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俺と現代ダンジョンと金髪メカクレ黒ギャルメイドと宇宙戦艦ハーロット・セブン  作者: 衣太
俺と現代ダンジョンと金髪メカクレ黒ギャルメイド
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「お、おー……?」


 ADF支部の外に設置された灰皿の前で煙草を吸っていたのは、見慣れた探索者兼配信者――猫屋敷だ。

 こいつ外見完全に子供なのにヘビースモーカーだから、荻窪を拠点に活動始めたばっかの契約探索者が、喫煙所に猫屋敷居るとこ見かけてビビってるのを毎年見る。俺は流石にもう慣れたが。

 猫屋敷は俺に気付き手を掲げ、腕を組んで歩く金髪メカクレ黒ギャルメイドを見てフリーズした。仕方ねえよ。


「え何あれ、ごしゅの彼女?」

「ちげえよ同僚だよ。彼女とか居ねえよ」

「お、おー、ジャパニーズおっけー?」

「おっけーおっけーべりーおっけー」

「うわぁめっちゃネイティブジャパニーズだにゃー……」


 感動のあまり煙草をポトリと落とした猫屋敷が、クレイをじっと見る。残念ながらそいつはネイティブジャパニーズじゃなくてネイティブエイリアンだ。


「……そういう店? 店外デートかにゃー?」

「ちげーよ! どうしてそう――」


 ちらり、とクレイの方を見る。


「すまん、見えるわ……」


 頭抱えるわこれ。金髪メカクレ黒ギャルメイドを連れて歩いてる奴見かけたら、彼女か疑う前にちょっと引くわ。

 

「あ、良かったわたしの目が節穴じゃなくて……。猫屋敷みやだにゃっ! よろしくだにゃー!」

「よろしくだにゃー、クレイだにゃー」


 いえーい、と浅く指を握った猫の手ポーズで手を合わせる二人。なんかこうしてみると結構相性悪くなさそうだな。逆にリンとクレイは言葉が通じるかも怪しい。


「んで、何? 彼女見せびらかしに来た系かにゃ?」

「いや全然そういうのじゃないけど、ついでに猫屋敷にも見てもらいたいもんがあるんだよ」

「ん? ここでして良い話?」


 猫屋敷は首をくるり、と回す。

 荻窪にあるADF支部は、常に人の出入りはあるし人通りもそれなりにある。別に人に聞かれて困る話でもないが、さっきから通行人がめっちゃクレイのこと凝視してるから中入るか。


「いや、中で。空いてるとこありゃどこでもいいよ」

「うぃー」


 落ちた煙草を拾って灰皿に放り込んだ猫屋敷が、支部に入る。猫屋敷は完全夜型の生活なので、たぶんさっき起きてここに来たのだろう。

 時刻は17時過ぎ。こっから配信したり探索したりして朝帰りが猫屋敷のいつもの行動パターンである。

 談話室はどこも使われていなかったので、手前の部屋のドアに使用中の札を掛け中に入った。


「んーで、わたしになんの用かにゃー」

「率直に聞くけど、これ知らね?」

「…………何これ?」


 机に置いたのは、先程フォルミナス・ゴールドラッシュからドロップした無地のスキルカード。

 猫屋敷は首を傾げ、手に取って後ろをくるりと回して「んんんー?」と唸る。


エラーカード(エラッタ)?」

「っぽいよな。でもこんなの見たことなくて」

「これガチでダンジョンで落ちたやつ?」

「ガチでダンジョンで落ちたやつ、だ」


 そもそもクレイは一度もダンジョンの外に出てなかったから、外で偽造カードが紛れる可能性はゼロだ。なんなら俺一人の時に拾ったらエラーカード(エラッタ)と勘違いして捨てた可能性まである。


「んー……ちょっと配信繋ぐにゃー」


 バッグから取り出したノートパソコンを開き、ごく自然に配信を始める猫屋敷。

 あまりに急すぎてリアクションに困ったが、クレイの肩を叩き「しー」と指を立てると、どうやら伝わったようでコクリと頷かれる。宇宙でも配信とかあんのかな。


「猫屋敷だにゃっ! ちょっと急でごめんなだにゃー。友達に見せてもらったんだけど、これ知ってる人いるー?」


 リスナーの反応を見ようにも、立てられたパソコンの向こう側に行くとカメラに俺が映ってしまう。

 こっちにするか、と自分のスマホで猫屋敷の生配信を開き、チャット欄を追うと、クレイが俺の肩に顔をくっつけて画面を見る。近いよ。パーソナルスペースゼロ? 好きになっちゃうからやめてくれ。


「人来るまでしばらく繋いだまんまにするから、好きに話しててくれにゃー」


 そう言うと、猫屋敷がスマホを取り出した。自分でも調べるつもりなのだろう。

 というか調べたい時に即配信するのってこれ、フットワークすげえなあ。まず自分で調べてから分かんなかったら人に聞くんじゃないんだ。初手で人に聞くが入るんだ。

 ジェネレーションギャップ――と言いたいところだがそれはない。無地のカードを検索する難易度を思えば、そちらの方が効率がいいと判断したのだ。


『ドロップ場所と敵情報頂戴』


 猫屋敷からのメッセージだ。


『荻窪。20から23のどっか。敵はたぶんゴールドラッシュ』

「うぇマジ?」


 普通に声出たな。でもまぁ猫屋敷のリスナーは猫屋敷がキャラ被ってるとこだけじゃなくて素に戻るとこも楽しんでるっぽいから別に良いか。ガバガバな猫キャラは割と評判がいいらしい。


『ゴールドラッシュ? 倒したんだ?』

『たぶんな。ステルスだったっぽい』

『あーそんでそのメイドさんが倒したんだ』

『そゆこと。だから連れてきてんの』

『なるー』


 配信コメントはどんどん増えていく。猫屋敷はダンジョン系配信者としてそこまで有名というわけではない(そもそもダンジョン配信者なのにダンジョン内を配信しないからだ)が、それなりにファンは多い。やっぱ顔だと思う。

 猫屋敷に言われた通りリスナーが好き勝手喋る中、ふと【ケヴィン・アーサーの配信で見た】というコメントが流れ、猫屋敷が「んにゃ?」と首を傾げる。


「ケヴィンって、アメリカの?」

【そうそう、ロスRTAのケヴィン。結構昔だな、生配信で同じカード見たことある】

「りょりょー、えーっと英語にしなきゃだよにゃー、英語苦手だにゃー……」


 おい青学って突っ込みそうになったけど、「ふにゃっ!?」、猫屋敷が急にビクン、と身体を震わせる。


「な、なんかスマホ変!? 何っ!?」


 猫屋敷が慌てた様子で、スマホ画面をこちらに向けてくる。猫屋敷を見れないリスナーたちは【?】【なんかあった?】と疑問を漏らしている。

 するとクレイが、無言で自分を指差した。あ、なるほどね。


『英語苦手って言ったらから代わりに打ってくれたんじゃねえかなぁ』

『待ってナチュラルにハッキングされたってこと?』

『かなぁ……』


 たぶん親切心だよな。それしてる本人ケロッとしてるし。まぁ文明が何千年どころか何万年か進んでそうな宇宙戦艦のプログラムだもんなぁ。スマホのハッキングくらい出来るよな。

 それにたぶん、悪気は全くない。困ってるから助けてあげただけ、という顔だ。


「こ、こほん。えーと、あー、カードの情報は出にゃいけど、4年前から急にスコア上がったって言われてるんだにゃー。なんかユニークスキル取ったんじゃ? って言われてるけど本人が否定してる感じ?」

【そうそう。俺ロスRTA好きだから昔っから見てんだけど、ケヴィンってそれまでランキング100位くらいの無名だったんだよ。それが配信中に無地のカード拾って、1年くらいしてからかな? 急に1位まで駆け上がったの覚えてる】

「ほぇー。ロスRTAってアレだよにゃー、なんかめっちゃ浅いダンジョンの」

【そうそう】

【日本にはないよなーロスみたいの】

【一番浅いので八戸で8層だっけ? つっても場所が辺鄙すぎてRTAやってる人居ないよな】


 そういえば昔聞いたことあるな、と自分も『ロスRTA』と検索してみる。

 ロス――アメリカのロサンゼルスにあるダンジョンは、なんと3層しかないらしい。それも広くて浅いタイプではなく、狭く浅いタイプの非常に小さいダンジョンだ。

 入ってから最深部のボスを倒すのに最速だと1時間もかからないようで、いつしかアメリカの探索者の間で『ロスRTA』という、どれだけの速度でダンジョンを攻略出来るかを競うようになったという文化があるとか。

 いくつかルール(レギュレーション)があり、配信で名前が出たケヴィン・アーサーはファーストランク・武器スキルなんでもありのAny%という部門でここ3年ほど1位を独走しているようだ。


「んー……駄目だにゃー、昔のログなんて残ってない……」

【でもすまん、そっから話題になってないなら特にスコアとは関係ないのかも。見たのだけは間違いない、それだけは間違いないから!!】

「ややや、ありがとうだにゃー。情報ゼロとは比べ物にならんからにゃっ! 猫光線あげちゃうにゃ! にゃーっ!!!!」


 やべえ、同年代の女がスマホに向かってにゃーにゃー言ってんの見るの、だいぶキツい。配信を見るのとはまた違ったキツさがあるな。


「んじゃ、一旦配信切るにゃ! またなんかあったらリプとかコメくれると嬉しいにゃー、またにゃー!」


 ばいばーいと手を振ってる猫屋敷を配信越しに見て、クレイも手を振る。うわ、こっちは可愛い。なんでだ? 猫屋敷はだいぶキツいのに。

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