋敷は頭を抱えて「ぬぁー……」と唸り声を漏らす。まぁ唸りたくなる気持ちも分かるよ。俺も友人にこれ言われて信じる自信はない。
猫屋敷とは付き合い長いし軽率に漏らしたりはしないだろうから普通に話してるけど、他の奴らは信じてくれないだろうなぁ。
リンはどうだろ。見たものしか信じないタイプだけど、テレポート見たところで「凄いな、どうやったんだ?」みたいな質問されそう。いや絶対される。真っ先に戦闘に応用出来るか考えると思う。
「プログラム……、ってことは人じゃないのよね」
「じゃないな」
「触れる? ……っていや、さっき普通に触ったわ」
そういえばそうだったな。お前ら初対面からハイタッチ決めてたな。
「あの、クレイさん? 一個いい?」
「おけおけ」
「海里くんのこと、どう思ってるの?」
「ごしゅ」
「……そういうことね」
そういうことね!? あれ、ごしゅって一般名詞だったの!? 普通に通じちゃったよ!?
「一応、伝えておくんだけど」
「忠告的な?」
「そう。……廣重麟って女の子が居てね」
「うんうん」
「海里くんのガチオタだから気を付けて。あの子の前でべたべたしてたら、最悪刺されると思う」
「えマジ? 過激すぎん?」
「そのくらいはする子だから、仲良くなるか会わないようにするか、どっちか決めておいた方が良いわよ」
「りょっ、ご忠告感謝致す、にゃー!」
取ってつけたような語尾までマスターしてんのかよ。順応性高すぎだろ。猫屋敷もちょっとビビってんじゃん。
「ごしゅ、ヒロカサちゃん? に何したん?」
「なんもしてねえんだよなぁ、それが…………」
「天然ジゴロ的な?」
「に、見える?」
「見えねー」
お前ら二人して笑うんじゃねえよ。俺も何でリンが懐いてんのか知らねえんだよ。
可能性あるとしたら、リンがADFに契約したばっかの時かな。荻窪ダンジョンでB3等級なのは俺一人だったから一度だけ狩りの手本見せたことあるんだよね。
マジでそんくらいだ。歳離れすぎて何もかもがセクハラになりそうだったからすぐに切り上げたしな。
そんで、気付いたらあの態度だ。最近の若い子はオッサンにもぐいぐい来るなーと思ってたけど、聞いた感じ、リンって他のオッサンにはあんな態度取らないんだよね。
なんなんだよ。怖いよ10代。一回り以上離れてるとなんも分かんねえんだよ。俺はどうすれば良いんだよ。
「わたし的にも全然分かんないんだよねー。海里くんって顔がカッコいいわけでもないし性格良いわけでもないし貯金あるわけでもないし強いわけでもないし」
「友人のことボロクソに言いすぎじゃね?」
「そりゃB3等級は憧れる人も、まぁ居ないわけでもない。けどぶっちゃけ蟻塚限定じゃん? 他のダンジョンだと海里くん、B1が良いとこでしょ」
「だなぁ……」
契約当初は荻窪ダンジョン以外も行ったんだけどさ、流石にあの効率は出せないんだよな。
『射法』に分割スキルの『九重奏』を組み合わせたところで、フォルミナスのように秒間数十体出てこないと分割した球が無駄になる。だからといって動きが不規則なモンスターだと上手く狙えないし、湧く範囲が広いパーティ狩り前提のダンジョンも厳しい。
俺が本領を発揮出来るのは、猫屋敷の言う通り荻窪ダンジョンの上層だけなのだ。
「実はごしゅが昔助けた女の子……とか?」
「……いや、それはないだろ。つってもリン、テレビに出る前何してたかよく知らないんだよな。猫屋敷は知ってるか?」
「中高では剣道やってたって聞いたにゃー」
「え、そうなのか。全国大会とか出てたのかな」
「あー、それはどうかにゃー? 出てたんならテレビでもそういうとこの動画上げられると思うけど、見た記憶ないにゃー」
「……言われてみるとないな」
ってことは普通にやってただけか? いや、今、剣どころか二槍流なんだよな。もう剣道要素ゼロじゃん! あれ、でも剣道って二刀流アリって聞いたことあるな。
1本と2本なら2本のが強そうって思えちゃうけど、剣道してる人が竹刀を2本持ってるイメージは全然ない。たぶん別に強くないんだろう。強かったら皆二刀流になるはずだし。
流石に今検索してみても、ダンジョン攻略してから有名になった廣重麟のネームバリューが強すぎて過去を遡ることなんて出来ない。
というかネットで検索した程度で出てくる情報ならWikipediaとかにも書かれてそうだしな。ってことは別にネットに名前が出てくるほど強い選手ではなかったということだろう。
そんな雑談をしていると、ばたばたと、談話室の外が急に騒がしくなる。「大丈夫か!?」なんて言われてるので、怪我人でも出たのだろうか。
といっても、この支部を拠点にしてる探索者はみんな荻窪ダンジョン上層を狩場にしてるはずだから、そんな怪我をすることもないはずだが――
猫屋敷が扉を開けて様子を伺う。
「あー、また帰還者出たっぽいにゃー」
「機関車?」
「ここでボケんな」
「すまん」
「攻略行った面子。ちょいちょい帰ってきてんの」
「……え、マジで!?」
初耳だ。まぁありえない話ではない。
普通ならば怪我しないような状況でも、ダンジョン全体に異変が起きている現状では別の話。上層で不意にアサシネイトが出たら、俺でも死ぬくらいだ。あ、俺は不意打ちじゃなくて死ぬだろって言われたら、まぁそれはそう。
途中でメンバーが脱落していくのも考慮して、大人数で行ってるはずだ。普通のパーティは経験値が配分される上限である6人までで組むが、あの場で名前を呼ばれたのは20人くらい居たはず。
「あ、そっか海里くん納品の時くらいしか支部来ないから知らないか。結構騒ぎになってんのよ」
「全然……。え、何人くらい帰ってきてんだ?」
「昨日は4人って聞いたから、今ので5人目?」
「……まだ最下層に辿り着いたわけじゃないんだよな?」
「んだねー。下層がかなり酷いことになってるみたい。海里くん、ゴールドラッシュには中層で会ったんだっけ、そのへんはどうだったの?」
「……ゴールドラッシュもそうだけど、いきなりキャリバー湧いてきて撤退した」
「え、20層とかそんなでしょ? そんなとこでキャリバー? 死なん?」
「湧いたんだよなぁ……、しかも群れで」
「……適正レベルの子居たらヤバくない?」
「ヤバいと思う」
フォルミナス系はそこまで足が速いわけではないので即逃げる判断が出来れば死ぬことはないはずだが、ファーストランクなりたてくらいの若い探索者だとその判断が出来るかは微妙なところだ。
「……荻窪入ってる子でうちの情報見てない子いないだろうから、一応注意喚起しとく。ただ海里くんの方でも危なそうな子見かけたら止めてあげて」
「あぁ。……今のペースだと攻略までどのくらいかかりそうなんだ?」
「物資は2週間分持ってくって言ってたけど、どーだろ? リンちゃんだけならともかく小木野さん居るし、無理っぽかったら流石に撤退すると思う……けど」
「けど?」
「たぶん、どんどん悪化するのよね」
「…………」
まぁ、それはそうだろう。
契約探索者が日課の魔石狩りをしている上層にも影響が出ているというのだから、下層は日が経つにつれてどんどん酷くなっていくことが予想される。
本格的に迷宮災禍が起きてしまえば、ADFの内々で処理することなど出来なくなる。高レベルパーティを招聘するか、それとも――
「海里くん」
「……なんだ」
「もう一度、攻略する気はない?」
「…………」
猫屋敷が、俺をじっと見る。
――こいつは、知っているんだ。俺の、過去を。
「……無理だ」
「どうして?」
「現役で探索してんのは俺だけだし、何より一番重要な奴が足りねえ」
「……タンク?」
「あぁ」
そう、俺がずっと前に組んでいたパーティは、解散した。
飄々とした態度で、いつも文句ばかり言う、けれど責任感だけは人一倍あった、あの男。
東谷大和。
俺の幼馴染で、高校まで一緒で。
そして、ボスとの死闘で、パーティメンバー全員を庇って命を落とした。
15年前。初めて荻窪ダンジョンを攻略したパーティ。
『荻寺工業高校探索部』の名を知る者は、ほとんど居ない。




