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紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第3章 強者への道編

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皇女殿下の憂鬱

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―――『魔物憑きの森』でゴブリン戦士《ソルジャー》と激闘を繰り広げたイェンリン。


その日から森へ来て、既に五日の日々が過ぎていた―――


イェンリンはそれからもフレイア、ヒルド、ゲイラホズ、ランドグリーズとこの森で魔物を相手に鍛錬を続けていった。


それと同じくシータもまたイェンリンに続いて森での魔物討伐を行っているが……


「くうっ?!―――キャアアッ!!」


「シータ!―――大丈夫!?」


森の茂みの中から飛び出してきたのは、額に鋭い角を生やした黄色い体毛に覆われた兎のような魔物。


―――それは一角兎《アルミラージ》だった。


一角兎《アルミラージ》は狙う対象に向かって高速の動きで一直線に突撃してくる。


この魔物憑きの森では、アルミラージが食糧としても重宝される魔物で、此処に来てからのイェンリン達の食事にも利用されている食材でもある。


「―――だ、大丈夫!」


イェンリンの声に倒れ込んだシータが立ち上がる。


今の突撃には必死で身を退いたシータが装備する胸当てに角が衝突したことで、一直線に飛んできたアルミラージの軌道が逸れたのだ。


「慌てずに倒そう!」


「え、ええ……分かったわ」


駆け寄ったイェンリンに声を掛けられるシータだったが、内心では焦燥感が募っている。


(此処に来てからもう五日なのに……まだ一匹も魔物を討伐出来ていない……)


俯くシータの様子を見て、イェンリンもその心境を察していたがどうしていいのか上手い考えが浮かばないまま今日まで来ていた。


―――その時、


「―――ッ!」


先ほどのアルミラージが突っ込んだ茂みの中から再びイェンリン達に向かって突進してきた―――


しかしその様子を見ていた紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》達は誰も動こうとしない。


アルミラージの鋭い角が真っ直ぐイェンリンに向かって迫った瞬間、


「―――ハイッ!」


気合いを込めて振り翳した右手で難なくその角を握り掴んだ。


自慢の角を掴まれると、バタバタと手足を動かして藻掻くアルミラージにイェンリンは左手を手刀の形に整える。


「フンッ!」


そしてアルミラージの首筋に左手を走らせると、


「―――これで血抜きをしておくわ」


その首からプシュ!と鮮血が噴き出すと同時にビクッ!ビクッ!と痙攣を起こす。


やがて大人しくなると、


「わたくしが預かっておきます♪」


この地の屋敷に来てから、食事の用意まで全般こなしているランドグリーズがそのアルミラージを預かる。


―――イェンリンはこの森にやってきてから、このように狩りをすることにも慣れ始めていた。


それはゴルゴダ村で過ごしていた時から、村の狩人についていって獲物を獲ってからの対処なども見様見真似だがある程度分かっていた。


(村で教えてくれた狩人のおじさん……あの人も、もういないんだ……)


―――その狩人も今はこの世にいない。


そんな思いから表情が暗くなるイェンリンを、シータは傍で見ていた。


(また暗い顔をして……何か思い悩んでいますの?)


そのことが気になって仕方がないシータだったが、『謁見の儀』の時でさえイェンリンの素性に関わるような話はその場の空気で禁じられたことを知っているシータは、それ以上踏み込む勇気がない。


そんなシータの様子を見ていたフレイアが、


「―――今日はここまでとしましょう」


森の探索を打ち切って屋敷へ戻ることを告げたのだった―――






―――夕食にはイェンリンが獲ったアルミラージを料理したものが並んだ。


「お待たせしました♪―――どうぞお召し上がりください♪」


調理したアルミラージの肉は早めに血抜きを行ったことで新鮮なまま臭みもなく、またそれを『収納』に保存したことで中に入った物は時間が制止され、腐敗が進む心配もなかった。


それ故に出てきたアルミラージの肉を焼いた料理が出てきて、それを口にすると旨味のある肉汁が溢れて臭みなども一切感じられない。


「―――美味しい♪」


思わずイェンリンは笑みを浮かべてフォークを口に続けて運ぶ。


しかしその隣では、食事をしつつも顔色の冴えないシータがいた。


「どうしたの?」


そんなシータを隣から覗き込むように近づいたイェンリンに、思わずビクッと驚いたシータは、


「い、いえ!何でもありませんわ……確かに美味しいですわね♪」


そう言って笑顔を向けてくるが、それは紅龍城で見せていたような笑みとは違うものだとイェンリンにも分かっていた。


(此処に来てからまだ一度も魔物を倒せていないことを気にしているのね……)


その浮かない顔の理由が思い浮かんだイェンリンは、そこでどうしたものかと考えたが、


「ご馳走さまでした……わたくし、先に休ませて頂きますね」


それだけ告げてシータは先に自室へと戻っていった―――






―――屋敷の部屋に戻って、


「……わたくしは何をしているのかしら……イェンリンにまであんな心配を掛けて……これでは御父様と御母様に叱られてしまうわ」


最早友人と言える間柄になったイェンリンの為人を思えば、きっと許してくれるのだろうがヴァーミリオン皇族としての立場からすると自分の今の状況は『紅神龍の御子』に迷惑を掛けている者としか映らない。


イェンリンと仲良くしていることはヴァーミリオン皇族にとって紅蓮との関係性を良好に保つ意味合いの方が、シータ個人の人間関係より大きな意味がある。


「御母様なら、そのようなこと気にするなと仰って下さるでしょうけど……」


シータの母の皇妃ネメリア=ツイス・ヴァーミリオンは紅蓮とも旧知であり、娘がイェンリンと仲良くすることに友人として親交を深めて欲しいと願っている人物である。


きっと皇族と紅神龍との関係を良好にするよりも、一人の娘として友人を持って欲しいという気持ちの方が勝っている人物だと、シータ本人も理解していた。


「折角の御母様の好意も、わたくしがこのようなことではダメよね……」


だが、それだけにこの魔物憑きの森に来てからの自分の不甲斐なさに思った以上に衝撃を受けて、これからどうするべきかと悩んでいた―――






―――その頃、


イェンリンもまたシータのことで悩んでいた。


「きっと魔物を倒せない自分に落ち込んでいるのね……」


彼女の冴えない様子に、紅龍城で過ごしていた際の元気な様子からは打って変わり、悩んでいる様子が分かるイェンリンは何か打開策はないかと―――


「―――どうぞ」


―――『紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》』筆頭フレイアの部屋を訪ねていた。


ノックをして部屋に入ってきたイェンリンを見て、


「どうしましたか?」


フレイアは静かに問い掛ける。


「その……実はシータのことなんだけど」


「皇女殿下のこと……彼女が魔物を討伐出来ていないことですか?」


「やっぱり分かっていたのね。実はそのことで、どうすればいいかなって相談に来たんだけど」


イェンリンの言葉にフレイアの表情は冴えない。


「イェンリン……貴女が此処へ来た理由を忘れたのですか?」


「忘れた訳じゃないわ。より強くなるための場所でしょう?」


「ええ、そうです。貴女自身が強くなるために此処へ来ているのに、他人の心配をしている場合ですか?」


無表情のフレイアから放たれた言葉は、そのようなことを言っていられない自分の立場を露呈する。


「うっ……確かにそうだけど……でも!」


「―――でも?」


「シータは私のことを……友達だって言ってくれた。困っている友達がいるのに、それを見て見ぬ振りをするなんてそんなこと出来ないし、したくない!」


語気を強めたイェンリンに対して、フレイアはジッとその目で見つめていたが、


「……彼女には貴女ほどの覚悟がありません。足りないのです」


やがて静かに話し始める。


「彼女は母親譲りの魔術師の力があっても、命を奪うという行為に抵抗が強くあります……その壁を越えなければ彼女の成長は見込めないでしょう」


「でも……私は魔術の才能がないから……」


魔術師の母カリオラの娘でありながら魔術の才能がないと分かっているイェンリンにとって、その言葉は何よりも辛い言葉だ。


その言葉を聞いてフレイアも少し哀しむような顔に変わる。


「ハァ……明日、此処へ彼女のためにゴンドゥルが来てくれます」


「―――ゴンドゥルが!そうなの?」


「はい……貴女達の鍛錬の様子については私から紅蓮様に逐一報告をしていました。シータ皇女殿下のことも。それについて相談もしていました。しかし彼女を正しく導くには優れた魔術師についてもらった方がいいだろうと、紅蓮様が呼んでくれたのです」


それを聞いたイェンリンの表情は途端に明るくなった。


「ありがとう!フレイア!」


「……礼を言われるほどのことではありませんよ」


そう返すフレイアはやはり無表情だったが、どこか照れているように感じたことにイェンリンはきっと間違いではないと確信していた―――






―――翌朝


「いやぁ~久しぶりだねぇ♪ 『魔物憑きの森』へ来るのは」


そう言って屋敷を見上げるゴンドゥルと、


「イェンリンは怪我などしていないでしょうか……無茶をしていなければいいのですが」


最初の鍛錬の頃からイェンリンに過保護になりがちなレギンレイヴが立っていた。


そして屋敷の中へと向かう二人―――


―――そんな二人を出迎えたイェンリンは、


「ゴンドゥル!レギンレイヴも!来てくれたのね♪」


笑顔で二人を迎える。


「来たわよ♪ 少し見ない間だったけど、元気にしていた?」


ゴンドゥルは笑みを浮かべながらそう問い掛けるが、レギンレイヴはそそくさとイェンリンに近づくと、


「―――どこか怪我とかしていませんか?すぐに『回復』で治しますよ?痛いところは?」


矢継ぎ早にイェンリンの怪我の有無について問い始めた。


「あ、ありがとう、レギンレイヴ。大丈夫よ」


イェンリンも過保護だと感じているレギンレイヴの心配振りに少し驚く。


「それで?私の教え子になる子っていうのは?」


するとイェンリンの後ろで控えていたシータに視線を向けるゴンドゥルと目が合って、


「シータ皇女殿下。私がこれから貴女の魔術の師匠になるゴンドゥルだよ」


軽い口調で挨拶をする。


「よ、よろしくお願い致します!紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》に直接ご指導して頂けるなんて、光栄ですわ」


少し緊張した面持ちでゴンドゥルへ挨拶を返した。


「まあ、私が教えるんだから大船に乗ったつもりでいればいい♪」


そう笑みを浮かべるゴンドゥルに、シータは釣られて笑みを返す。


「では―――今日はからはイェンリンには私とゲイラホズにレギンレイヴが同行します。皇女殿下にはゴンドゥルとヒルドがついて指導をお願いします」


こうしてフレイアの采配によって、今日からイェンリンとシータは別の指導を受けることになるのだった―――



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