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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第1章 運命の子

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森の異変

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―――木の実の森にやってきたイェンリンとエリシラ、そして幼馴染のマルク。


イェンリンとエリシラの見開いた瞳に映ったのは季節に関係なく実っている沢山の木の実だった―――


「うわぁ~♪」


イェンリンとエリシラはその光景を見て同時に感嘆の声を上げる。


「お姉ちゃん!あれ―――」


「―――クコの実だ!エリシラ、手の届く範囲で獲るんだぞ」




森の様々な木々には―――




―――クコの実


クコは野原や河原、林の入口など開けた明るい場所を好んで自生する低木。


秋に赤く熟す実は、昔から漢方や薬膳料理などで利用されてきたもので、乾燥させたものを料理に使用する。




「―――クサイチゴもあるぞ♪」




―――クサイチゴ


クサイチゴは明るい半日陰を好む野生のイチゴである。


小さな実が集合してできた赤い実は、口に入れると甘くみずみずしく、タネの粒々とした食感を楽しめる。


樹高二十~五十cmと低く、低木だが草花のような見た目をしている。




「あっちはナツグミだぞ!」




―――ナツグミ


ナツグミは、初夏の頃に赤く熟すのでナツグミと呼ばれる。


強い酸味と甘さ、みずみずしさが特徴である。




他にも―――




―――ラズベリー


ラズベリーは有名なキイチゴで甘くみずみずしく、香りが良いのが特徴。


小さな粒のような実が集合してできた実は熟すと赤くなり、軽く引くとすっと外れ、中が空洞になっている。




―――ヤマモモ


ヤマモモは山野に自生する樹高五m以上になる高木。


黒に近いくらいの赤に熟した実は甘くみずみずしいのが特徴だが、タネが大きいので食べるときには注意が必要。


雌雄異株なので、雌株にしか実は出来ない。




「―――ヤマモモは高いところにあるから、俺が獲ってくるよ!イェンリンとエリシラは手の届くところの実を集めておいて」


「分かったわ♪ でも気をつけるのよ!」


「分かっているって!」


その場で簡単に分担を決めたイェンリン達は、目的の木の実を集めに掛かる。


女の子二人は用意してきた革の肩掛け鞄に次々と摘み取った木の実を入れていく。


「エリシラ―――」


「―――うん?なぁに?パクッ!?ングッ?!す、酸っぱ~い!!」


突然呼ばれて振り返った拍子に口へ何かを放り込まれたエリシラは、甘さよりも強い酸味に思わず唇を突き出す。


「アハハッ♪ まだ熟れてなかったか!じゃあ、こっちは?あ~ん♪」


今度は赤く熟れている実を口に入れられると、


「う~ん♪ あま~い♪」


甘く熟れた実に口の中の酸味が塗り替えられて、エリシラは笑顔になる。


そうやって時々味見と言う名の摘まみ食いをしながら、イェンリンとエリシラは手の届く低木になった実を必死に集めていった―――






―――高木になっている実を登っては集めてきたマルクからヤマモモやリンゴ、梨といった大きな実も集まり、


「そろそろ鞄もいっぱいだな」


マルクは三人の持つ鞄の膨らみ具合を見て、そろそろ帰る頃合いだと告げる。


「もう入らないくらいだもの。エリシラは重くない?」


「うん♪ これだけあったら、お母さんがいっぱいジャム作ってくれるよね♪」


「そうだね♪ 母さんのジャムは美味しいから楽しみだね♪」


妹と視線を通わせてカリオラのジャムが出来る様子を思い浮かべるイェンリンは、笑みを浮かべて答えた。


「よし!それじゃあ、そろそろ―――」


マルクがそう言い掛けた時―――


【GURURURU……】


―――森の奥から何か獣の唸るような声が三人の耳に届いた。


「ッ!―――マルク!今のって……」


「あ、ああ……何か獣がいるのかも知れない。静かにしながら急いで帰ろう」


マルクの言葉に不安な表情を浮かべるエリシラの手を、


「行くわよ。エリシラ」


大丈夫だと伝えるようにキュッと握りしめるイェンリン。


「うん!」


エリシラの返事を聴き、年上のマルクとイェンリンは森の出口に向かって視線を向ける。


三人は元来た道を早歩きで戻っていくと―――


―――木々の枝影で来る時は明るかった道が、今は暗く不気味な雰囲気を漂わせているように感じる。


イェンリンに手を引かれたエリシラは、徐々に恐怖が小さな胸に広がり、今にも泣き出しそうに顔が歪んでいく―――


―――暫く進んだところで周囲の木々と草むらがバサバサと何かが動く気配を伝えてきた。


「ッ!―――マルク!!」


その気配にイェンリンがマルクの名を叫ぶと同時に、背後の道脇に生えた草むらから、灰色の毛に身を包んだ獣が次々と現れる―――


「あれは!―――フォレスト・ウルフだ!!」


―――マルクは姿を現した獣、


森の魔物フォレスト・ウルフに驚きの声を上げた―――


「―――どうして此処に魔物が!?魔術が効いていないの!?」


―――聞いていた話と違うといった怒りや苛つきがイェンリンに圧し掛かるが、今はそれどころではない。


「逃げるぞ!!」


そこからは駆け足になって魔物から逃げるように促すマルクを追いかけて、イェンリンとエリシラも必死に走り出す―――


「ハァ!ハァ!―――エリシラ!頑張って!!」


「ハゥ!ハゥ!ハァ!―――お、お姉ちゃん!」


十歳のマルクとイェンリンより二つ年下のエリシラは、姉の引く手についていくのがやっとだ。


しかし、その年上のマルクとイェンリンの足ですら森の魔物の追跡を引き離すことなど出来ない。


背後にはまだ距離があったはずのフォレスト・ウルフ達が急接近してくる様子が、幼い子供達の胸に今まで感じたことのない恐怖感を膨張させていく。


「ハア!ハア!こ、怖いぃ!!」


堪らずエリシラが走りながら口にした恐怖の言葉に、マルクとイェンリンも青い顔をしながら冷や汗が額を伝っていく。


その時―――


「アアッ?!―――アウゥ!!」


―――木の幹に足を取られてエリシラが道に倒れてしまう。


「ッ!―――エリシラ!!」


振り返り倒れ込んだエリシラの方を見たイェンリンの瞳に映ったのは、真っ先に追いついてきたフォレスト・ウルフの一頭が飛び掛かってくる光景だった―――


「ダァメエエエエ―――ッ!!!」


―――咄嗟にエリシラの身体の上に重なるように倒れ込み、妹を護ろうとするイェンリン。


ギュッと目を瞑り、運命を覚悟したイェンリンを見て―――


「―――イェンリィイイン!!!エリシラァアアッ!!!」


―――立ち止まって二人の名を叫ぶマルク。


そこに飛び掛かるフォレスト・ウルフがイェンリン達に牙を突き立てんとした―――


―――その時、




「―――《風刃ウィンド・ブレイド》!!!」




どこからともなく飛来した風属性魔術・下位《風刃》が今まさにイェンリン達に襲い掛かろうとしていたフォレスト・ウルフの首を斬り飛ばした―――


―――空中で斬首された狼は、傷口から赤黒い鮮血を噴き出しながら地面に落下する。


そしてその返り血を顔と髪に注がれたイェンリンは、歯を食いしばり生臭い血の臭いによる吐き気を必死で我慢した。


「イェンリン!!!エリシラ!!!―――無事かぁああ!!!」


「ッ!―――父さん!!!」


「―――お父さん!」


道の先から全速力で駆けてくるのは、イェンリンとエリシラの父であるダンク=ロッソだった。


道を駆けながらその手に魔力を迸らせ、まだイェンリン達を狙うフォレスト・ウルフに向かって狙いを定めると―――


「―――《嵐弾ストーム・ブリット》!!!」


―――今度は風属性魔術・中位の《嵐弾》を発動して、その突き出した手元から渦巻く風の弾を放つ。


【―――GYAUUUU!!!】


【―――KYAUN!!!】


【―――KYAFUUU!!!】


倒れたイェンリン達に次々と襲い掛かろうと、此方に向かってくるフォレスト・ウルフ達に容赦なく引導を渡していくダンク―――


「―――団長に続けぇ!!!」


「子供等の保護を!!!」


―――ダンクの後ろからは勇ましい自警団のメテロ=メルシーやロドス=クアルドを先頭に団員達が魔物退治に乗り出していく。


その様子をエリシラを庇いながら、地面に倒れたイェンリンは呆然と見つめていた……


「―――イェンリン!エリシラ!怪我はないか!!」


倒れ込んだイェンリンを抱き上げ、続けてその下に庇っていたエリシラを抱き上げると、二人の無事を確認するダンクに、


「う、うん……大丈夫だよ……でも、どうして父さん達が、此処に?」


思いも寄らない救いの手にイェンリンは素直に疑問を問い掛けていた。


「最近、この木の実の森の結界が不安定になっているという話があってな。それで父さん達は調べに来たところでお前達を見つけたんだ。でも……間に合ってよかった……本当に」


そう告げながら、二人を強く抱き寄せるダンクの、落ち着く匂いに思わずイェンリンとエリシラの目に涙が浮かぶ。


「お、お父さん……こ、怖がったぁよぉ~!ウゥウウ!うわああああ!!」


耐え切れなくなったエリシラが、ダンクの首に飛びついて遂に泣き出した。


「そうか……でも父さんが来たから、もう大丈夫だ……大丈夫だぞ」


エリシラの頭を優しく撫でながら、イェンリンに微笑むダンク。


「……イェンリンもよくエリシラを護ったな。流石はお姉ちゃんだ」


「……ウウゥ……と、父さん……」


先ほどの二人の様子を接近しながら遠目に見て、イェンリンの叫びを耳にしていたダンクからの誉め言葉にイェンリンも遂に決壊して涙を流していた―――






―――フォレスト・ウルフは自警団の団員によって残らず討伐されていった。


そうして死骸を見聞するメテロは、


「おかしい……やはりこの辺り一帯の結界も殆ど効果を失っている……でも、どうして?」


森の周囲から感じる魔術結界の気配が殆ど感じられないことに疑念を抱く。


「それだと、どうなるんだ?」


その後ろで聞いていたロドスがメテロに問い掛ける。


「……この魔術結界は且つての魔術師がこの辺一帯に魔物が近づかないようにするための結界だった。それが働かなくなったんだ」


「するとコイツ等のような魔物がこの森にも出てくるようになるってことか……」


ロドスの言葉を聴いてメテロが立ち上がる。


「こうしてはいられないな……何とか結界の補強を魔術師に頼まないと、いずれは村にまで魔物が現れるぞ」


「確か村の周辺は、此処も含めて幾つかの魔術結界を組み合わせて護られているんだよな?」


「よく憶えていたな?その通りだ。一つ一つは小規模な結界だが、それを幾つも周囲に張ることで強い結界に仕立ててあった。仕掛けた魔術師は相当高位の魔術師だったんだろう」


「どうして大きな結界で覆っちまわなかったんだ?」


「大規模な結界になると、それだけ消費する魔力も多くなるんだ。そうなると長期間の設置には不向きになる。だから小規模な結界で輪を組むようにして、中心の村を護ってくれていたのさ」


そこまでメテロの説明を聴いて、顎に手を当てて考え込んだロドスは、


「それって他の魔術師でもすぐに出来るものなのか?」


浮かんだ疑問を口にした。


「それは……正直難しいだろう。それほどの高位魔術師をまず探すところから始めないといけないからな……」


「前途多難って訳かよ……」


溜め息を吐くロドスにメテロも同じ気持ちを抱いていた―――






―――子供達を連れて家に戻ったダンクは、


「カリオラ!―――カリオラはいるか!!!」


扉を開いて中に入るなりカリオラを呼ぶが、目の前のテーブルにはそのカリオラと隣のメイスン、ルメイ夫婦も一緒にいるのが目に入る。


「メイスン!ルメイも丁度良かった!!」


「どうしたの?ダンク、そんな大声で慌てて―――」


そう言いながら椅子から立ち上がったカリオラだったが、


「―――イェンリン!!!どうしたの!?その血は!!!」


頭から血塗れになっている姿を現したイェンリンにカリオラは卒倒しそうになり、メイスンとルメイも驚きの表情に変わる。


「怪我はしていないから安心してくれ。魔物の血を被っただけだから、身体を洗ってやってくれ」


「魔物の血を!?一体何があったというの?」


「詳しい話はイェンリンを綺麗にしてから話すよ。エリシラも汚れを洗ってもらいなさい」


イェンリンと手を繋ぐエリシラの姿を見て、服に土がついている様子に只事ではないと悟ったカリオラは、


「二人とも、綺麗にしましょう。お母さんと一緒に向こうへ」


努めて冷静に優しい言葉を掛けると、それに従う二人を連れて奥の井戸場へと向かっていった。


「一体何があったんだ?」


二人が連れていかれるのを見てから、その後ろに立っていたマルクを呼び寄せてメイスンが問い掛ける。


暗い顔で落ち込んでいるマルクの様子にルメイはすぐに駆け寄ると、


「何か、怖い思いをしたのね?でも、もう大丈夫よ……だから何があったのか、お父さんとお母さんに教えてくれる?」


子供の不安定な心理を感じ取り、優しい言葉で問い掛けた。


「今は二人ともマルクの傍にいて、もう少し落ち着くのを待ってやってくれないか?イェンリン達が戻ったら、全員で話をする」


その言葉にメイスンとルメイはマルクを挟む様にそっと抱いて、ダンクの考えに従うことにした。


そうして抱かれているマルクだったが、あの窮地で何も出来なかった自分の不甲斐ない姿を思い出して、奥歯を噛みしめ続けるのだった―――



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