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「メイド2号……!?」
「ちょい待ち、2号は心外」
「しかもなんか口調が軽い……!」
メイドさん1号――ハーロットを名乗った彼女はクラシックメイドで、口調もメイド然とした(メイド然ってなんだ?)かしこまったものだった。まぁAIっぽいと言われたらそうなんだけど。
だが、このメイドさん2号はなんなのだろう。
ド派手な金髪で、前髪が鼻まで伸ばされた目隠れカット、後ろ髪は肩より少し短めのボブヘアー。
肌はかなり黒い。黒人系というより日本人が日サロに通った感じの茶色なので、ぱっと見は黒ギャルだ。
服装はメイド喫茶のようなミニスカに、エプロンなんてハート型。胸は明らかにハーロットより大きい。デカすぎるくらいだ。え、いやデカくね?
そんで足先はピンヒール。もう、メイドっていうよりそういう店って言われた方が納得できる感じだ。
性癖盛りすぎだろ。どうなってんだよ。ハーロットとの落差がやべーんだよ。ここ宇宙戦艦じゃなくてイメクラでしたっけ?
「えーと……、あ、自分、林原海里って言います」
「あ、ご丁寧にどーもどーも、あーしはマザー・ハーロット級宇宙戦艦ハーロット・セブンの商業モジュール案内プログラム、クレイっていーます。お見知りおきをー」
「どうもどうも……」
「どーもどーも」
ぺこぺこ。
「……なんか、すげー人間っぽいな」
「あ、よく言われるー。ってーとハーロットに会った? あれと比べるとそりゃーねー。こちとら7号インテリジェンス入ってるんで」
「7号……ってのが何か分かんないけど、先に聞くけどクレイ、きみ――すぐ消えたりしない?」
「ん? あー、そっかあっち電力余裕ないんか。こっちはへーきへーき。スリープ入れてたけどつけっぱでもあと300年くらいは持つかな?」
「スケールがデカすぎる!!」
「うんにゃ、まぁ管理プログラムと違ってこちとらただのモジュール内の案内プログラムだから消費電力少ないってだけなんだけど。だからほらあれ、細かいこと聞かれても答えらんないと思うよ?」
「細かいこと……?」
と、言うと何だろう。
むしろ、何が細かくて何が細かくないかもよく分からないんだよな。情報レベルの差異すら判断出来ないからだ。
ならば、もっと雑に聞けそうなことを聞いてみるか。ハーロットがいなくなった以上、聞ける相手は彼女――クレイしか居ないのだ。
「ここ、宇宙戦艦って聞いたんだけど、マジ?」
「まじまじ。ハーロット船団って言って、27ある艦隊群のうち1隻が、ここハーロット・セブンね」
「……宇宙に居るとか言わないよね?」
「宇宙に居るよ? いや宇宙戦艦って自分で言ってんじゃん」
「だよねー…………」
宇宙かぁ。やっぱりかぁ……。
「ちなみに地球からどのくらい離れてる?」
あ、これ細かいことか? と聞いてから思ったが――
「んーと、地球から7289億光年離れたあたりで遭難中?」
「…………7289? 遭難!?」
光年、という単位くらいは聞いたことがある。光が進む速度を基準にした、宇宙空間用の距離単位だ。
宇宙空間が地球を尺度にするにはあまりに広すぎることから、従来のキロメートルとかでは計算しきれないためそういった特殊な単位を使ってるとかなんとか。
問題は、天体に全く興味がなかった自分は、そのなんとか光年を聞いたところでさっぱり分からないということだ。この場合、知ってる単位に直すしかないわけだが――
「……月! 地球から月までって何光年離れてる!?」
「月ぃ? ……あー、そっちの衛星の名前ね」
必死に絞り出したのは、地球で夜空を見上げるとそこにある天体、月。
どのくらい離れてるかはよく知らないが、俺が生まれる前に人類が降り立った星だ。
つまりダンジョンなどなくとも、人類は月まで届いた。この距離を元に考えれば――
「待って待って計算する。んーと…………」
しばらく悩んだクレイは、数秒「んー」と唸ると、びしっ、と4本指を立てる。
「0.00000004123光年?」
「うん、ごめん、今なんて?」
「0.00000004123光年。これ月と地球の距離感ね。いや惑星情報は確かに入ってるけど、ローカルで計算すんのダルいわ。もうさせんでー」
「あ、うんごめん、了解」
分かった。分からないことが分かった。
だってゼロ多すぎない? ってことはあれ、光年って単位でいうと月までって全然離れてないってこと? 東京ドーム30万分とか言われてもいまいちわからないみたいな、そんな感じ。規模が違いすぎると計算すら出来ないのだ。
つまるとこ、この宇宙船――『ハーロット・セブン』は地球からものすごい離れたところで遭難してるってこと。もうそれだけ分かれば良いや。待て遭難ってスルーして良いとこなのか?
「さっきシャッター蹴ったら警告音鳴ったんだけど、あれ大丈夫だったのか?」
「あ、そうそう。そんであーし強制で起動されたわけ。人が折角すやぴーしてたのにさー」
「……すまん」
「んでまさかの強盗狙い? 嘘でしょ。そんなんしたらふつーに警備ロボ出るわ。今は電源入ってる警備ロボなんていないけどさー」
「だからごめんって!」
なんかそういうのだと思ったんだもん! 許してくれ。
まぁ管理権限持ってるって言っても、ビルの地主ならビル内のテナントで強盗しても無罪なんてことはないもんな。俺が迂闊だった。
「まーいーけどさー、どーせなんも入ってないし」
「へ?」
「ほーれ」
そう言ってクレイが近くにあったシャッターを指差すと、ウィーン、と機械音を鳴らしながらシャッターが開かれる。
――だが、商品どころか什器すら置かれていない、何もない空間がそこにあった。
無を盗もうとして警備ロボに襲われたら流石に馬鹿過ぎたなぁ……。クレイ、ありがとう……。




