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紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第3章 強者への道編

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最後の一眼鬼

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―――イェンリンの放った『衝撃拳(ダムド・インパクト)』を防いだ最後の一眼鬼(サイクロプス)


シータの築いた三枚目の《鉄陣障壁(スティール・ウォール)》の隙間を潜って外に出てきた一眼鬼(サイクロプス)が、足元の小さき人であるイェンリンを見下ろした―――


「流石に最後の一体だけあって、少しは頭が良いみたいね……だったら!!」


気迫を込めたイェンリンの声が届き、一眼鬼(サイクロプス)はその手に持つ巨大な岩の棍棒を振り被る。


すると次の瞬間―――


―――その棍棒が高速で地面に激突すると、その場にクレーターのような窪みを生み出し土石が周囲に振り撒かれる。


「―――馬鹿力ね!!!」


しかし既に―――


―――『身体加速』


―――『身体強化』


―――『思考加速』


身体強化の能力を全解放したイェンリンは、一瞬で一眼鬼(サイクロプス)の眼前にまで飛び上がり―――


「―――『衝撃拳(ダムド・インパクト)』!!!」


―――繰り出した音速の拳から生じた衝撃波が空を翔ける。


その衝撃波が一眼鬼(サイクロプス)の目玉に届かんとしたその時―――


【GYAAU!!!】


―――巨大な掌が目の前に差し出され、その掌に衝撃波が激突した。


「なにっ!?―――これも防ぐの?!」


流石にこの攻撃の瞬間を防がれると思っていなかったイェンリンは驚きを隠せない―――


「ウグウウアア―――ッ!!!」


―――しかも次の瞬間にはもう片方の手に握られた巨大な棍棒が、ブォンッ!と横薙ぎに振り抜かれると同時にイェンリンの身体が小石の如く吹き飛ばされる。


「―――イェンリィインッ!!!」


木の幹で闘いを見ていたシータが吹き飛ばされたイェンリンを見て、精一杯の叫び声を上げた―――


一眼鬼(サイクロプス)の棲家である岩山の傍にある森の中に吹き飛ばされたイェンリンは次々と木々を圧し折り、森の奥の暗がりへとその姿を消した。


「ああっ……そんな……」


シータは姿が見えなくなったイェンリンのことが気に掛かり、身体の震えが止まらない。


【……GUUッ】


すると叫び声を上げたシータを捕捉していた一眼鬼(サイクロプス)が見下ろしながらゆっくりと近づいてくる。


「クッ……ああっ……」


その場に立ち上がろうとしたシータだったが、先ほどまでの立て続けの『上位』魔術の発動に魔力枯渇を引き起こし力が入らず、ガクガクと身体が震えて動けない。


ズシンッ!ズシンッ!と地面を響かせ、シータの目の前にまで迫った|一眼鬼がゆっくりとその右手を伸ばしてシータを掴もうとした。


「―――クウッ!」


(そんな……こんなところで、魔物に……イェンリン!)


絶望感がその迫る巨大な掌を映した瞳に宿ったその時―――


「―――『衝撃拳(ダムド・インパクト)』!!!」


―――シータが凭れ掛かっていた大木の背後から飛び出した衝撃波が、手を伸ばし屈んできて顔を下げた一眼鬼の巨大な目玉を撃ち抜いたのだ。


【UGOOOOOAAAA―――ッ!!!】


その瞬間に棍棒を投げ捨て、両手で目を覆う一眼鬼(サイクロプス)―――


「オオオオオオオ―――ッ!!!」


―――両手で顔を覆ったことでガラ空きになった胴体に向かって連続で放たれた『衝撃拳(ダムド・インパクト)』が次々と命中して、一眼鬼(サイクロプス)の身体に衝撃の傷痕を刻んでいく。


そして―――


「―――『真空刃(ホロウ・ブレイド)』ォオオ!!!」


―――身体をズタボロにされた一眼鬼(サイクロプス)の首元に、隙を突いて放たれた『真空刃(ホロウ・ブレイド)』が横一文字に斬撃の傷痕をつけた。


その瞬間―――


【―――KAHYUッ!!】


―――切り裂かれた大木のような首から大量の鮮血が地面に降り注ぐ。


その傷に仰け反り、今度は首を抑える一眼鬼(サイクロプス)だったが首の傷は完全に致命傷だった。


仰け反ったまま後方に倒れ込んでいく一眼鬼(サイクロプス)をイェンリンは見つめながら……


「なかなか強かったわよ……」


素直に思ったことを倒れた一眼鬼(サイクロプス)に贈った―――






―――地面に轟音を立てて倒れ込んだ一眼鬼(サイクロプス)を見つめるイェンリン。


「無事だったのですね!―――イェンリン!!」


漸く立ち上がって背を向けているイェンリンに叫んだシータ。


そんなシータへイェンリンがゆっくり振り返りながら―――


「……無事じゃ……ないわよ」


―――言葉に詰まりながら答えたイェンリンの姿を見て、シータは驚愕する。


なんとイェンリンの右目には細い木の枝の破片が突き刺さり、そこから鮮血を流していたのだ―――


「キャアアッ!!―――イェンリン!その目は!」


「森に飛ばされた時……目を……やられた……それに……さっきの一撃で、何本か骨もイッているわ……」


そう告げた唇からは血が迸り、イェンリンのシャツを赤く染めていく。


「あ、貴女!どうして、そんなに冷静でいられますの!!」


イェンリンの傷と痛みに動じていない様子を見て、逆にシータが痛々しい表情を浮かべる。


「……怪我には慣れているから」


ここにきて『紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》』達との常軌を逸した鍛錬の傷が、今のイェンリンの精神的な強さを作り出していた。


「すぐに戻りましょう!!レギンレイヴ様のところへ―――」


そう提案したシータがイェンリンの身体をそっと抱擁して肩を貸そうとしたその時―――


「ッ!―――シータァ!!」


―――血を吐きながらイェンリンが叫ぶ。


ドォオオオオオオ―――ッ!!!と何かが吹き飛ぶ轟音が夜闇の中で響き渡り、シータの築いた三枚目の《鉄陣障壁》が粉々に砕け散り破片が周辺に降り注ぐ―――


「あ……ああ……あれは……そんな!」


―――シータの目に映ったものは、一眼鬼(サイクロプス)の棲家から《鉄陣障壁》を破壊して飛び出してきた巨大な幻影。




―――その巨大な体躯は一眼鬼(サイクロプス)そのもの


しかしその筋肉は赤銅のような色に染まり―――


―――しかし他の一眼鬼(サイクロプス)とは違い、金属で造られた手甲足甲を纏う


そしてその手には余りにも巨大な金属製の大剣を握りしめる―――




「あ……あんなヤツが……棲家にいたのか……」


左目でその姿を見上げるイェンリンは、監視している間に出入りしなかったその異様な一眼鬼(サイクロプス)の存在に気がつかなかったのだ。


「あ、あれは一体……何なのですか?」


この『魔物憑きの森』へ来るまで真面に魔物を見たことがなかったシータも、目の前の一眼鬼(サイクロプス)が異常な存在であることくらいはすぐに察しがついた。


「くぅ!……シータ……貴女だけ逃げて」


「なっ!―――何を言いますの!!」


肩を借りるイェンリンがシータに逃走を促すが、それに納得するシータではない。


「……さっきも言ったけど、私は骨が何本かイッてしまって逃げ切れない……でも、シータは……空を飛ぶ魔術が使えるでしょう?」


「だったら!イェンリンを連れて飛びます!!」


「……魔力……殆ど残っていないんでしょう?」


見透かされたイェンリンの言葉にシータが奥歯をグッと噛みしめた。


「そうだとしても……わたくしは……貴女の友として傍を絶対に離れません」


「シータ!」


「―――どうせ《空中浮揚(レビテーション)》する魔力も残っていませんわ!だったら……此処で皇女らしく戦って散ります」


そう呟いた誇らしげなシータの顔がイェンリンの片目には眩しく見えてしまった―――






―――その頃、


影からイェンリンの護衛に潜んでいたヒルドは厳しい表情を浮かべる。


「―――まさか!『一眼鬼王(サイクロプス・キング)』がこんなところにいるなんて……」


そしてすぐさまフレイアに『伝心』を飛ばす―――


【―――フレイア!!!】


「―――ッ!」


突然頭の中に響いたヒルドの声にフレイアはピクッと反応すると、


【……どうしました?ヒルド】


冷静な『伝心』をヒルドに返す。


【お前……此処に『一眼鬼王《サイクロプス・キング》』がいることを知っていたのか!!】


【何ですって?―――『一眼鬼王《サイクロプス・キング》』が?】


その声色にヒルドはフレイアも知らなかったことを知る。


【―――イェンリンは此処に棲息していた一眼鬼(サイクロプス)を討伐。現在右目を負傷し身体にも数カ所の骨折を負った状態。同行しているシータ皇女も『上位』魔術の連続で魔力枯渇状態だ。完全に勝ち目がないぞ!】


矢継ぎ早にこれまで起こったことを報告したヒルドは、フレイアにイェンリンの援護の許可を求めようとしたその時―――


【―――その必要はありません】


―――まるで先回りしたようにフレイアが求めを拒否する。


【何故だ!!―――このままではイェンリンが!!!】


流石に目の前で『紅神龍の御子』を見殺しにすることは出来ないヒルドが『伝心』で叫ぶと、


【―――もう最強の槍が向かっています】


フレイアがそう告げた。


―――その瞬間、


ドゴォオオオッ!!!―――激しい土煙と共にそこへ姿を現した者は、


『紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》』第八位

―――『槍を持ち進む者』ゲイラホズ


白髪の長い髪、銀の瞳をした美女だが戦闘は至って猪突猛進。


その鋭く尖った瞳が岩山の前に立つ『一眼鬼王(サイクロプス・キング)』を睨みつける。


「……まさか『一眼鬼王(サイクロプス・キング)』がこんなところに発生しているとはな」


「ゲイラホズ……それに『一眼鬼王(サイクロプス・キング)』って?あれのことなの?」


目の前に現れたゲイラホズに驚きながらもイェンリンは彼女の告げた『一眼鬼王(サイクロプス・キング)』という名称が気になった。


「ああ、一眼鬼王《サイクロプス・キング》は―――」




―――『一眼鬼王(サイクロプス・キング)』


一眼鬼《サイクロプス》の上位個体の更に頂点に立つ超上位魔物。


その力は一眼鬼《サイクロプス》の比ではなく、魔術まで操ることが出来る。


群れを増やし統率して行動範囲を広げると、国を脅かすほどの存在にまでなる特別危険指定されるほどの魔物である。




「……そんな魔物が此処にいたなんて……」


ゲイラホズから話を聞いて驚いたイェンリンだったが、


「それで……ゲイラホズは助けに来てくれたの?」


彼女が救出に来てくれたのかと問い掛けた。


しかしゲイラホズは無表情のままに『収納』スキルを開くと、


「いや、私はお前に―――これを渡すように言われて来ただけだ」


その中から取り出した物をイェンリンへ突き出す。


それは―――


「―――業炎!!」


―――ゲイラホズが握りしめた紅蓮剣=業炎を目にしたイェンリンは、ゆっくりとそれを手にする。


その時―――


―――ほんの一瞬でイェンリン達の目の前まで足を踏み込んだ巨体の一眼鬼王(サイクロプス・キング)が振り被っていた巨大な剣を彼女達の頭上へ振り下ろす。


ズシィ―――ン!!!と凄まじい衝撃音と土煙を上げて、その場でニヤリと笑う一眼鬼王(サイクロプス・キング)―――


―――舞い上がった土煙が少しずつ収まりだす。


するとそこには―――


「おい……煩いぞ。この程度の剣で私に勝てると思っているなら、片腹痛いぞ」


―――一眼鬼王(サイクロプス・キング)の大剣を、その細い身体で手にした真紅の槍で受け止めていた。


【UGOOOッ?!】


自慢の大剣を細い槍一本で受け止められて、一気に一眼鬼王(サイクロプス・キング)が驚愕の顔に変わる―――


「貴様如き汚れた王に私の紅蓮槍=朱雷《しゅらい》を見せてやる価値もないが……イェンリン!フレイアからの言伝だ」


「……フレイアから?」


ギリギリと大剣を押し込み、潰そうとする一眼鬼王(サイクロプス・キング)をまったく意に介す様子のないゲイラホズが告げる。


「ああ……この度の一眼鬼《サイクロプス》討伐は無事に達成された。それ故に紅蓮剣=業炎を返す。そしてその剣で新たに試練として―――この一眼鬼王(サイクロプス・キング)を倒せとのことだ」


ゲイラホズの口から告げられたフレイアからの新たな試練に、イェンリンは手に戻った業炎を鞘からゆっくりと引き抜くのだった―――



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