14
「んー……こなへんが……いや……こっちかな……?」
射撃管制モジュールは戦艦らしくハーロット・セブンにいくつもあるようで、これは7番ブロック――左舷後方にあるらしいモジュールらしい。
コンソールに触れて何か作業を始めたクレイを横目に、俺は窓に飛びついていた。
「う、宇宙だ……」
医療モジュールにも通用口モジュールにも商業モジュールにもなかった窓が、ここにはある。
だが、どうだろう。初めて自分が宇宙に居る実感を出来たが、問題は――
「く、暗すぎる……ッ!」
暗いのだ。もう、ビビるほど暗い。
何も見えないほど暗いわけではなく、近く(本当に近いのかデカすぎるから近く見えるだけなのかは分からないが)に星があるのは分かるのだが、昔どこかで見た、宇宙から見た地球のような明るさではない。
というのも、恐らく太陽から離れすぎているからだろう。何億光年だか忘れたけど、光るものがない宇宙空間は暗闇が広がるということか。でも太陽以外にも光る星ってあるんだよな。
「あーね、恒星はいちお、近くにあるにはあるからうっすら発電は出来てんだよね。えーと……太陽光発電が近いかな? 太陽じゃないけど」
「発電出来てるのに電気が足りないのか?」
「まーねー、んだって、宇宙空間に乗組員すら居ない最新戦艦放置されてたらふつーに海賊――宇宙海賊? 的なまぁ、野蛮人に狙われんだわ」
「海賊……居るのかやっぱり……」
「めっちゃ居るよー? それ対策で今ハーロット・セブンってステルスモードになってんだけど、そのステルスモードがこれがまた電力食いまくるわけ。発電してる分の全部を外装の不可視化に回してもちょっと足りないくらいかな?」
「足りないのかよ」
「そ。んだから、今まで無事なのは割と奇跡なんよ。だからまぁごしゅにはこれから――、お?」
「ん?」
クレイが言葉を止める。クレイが操作していたコンソールをちらりと覗くが、そこには言語すら表示されていない。
記号の羅列とかがあるわけでもなく、画面に数千――数万個の小さな光が点滅しているだけだ。文明レベルの違いを感じるなぁ。もうちょっと人に優しいUI設定してくれよ宇宙人さんよ……。
「お待たせしました、ハーロット、起動致しました」
「「おー」」
無音で現れぺこり、こちらに頭を下げたのは、クラシックメイド――メイド1号こと、ハーロットだ。
落ち着くなぁこの感じ。一家に一台欲しい。
「マスター、ご無事で何よりです」
「あ、うん。ハーロットは……、あれ? ネットワーク繋がってないって言ってたけど、俺のこと分かるんだ?」
「いえ、存じ上げません」
「どういうことやねん」
「クレイに入力された情報を元に、自分がしたであろう行動を推測しました。重症を負ったマスターを艦内に強制転送、医療モジュールのナノマシンを利用しマスターを治療したものと推測されます」
「……大正解」
賢すぎるだろこいつ。クレイにも大したこと話してないのになんでここまで分かるんだよ。
俺の周りの女、賢い奴多くねえ? 何も分かんねえから考えるのやめた馬鹿は俺だけかよ……。
「……んでクレイ、俺に何させたいんだ?」
さっきクレイは、何か言いかけていた。本人は「んー?」とすっとぼけるが、しかし代わりにハーロットが口を開く。
「マスターには、ハーロット・セブンを安全な惑星系まで航行して頂きたいと考えております」
「……安全つっても、俺宇宙のこととか何も知らないんだけど」
「太陽系――マスターの属す惑星系であれば、文明レベルは3と推定、宇宙進出はされていないはずですが、認識に相違はありますか?」
「あー……、ない、かな? むかーし月まで行ったとか聞いたことあるけど、そんくらいだなぁ。ダンジョン出来てからは宇宙産業はさっぱりだよ」
「であれば、太陽系までの航行を目指します」
「……いやそう言われても、こっから動かせるわけじゃないよな? 何億光年も離れてるって言ってたし、そんな何億年も掛ける予定じゃないんだろ?」
「はい。ですが現在の次元断層を活用した次元間航法であれば、短時間での航行は可能と推測されます」
「次元間……ワープ!?」
「その認識で相違ありません」
「宇宙戦艦、ワープまで出来んのかよ……! テンション上がるなぁ……!」
「もっとも、」
ハーロットは、言葉を止める。クレイが手を挙げたからだ。
「今は燃料がないわけよ。エンジン動かせる燃料がないからさぁ」
「……流石にガソリンとかじゃないよなぁ。なんかで代用出来ないのか?」
「地球資源から、代替可能な物質があるかライブラリから検索します。――該当物質を発見」
「おお! 俺でも買えるかな……!?」
「原子量39.948――識別名『アルゴン』が該当します」
「…………アルゴン?」
なんか想像と違う感じの答えが出てきたぞ。
アルゴンってあれだよな? 大気中に含まれるガスの一種。
ギリそこまでは覚えてるが、何に使われているのかまでは分からない。俺はそこまで勤勉な学生ではなかったし、なんなら学校での出来事などほとんど忘れている。
15歳になって探索者ライセンスを取ってからは、勉強も部活もそっちのけてダンジョンに籠ってばかりだった。そんで就職も進学もすることなく卒業しちゃったわけだしな。ADFの契約探索者になってからは安定した生活を送れているが、それまではかなり堕落していた。
ファーストランクなんて、大抵10代後半のうちにカンストするものだ。
最初のパーティが解散し、しばらくは良かった。だが25あたりを境に誘われなくなる。干支一回り近く年上なのにファーストランクに留まってるような奴に、ロクな奴はいない――そう考えられてしまうから。
そうなると、ソロで狩るしかなくなる。実入りは悪くなるし、余裕をもって狩れる程度のところしか行けなくなり――
低レベルモンスターばかりを狩って魔石を納品しまくっていたら、ADFから契約探索者にならないか声を掛けられたのだ。
そこからはまぁ、リンと会ったり猫屋敷と会ったりして、まぁまぁ充実したセカンドライフを送れているのだが、あの誘いがなければどうなっていたことやら。




