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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第1章 運命の子

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イェンリンの旅

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―――翌朝になって、イェンリンは早朝からワクワクする気持ちが抑えられずにいた。


今日はメテロとロドスと共に三人でハリタス海洋自治領区の首都メイローズを目指して旅立つ日だ―――


すると同じベッドで眠っていたエリシラが、目を擦りながらゆっくりと起き上がってきた。


「……おあよう……おねぇちゃ……」


「おはよう!エリシラ♪ それじゃあ、お姉ちゃん行ってくるね!」


「うん……ッ!―――ま、待って!私も起きる!!」


姉の旅立ちを此処で見送る訳にはいかないと、寝惚けた頭が覚醒したエリシラが飛び起きる。


そして寝室からリビングへと向かうと、


「おはよう、イェンリン。準備は出来ているのか?」


「おはよう!父さん♪ 大丈夫だよ!昨日からしっかり準備しておいたから」


「よっぽど楽しみなんだな……ハァ……いいか?昨日も言ったけど、メテロとロドスの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」


「分かっているわ♪ ちゃんと守ります!」


笑顔で元気に返事をするイェンリンにダンクは、やれやれと肩を落としながらも頭を撫でる。


「―――忘れているわよ!これ!!」


そこに横から顔を出してイェンリンの鞄の蓋を開けると、そこに傷薬や腹痛に効く薬など幾つかの薬瓶を詰めたのはカリオラだった。


「えへへ♪ それは母さんに貰いに行こうと思っていたの♪」


「もう!本当に調子良いんだから!」


呆れた声を上げながらも、ゆっくりと近づいてイェンリンを優しく抱きしめた。


「……母さん?」


「イェンリン……危ないと思ったら、絶対に近づいちゃダメよ?逃げたっていいの。生きていることが一番大切なことだから」


「うん……分かった」


自分のことを何よりも大切にしてくれる母の愛情に、イェンリンもカリオラの胸に顔を埋めて抱きしめ返した。


「おお~い―――迎えが来たぞ!」


その時、家の表からダンクの声がリビングまで届く。


その声で離れた二人を起きてきてからそこで見ていたエリシラは、小さな拳をキュッと握りしめていた―――






―――家の前に馬が一頭曳きの幌馬車が止まっている。


「おはよう、イェンリン」


「おはよう♪ メテロ」


幌馬車の馭者台で手綱を握るメテロに向かって挨拶をするイェンリン。


その声を聞いて幌付の荷台から顔を出したロドス。


「オッス!ちゃんと起きられたか」


「ロドスもおはよう!―――勿論起きているわよ!」


ロドスの憎まれ口にも笑顔で言い返すイェンリンは、


「私も馭者台に座りたい!」


いきなりメテロの隣の空いている場所に座りたいと言い出す。


「別に構わないけど、寝惚けて落ちないでくれよ?」


メテロも少し憎まれ口を叩きながら、笑ってイェンリンに答えた。


「そんな訳ないでしょう!それじゃあ―――父さん、母さん、エリシラ。行ってきます♪」


「気をつけてな!!メテロとロドス、イェンリンを頼んだ」


「―――はい!」


「―――しっかり護りますよ」


そうして幌馬車はイェンリンの家を出発して一路、首都メイローズを目指すのだった―――






―――ダンクの用意した幌馬車はメイスンもよく利用している馬車で、馬と一緒に村の職人団から借りてきた物だ。


荷台は多くの荷物が乗るように広めになっており、そこに今回の行き帰りで必要な食糧や道具も載せてあった。


「ねぇ?メテロ。首都まではどれくらい掛かるの?」


イェンリンは初めて乗った幌馬車の馭者台で、足をブラブラと揺らしながらメテロへ問い掛ける。


「うちの村からだと馬車で大体三日の距離があるよ」


「それだと途中で二回夜が来るってこと!!―――どこに泊まるの?野宿?」


興奮したイェンリンが矢継ぎ早にメテロに迫り、夜はどう過ごすのか問い掛ける。


「アハハッ!―――イェンリンは本当に女の子にしておくのは惜しいくらい冒険好きだなぁ。でも野宿なんて危ないことはしないよ」


「そうなの?」


すると幌の中から馭者台に身を乗り出したロドスがイェンリンに教える。


「丁度夕方になるくらいのところに別の村があるんだ。その村には宿屋があって、そこで泊まるんだ」


「―――宿屋!?そうかぁ♪ 他の村があるんだぁ♪」


「イェンリンは他の村に行ったことはないのかい?」


その反応を不思議に思ったメテロが問い掛けると、


「行ったことない!父さんからはもう少し大きくなってからって言われて」


「イェンリンはとんだ箱入り娘だな……団長の親バカ振りも相当なもんだ」


呆れた顔で空を見上げたロドスにイェンリンはニシシッ♪ と可愛らしい笑みを見せる。


「ロドスもこれからよろしくね♪」


「ああ。しっかり護ってやるから、安心しろ」


そう告げて右手でイェンリンの金髪に紅い髪の混じる頭をぐりぐりと撫で回した。


そこから道中は目に入った珍しい物、初めて見る物に目移りしていく―――


―――それをメテロとロドスに質問しながら、イェンリンは一日目の旅を満喫していた。


そうして一日目の陽が傾き始めた頃―――


「あっ!―――村が見えてきたわ♪」


そう言ってイェンリンの指差す先には小さな村が見えてきて、夕暮れ時ということで家々からは煙突から夕食のための煙が上がっているのが見えてきた。


「あれが最初に宿泊するアノ村だよ。あそこで今夜は休むから」


メテロの説明にイェンリンは初めて訪れる村に胸を弾ませるのだった―――






―――馬車を止めて馬小屋に馬を移したロドスが戻ってくると、


「この村の唯一の宿だけど、うちの村と首都との交易には何度も利用させてもらっているから馴染みなんだよ」


メテロがアノ村の宿屋について簡単に説明する。


「へぇ~♪ メイスンおじさんがよく街に行っているけど」


「うん。職人団の作った物を売りに行く時や、イェンリンのお母さんの薬を売りに行く時にも此処を必ず利用しているんだ」


「母さんの薬は街で評判だって聞いたわ」


「そうだね。カリオラさんの薬は俺達だって何度も助けられているくらい良く効く薬だからね」


「首都の薬屋でも待ち望んでいるくらいだそうだぜ」


メテロの話に付随するようにロドスが告げると、イェンリンは自分の母親のことが褒められていることで笑顔になっていた。


「さあ、食事をして明日に備えて休もう」


メテロに促されて宿屋に入ると、中には食事が出来るくらいの広めのリビングと四つ並べられた丸テーブルが見える。


「いらっしゃい。おや?メテロじゃないか?」


「こんばんは、ゴーシュさん。今日は三人だけど、部屋を二つ用意してくれる?」


「ああ、いつでも空いているよ。しかし珍しいな?女の子連れなんて……」


そう言って宿屋の店主ゴーシュは二人の間で待つイェンリンに視線を落とした。


「初めまして!私はイェンリン=ロッソよ♪」


「ロッソ?……ひょっとして自警団の団長さんの娘かい?」


「父さんを知っているの?」


別の村の人間が父親のことを知っていることに驚いたイェンリンが問い掛けると、


「ああ、お前さんの親父さんはこの村の自警団にもよく力を貸してくれていてな。魔物の討伐にもこのメテロとロドスを連れて応援に来たりしてくれていたんだ」


「そうだったんだ……」


自分の知らない父親の仕事振りに、思わず感嘆の声を漏らすイェンリン。


「お前さんの親父さんには、うちの村の者も皆、感謝しているよ。勿論メテロとロドスにもだけどな♪」


そう言われてメテロは恥ずかしそうに頭を掻いて、ロドスはフンッと気恥ずかしそうに鼻息荒く視線を逸らしていた。


「飯はまだなんだろう?大した物は出せないが、食事を出すからそこのテーブルで待っていてくれ」


そう告げてゴーシュは裏の厨房に向かって姿を消していった―――






―――それからゴーシュの用意したパンとスープに肉と野菜の炒め物を頂いて、イェンリンはメテロが気を使って用意してくれた一人部屋で横になった。


「ハァ~♪ 家以外のところで眠るのは初めてだな……」


独りそう呟いたイェンリンだったが、ベッドの上ではいつも隣に眠っていたエリシラがいないことに違和感を覚えていた。


「エリシラ……大丈夫かな?一人で眠れているかな……」


きっとエリシラも一人で眠るのは初めてのことで、寂しい思いをしていないか心配になるイェンリンだったが、昼間に旅ではしゃぎ過ぎた疲れが襲ってきて瞼が重くなってきた。


「……スゥ……スゥ」


いつの間にか深い眠りに就いたイェンリンは、夢を見ることもなく朝まで眠り続けていった―――






―――二日目の朝


宿屋のゴーシュに礼を言ってからイェンリン達は再び馬車の旅を続けていく。


「次の村は何ていう村なの?」


相変わらず馭者台を牛耳ったイェンリンが、今度は手綱を握る役目になったロドスに問い掛ける。


「次の村はコノ村だ。さっき出てきた村よりは少し大きくなるぞ」


「―――そうなんだ!」


「アノ村よりも街に近いからな。自然と村の規模も大きくなるってものさ」


「そうなの?」


ロドスの言葉の意味が分からないイェンリンは、首を可愛く傾げながら問い掛ける。


「街に近ければ、それでだけ物の行き来も人の行き来も多くなる。そうなれば村に移り住む人も多くなるし、それだけ人が来れば自然と大きくなる。街に近ければそれだけ便利なんだよ」


「なぁ~ほどねぇ~♪でも……だったら、どうしてうちのゴルゴダ村はアノ村より大きいの?」


昨日宿泊したアノ村よりも自分達のゴルゴダ村の方が、人の数も建物も多かったことにイェンリンは当然の疑問を抱く。


「それは……お前の親父さんとお袋さんのおかげだよ」


「えっ?―――それって、どういうこと?」


ロドスの返事にゴルゴダ村の人が多いことと、どんな繋がりがあるのか分からないイェンリン。


「お前の親父さんは自警団の団長として周りの村々と協力しながら人を助けてきた。お前のお袋さんの薬も沢山の人を助けてきた……そんな恩人が住む安全な村があったら、誰でも移り住みたくなるだろう」


「……うん……凄いね」


イェンリンは父と母の行ってきたことの結果が、今の村を築いたと知らされて改めて二人のことが子供ながら誇らしく思えた。


その話を幌の中から黙って聞いていたメテロも自然と微笑みを浮かべる。


「さあ、今日はあんまりはしゃぐなよ?俺は静かな方が好きなんだ」


ロドスが流し目を向けながらイェンリンに注意すると、


「何よ!それ!!―――私が煩いみたいじゃない!!」


プクッと頬を膨らませて反論するイェンリン。


「充分煩いだろう……」


そんな彼女を流し目で呆れ顔を向けるロドスがハァ~と溜め息を吐いた。


二日目の道程も特に問題が起こることもなく、しかし徐々にメイローズへ近づくことで人の手が入れられた箇所が目に止まるイェンリンは、やはりメテロとロドスにそれについて質問を繰り返していった。


―――そして、


夕刻もかなり過ぎた頃になって、漸く大きな村の入口まで辿り着くのだった―――




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