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ばっしーん。
人ほどのサイズの蟻――『フォルミナス・ソルダ』をモップで打ち払うと、蟻はきりもみ回転をしながら吹っ飛び、壁にぶつかると同時に塵へと変わる。
ソルダの死体が消えたところから1枚のカードが現れた。
そちらに向かい手に取ると、――「うおマジか!?」
そこにあったのは、『ハーロット・セブン』。
自力でドロップするのは半年に一度程度しかないのに、たった数体でドロップしてしまった。どんだけ運良いんだよこいつ。
俺なんて毎日5桁狩ってて1枚に半年かかんだぞ。まぁソルダより低ランクの『フォルミナス』しか狩ってないから、というのもあるだろうが。
なお今回のドロップは居住モジュールのため、まだ足りない。カードホルダーにしまっていると、次なるソルダをクレイが打ち払った。
――モップで。
そう、モップだ。第七種装備という仰々しい武器の正体は、モップだった。そりゃ文句も言うよ。
黒ギャルメイドがモップを振り回し巨大蟻を吹っ飛ばす姿を見るのは中々どうして面白いが、それはそうとして緊張感はゼロである。
現在地は荻窪ダンジョン中層――今のスキル構成だと苦戦するはずのエリアなのに、俺が攻撃する暇すらない。
だって、一撃なのだ。
1.5mくらい――ほぼ身長と同じくらいの柄がついたモップを、まるで槍のように振るうクレイは、向かってくる蟻を物ともせず進軍する。
「いやつえーわ……、案内プログラムって皆そんな強いもんなのか?」
「うんにゃ、最低でも盗人とか暴れる臣民を素手で拘束出来るくらいの性能はないとだかんねー」
「お、おうそうか……」
あの時俺、拘束されるとこだったってこと? 最悪のファーストコンタクトすぎるだろ。
「んでも、さっきハーロットが格闘術のデータ入れてくんなかったらここまでじゃなかったよ?」
「……いつそんなことしたんだ? 即こっち来たよな?」
「ふつーに話しながらデータ流し込まれてたよ。てかあーしら、口で話してるのはごしゅに分かるようにしてるだけで、普段の会話って口使わんし」
「…………あれか、テレパシー……的な?」
「んじゃなくて、ふつーにアナログな信号通信。電波をぱしぱしーって送り合ってるだけだから、ネット環境ない今の状況だと対面しないと無理なんだけどねー」
「そ、そうだったのか……」
なんかやけに二人の物分かりが良いと思ったら、俺の知らないとこで普通に話してたってことね。ちょっと寂しいぜ。でもきっと、そう思われるから口にも出してくれてるんだろうな。
「ここのダンジョン、詳しいのか? なんか迷いなく歩いてるけど」
「や、なんも? モンスター来る方向に向かってるだけだけど」
「自分たちの船繋がってるのに、分かんないもんなのか」
「まーねー、次元断層ってセルワイトフロイド値で決まるから、ハーロット・セブンが干渉出来んのは極一部なわけ。んーと、ごしゅにも分かるように伝えるとー、死ぬほど穴掘っても目的の化石が発掘出来るとは限んないでしょ? 今はぐーぜん一致してる次元断層と繋がってるだけだから、掘ってないとこはすぐ隣の様子も分かんないんだわ」
「わ、分かるようで分からねえ……」
「これ以上簡単に表現すんのは無理かなぁ」
苦笑返されたけど、ちょいちょい混ざるピー音のせいで集中出来ないんだよ。あとそのピー音って普通に外でも聞こえるのかよ。いきなり聞こえたら皆クソビビりそうだな。
そして、そんな雑談をしながら中層を探索していると――
「クレイ!?」
「んー?」
通路の先――こちらに突っ込んでくる個体を見て、思わず叫んだ。
それまで倒していた『フォルミナス・ソルダ』の上位種――『フォルミナス・キャリバー』。体長2メートルを超える、大型の蟻型モンスターだ。
それが、――10体以上。恐らく巣に繋がっている。
特徴は、騎士の名の通り、盾のようにひどく発達した前腕部。
攻撃手段は噛みつきと尾針だけだが、盾で身体を守るので正面から削るのはかなり厳しい。
通常はこのあたり――中層でも上の方では出てくるはずのない上位種だが、つい先日、上層に出るはずのない異常個体に殺されてしまった身としては、ともかく現実を見ねばならない。
「気を付けろっ! 見ての通り――固いぞ!」
「ほいなー」
気の抜けた声で返事をしたクレイは、野球の打者のようなポーズでモップを構えると、手の届く距離まで近づいたキャリバーに――
――モップを、振るった。
ホームラン狙いかのような、豪快なフォームで。
ばっこーん、と。
一撃で両の盾を破壊されたキャリバーが壁に吹っ飛んでいき、ぐしゃり、と潰れ塵になる。
「え、嘘やん」
普通に倒せるんかーい。キャリバーのレベル、50くらいあるんだけど?
とはいえ、数が多い。これまでの軽い振りでなくフルスイングをしているということは、すぐに次の攻撃に移れないということ。キャリバーの数は多い。吹っ飛ばした個体を別の固体にぶつけ、ピンボールのように吹っ飛ばしていくが、流石にモップが直撃しなかった個体はぴんぴんしている。
次第に通路はキャリバーで覆いつくされていく。まともにモップを構える余裕すらなく、じり貧だ。
「『射法・偽・重複』」
俺のビルドは、あくまで上層で通常個体のフォルミナスと戦い続けるためのものだ。
それでも、時折強化個体が紛れることはあるし、以前リンと対処したような異常個体が湧くことだってあり得ない話ではない。そんな時にも多少は戦えるよう、余っているスキルスロットには強化個体対策のスキルを入れている。
中でも重要なスキルは、『重複』。
魔力を2倍注ぐことで魔法の威力を2倍に出来るという単純なスキルだが、これをスロットの空きに7個詰め込んでいる。つまり俺は、低威力の魔法だろうが14倍の威力まで跳ね上げることが出来るということだ。
――照準。
コスパ度外視で限界まで『重複』を重ね、クレイに当たらないよう洞窟の壁すれすれを通る放物線を描くイメージで、出来るだけ大量のキャリバーを巻き込めるようタイミングを見計らい――、今。
「――『発射』」
射出された銀球は、弧を描くようにしてキャリバーに突き刺さる。クレイに最も近い個体の頭部を砕き、勢いを殺さないまま蛇のように進み、キャリバーを潰し続ける。
7体葬ったところで、叫んだ。
「キリがない! 移動するぞ!」
「りょー」
道が開いた。恐らく通路の先に、巣へ繋がっている横穴があるのだ。一度に襲い掛かる量が少ないから、横穴はそこまで広くない。
とはいえ、仮に上層にある巣と同じ勢いで湧かれたら二人では処理しきれない。
「手が、足りねえ……!」
荻窪ダンジョンは、ソロでなくパーティ推奨のダンジョンである。敵単体の強さは大したことなくても、数が多すぎるからだ。
上層では巣穴を利用して魔石集めを出来ているが、下に降りれば降りるほど個体は強力になっていく。パーティであっても巣で定点狩りをするのは難しくなるほどだ。
階段を駆け下り、中ほどで立ち止まる。どこのダンジョンであっても、上層か下層に繋がる階段にモンスターが現れることはない。
どこのダンジョンにも存在する、安全地帯だ。しばらく待っているとキャリバーの群れも俺たちを見失ったか、足音が遠ざかっていった。




