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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第1章 運命の子

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動き出す王国

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―――フロンテ大陸北部ノルド



挿絵(By みてみん)



その西側に位置する国家、その名をカウスラー王国―――


その更に西にあるインディゴ公国との交易を盛んに行っており、北部ノルドの国家群の中でも繁栄の道を先に進む国でもある。


豪族として名を馳せたカウスラー一族が周辺豪族を飲み込み、迎え入れる形で生まれたカウスラー王国は歴史こそ浅くとも交易で得た富により、武装兵力を着実に増強させていた。


「―――首尾はどうだ?イカイオス」


そこは首都カイバヌスの街に築かれた城―――


―――パトリド城に設けられた王の執務室で、長い白髪にグレイの瞳をした豪華な王族衣装を纏う年老いた王ボードカリバン=カウスラーの問いだった。


「はい―――只今この城に一万の兵を揃えております。剣や槍、弓も一頻り取り揃えまして、いつでも派兵出来ます」


イカイオスと呼ばれた男は―――


―――カウスラー王国大臣イカイオス=セダンブロトである。


豪華な大臣の衣装を纏い、その蒼い髪を一つに纏めて緑の瞳をした妙齢の男が、ニヤけた顔で王に進言すると、


「そうか、よくやったぞ。一万の我が軍勢で次々に他国を攻め滅ぼし、この北部ノルドは儂のものとなる」


ボードカリバンは静かにそう呟くと、執務机の机上に広げられた北部ノルドの地図を見下ろす。


「まずは……此処からですな」


ボードカリバンの向かいに立ったイカイオスが指で指し示した場所は―――


「……ハリタス海洋自治領区……腰抜けの領主が治める程度のもの……国とも呼べぬ。すぐに攻め落とし、次の国への足掛かりとするぞ」


―――鋭く研ぎ澄まされた視線で貫くボードカリバンの言葉に、


「―――御意」


イカイオスは静かに一礼して背を向けて退室するのだった―――






―――ハリタス海洋自治領区


イェンリンの村では、ダンクが団長を務める自警団が交代で見回りを行って緊張感が日に日にましていった。


「……お父さん……今日も朝早くから出ていったね」


家のソファーに腰掛けた幼い少女エリシラ=ロッソは、向かいに座って眠そうにしている姉―――


―――イェンリン=ロッソに話し掛けた。


「そうね……父さんはこの村を護っている強い男だから、皆に安心してもらうためだって言っていたわ」


長い金髪に紅い髪の混ざったイェンリンの返事に、自分のブラウンの長い髪をクルクルと指で巻きながら、蒼い瞳を細めて唇を尖らせたエリシラは、


「でも、遊んでもらえなくて、面白くない……」


姉のイェンリンに幼心を吐露した。


「私だってそうよ……母さんは魔法薬のお仕事がいっぱいあるし、父さんも村の警備で忙しいって言われたら……邪魔なんて出来ないわ」


イェンリンもまた十歳になったばかりの少女である。


妹の面倒を見ているとはいえ、自分自身も親に甘えたい年頃だった。


しかし二つ年下のエリシラの前で、そんな弱音のようなものを吐く訳にはいかないとグッと小さな胸に仕舞い込んで日々を過ごしている。


そんな時―――


「お~い!いるかぁ?」


―――突然開いた玄関から顔を覗かせたのは、幼馴染であるマルク=ラジウムだった。


母親譲りの藍色の髪に、父親譲りの蒼い瞳をした少年はイェンリンと同い年の少年だ。


細身ではあるがイェンリンに負けず劣らずの体力のある元気な少年で、今日も二人を遊びに誘うために訪れたのだ。


「マルクじゃない?今日は何をしようって言うのよ?」


ソファーでだらけていたイェンリンが入ってきたマルクに問い掛けると、


「フフンッ♪ 今日は川の上流に行ってみようぜ♪ そこに色々と木の実の生る木がいっぱいあるんだ」


「へぇ~♪ 面白そうじゃない!」


期待していなかったマルクの提案が、意外にもイェンリンの男勝りな冒険心に火をつける。


「で、でも……森には魔物も出るんじゃない?勝手に行ったら怒られるよ」


エリシラは森が危険なことを言い聞かされてきたことを告げると、


「そこは大丈夫だよ♪ 前に父さんが言っていたけど昔、村にやってきた魔術師がその木の実の森だけ人が入れるように魔術を掛けてくれたんだって!だから今でもよく村の人がそこに行っているよ」


「そんなところがあったんだぁ!それなら安心だね♪」


マルクの話を鵜吞みにしたイェンリンはニシシ♪ と白い歯を見せて笑う。


「それなら……私も行きたい……」


姉のイェンリンと同じく兄のように慕うマルクの話で、楽しそうに盛り上がる二人を見てエリシラも羨ましくなり呟いた。


「よし!だったら二人は丁度良い革袋でも用意してくれ。こんな感じの♪」


そう言って自分の腰にぶら下げた膝くらいまで届きそうな革袋を見せる。


「父さんの革袋があるわ!獲物を獲ってから革を使ってメイスンおじさんに色々作ってもらっているのがあるから」


マルクの父親メイスン=ラジウムが職人としてダンクが獲った獲物から取れた革を使い、様々な革製品を作っては色々と貰っていたことを思い出したイェンリンは、ソファーから立ち上がる―――


―――そして隣の部屋を抜けて奥の物置部屋に向かうと、


「―――あった!」


何かを見つけた声を上げて戻ってくると、その肩から革の肩掛け鞄を下げており、そして一回り小さな革鞄をエリシラの肩に掛ける。


「これなら一杯持って帰ってこられるね♪」


鞄を下げたまま、その場でクルッと回って見せるイェンリンの可愛らしい笑顔に、マルクは一瞬ドキッと胸が高鳴った。


「どうしたの?……行かないの?」


少し顔を赤くしたマルクを不思議そうに見ていたエリシラの声で、ハッと正気に戻ったマルクは、


「お、おう!―――それじゃあ行こうぜ!!/////」


そう言って玄関を飛び出すのだった―――






―――丁度イェンリン達が家を出た頃


「―――どうだ?メテロ。そっちの様子は?」


村の周囲を警戒していた一団の中から、メテロと呼ばれた若い男に問い掛けるのはダンクだった。


「……やっぱり此処もですね……こうなっては街に行って魔術師に結界の再設置を依頼した方がいいレベルですよ」


金髪に蒼い瞳をした自警団の団員メテロ=メルシーがそう答えると、


「お前がそう言うなら、きっとそうだろうな。俺とカリオラも魔術は使えなくはないが、二人とも結界魔術には疎くてな……すまん」


その時ダンクの脳裏には魔術の大家にして様々な結界魔術にも知識のあったフーリンの姿が思い浮かぶ……


「―――別に団長のせいじゃありませんよ!それに……最近のカウスラー王国の話を聞くと、小さな結界でも気になるものです」


先頃よく耳にする隣国のカウスラー王国で軍事行動が活発になっているという話を持ち出した。


「ああ……俺達の村はそこまで大きい訳じゃないが、首都に近いことは危険の度合も増す。この村の皆には安心して過ごしてもらいたいからな」


ダンクにとってはカリオラと共に移住した際、皆で良くしてくれたこの村を護りたい思いは家族と同じくらい大切なことだった。


すると突然横から顔を出した男が―――


「―――だけど本当に危ないなら、村から逃げた方がいいんじゃないです?」


―――良いことを思いついたと言わんばかりに得意気な顔で告げる。


「そうは言ってもな、ロドス。俺達の村には老人、子供も多いんだ。それに、村の全員が逃げて過ごせる場所なんてどこにある?」


「そう言われると……確かに思いつかないや!」


もう一人の若い自警団の団員ロドス=クアルドは、赤い髪を掻きむしりながらブラウンの瞳を見開いていた。


この二人はフーリンからイェンリンを預かった頃に自警団に入団して、当時は何度も生傷の絶えない半人前だったが十年の時が経ち、既に自警団の中でも実力を示すだけの力と判断力をつけるまでになっていた。


あれからメテロは魔術系統の能力が長けていることが分かり、ダンクやカリオラから手解きを受けて魔術を身につけたことで役に立つようになった経緯がある。


こうして村の彼方此方に設置された結界魔術の効果を感覚で測定し、その効果の薄れているところを見分ける力があった。


もう一人のロドスは典型的な戦士で、今や自警団の中ではダンクの次に実力を持つまでに成長していた。


野獣や魔獣、魔物の襲撃にはメテロの魔術と連携した攻撃で多くの獲物を葬ってきたのだ。


十年の歳月はイェンリンだけではなく、この若者達のことも成長させていた。


「団長。今日はあともう一箇所、木の実の森の結界も調べておきたいのですが?」


「う~ん……」


そこでダンクはここ暫く愛しい娘達と遊んでやっていないことを考えていた。


「またイェンリンとエリシラのことを考えているんでしょう?まったく……いつになったら子離れ出来るのやら……」


「―――うるせぇ!いいぜぇ!子離れしてやろうじゃねぇか!!」


そう言い放つとダンクは木の実の森がある方向へ向かっていく。


「ハァ……」


「イヒヒッ♪」


その背中を見つめてメテロは溜め息を吐き、ロドスは無理するなと言わんばかりの笑い顔を見せながら、それでも残りの自警団を連れてダンクの背中を追うのだった―――






―――木の実のなる森


村を流れる小川の上流に向かっていくと、子供の足でも程なく森が見えてくる。


そこから更に森の中に入ると、木陰で薄暗くなっているが晴天で陽の光が彼方此方に差し込み、拓かれた道は剥き出しなった土で歩きやすい森となっている。


「父さんに教えてもらったんだけど、此処の森の木の実は季節に関係なく実がなるらしい」


マルクが並んで歩くイェンリンとエリシラに向かって得意気に話す。


「へぇ~♪ でも、どうしてなの?」


その話に興味と疑問を抱いたイェンリンが問い掛ける。


「この森に魔術を掛けた魔術師が、そんな風に魔術を掛けてくれたらしいぞ。だから村の人にも喜ばれているんだって」


「魔術師って凄いね……私も魔術使ってみたいな」


歩きながらエリシラがそう告げると、


「私は魔力が少ないって母さんに言われたけど、エリシラはかなり魔力を持っているって言っていたから使えるようになるわ!そうしたらこの村の役に立つ魔術でババンッ!と魔物なんてやっつけちゃえるよ♪」


「そんなこと……出来るのかな?でも……出来たらいいな♪」


普段は大人しいエリシラもイェンリンの話を聞いて期待に満ちた笑みを浮かべる。


そんな会話を楽しみながら進んでいくと、


「―――この辺りがよさそうだぞ!」


マルクがそう言って二人に振り返ると、その背後にある、イェンリンとエリシラの見開いた瞳に映ったのは季節に関係なく実っている沢山の木の実だった―――



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