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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第1章 運命の子

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紅の邂逅

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―――イェンリンがダンクとカリオラの元に来てから、


「だぁ~♪ だぁ~♪」


早くも二カ月が過ぎた頃―――


「うん♪ 御機嫌ね♪ 今日もイェンリンはとってもいい子ねぇ♪」


カリオラは袂に大きな籠とその中にクッションを用意して、そこへイェンリンを寝かせながら魔法薬の作成を行っていく。


この村で魔法薬を作れる魔術師はカリオラだけで、その効き目も相当な効果を生むことが評判になって村の外からも買いに来る者がいるほどになっていた。


主に『回復薬』を主体にして、他にも『疲労回復薬』といった身体の疲労を取る魔法薬、そして緊急時の対応用に『解毒薬』や『傷薬』も作っていくカリオラの様子を、当然その作業の理解はしていないが楽しそうに見つめるイェンリン。


そこへ扉が開くと―――


「ただいま。今日は畑を荒らしていた大猪をやっと仕留めたよ」


メイスンが家に入ってくるなり今日の狩猟の成果をカリオラに伝える。


「そうなの!?誰も怪我をしていないの?」


その話を聴いてカリオラはまず村人の安否が気になっていた。


「ああ、ロドスとメテロが掠り傷を負った程度だったよ。それも常備していた薬で間に合う程度だったから心配ない。また薬を買いに来るだろうから、その時はよろしく頼む」


「そうなの……ロドスとメテロは危なっかしいわね。いつも率先して怪我している気がするけど」


「ハハハッ!自警団は若手が前衛をこなして経験を積んでいくからな。俺だって最初は怪我が絶えなかったよ」


「そうだったわね。ダンクも散々に私の薬の世話になっていたものね」


「そうだったな。でも、そのおかげで今も元気に生きている!」


「だあ~!だう~♪」


ダンクの声にイェンリンも思わず笑いながら声を上げる。


「おお~♪ イェンリンも分かってくれるのかぁ♪ ああ~本当にうちの娘は世界一可愛いなぁ~♪」


すっかり親バカになってイェンリンを優しく抱き上げるダンク。


「ばう♪ だぁう♪」


「おお~♪ そうか!父さんと散歩がしたいのかぁ♪」


「もう!イェンリンがそんなこと言っている訳ないでしょう♪ もうすっかりデレデレなんだから」


カリオラの声はどこ吹く風でイェンリンを抱き上げながら扉を開けて表に出るダンク。


その後をカリオラも追って涼しい風が吹き抜ける表に出て、魔法薬作りの合間の気分転換をする。


「んん~!ハァ~♪……風が気持ちいいわね♪」


背筋を伸ばして精密さが必要な薬作りの緊張を解したカリオラ。


イェンリンを抱きながら、蒼い空を見上げて共に風を感じるダンク。


ダンクに抱き上げられながら、その空を見上げるイェンリンは小さなその手を空に伸ばして、


「だぁ~う!ぶう~!だぁ~う!」


何かを掴もうとするような仕草を繰り返す。


「どうした?イェンリン……何かあるのか?」


「虫でも飛んでいたのかしら?何も見えなかった……あれは……ダンク……あれを見て!」


突然驚きの声を上げて空を指差すカリオラに、ダンクもその空を見上げた時―――




―――その身は真紅の鱗に包まれた巨大な体躯、


―――その額には二本の太く立派な角を生やしたそれは、


―――巨大な翼を生やして大きく羽ばたき、真紅の鱗を太陽に反射させる神々しい姿を知らしめる。




「―――あれは……まさか……紅神龍!」


その姿を見上げたダンクがその存在の呼称を口にする。


「あれが!?この北部ノルドを縄張りにしているという……」


「―――クリムゾン・ドラゴンだ……だが、ハリタスの上空に現れることは殆どないと聞いていたけど、本物を目にすることが出来るなんて幸運かも知れないな」


「そんなこと言って……本当に大丈夫なの?突然降りてきて襲ったりしない?」


初めて紅神龍クリムゾン・ドラゴンを目にしたカリオラは恐怖を顔に浮かべていた。


「大丈夫だよ。四大神龍様は人の言葉を操り、その叡智は神に近い存在だと言われているくらいだ。それと此方から危害を加えない以上は無闇に人を襲うことなどないという話だ」


「そうなのね……でも、本当に綺麗なドラゴン……」


空を滑空する紅神龍の陽の光を反射させる輝く鱗の美しさに、カリオラは思わず見惚れていた。


「どぅ~♪ ばぁぶ~♪」


ダンクに抱かれながらイェンリンは、紅神龍を掴むように小さな赤子の手を伸ばして紅い瞳を見開いて何かを言っているようだった。


その時―――


「ッ!―――ダンク!?」


―――突然、空を飛んでいた紅神龍が長い首を此方に向けて旋回すると、地上に向かって滑空してくる様子を見てカリオラがダンクに呼び掛ける。


「まさか!?―――でも、こっちに向かってくる!!」


此方に襲い掛かってくる心算なのかと警戒するダンクだったが、紅神龍は途中まで降下してから再び地上と並行して飛び始めた―――


―――しかしその真紅の眼は地上のイェンリンをギロリと睨むと、


【……】


「ッ……今の……見たか?カリオラ」


「……ええ……見間違いじゃなければ……ドラゴンが、笑っていたわ……」


確かに紅神龍クリムゾン・ドラゴンがイェンリンに向かって、その大きな口元の口角を上げて笑みを浮かべたように見えたのだ。


「ばぁ~ぶぅ♪ だぅ♪」


その紅神龍に向かって、その姿が空の果てに消えるまで見つめ続けているイェンリンをダンクとカリオラはいつまでも見守っていた―――






―――そして、


紅神龍クリムゾン・ドラゴンとの邂逅から十年の歳月が流れていき、


「―――イェンリン!どこに行ったの~!!」


ハリタス海洋自治領区の小さな村は、この十年で開拓と発展を遂げて此処に移り住む世帯も増えていた。


「イェンリン!―――どこなのぉ!!」


そして家の前ではカリオラの少し怒気を帯びたイェンリンを呼ぶ声が響いていた。


「……お母さん、呼んでいるよ?―――お姉ちゃん」


「シィー!静かにしてエリシラ!母さんに見つかったら、二人で摘まみ食いしたことを怒られるわよ」


「アウッ……それは、ヤダ……」


離れの建物の影でそっと顔を出してカリオラの様子を伺っているイェンリンに、エリシラと呼ばれたのはダンクとカリオラの間に生まれた二つ下の妹だ。


十歳になったイェンリン=ロッソは、今では父ダンクの影響を受けて男勝りな性格になっていた。


八歳の妹エリシラは母に似て女の子らしい性格の子に育っていた。


「そもそも父さんが自警団の見回りで畑を荒らしていた鹿を獲ってきたのが悪いのよ」


「お父さんの所為にして……お母さんに言ったら怒られるよ?」


「そこはエリシラが、どうしても食べたいって言ったからってことにするわ」


「ええ……私のせいなの?……無茶苦茶だよ……」


辟易とした顔をするエリシラだが、イェンリンと姉妹になってから物心ついた時にはもうこんな感じだったため、今更驚きもしない。


「母さんはエリシラには甘いから、きっと許してくれるわ!」


「それはお姉ちゃんが悪戯ばっかりするから……あっ」


そこで何かに気がついた顔に変わるエリシラを見て、イェンリンの背後に冷たい空気が立ち込めてゾクゾクとした感覚が走る。


「―――此処にいたのねぇ~♪ 二人とも……ちょっと訊きたいことがあるから、一緒に来なさい……」


離れの壁の角からヌッと顔を覗かせたカリオラは、笑っていてもその眼は完全に闇を抱えたもので有無を言わせない気迫を感じて、イェンリンも降伏するしかなかった……


そして母屋に連行されるイェンリンとエリシラ。


「―――それで?昼食を摘まみ食いしたのはどちらかしら?それとも二人ともなの?」


腰に両拳を当てて、胸を張って怒った顔を見せるカリオラに、ビクッと身体を震わせたエリシラを見てイェンリンが前に出る。


「―――摘まみ食いしたのは二人だけど、やろうって言ったのは私よ!!」


「お姉ちゃん……」


―――イェンリンはいつもそうだった。


口ではエリシラに罪を着せるようなことを言いながら、結局最後には自分で素直に申告するのだ。


エリシラはそんな姉のイェンリンが好きだった。


怒られることを覚悟してグッと奥歯を噛んだイェンリンを見下ろしながら、


「……ハァ……本当にお転婆ね。イェンリンは誰に似たのかしら?お腹が空いたのなら、お母さんに言いなさい」


溜め息を吐きながらも結局は許してしまう。


「……だって、母さん今は自警団から頼まれた魔法薬の仕込みで忙しいでしょう?」


「そんなことを気遣ってくれていたの?でも、それで摘まみ食いしていたらダメでしょう」


カリオラはそう言ってイェンリンの長い金髪に紅いメッシュの髪が混ざる頭をそっと撫でる。


「―――父さんのお昼が減るだけだから、大丈夫♪」


「いやダメでしょ……お父さんが泣くわよ?」


「父さんは強いから泣いたりしないよ♪ それに足りない分は私が作るわ!」


「貴女はまだ料理出来ないでしょう?でも、憶えたいって言うなら教えてあげてもいいわよ♪」


「ホント!?やったぁ♪ それじゃあ、まずは鹿肉のローストと~♪」


「―――いきなりレベルの高い料理を選ばないの!」


いきなりハイレベルな料理をチョイスしようとするイェンリンを諫めるカリオラ。


「いいなぁ……お姉ちゃん」


「あら?エリシラも料理憶えたいの?」


「うん!お姉ちゃんと一緒に憶えたい!」


笑顔を向けてカリオラに伝えるエリシラを見て、


「ダメダメ!エリシラはまだ小さいから、包丁なんて危ないよ!」


お姉ちゃんとして刃物を持つことを引き留めるイェンリンにジト目を向けたエリシラは、


「私……偶にお母さんの御手伝いで野菜とか切っているよ?」


実はイェンリンよりも先に料理を覚え始めていることを告白した。


「なにぃ~!!ズルい~!いつの間にそんなことやっていたの?」


「お姉ちゃんがマルクと遊びに行っていない時とか?」


近所のメイスンとルメイ夫妻は今でも家族ぐるみで仲良くしている。


そしてその息子のマルクとイェンリンは同い年の子供ということもあり、物心ついた時から二人で遊ぶことが多く、エリシラが大きくなってからは三人でも遊ぶ仲だった。


「―――マルクのせいね!」


「いや勝手に家を飛び出してマルクと夕方まで帰ってこない貴女のせいでしょう」


イェンリンの他責にカリオラは呆れた表情で言い放つ。


そんな時に家の扉が開くと、そこには昼食を食べに戻ってきたダンクがいた。


「父さん♪」


「―――お父さん♪」


ダンクの姿を見てイェンリンとエリシラが駆け寄っていく。


「おお~♪ ただいま!愛しの娘達よ♪」


そんな愛らしい娘二人にダンクもデレデレと表情を崩して答えた。


「お帰りなさい……どうだったの?」


そこへカリオラが近づくとダンクの表情を伺うように問い掛けた。


「ああ、ただいま。どうやら―――戦は避けられないようだ」


「ッ!……そう、なのね。それで……村長は何と?」


不安な表情で問い掛けるカリオラにダンクは笑みを浮かべて、


「大丈夫だ。この村から従軍する気はないと皆の考えは決まったよ。俺とメイスンと、あと何人かの長が反対の意思を示したから、全員が賛同してくれた。勿論、村長も」


―――あれからダンクは自警団の団長になっていた。


近所つき合いのメイスンも村の人が増えたことで、職人達を纏めて職人集団の団長をしている立場になっていた。


「そう……それなら良かったわ」


それを聞いてカリオラも漸く胸を撫で下ろす。


「ねえ?いくさって何?」


二人の会話から始めて聞く言葉に興味をもったイェンリンがダンクに問い掛けるが、カリオラと顔を見合わせて困った顔を見せる。


「そうだなぁ……簡単に言うと、大人の喧嘩かな」


「へぇ~大人なのに喧嘩するの?」


この村で知っている大人達が良い人達ばかりのため、争っているところを見たことがないイェンリンは首を傾げる。


それに続いてエリシラも首を傾げていく。


可愛い二人の娘のそんな可愛らしい様子に、ダンクは思わず逞しい腕で二人を抱き上げる。


「きゃあ~♪」


「たかい~♪」


嬉しそうな声を上げたイェンリンとエリシラの笑顔を見て、ダンクとカリオラも互いに笑みを浮かべた。


―――しかし、


そんな幸福な日常が間もなく崩れ落ちようとしていることは、彼女達の誰もが知る由もないことだった―――



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