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紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第4章 王国激動編

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四人の旅

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―――ゴンドゥルの屋敷に到着したイェンリン達。


屋敷の中に入るとゴンドゥルからは客間を利用するように伝えられて、イェンリンは幼い頃に泊まった憶えがある部屋へと向かう―――


「……あの時とまったく変わっていないわ」


そこには天蓋付きのベッドに壁には価値の高そうな絵画や、部屋の隅には同じく高そうな花瓶や壺まで配置されていた。


記憶の思い出のままに甦った部屋に、イェンリンの胸には郷愁が広がっていく。


するとそこへ扉がノックされる音が響く―――


「―――こんばんは♪ 夜遅くまで起きている悪い子がいないか、魔術師のお姉さんが見回りにきたよぉ~♪」


―――扉から現れたゴンドゥルは、あの日の夜に幼いイェンリンを訪ねてきた際の言葉をそのまま伝える。


するとイェンリンはキョトンとした表情を浮かべていたが、


「あら♪ 私の村だと、このくらいの時間にはまだ眠らないわ♪」


微笑みながら、あの時ゴンドゥルへ答えた言葉を返していた。


「懐かしいねぇ♪ 今夜は何の話をしようか?」


「話をするのも良いけれど、まずはお腹が減ったわ……」


そう言って腹を押さえるイェンリンの様子を見て、ゴンドゥルは思わず吹き出した。


「プフッ!―――確かに夕食がまだだったねぇ♪ 今ブリュンヒルデとアルヴィトが食事を準備しているわ」


「ゴンドゥルは手伝わないの?」


するとゴンドゥルはドヤ顔を見せると、


「夕食にヤモリの黒焼きやカエルの足が入っていてもいいのなら、手伝わなくもないわよ?」


胸を張って答える。


「ウェェ……物語の魔女みたいな料理はやめてね……」


そう言ってイェンリンは顔を顰めていた―――






―――夕食を終えて部屋に戻る前に、


「御馳走様!とっても美味しかったわ♪」


夕食を用意してくれたブリュンヒルデとアルヴィトに礼を述べる。


そして明日からの予定を話し合う四人―――


「―――明日にはコノ村に到着する予定だが……此処は一気にアノ村まで向かうのはどうかと思う」


―――そう告げたのはブリュンヒルデだ。


「理由を訊いてもいい?」


イェンリンはブリュンヒルデの提案について詳細を求めた。


「このメイローズの入場料からしても、村に一々立ち寄っていると余計な出費が重なる。スクルドのヤツから支給された旅の資金はそれほど多くはない……」


「ああ……スクルドが言っていたわね……」




『―――資金が無くなったら自前で稼げ』




イェンリンはスクルドの言葉を思い出して、『紅神龍の金庫番』と呼ばれる由縁を垣間見た気がした。


「今は良いが、この先のいつまで掛かるか分からない旅路で毎回あんな入場料を払うのは馬鹿らしい……だったら夜中も馬車を進めて目的地へ早く到着した方がいい」


「でも、夜中ずっと馬車を走らせるなんて……大変じゃない?」


夜中ずっと走りっ放しなどと、休む間もなく進めるのは有難いが馬車を操る側も疲労が溜まると考えたイェンリンは不安そうに問い掛けた。


「勿論だが馬も休ませねばならない。だからその際には野宿となるが、距離は稼げる」


「それなら……ブリュンヒルデの提案に賛成するわ」


イェンリンが賛同すると、


「私も別に構わないよ♪」


「私も反対する意見はありません」


ゴンドゥルとアルヴィトも同意した―――


―――こうして明日からはゴルゴダ村まで強行する道を選び、今夜は休むことにする。


部屋に戻ったイェンリンは部屋の窓から空に浮かぶ月を見上げて、


「エリシラ……マルク……やっと帰ってきたよ」


哀しげな表情を浮かべながら、独り呟くのだった―――






―――翌日


ゴンドゥルの屋敷を冒険者風の服装でゴンドゥル、ブリュンヒルデ、アルヴィトが揃い、イェンリンはいつものコートを羽織る姿で出発する。


イェンリン達を乗せた馬車はメイローズの街を出て、ゴルゴダ村に向かって街道を進んで行く。


天気も快晴が続いて、窓の外に広がる自然豊かな景色を眺めるイェンリン。


途中で食事と馬の休憩を取りながら、次のコノ村の手前で分かれ道に差し掛かるとブリュンヒルデは道をコノ村方面とは別の道へと進む。


その道はコノ村を通り過ぎて次の村―――


―――アノ村へと続く街道だった。


そしてコノ村を回り込むように進み、アノ村に通じる街道に戻った馬車は更に道を進んで行った―――






―――アノ村へ到着する手前にある森で休息を取り、夕食をそこで済ませると、


「……ブリュンヒルデ」


徐にアルヴィトがブリュンヒルデの名を呼ぶ。


「ああ……気づいている」


そう答えたブリュンヒルデが立ち上がると同時に、イェンリンも立ち上がった。


「―――それなりの数が近づいているわね」


イェンリンは『索敵』の範囲で反応を示している方向を睨みつけた。


「丁度いい食後の運動になりそうね」


そう告げると『収納』から紅蓮剣=業炎を取り出し、右手で柄を握りしめる。


「―――私は後方支援しておくよ~♪」


周囲に怪しい気配が近づいているにも関わらず、ゴンドゥルは気の抜けた声でそう告げた。


「私は二人の後ろで遊撃の役目を果たします」


アルヴィトは先鋒に立つイェンリンとブリュンヒルデに対し、後方のゴンドゥルとの間で臨機応変な対応を約束する。


その間にも怪しい気配が数を増していき、『索敵』の」反応は数え切れないほどにまでなっていた。


「―――来るぞ!」


ブリュンヒルデの声と同時に、森の茂みから飛び出した影は―――


「ゴブリン!!」


―――人族とは異色の薄緑の肌をした小柄で醜い笑みを浮かべたゴブリンの群れが一斉に襲撃してきた。


その手に錆びた剣や短い槍―――


―――棍棒や革の盾の手にしたゴブリンの群れが次々と茂みの中から此方へ襲い掛かってきた時、


「―――フンッ!」


イェンリンは手にした業炎を横一閃に薙ぎ払い、その斬撃は宙を掛けて迫りくるゴブリン達の首や顔面を簡単に切断する―――


―――ブリュンヒルデは冒険者風の装備に用意した鋼鉄のロングソードを抜くと、イェンリンと同じく『真空刃(ホロウ・ブレイド)』を繰り出してゴブリン達を討伐していく。


半包囲態勢で周囲の茂みから、馬車と傍で明かりを灯す焚火に突撃してくるゴブリン達―――


―――イェンリン達とは別の方角から飛び出して、馬車に迫るゴブリンにアルヴィトが反応すると、


「―――ハッ!」


まず初めに襲い掛かってきたゴブリンの剣を取り上げると、襲い掛かるゴブリンの槍や棍棒をすり抜け回避しては手にした剣で斬り倒していった―――


(ッ!―――目が見えないはずなのに、あそこまで正確な回避が出来るなんて……やっぱりアルヴィトも紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》なのね)


―――ゴブリンを業炎で斬り裂きながらイェンリンは目の端に映ったアルヴィトの剣技に驚くと同時に畏敬を覚えた。


そうして周囲にゴブリンの骸が山のように出来上がっていった―――


「フゥ……どうやらこれで終わりみたいね」


イェンリンがブンッ!と業炎を振り切って、ゴブリンの血を払うと剣を鞘に納める。


「私の出番はなかったねぇ~♪」


相変わらずお気楽な口調でそう告げたゴンドゥルをジト目で睨みながら、


「最初から動く気なんてなかった癖に……」


イェンリンが囁かなる批判を口にした。


「これだけの面子を前にしてゴブリン如きで手を貸す必要があるとでも?―――いや、ない!」


「ハッキリと言い切る辺りがゴンドゥルらしいわね……」


呆れ顔になるイェンリンだったが、実際にゴンドゥルの言葉通りだと納得する自分もいた。


「―――アルヴィトが剣で戦っているところを見るのは初めてだったわ」


そこで剣でゴブリンを討伐していたアルヴィトへ話題を移す。


「……気づいていないのですか?」


「えっ?何のこと?」


突然のアルヴィトからの問いにイェンリンは意味が分からない。


するとブリュンヒルデが溜め息を吐くと、


「ハァ……イェンリン。先ほどのアルヴィトの剣技は、お前の剣技だぞ?」


そう告げてイェンリンへ呆れた表情を向けた。


「―――私の剣技!?」


するとゴンドゥルが話を続ける。


「アルヴィトのスキル『全知』は他人の技を模倣《トレース》することも出来るのさ。いや、剣技だけじゃない……魔術も模倣《トレース》する。厄介なスキルさ」


あからさまに嫌そうな顔をするゴンドゥルを見て、イェンリンがアルヴィトに、


「そんなことが出来るなんて、『全知』って凄いのね……」


心底驚いた顔で告げた時、ゴンドゥルが更に続ける。


「―――それだけじゃないよ。同じ技、同じ魔術と言ってもアルヴィトだって紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》なんだ。膨大な魔力と体力は持ち合わせている。そうすると……模倣が模倣じゃなくなる」


「それって……本物より強くなるってこと?」


「そういうことさ。本物を超える模倣……最早それは模倣じゃない」


改めて説明を受けたイェンリンがどんな反応をするのか、周りの者は気になったが、


「―――だとしたら!私の模倣をして鍛錬の相手をしてもらったら、私の弱点や癖も分かって最高じゃない!!」


その場で突然そう叫ぶ様に告げたことに、ブリュンヒルデにゴンドゥルは呆気に取られ、アルヴィトは見えない瞳を見開いて驚いていた。


「私が……鍛錬の相手を?」


「ダメなの?」


「……」


問われたアルヴィトは閉口してしまう。


「―――いいじゃないか、別に。イェンリンの言う通りだよ。そんな鍛錬方法を思いつくなんて、流石は我等の『紅神龍の御子』さ♪」


そんな二人の空気を動かすようにゴンドゥルが賛同の声を上げた。


「私もいいと思うぞ。アルヴィトの模倣を見ても自分の剣技だと気がつかないイェンリンには丁度良い鍛錬だろう」


「酷い!ブリュンヒルデは時々鋭い棘があるのよね……」


そんな会話をしている時、


「……分かりました。私でお役に立てるのなら、喜んで鍛錬の御相手を致しましょう」


「本当!―――ありがとう♪ アルヴィト」


承諾してくれたアルヴィトにイェンリンは満面の笑みで礼を述べた。


「でも、まずはこの地から早く出発しよう。ゴブリンの骸と血の匂いで、夜行性の魔物が寄って来るだろう」


ブリュンヒルデのその意見に三人が賛同すると、早々にその場を離れて馬車を走らせていくのだった―――






―――それから、


一度休憩を挟み、そして再び夜中に駆け続けると早朝の霧の中でアノ村へと到着した。


「アノ村まで来たのね……」


イェンリンが窓から見えたアノ村に感慨深い声を漏らす。


「残念だがアノ村もこのまま通過する。先を急ぐぞ」


馭者台のブリュンヒルデからそう告げられると、コノ村の時のように村へ向かう道と周囲を走る道の分岐点で次の道へ通じる方向へ進むのだった―――



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