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「は? え?」
今、明らかに触られた感覚があったんだけど?
部屋を出て、反射的に手を伸ばす。クレイの、デカすぎる胸に吸い込まれるように――
――もにゅり。
スライムのような弾力が返り、「おうわぁ!?」思わず手を引っ込めた。
い、今っ、触ったよな!? 触れたよな!?
「セクハラだぞー?」
「いやすまん! ……待てなんで触れるんだ!? 投影してるだけじゃないのか!?」
「んーと、艦内にある大体のものさ、ナノマテリアルで作られてんのよ。分解しちゃえば再利用出来んだけど、あーしが移動出来る範囲のものは全部ずーっと前に回収済でさー、んでもそっちの部屋にちょっと残ってるのは知ってたからごしゅに入ってもらってー、それ溶かしてー、肉体ゲットー、おっけー?」
「お、おっけー?」
何が? 何て? ナノマテリアル?
なんかフィクションとかではよく聞く万能素材だけど、……あぁあれか、さっきは翻訳不能概念だかってピー音流れたけど、日本語で分かるように自動翻訳されてるってことか。だから俺の知ってる言葉で表現されたのだろう。ギャル喋りに翻訳される理由は何?
「……まぁいいか!」
こんなんもう、考えるだけ無駄だ。現代日本人が宇宙戦艦のことなんて理解出来るわけないだろ!
こちとら医療用ナノマシンだかなんだかで死んだとこから蘇生までさせられてんだぞ。死んだ人間を蘇生出来んなら宇宙だって飛ぶし万能素材だってある、そうに違いない。林原海里は理解することを諦めた。
「あっさりした男子、好きだぜー」
「……おう、照れるな」
「よしよしー」
撫でられてると変な気持ちになってきたな。背伸びしたらギリ届くくらいのサイズ感ではあるが、うーん、金髪メカクレ黒ギャルメイドに撫でられるの、中々どうしてそういう店感がある。行ったことないけど。ないよ?
「あ、そういえばハーロットは? 元気してた?」
「ん? ……俺治療してすぐ消えちゃったんだよな。電力不足とか言って。医療モジュールで会ったんだけどさ」
「あー……、そっかあっちそんなヤバい状況なんだ」
「どういう意味だ?」
同じ船の中に居るプログラム同士なのに、連絡が取れないことはあるのだろうか。
……あ、違うな。そういえば、消える間際にハーロットが言ってた。
「ネットワークが遮断されてるとか言ってたっけか」
「そそそー。今あーしらローカルでしか動けないんだよね。だからごしゅに隣の部屋行ってもらったくらいだし」
「……そうだったな。じゃあ次のミッションはハーロットの再起動ってとこかな」
「んー……?」
しかし、クレイは首を傾げる。
「ちょっと厳しいかも?」
「……なんでだ?」
「やね。説明したっしょ? 船団から離脱したって」
「そんなこと言ってたっけな」
「ハーロット・セブンさ、めーっちゃ雑に説明すると、建造時点で誰かにモンスターの卵的なの植え付けられてたわけよ。それが艦内のナノマテリアルゴリゴリ食べちゃって、1712年前に孵化した感じ?」
「エイリアンものの映画かなんかか?」
怖すぎるだろ。絶対パニック映画の冒頭じゃん。閉鎖環境でモンスターがガンガン湧いてちょっとずつ人が死んでくやつじゃん。立てこもったとこで宗教狂いのオバサンが出てきたり銃持ってるナードとか元軍人の黒人がちょっと活躍するけど終盤には死ぬやつじゃん。
「そんな感じ? 知らんけど。それ本船に報告したらさー、即逃げられたんよ。まー船ん中に卵どんだけあるかも分かんないし? 誰かが他の船に持ってく前に置いて逃げるのは悪いこととは言えないんだけど、そんなされたらこっちパニックじゃん? 船団どこ行ったかも分かんねーし、行先自体は分かってても単艦無補給で行けるほど近くもねーし」
「あー……」
「んで、まー色々しながらモンスター狩ったりー、人増やしたりー、と色々してたら700年経ったけど、無補給の航行なんて想定してなかったから色々足りなくなっちゃって」
「だからいちいちスケールがデカい!!」
「その頃ぐーぜん近くに通りがかった移民船団あったからそっちと交渉して、残った人がみんなそっち行っちゃって、はいそっから1000年」
「1000年」
「そそ、1000年」
「…………長いなぁ」
なんかスケールがデカすぎて全然分かんねえんだけど、何世代かけての宇宙航行だったんだろうな。
そう思うと地球の歴史って浅いよなぁ。西暦始まってまだ2000年くらいしか経ってないんだぜ。西暦で1000年前ってーと平安時代とかか?
俺たちの先祖が和歌とか詠んでた時から、この船は宇宙空間を遭難している。それも、乗組員が一人も居ないような状態で。
「長いのなんのって。船は一応残ってんだけど価値あるもんはほとんど持ち出されちゃったし、管理プログラムが色々話し合って他の惑星系の次元断層に繋げたらワンチャン誰かこっちまで辿り着くんじゃね? って感覚だったらしーけど……、マジで来るからウケるわ」
「お、おう……そんな感覚だったのか……。電力とかネットの話は?」
「んーと、人居なくなってからは節約モードで、モジュールごとに非常電源だけで動いてんだよね。食べるもん失くて酸素もなくしたらモンスターもまぁそのうち死ぬはずだし。民間ブロックなこなへんは人いなきゃ電気使うもんないけど、ハーロットは船自体の管制プログラム兼ねてるからさ、再起動にはどっかで電源確保しないと難しいかなぁ」
「……外からバッテリー持ち込んだりしたら、どうだ?」
「んー……、ちょいまち、計算するから」
そう言うと、クレイは両手人差し指を頭に当て、「んー」と唸る。
一休さんか? 宇宙にも居るのかな、一休さん。
その橋渡るべからずはどう宇宙っぽく解釈されてんだろ。艦橋と架け橋を掛けるとかかな。ちょっと面白いな。
「ごしゅのその、スマホ」
「5000mAあるぞ」
しかも省電力モデルだから丸3日くらいは充電無しで作動するぞ。20万くらいしたけど。
探索者御用達のスマホキャリアであるJDP製のスマホはダンジョン内での無線通信を可能としているが、通信料はかなり割高だし、種類もダンジョン外で使われるキャリアほどに多くはない。もちろん宇宙戦艦は圏外だ。繋がるわけないだろ。
だが、外のキャリアはダンジョン内で一切通信が出来なくなるため、探索者にとっては必需品である。
「それ、30億個くらいあればたぶん再起動する電力に足りると思う?」
「よし、無理だ! 計算ありがとう!!」
30億個って何? ロシアの一番広い森は東京ドーム1億個分の広さがあるとかそういうレベル? スケールがいちいちデカすぎんだよ。
「だから電力外から拾うのはキツいかなー?」
「無理すぎるな。つーことはもうハーロット起動させることは出来ないのか?」
「うんにゃ、出来なくはないよ?」
「マジで!?」
「ハーロットが繋がってるモジュールに電力送れればいいだけの話だから、電力に余裕あるモジュールから再起動のコールしたらワンチャン動くかも? まぁそれしてもローカルでしか動かせないから、本領発揮にはやっぱ30億個要るけど」
「おぉ……、……でも、なぁ」
カードホルダーを取り出す。蛇腹状に伸ばされたホルダーの一角を『ハーロット・セブン』のモジュールカードが占めているが、ともかく行ける場所が増えてないんだよな。
手に入れたばかりの工廠モジュールは『1/3』。あと2枚も必要だ。
「あれ?」
カードを1枚ずつ確認していると、『1/1』の表記があるモジュールを発見した。――射撃管制モジュールだ。これ1枚で良いんだ。意外だ。
というか、ひょっとしてアレか? この数字って、広さか? 商業モジュールに比べたら医療モジュールってかなり狭かったし。
「こ、これ! なんか……強そうじゃね!? 弾……撃てそうじゃね!?」
「あーね、射撃管制? ちょっと専門外だけど運び出してないなら弾残ってっかも? でも宇宙にごしゅの敵居なくね?」
苦笑気味に言われ、がくん、と肩が落ちる。言われてみるとそうだわ。
だがクレイは慌てて「あ、でもでも」と俺の肩をぽんぽん叩く。
「電気残ってるかもっ!」
「お、んじゃ行ってみるか」
カードを手にすると、クレイがぎゅっと腕抱き締めてくる。
いや胸っ、胸すげえな!? さっき不意に揉んじゃったの思い出しちゃった。柔らかすぎるだろどうなってんだよ。偽物のはずなのに! もう俺偽物で良いわ。
「……『iubeo』」
ともかく、射撃管制モジュールへ移動した。




