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紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第4章 王国激動編

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父母の幻影

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―――実家に戻ってきたイェンリンは、夜が近づくにつれて乗ってきた馬車を拠点として曳いてきた馬を休ませ、餌と水を与えて、次に自分達の食事をする。


この中でもアルヴィトは特に料理も得意であり、旅に出てからの担当はほぼ彼女が請け負っていた―――


「相変わらずアルヴィトの料理は美味しいねぇ♪」


ゴンドゥルがスープを口に運びながらアルヴィトへ伝える。


「ありがとうございます」


「流石は『全知』ね」


「それは関係ないです」


イェンリンの声には即否定され、


「えぇ……」


と思わず唖然としたイェンリンにアルヴィトは少し微笑みながら、


「料理は昔からスルーズに教えてもらっていたのです」


紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》第六位

―――『強き者』スルーズ


『紅神龍の料理番』でもある彼女の腕は、イェンリンも十分味わって知るところだ。


「スルーズの料理って本当に美味しいわよね♪ でも、通り名が『強き者』っていうのは、やっぱり強いの?」


三人にスルーズのことを問い掛けるイェンリンを見て、三人が互いの顔を見合わせる。


「スルーズは普段の料理をしているところを見たら、見たままに料理人って思うだろうけど、包丁からその手に紅蓮大剣=『赤壁《せきへき》』を握れば一眼鬼《サイクロプス》だろうと、ミノタウロスだろうと一刀両断だよ」


「そんなに……やっぱりスルーズも紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》なのね」


ゴンドゥルの話を聞いてイェンリンは疑うことなく納得していた。


「スルーズはランドグリーズと共に紅龍城を守護する最後の砦だ。紅蓮様の御傍にあの二人がいれば、突破出来る者などこの世に存在しないさ」


ブリュンヒルデの話にイェンリンは再び納得してしまった。


「但し他の神龍様の眷属が攻めてきた時は、どうなるか分からないけどねぇ~」


「―――ゴンドゥル!滅多なことを口にするな」


ゴンドゥルの軽口を聞いてブリュンヒルデが窘める。


「えっ?他の神龍と紅蓮は仲が悪いの?」


他の神龍達に会ったことがないイェンリンは、まだ見ぬ大きな存在に畏怖を感じていた。


「いや、今まで争ったことなんてないよ。それに神龍様達はそれぞれの縄張りに対して不可侵となっているからね」


「そうなんだ……それなら紅龍城に攻め込める相手なんていないんだ」


「そういうことだよ♪ ヴァーミリオン皇国の全兵力で紅龍城に攻め込んだとしても、半日ともたないだろうねぇ……皇国軍の方が」


「そう聞くと、とんでもない話よね……」


ゴンドゥルの洒落にならない予測を聞いてイェンリンの顔が歪んでいた。


「さあ!今夜はもう休むとしよう。見張りは交代で私達がやるよ」


「私も見張りに立つわよ!皆にばかり負担を掛けたくないの」


イェンリンの言葉にブリュンヒルデとアルヴィトを見たゴンドゥルだったが、少し困った顔を二人は浮かべたものの反対することはなかった。


「分かった。だったら一番に立ってもらおうか。三時間くらいで交代としよう」


こうして馬車の外に起こした焚火に当たってイェンリンが見張りの当番に立った。


一人になったイェンリンは『索敵』を発動させながら、周囲に不穏なものが近づかないかを確認する。


パチパチッと燃え盛る焚火に薪をくべて、火を絶やさないように気をつけながらこれからのことについて考えていた。


(エリシラとマルク……あれから七年経って、此処には人が手を加えた様子がなかった。つまり二人は此処へ帰ってはきていないのね)


実家に戻るまでの道なりに見えたところには、且つてのゴルゴダ村だった荒廃した家が崩れ落ちている景色しかなかった。


つまりエリシラ達が自由になり、戻って来られたのなら何かしらの変化が見られるだろうと考えたのだ。


そうして一時間―――


―――更に一時間と時間が過ぎた頃、


「……」


イェンリンは強い眠気に襲われて、身体が船を漕ぐように揺れていく……


辺りは夜霧に覆われていき、少し前方も視界が利かないほど濃く立ち込めてきた。


するとその時―――


「……」


誰かがイェンリンを呼ぶ声を耳にしたような気がした。


「……リン」


「……ッ」


意識が眠気に覆われそうになっていたイェンリンの耳にそれが届き、思わず意識が覚醒してしまう。


「誰?今……私を呼んだの?」


暗闇の中で焚火の明かりに照らされていたイェンリンは、道の向こうの暗闇を睨みつけるが『索敵』には何一つ反応が浮かばない。


(……『索敵』に映らないってことは……やっぱり気のせいなの?)


不信感はぬぐえないが、『索敵』に映っていない以上は何も存在しないとしか思えない。


しかし再び、


「……イェンリン」


「―――ッ!」


今度はしっかりとイェンリンを呼ぶ声が耳に届く。


しかもその声は―――


「……母さん?」


―――忘れるはずもない最愛の母の声だったのだ。


すると道向こうの暗闇の中から、夜霧を纏う様にして死んだはずのカリオラがそこに姿を現したのだった―――






―――暗闇の中から夜霧を纏う様にして現れたカリオラ。


「―――母さん!」


その懐かしい姿にイェンリンは思わず立ち上がる。


するとカリオラの後ろからもう一人が姿を現すと、


「そんな……父さん……」


そこに現れたのはダンクだった。


カリオラと同じく夜霧を纏う様に姿を現し、二人とも生前のままの姿をしていたが、顔色は青白く生気が感じられない。


「父さん……母さん……無事だったの?」


その二人が纏う妖しい気配よりも、目の前に再び現れた両親にイェンリンの胸は張り裂けんばかりに高鳴り、瞳には涙が溜まっていく。


「ごめんなさい……」


するとカリオラが突然イェンリンに謝罪した。


「何を……謝っているの?」


その謝罪の意味が分からないイェンリンに、今度はダンクが口を開く。


「お前を一人にさせてしまって……さぞ苦しかっただろう……辛かっただろう……そんな思いをさせてしまってすまない」


「何を言っているの!そんな……確かに辛いことは沢山あったけど、でも!今こうして二人に会えて私は幸せよ!!」


辛そうなダンクの表情を目にしただけで、イェンリンの瞳から涙が決壊して頬を伝う。


「もう……何も心配しなくてもいいわ……イェンリン」


「……えっ?」


カリオラの言葉の意味が分からないイェンリンにダンクが語り掛ける。


「父さんと母さんと……これから一緒に行こう……エリシラも待っている……」


「エリシラ!?エリシラが見つかったの!!」


ダンクの口から飛び出したエリシラの名にイェンリンは胸が高鳴った。


「お前を待っているんだ……さあ、一緒に行こう……イェンリン」


「……父さん……うん」


伸ばされた父の手に、自らの手を伸ばして触れようとした時、


「―――《死者浄化《ターン・アンデッド》》!!」


そのイェンリンの背後から強烈な眩しい光がカリオラとダンクの二人を包み込む。


【キャアアアアア―――ッ!!!】


【ウゴオオオオォ―――ッ!!!】


するとその光に包まれた二人の身体に、まるで蒼白い炎が立ち昇るように燃え上がり苦しみ藻掻きだす。


「アァアアアァ!―――父さぁん!!母さぁん!!!」


その光景を目にした瞬間、イェンリンは二人の最期を看取った時のことが脳裏に甦る。


そして二人を助けようと傍に駆け寄ろうとしたイェンリンの腕を掴んだのはブリュンヒルデだった。


「どこへ行く?イェンリン」


「―――離して!!ブリュンヒルデ!!!父さんと母さんがぁ!!!」


強引に腕を振り払おうとするイェンリンだが、ブリュンヒルデの拘束は解けない。


「よく御覧なさい……あれは彷徨霊《レイス》です」


そう告げたのはアルヴィトだった。


「……彷徨霊《レイス》……そんな……」


視線を両親に向けると、ゴンドゥルの放った光属性魔術によって身体が崩れ落ち、姿が変わっていく様子をジッと見つめる。


【おのれぇえええ!!!もう少しだったのにぃ!】


カリオラの姿だった彷徨霊《レイス》が恨みがましい声を上げる。


するとダンクの姿だった彷徨霊《レイス》が叫ぶ―――


【イェンリン!お前のせいで村が滅んだんだぁ!!】


「……えっ?……私のせい?」


身に憶えのない言葉にイェンリンは唖然としてしまう。


「彷徨霊《レイス》の言葉に耳を傾けてはいけません!!!」


アルヴィトがイェンリンに向かって叫び声を上げるが、その彷徨霊《レイス》の言葉は止まらない―――


「―――お前を預からなければ!!こんな最後を迎えることはなかったのにぃ!!!」


「私を……預かる?……何を……」


「もう聞くんじゃない!!!―――消え去れぇええ!彷徨霊《レイス》!!!」


ゴンドゥルが魔力を更に上げて、強烈な《死者浄化《ターン・アンデッド》》を放つ。


【GYAAAAAAッ!!!】


【GUHOOAAAッ!!!】


その輝きに全身飲まれていくと、彷徨霊《レイス》は跡形もなくその場から消滅していった……


しかし彷徨霊《レイス》の口にした言葉がイェンリンの頭の中で駆け巡り続けている。


「……私を……預かる……預かった……誰から……」


その場に立ち尽くして、ブツブツと口走るイェンリンをゴンドゥルは心が痛々しい者を見る苦悶の表情を浮かべる。


「どういうこと?……私は……父さんと、母さんの……本当の子供じゃ―――」


「―――イェンリンはダンクとカリオラの娘だよ!」


イェンリンが言ってはいけない言葉を口にし掛けた時、堪らずにゴンドゥルが言葉を遮った。


「で、でもさっきの……」


「あれはダンクとカリオラじゃない。彷徨霊《レイス》という魔物だ。彷徨霊《レイス》はあのように人の心を乱して、自分達の仲間にするために死へ引き摺り込む。ヤツ等の言葉を決して受け入れてはいけない」


ゴンドゥルは言い聞かせるようにイェンリンへ説いていく。


「そう……なのね……」


「ああ、そうだよ。ダンクとカリオラがお前を命懸けで護った……それが何よりの真実だ。そのことを決して忘れてはいけない。それが二人の尊厳を守ることになるんだ」


「うん……惑わされてしまって、ごめんなさい」


謝罪するイェンリンの肩にブリュンヒルデが手を置くと、


「見張り交代の時間だ。次は私が見張っておくから、イェンリンは馬車の中で少し休め」


優しい声でイェンリンに休息を促した。


「ありがとう……そうさせてもらうわね」


少しふらつくように歩きながら、イェンリンが馬車に入っていくのを見守るブリュンヒルデ達。


イェンリンが馬車の扉を閉めると、


「……クソ……彷徨霊《レイス》をもっと警戒しておくべきだった」


静かにゴンドゥルが後悔の念を吐露した。


「仕方がない。そのことに私達も気がついていなかったのだ。ゴンドゥルだけの責任ではない」


「……彷徨霊《レイス》はイェンリンの両親とは違う存在の魔物でも、此処で亡くなった二人の記憶を読むことは出来ます」


アルヴィトの言葉の意味は、その地で喪われた魂の記憶を読み取り、その地や人に縁のある者が近づくとその姿を模倣して惑わせ、最後に命を奪って仲間にすることが目的だという意味だ。


「だからこそだ!……ダンクの姿をしていた者から、決して告げてはいけない言葉だった……イェンリンのことを知っていた私の落ち度さ」


ゴンドゥルは生前のダンクとカリオラに、イェンリンの出生について話したことがある。


そのことを知っていたのに、彷徨霊《レイス》如き低級の魔物を近づけ、イェンリンを傷つける言葉を聞かせたくはなかった。


「今はもうこの先のこと、今後のことを対策するしかない。彷徨霊《レイス》の言葉はその殆どが仲間に引き込むための嘘だ。そのことをイェンリンには言い聞かせよう。それにこの地を離れたなら、他の土地で現れる彷徨霊《レイス》は他人の霊でしかない」


「ああ……だけど彷徨霊《レイス》には注意しておくよ。何を言い出すのか分かったものじゃない」


ブリュンヒルデの提案にゴンドゥルは更に警戒することを誓う。


「明日はお墓を作ると言っていましたね……まずはそれを手伝って、あの子の気を紛らわせるように気を配っておきましょう」


アルヴィトの言葉に二人も頷いていた―――



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