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「えーと……、一応聞くんだけど、空気を送ることって出来る?」
二人の顔を見たら、答えを聞かないでも分かる。
「不可能です」
「無理くね?」
「だよなぁー……」
何億光年だか離れている宇宙船まで、どうやって大気を送り込むというのだ。――と、考えてしまったのだが――
クレイが「あー、」と声を漏らすので、そちらを見た。
「ごしゅ、なんか勘違いしてね?」
「ん?」
「ハーロットがそんなこと分かってないわけないって。んね?」
「そんなことがどんなことなのか判断出来ません」
「めんどくせっ。いやさ、そのアルゴン? こっち持ってくる手段あるんでしょ?」
クレイの問いに、ハーロットは頷いた。あれ、大気を持ってこれないのにどうやって?
「分類:希ガス 項目:3 気体名:アルゴンを輩出するカードが存在します」
「カード! なるほど……」
「いやごしゅ何だと思ってたん」
「…………」
そりゃそっか。カードってものが存在するんだもんな。
これで仮に「鉄が欲しい!」とか言われたら、鉄塊を手で運ぶのではなく鉄鉱石のカードを使って運ぶことを考えたはずだ。
なのにどうして気体は直接運ぼうと考えたんだよ。馬鹿がよ。やっぱそのへんにあるから無料で運びたくなっちゃったのかな。
「んーと、必要枚数は?」
「太陽系までの次元間航行に要するカードの枚数は、――701万枚と推定」
「わぁ……」
一瞬思考止まっちゃったよ。700枚じゃなくて、700万枚? あー、うん。そりゃ何億光年も離れてる宇宙を航行するんだもんね。ワープするらしいけど、そんなピュンと一瞬で移動出来るわけでもあるまい。
もしそれが出来たんなら、この船は遭難することなく本船に合流したはずだ。なんなら目的地にだってひとっとびだった。――つまり俺の知らない法則により、それが行えない、ということ。
「……おっけ、とりあえずそれはこっちで集めとくんだけど、」
「けど?」
「金が」
「金が」
「足りん……ッ!」
「足りんかぁー」
「足りん。全然な。そのカードがいくらで売られてるのかも知らんし、どのくらい市場にあるかも知らんけど……、悪いけど俺、そんな手持ちないんだよ」
「そっかー」
かなり他人事みたいな顔して笑うじゃんクレイ。これ結構切実なんだよね。
そもそもの話として、俺の収入は月80万。これは契約探索者の中でかなり上澄みだ。1日8時間で3000個の魔石を納品出来る、B3という等級である。
なお日本国内にB3より上の契約探索者は存在しない。それはつまり俺が一番強い――――なんてことではない。
単純に、あの蟻塚――荻窪ダンジョン上層での最高率が8時間3000個というだけである。
規則的に湧きがループしているあの広間で、湧いてから次のグループが湧くまでの5分以内にすべての討伐とドロップ回収を行えれば誰でもB3になれる――が、大抵の契約探索者は俺ほど荻窪ダンジョン上層に特化していない。
リンのように、別に特化しているわけでもない構成で挑んでいる者の方が圧倒的に多いため、B3まで上がっている者が少ないだけだ。
そして俺は、その稼ぎのほとんどを趣味のフレーバーカード集めに使ってる。だって安定した暮らしには熱中出来る趣味が必要じゃん……?
「ごしゅ、金遣い荒い系?」
「……否定するのは微妙に難しいな」
「ふーん? まぁ良いけどさー」
「そ、そうか……」
否定されないのもそれはそれで辛い。
まぁその趣味のお陰でハーロット・セブンに入ることも出来たのでただの浪費ではないと思いたいが、どうだろうな。二人にとっては違うかも。猫屋敷とかにも馬鹿にされるし。女はロマンが分かんねえんだ。
「クレイ」
「はいはーい」
「第七種装備の申請を受諾します。マスターに同行してください」
「かーしこまりー」
「へ?」
「物資がほとんど搬出されたハーロット・セブン艦内で金策をすることは不可能に近いですが、外であれば条件は変わります。次元断層――ダンジョン空間であれば、クレイの存在は許容されると推定されます」
まぁ、服装は問題ないか。猫耳パーカーの猫屋敷が居るくらいだ。メイド服がドロップすることもあると思う。
黒ギャルが探索者をするのはまぁだいぶ珍しそうだが、そっちもありえない話ではない。確かに、そう考えてみるとクレイがダンジョンに居ること自体は気にされなそうだ。ダンジョン外はどうか知らんが。
「……来れんの?」
「ま、余裕じゃね? 知らんけど」
「知らんのか」
「そりゃあねー、あーしなんて生まれた時から宇宙暮らし、陸の大地なんて情報でしか知らんわけよ」
「……そっかぁ」
「そそそ。ま、なるようになるんでね? ねーハーロットぉ」
「なんでしょう」
「七種と言わず、甲種はダメ? ごしゅ守るためにさー」
「地球文明を破壊する可能性があるため、許可出来ません」
「ちぇっ」
「えっ怖い」
地球破壊爆弾とか? まぁ宇宙戦艦だもんなぁ。そんくらいあるか。
「あ、ごしゅ、なんか勘違いしてるっぽいけどそーいうんじゃないからね?」
「そ、そうか」
「甲種装備はいくつか艦内に残されておりますが、文明レベル7の人類からは非人道的装備であると判断される可能性があります」
「た、例えば?」
「ダンジョン丸ごと消し飛ばす爆弾的な?」
「やっぱ地球破壊爆弾じゃん!!!!」
「触れたものを存在ごと消滅させる高周波ブレードとか?」
「物騒だなぁ!? どっちにしろドロップ回収出来ない威力はノーセンキューだ! 稼ぐ場所がなくなるだけっ!!」
「あー……」
「威力はさ、控えめにね? こう……ダンジョンの地形ごと変えるようなのはさ、やめよっか?」
「りょりょー、……めんどいね地球って」
「むしろ宇宙だとそのレベルの火力が必要なのかよ……」
「要るわなー、デフォで」
「デフォで要るんだ……」
怖いよ宇宙戦艦。普段どんなのと戦う想定されてんだよ。惑星サイズの宇宙生物とか? まぁ居るって言われてもそこまで驚けないよなぁ。
「第七種装備であれば、次元断層から算出される装備と然程性能に違いはないと思われます」
「お、おう……、それならまぁ、良いか?」
「むー、でもあれ地味だしさー。外出んならあーしもかっけー武器使いてーんだけどー」
「我慢してください」
「はいはーい。んじゃごしゅ、いってみよー」
もぎゅっ。
俺の腕を抱き抱えたクレイが、顔を肩に顔を擦りつけるようにしてきて――
わぁ、あったかいなぁ人肌って。……人肌か? いや人ではない。ナノマテリアル肌? でも皮膚も肉も骨も、人間のものと変わらないように思える。おっぱいの柔らかさなんて人間超えてるだろ。いやこのサイズの触ったことないから知らねえんだけど。
「ほいじゃま、行きたいとこある? 効率よさげなとことか」
「行きたいとこ……、あ、それなら――」
ならば行先は、一つしかない。
クレイがどこまで戦えるか確認するためにも、俺がよく知っているダンジョンの方が都合がいいだろう。
「――『iubeo』」
して、ダンジョンに降り立った。




