寄り添う友として
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―――空に浮かびイェンリンを見下ろしているのは、新たな決意を胸に抱いたヴァーミリオン皇国第二皇女。
シータ=ヘイン・ヴァーミリオンが微笑みを浮かべ―――
「―――貴女に置いていかれないように、貴女の傍にいるために参りましたわ」
地上で見上げるイェンリンに想いを伝えた。
「何しているの!!此処は危険なのよ!!!」
しかし森の最深部まで足を踏み入れているシータを見て、イェンリンの中で危機感が跳ね上がり彼女に向かって怒号を上げた。
しかしシータはそんなイェンリンに向かって眉間に少し皺を寄せ、ムッとした表情を向ける。
「そんなことは百も承知ですわ!!―――それでも貴女の傍にいたいのです!!!」
「……へっ?」
その理解の追いつかない返事にイェンリンの『思考加速』で間延びした思考時間をもってしても、おかしな声が出るだけだった。
「それに!―――こんな熱くなる戦いを見せられて!わたくしがどれだけ悔しかったか、貴女に分かりますの!!」
「いや言っている意味が分からない……」
「イェンリンはズルいですわ!!!」
「ハァアッ!?―――私のどこが!!」
イェンリンが反論しようとしたその時―――
「―――シータ!!!」
「キャアアア―――ッ!!!」
―――言い合いしている隙を突き、先ほどシータの火属性魔術『上位』《炎爆》をその身に受けて、皮膚に痛々しい火傷を負った一眼鬼が横薙ぎに振り払った棍棒に打ちつけられる。
巨大な棍棒の直撃を受けたシータは、凄まじい速度で森に向かって吹き飛ばされ、そのまま木の幹に激突してそれを圧し折った。
「シータ!!!―――クソッ!」
地上に墜落したシータを気遣うイェンリンだったが、今は目の前の一眼鬼を先に討つことが先決だと判断して、
「―――『衝撃拳』!!!」
一眼鬼に向かって『衝撃拳』を放つ。
しかしその攻撃をもう知っている一眼鬼は、棍棒で狙っているだろう眼を覆い隠す。
しかし―――
「―――そうすると思ったわ!」
―――巨大な岩の棍棒を用いて防ぐことを想定していたイェンリンが、『身体加速』と『身体強化』の能力で加速して一眼鬼の肩の高さまで飛び上がると、
「―――『真空刃』!!!」
斜め前の位置に飛び、そこから振り翳した手刀によって繰り出される真空の刃が額の角を切断する―――
【UGOAAッ?!】
―――周囲を感知する角が突然切断されて、感覚が狂った一眼鬼はその場で混乱を起こす。
手にした棍棒を投げ出し、頭を抱えた体勢になったところを―――
「―――『衝撃拳』!!!」
―――無防備になった巨大な一つ目の眼球を衝撃波で撃ち抜いた。
【UBAAAAA―――ッ!!!】
角に続き眼まで奪われた一眼鬼は、その場でバタバタと混乱が更に拍車を掛けるが―――
「―――《鉄弾》!!!」
―――暴れ回る一眼鬼の全身に鋭く尖る鉄の弾丸が次々と貫き、中には貫通した物まである。
無数の弾痕を身体に刻む一眼鬼は、やがて一発の《鉄弾》に頭部を撃ち抜かれて遂にその場で地面に倒れ込んだ―――
「シータ!!!―――無事だったの!」
森の茂みから現れたシータに声を掛けるイェンリン。
「ぶ、無事ではありませんわ……」
よろけながらその場に立つシータを見て、それでも致命的な傷を負っていない様子に胸を撫で下ろすイェンリンだったが、
「まだ残りを片付けるわよ」
立ち上がってきたシータにそう言い放つ。
「ッ?!―――ええ♪ やりますとも!!」
「なんで嬉しそうなの……」
何故か痛みに耐えていた顔から嬉しそうな笑みを浮かべ、シータがイェンリンの隣に立つ。
「なんで此処まで来たのか、後からゆっくりと訊かせてもらうわよ」
「ええ―――でも、まずはあの二体を」
眼を潰されたとはいえ、まだ生きている巨体の一眼鬼二体を睨みつけながら二人は駆けるのだった―――
―――そうして群れから離れた三体の一眼鬼を討伐したイェンリンとシータ。
「一先ずはこれで大丈夫ね……」
そこにはイェンリンの斬撃とシータの魔術によって絶命した三体の一眼鬼の亡骸が森に倒れていた。
すると漸くシータを地面の上で向き合ったイェンリンは、
「それで?―――どうして、こんな危険な場所まで来ているの!他に誰かついてきているの?」
矢継ぎ早にシータを問い詰める。
「此処へ来たのは紅蓮様に御願いしたのです。わたくしがイェンリンの傍に行くことを許して欲しいと」
「はぁ!?―――アンタ、馬鹿ぁ?」
普通の人族がこのような場所へ来れば、自ら強力な魔物の餌になりに来るようなものだ。
流石のイェンリンも皇女の戯れでは済まされない事態に言葉が酷く強くなる。
「馬鹿で結構!……友人が死地に臨むというのであれば、それを助けに来て何がおかしいというのです?」
「―――アンタは只の人族でしょうが!!!」
更に火に油を注ぐシータの言動に、イェンリンの怒号が森に響き渡った。
(シータには皇帝陛下も皇妃様も皇太子も―――家族がいるというのに!!)
―――それがイェンリンの本音だった。
家族を失ってきたイェンリン―――
―――今はまだ生きているかどうかも分からない妹エリシラも見つかっていないイェンリンに、家族が傍にいるシータが酷く羨ましいと思っていた本音が今はっきりしたのだ。
「―――そう……わたくしは只の人なのです……イェンリン」
イェンリンの言葉にシータは否定することなく、ありのままを受け止める。
「だったら―――」
「―――わたくしは!只の人であろうとも貴女の友でありたい!!」
「ッ!?……な、何を言って……」
「わたくしはいずれ老いていきます。今の姿で変わらない不老である貴女から見ても……きっとお婆ちゃんになってしまいます」
「そ、それは……」
『紅神龍』紅蓮と『御子』の契約を交わした際に教えられたこと―――
―――『紅神龍の加護』
『共有』
紅神龍と同じ寿命を得るという、その『共有』の加護によりイェンリンは今の姿で永遠に不老と化した。
―――それは今のイェンリンにとっては現実味のない夢物語のように捉えていたが、今のシータの言葉で自分が時の流れから外れた存在であることを自覚した。
「わ、私は……」
自分が『紅神龍の御子』となったことで、まるで世界から隔離された別次元にでも閉じ込められたような感覚が走る。
その顔に困惑の色を浮かべたイェンリンの手に、ゆっくりとだが温かい温度が伝わってくる。
それはイェンリンの手を取ったシータの手の温もりだった。
「わたくし……紅蓮様に土下座してお願いしましたわ」
「―――えっ!?」
突然そんなことを言い出したシータを呆然としたイェンリンが見つめる。
「永遠に歳を取らず、周りの者達も過ぎ去っていく……それを貴女が経験していくことが、どれだけ辛く哀しいものか……わたくしの想像など遠く及ばないものです」
「……」
「―――ですが、だからこそ私はイェンリンの傍にいたいのです。この命を捧げても、友と名乗れる生を得たのであれば本望です」
「……シータ」
シータの言いたいことが上手く言葉として表せないが、それでも彼女から届く温もりと確かな意志を感じることは出来た。
「永遠の時を進む貴女だけど……そんな只の人族であるわたくしですけど、永遠に貴女の傍にいることは出来ます」
「……えっ?」
そこで握ったイェンリンの手をグッと持ち上げて、決意を浮かべた強い瞳で見据えるシータ。
「貴女の心の中に―――わたくしという友がいたことを刻むことです」
その言葉を耳にして、イェンリンの瞳に自然と涙が浮かんだ。
シータは皇族の身でありながら、自分の友として心に刻むために危険な森までやってきた。
その真実だけで、イェンリンが無意識に感じていた孤独感は溶けて消えていくような気がしたのだった―――
―――もうシータが此処へ来たことを責めることはないイェンリンが、改めて今度は二人の決意を固く結ぶために告げる。
「二人で一眼鬼の群れを討伐するわよ」
「望むところですわ!―――イェンリン一人であのような戦いを経験して強くなるなんて、ズルいですもの!!」
「あっ……ズルいって、そういう意味だったのね……」
漸く言葉の意味を理解したイェンリンは途端に溜め息を吐いた。
「ハァ……でも、私と一緒に一眼鬼討伐をする許可を貰ったってことだよね?」
「はい♪ 紅蓮様は―――」
『ではその心のままに、進んでみなさい―――イェンリンの心に貴女の心が刻まれるまで』
「―――そう言って送り出してくださいましたわ♪」
満面の笑みを浮かべてイェンリンに紅蓮の言葉を伝えた。
(それって何だか丸投げしたようにも聞こえるんだけど……気のせいよね?)
その言葉に紅蓮の真意が別のところにあるのではないかと疑って止まないイェンリンだが、それ以上のことは考えるのを止めた。
「―――それで?どうやって討伐するのです?」
まるで簡単なことのように、ニコニコとしながら問い掛けるシータを見ると受け入れたことに早速後悔が走るイェンリン。
だがシータの魔術が此方の手にあることは大きい。
「その前にシータは此処に来てから鍛錬していたのよね?今はどのくらい魔術が使えるの?」
討伐作戦を思案するにも手の内が分からなければ立てようもない。
そのことからシータの使える魔術は把握しておきたいイェンリンは問い掛けた。
「そうですね―――今は火属性魔術『上位』に風属性魔術『上位』、それと土属性魔術『上位』が発動出来ます。他の属性魔術についても『中位』までの魔術は使えます」
「―――そんなに!?それって……魔術師としてはかなり凄いことよね?」
「そうですわね……魔術師は『上位』魔術が一つでも扱えるようになれば一人前と言われますから、普通の冒険者よりも強いくらいでしょうか」
「それでもかなり凄いことだよ!」
「ありがとう♪ でも、御母様は全属性魔術の『上位』を操ると仰っていましたわ。それと比べるとわたくしもまだまだです」
(皇妃様そんなに魔術が使えるの!?流石は紅蓮と対等に御話されるだけのことはあるわね……)
「……何を考えているのか、わたくしにも分かります……我が母ながら恐ろしいですわ……」
そう言って肩を落とすシータを見て、イェンリンは少しだけ可笑しくなった。
「フフッ♪……でも、これで一眼鬼の討伐は考えられそうね」
「お役に立てるのなら良かったです♪」
「役に立つなんてものじゃないよ!私は魔術が使えない分は―――シータを頼りにさせてもらうわ」
―――イェンリンから告げられたその言葉、
それはシータの一番聞きたかった言葉だった―――
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