商人ギルドの買い取り価格
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―――侯爵領の都『ビュラード』
その都の商人ギルドを目指し、途中で道具屋を開いていた店主に場所を確認して北区画へ向かうイェンリン達―――
「高く売れると良いわね♪」
進んで行く馬車の中でイェンリンがゴンドゥルとアルヴィトに笑顔でそう告げると、
「まあ、大した魔物じゃなかったけど、中には大物もいたからねぇ♪ 大型の魔物は素材が沢山取れるから、思った以上に高く値段がつくかも知れないねぇ」
ゴンドゥルが此処に来るまでの道程で襲撃してきた魔物を思い返していく―――
「―――ゴブリンやコボルドは大した稼ぎにならないとして、ダイアウルフ、森林大蜂、コカトリス辺りは素材が多く取れるから期待出来るわねぇ~♪」
「悪い顔になっているわよ……」
ニタニタ♪ と厭らしい笑顔を浮かべるゴンドゥルに引いてしまうイェンリンとアルヴィト。
「―――おい、そろそろ教えられた商人ギルドだぞ」
馭者台からブリュンヒルデの声が聞こえてきて、表情を戻したイェンリンは外を覗いてみる。
その視線の先には―――
―――大きな屋敷のような建物が目に入る。
「わぁ♪ あれが商人ギルドって場所?」
初めて来る場所にイェンリンの瞳はどこかしら、キラキラと輝いて問い掛ける。
「ああ。あそこに看板が出ているだろう?」
そう言ったブリュンヒルデが指差す屋敷の扉の上には―――
―――『商人ギルド』
大きな文字で書かれた看板がイェンリンの瞳に映った。
早速で商人ギルドの中に入ると、そこには受付台が設置されていて女が一人立っている。
その後ろにある書棚の群れには別の女達が忙しそうに動き回っている姿が目に映った。
「商人ギルドにようこそ♪ 本日はどのような御用件でしょう?」
受付に立つ女がイェンリンに問い掛ける。
「こんにちは♪ この街に来るまでに討伐した魔物の素材を買い取りしてもらいたいんだけど?」
「魔物の素材を……ですか?」
すると受付嬢はチラリとイェンリンを見回した。
(この子……どう見ても私より年下よね?)
受付嬢がそのようなことを考えていると、
「もしかして……買い取りって、してもらえないの?」
不安そうな表情をしたイェンリンに顔を覗き込まれる。
「あっ!いえ!いえ!!―――ま、まずは品を見せて頂けますか?」
慌てた受付嬢にそう促されるが、イェンリンはそこで困惑する。
「えっとぉ~けっこうな数があるんだけど、ホントに此処へ出していいの?」
「えっ?そんなにあるのですか?そうですね……では、ギルドの裏手に広い場所がありますので、そこでお願いしてもよろしいでしょうか?」
「―――分かったわ♪」
こうして裏手に通されたイェンリン達は、
「それじゃあゴンドゥル、ブリュンヒルデ―――準備はいい?」
「ああ♪ いつでもいいよ」
「私も構わないぞ」
楽しげに答えるゴンドゥルと澄ました真顔で答えるブリュンヒルデ。
「それじゃあ―――せぇのっ!!!」
イェンリンの号令に合わせて全員で『収納』スキルを発動させると、その中から大量の魔物の亡骸が溢れ出す―――
―――ゴブリン
―――狗小鬼
―――オーク
―――オーガ
―――一角兎
―――ダイアウルフ
―――森林大蜂
―――コカトリス
―――灰魔熊
ドカドカと建物の裏手に山積みになる魔物の亡骸を目にして、受付嬢が青い顔をして立ち尽くす……
「フゥ~!これで全部なんだけど、買い取り出来そう?」
額の汗を拭って振り返ったイェンリンが受付嬢に問い掛ける。
「へっ?……あっ!はい!!只今より査定させて頂きますぅ!!!」
そう叫び、慌てて建物の中へと駆けていくと、中から査定役の職員を連れて戻ってきた―――
―――そうしてギルドの中で暫しの時間を待たされていると、
「―――お待たせ致しました!!」
勢いよく先ほどの受付嬢が戻ってきた。
「……随分と張り切っているわね?」
イェンリンがボソリと呟く。
「受付した相手の買い取りした物からの売上の中から、受付した娘に報酬が入る様になっているのさ♪」
すると横からゴンドゥルが商人ギルドの決まりをそっと教えてくれる。
「なるほど……それは確かに張り切るわよね……」
複雑な気持ちになったイェンリンの元へ、
「お待たせいたしました♪―――此方が査定額になります!」
そう告げて受付嬢が差し出した紙には、今回の買い取りに出した魔物の個体数がそれぞれ一覧になっており、その横に買取り額がそれぞれ記されており、一番下の欄には合計金額が記されていた。
「ほう♪ なかなかの金額じゃないか♪」
その合計金額は―――
―――金貨二枚に大銀貨五枚と記載されている。
「ホントに……こんな金額でいいの?」
イェンリンはこのような大金を目にしたことがないので、高すぎるのではないかという意味で問い掛けたのだが、
「ヒィ!?―――こ、これでは足りませんでしたか?ですが……これでもかなりの査定額を提示した心算なのですが……」
受付嬢は逆に足りないと感じたのか、査定のやり直しを検討し始める。
「いや、そうじゃなくって!これでいいわ!!」
「えっ?―――よろしいのですか?……良かったですぅ♪」
ホッとした表情で胸を撫で下ろす受付嬢に、イェンリンも思わず微笑みを浮かべた―――
―――受付嬢から査定金額を受け取り、
「これで暫くは宿代には困らないよ♪」
ゴンドゥルはホクホクとした表情でニヤニヤが止まらない。
「実際に大金だったわね。宿に何日泊まれるかしら?」
「年単位で途方もない年数が泊まれるくらいです」
イェンリンの質問にアルヴィトが静かに答える。
「そんなに!?もうそこで暮らせるじゃない……魔物の素材って儲かるのね……」
「金に困ったら、その辺りの大型魔物を狩ってくれば食い扶持には困らないよ♪」
ゴンドゥルがウインクして答える。
「さてと―――それじゃあ、まずは今夜の宿を探そうか♪」
ゴンドゥルの提案にイェンリン達も同意すると馬車で北区画と呼ばれる街の中を進んで行きながら、宿の看板を探しながら進んで行った―――
―――イェンリン達が商人ギルドを出発した頃
「―――全員配置につきました!」
北区画の街から離れた郊外に建っている屋敷の前にマイベン=ビュラー侯爵の兵が、屋敷を包囲するように配置し終わったことを隊長が報告にやってきた。
「御苦労……指示があるまでは、そのまま待機していて」
報告に来た隊長に向けて指示を放つのは亜麻色の長い髪を靡かせ、澄んだ蒼い瞳をした美少女―――
―――オリネシア=エックスだ。
そんな彼女の傍には短髪の藍色の髪に蒼い瞳をした青年―――
ギャバン=ゴルゴダが控えている。
足早にその場を去って持ち場に戻る隊長の背中を見送って、
「さて……ギャバン。これより元ハリタス海洋自治領の残党を掃討します」
「ああ、いつでもいいぞ」
無愛想なギャバンは無表情のままオリネシアに答えるが、それを咎めるでもなくオリネシアが腰に携えたロングソードを抜き放つ。
ギャバンもまた剣を抜くとオリネシアの前に歩み出て、向かっていく屋敷の扉に鎧を纏う身体ごと体当たりをして見せる―――
「間もなく全員揃うだろう」
「―――漸く同胞の積年の恨みを返す時だ」
「ああ、これで―――」
―――巨大な屋敷の夜会でも開ける大きな広間に集った多くの者達だったが、突然そんな広間の巨大な扉が吹き飛ぶ。
ドォオオオンッ!!!と激しい破裂音と同時に、扉の向こうから一組の男女が姿を現す。
「何だ!?―――何者だぁ!!!」
現れた男女に誰もが警戒心を剥き出しにして睨みつける。
「……これから『冥府』の冥聖神の下へ向かうお前達に……名乗る名はない」
踏み入った女は手にした剣を構える―――
「―――ビュラー侯爵の配下か!だが、たった二人で何が出来る!!!」
―――誰かがそう叫ぶと一斉に二人を取り囲む。
「無駄なことを……」
その女―――
―――オリネシアが握った剣を上段に構えると、
「―――フンッ!」
その剣を斜めに振り下ろす―――
するとその場の空気が一瞬、キンッ!と引き締まるような感覚に包まれると、
「……アァ……クァアァ……」
その場で捕縛しようとしていた者達の動きが止まった。
―――いや、足が止まったのは、
上半身と下半身が既に分断しているためだ―――
―――それは本当に一瞬のことだった。
オリネシアの振るった剣の軌道道理に空間が斬り裂かれ、その場にいた者達の身体を通り抜けて背後の広間の壁までが斜めに分断される。
そして屋敷全体が軋みながらズズズッと斜めに滑ってズレが生じていった。
そして広間は大量の鮮血が海のように広がっていく。
たった一振りの一瞬で、広間には上半身と下半身が分断されて双方から大量の鮮血を噴き出し赤く染めていった。
周囲には血の臭いとぶち撒けられた臓腑の異臭が鼻につく。
ズレ落ちていく上半身と、それと同時に切断された腕がボトリッと血の海に落ちていく光景……
「ひ、ひぃいいい!?―――な、何が起こった!!!」
それでも百人近くいた元ハリタス海洋自治領の残党たちは、目の前の凄惨な光景に気が狂うほど大声を張り上げて震え上がる。
その生き残った者達の目の前に突然全身に鎧を纏う青年―――
―――ギャバンが現れて無言のままその手の剣を振り抜く。
すると何かを叫ぼうとした男の首が次々と宙に舞い、残った首元からは鮮血が噴水のように噴き出してギャバンの鋼色の鎧を赤く染め上げていった。
その間にも斜めに切断された屋敷は、ギギギッ!と軋む音を響かせながら捻じれるように崩れていく。
切断面から屋敷が崩れ落ちていく時には、二人の残党討伐は既に完了していた―――
―――商人ギルドを出たイェンリン達は、
「ッ!―――今のは!」
街の空気の中を駆け抜けた緊張の衝撃を感知して、歩んでいたイェンリンが振り返る。
すると少し離れたところから何かが軋む音が響いたかと思うと、ドドドドッ!といった轟音と共に土煙が上がるのを目撃した。
「―――誰かが街の中で暴れている!」
同じくその異変を察知していたブリュンヒルデが告げると、
「まさか街中に魔物でも出たの?……兎に角放っておく訳にもいかないわね」
真紅の瞳を鋭く細めてイェンリンは土煙の上がっている方角を睨みつける。
「何かが街で暴れているのなら、止めに行くわよ」
『紅神龍の御子』イェンリンの判断と命令に逆らう『紅の戦乙女』など存在しない。
「承知した―――急ごう」
「やれやれ……どうしてこんなことに」
「……」
ブリュンヒルデは即答し、ゴンドゥルは面倒臭そうに返事をし、そしてアルヴィトは無言のままそれでも反対はしなかった。
「急ぐわよ!」
短い号令と同時にイェンリンは土煙の上がる方角へ駆け出し、その背にゴンドゥル達も追従するのだった―――
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