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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第1章 運命の子

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思い掛けない門出

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―――イェンリンとエリシラを井戸の水を張った桶で洗うカリオラは、まず魔物の返り血を浴びたイェンリンの頭から優しく水を掛ける。


「ちょっと冷たいかも知れないけど、我慢してね?」


「―――冷たぃ?!」


優しく声を掛けてから水を流したカリオラだったが、思った以上に水が冷たかったイェンリンはビクッと身体を震わせて驚いた声を上げた―――


その様子を見て暗い顔をしていたエリシラも漸く落ち着いたのか、クスッと笑みを零して見ている。


そうして二人の汚れを一通り落としてから、身体を拭いて着替えたイェンリンとエリシラを連れて家の中に戻るカリオラを見て、ダンクは漸く話を始める。


まだ髪の濡れたイェンリンを見てマルクはドキッとさせられてしまうが、そこは男の子の矜持を彼女から視線を逸らす行動で示していた。


「まず先にマルク、イェンリン、エリシラ。三人はどうして木の実の森に行ったんだ?」


すると誘ったマルクが話し始める。


「……イェンリンとエリシラが……まだ行ったことないみたいだったから誘って一緒に行ったんだ……偉い魔術師が魔術を掛けて、魔物や獣も寄りつかないって聞いていたから……」


その話にダンクはメイスンに視線を向けると、同意するように頷いて返した。


「それで?どうしたんだ?」


ダンクは努めて穏やかにマルクに話を進める様に促す。


「それから……三人でいっぱい木の実を獲って、もういっぱいになったから帰ろうって時に木陰から何かが動く音がして……」


「―――それがフォレスト・ウルフだったと」


そこで初めて魔物の名を聞いたカリオラにメイスンとルメイは、群れで行動するフォレスト・ウルフだと聞いて顔を青くしていく。


そんな三人に向かってダンクが話を続ける。


「正直言って、本当に危なかった……転倒したエリシラを庇ってイェンリンが覆い被さっているところに狼が襲い掛かる姿を見て必死で狼を倒した」


「そこまで危ないところだったなんて……」


ルメイが口元を押さえながら呟くと、


「……」


カリオラは黙ってソファーの両脇に座っているイェンリンとエリシラを抱き寄せていた。


「でも……あの森は魔術師の結界魔術が働いていたはずよ?」


二人を抱き寄せたカリオラがゆっくりとダンクに問い掛ける。


「ああ。その結界魔術が弱まっているという話を聞いて、自警団で調査に出向いた矢先のことだったんだ。まだ詳しい調査は出来ていないけど―――」


そこまでダンクが離したところで、玄関の扉から男の声が響く。


「―――失礼します!」


その声の主はメテロで、ロドスと共にダンクの家を訪れた。


「団長。森の結界魔術の件でお話があります」


「丁度良かった。今その話をしていたところなんだ。何か分かったか?」


魔術に長けているメテロに調査をしてもらっていた結果を、ダンクも待ち望んでいた。


「はい。結論から申し上げますと、あの結界魔術も他の結界と同様に弱まってきております」


「やっぱりそうか……原因は分かったか?」


ダンクの問い掛けにメテロは暗い表情に変わる。


「いえ……原因と言えるものは何も……ですが、こうなっては魔術師に結界の補強をお願いするより他にはないかと」


「弱ってきた結界魔術の補強を頼める魔術師か……俺やカリオラは結界魔術は得意じゃないんだ。こうなると首都まで出て、領主に願い出て高名な魔術師を紹介してもらうくらいしか手がないな」


するとそこにメイスンが声を上げる。


「ちょっと待て。領主のお抱え魔術師なんて紹介してもらうなんて、幾ら掛かるか分かっているのか?」


村で職人団の団長をしているメイスンは、首都にも納品に行くことがあってダンクよりこの国の物価には詳しい男だ。


「やっぱり、それなりに掛かるよな?」


苦笑いを浮かべるダンクにメイスンは呆れた顔を向ける。


「少なくとも……金貨五十枚は覚悟しておいた方がいい」


「そんなに……」


予想していたよりも高額の報酬を提示されてダンクも閉口するしかなかった。


するとそこで―――


「あのぉ……」


―――メテロが申し訳なさそうなくらいの声を上げた。


「どうした?メテロ」


「はい団長。実は俺に魔術の手解きをしてくださった師匠から、とても優秀で比類なき魔術師のお話を伺ったことがあります」


「優秀な魔術師……それで?」


「その御方は……少々変わり者の魔術師で、お金ではなく自分の気に入ったものを報酬にされるとのことで、その御方であれば話だけでも聞いて頂けるかも知れません」


「自分の気に入ったもの?それって何か決まっているのか?」


「いや、それが……」


そこでメテロの表情が険しく変わり、言い辛そうにしていたが、


「どうも……可愛らしい女の子を望むらしく……」


「―――屑だな」


可愛い娘達の父親であるダンクが『殺意』を込めた一言で切り捨てた。


「いや!―――その魔術師は女性でして!!決して如何わしい理由ではなく、只可愛らしい女の子を愛でるのが趣味とか……」


「―――変人の屑ということだな?」


「身も蓋もない……ですが、腕は確かだそうで結界魔術から攻撃魔術まであらゆる魔術に精通しているとか」


「なんだ!その変人は!!それにどんなに偉大な魔術師でも、親元から女の子を引き離すなんて―――」


「―――いえ愛でるだけで親から引き離すような真似はしないそうです」


「頭おかしいのか律儀なのか、どっちなんだ」


メテロの話を聞いてダンクは辟易とした表情になる……


「私!―――魔術師に会ってみたい!!」


「―――イェンリン!?」


そこで突然そんなことを言い出したイェンリンに、ダンクとカリオラは驚く。


「ちょ、ちょっと!―――突然何を言い出すの!この子は!!」


抱き寄せていたカリオラはイェンリンを諫めようとするが、


「だって!このままだと村を護ってくれている魔術が消えちゃうのも時間の問題なんでしょう?だったら、その魔術師さんに頼みに行くだけ行ってもいいじゃない」


イェンリンが村の抱えている危機について言い返すと言葉が継げないカリオラ。


「だったら、私もついていきます!!」


「母さんは薬を作っていないと、急な怪我人や病気の人が出たら誰も対応出来ないよ!」


「だったら俺が―――」


「―――父さんがいなくなったら、それこそ誰がこの村を護るの!」


言い返されて空けた口を閉じるしかないダンク……


「それなら、俺がイェンリンについて、魔術師の屋敷を訪れるというのはどうです?」


そこで提案を出したのはメテロだった。


「……お前……まさかうちのイェンリンが超絶可愛いからといって……」


「―――いや、凄い誤解!流石に歳が違い過ぎますよ!!」


ダンクからイェンリンを狙っているのかと、強烈な疑いの眼差しを向けられて慌てて否定するメテロ。


「そもそも、その変わった魔術師っていうのはどこに住んでいるんだ?」


慌てるメテロにメイスンが居所を知っているのか問い掛ける。


「それなら首都の西外れの屋敷に住んでいると聞いていますので、場所は分かります」


「首都か……此処からだと馬車で三日といったところだな」


何度も首都へ行き来したことがあるメイスンが顎に手を当てながら告げると、


「私はそれでも反対よ!今日こんな怖い思いをしたっていうのに……首都の変な魔術師のところへ行かせるなんて」


カリオラは母親として当然の反対を示す。


「母さん、お願い!このままだと、今日見たみたいな魔物がこの村まで襲ってきちゃう!私―――そんなのイヤだ!!!」


真剣な顔で叫ぶイェンリンに、カリオラは一瞬だけフーリンの面影と重なって見えた。


それはダンクもまた同じ思いだった。


「カリオラ……此処はイェンリンに任せてみないか?」


「ダンク!貴方まで何を―――」


「―――イェンリンなら、きっと何とか出来る!……そんな気がするんだ」


それは偉大な魔術師フーリンの血を受け継ぎ、海の向こうの皇帝の血を引くイェンリンだからこそダンクも信じてみたくなったのだと、同じ思いのカリオラにも伝わっていた。


「ハァ……分かったわ……でも!ダメだったらすぐに帰ってくるのよ!!メテロ……お願いね?」


「大丈夫です。俺の聞いた話ではそれほど危険な魔術師ではありません。気難しいというところが敬遠されているだけだと、師匠も言っておられました」


その話に少しだけ安心するカリオラは、今度は隣のイェンリンの顔を覗き込んだ。


「いい?絶対にメテロの言うことを聞いて、無茶なことはしちゃダメよ?約束出来る?」


「うん♪―――ありがとう!母さん!やったぁ♪ 初めての旅だぁ♪」


この村を出て遠方に初めて出向くことに、お転婆なイェンリンの心は一気に弾む。


「……俺も……行きたい」


そこでマルクが突然そう言い出したことに皆が視線を向ける。


「ダメよ。メテロはイェンリンだけでも護るのが大変なんだから、子供の貴方が行ったら余計に迷惑になるでしょう?」


そんなマルクの言葉をルメイが諭すように宥めると、奥歯をギュッと噛みしめたマルクの表情は険しくなる。


「―――ッ」


そしてルメイを振り切って、突然マルクは家を飛び出していった。


「―――マルク!!」


出ていったマルクをルメイが止めようとするが、


「放っておいてやれ。マルクも男なんだ。思うところはあるさ」


メイスンがルメイを呼び止めた。


イェンリンが首都に出掛けると聞いて、自分も一緒に行きたいと言ったマルクの気持ちはメイスンにも、そしてダンクにも何となくだが分かった。


同い年のイェンリンが先に村を出る―――


―――そして、そこに憎からず思っている女の子が、歳は離れているとはいえ男と出掛けると聞けば複雑な思いは処理し切れないものだろうと。


「だったら出発は早い方がいいだろう。明日には馬車を用意する」


「分かりました。だったらそれまでに準備をして―――」


「―――ちょっと待った」


その声はこれまで黙って話を聞いていたロドスだ。


「なんだよ?ロドス」


「なんだじゃねぇよ。魔術師のお前だけでもしもの時があったら対処し切れないだろう?俺も行ってやる」


ぶっきらぼうな口調でそう告げたロドスに、最初は呆気に取られていたメテロだったがフッと笑みを零す。


「―――そうだな。戦士のロドスも一緒に行ってくれるなら、イェンリンのことも任せられる。村の警護はそれまで俺が護っておくから、よろしく頼むぞ?」


「―――はい!」


「―――おう!」


こうしてダンクの許可も下りたところで、イェンリンに御供のメテロとロドスも加えて首都の魔術師の元を訪れることが決まったのだった―――



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