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紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第3章 強者への道編

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戦士の強さ

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―――業炎を構えるイェンリンの身長を遥かに凌ぐ巨体をしているゴブリン戦士《ソルジャー》は、手にした金属の塊のような大剣を横薙ぎに振り抜く。


腕の太さも尋常ではないゴブリン戦士《ソルジャー》の筋肉が隆々と波打った次の瞬間―――


「ッ!―――クッ!!」


イェンリンの目の前まで一瞬で間合いを詰めて、その頭上へ大剣を振り下ろしてきた。


迫りくる大剣を頭上で横に構えた業炎で受け止めるイェンリンだったが、そのゴブリン戦士《ソルジャー》を見ていたゲイラホズは、


「あの戦士《ソルジャー》……『身体加速』使っているぞ」


明らかに強化能力を発動していることを見抜く。


「それだけではありませんよ。『身体強化』と『思考加速』も発動しているようです……どうやら思った以上に戦士を引き当てたようですね」


フレイアの鋭い眼がイェンリンと対峙するゴブリン戦士《ソルジャー》の、予想以上に身につけている能力を見抜いてもイェンリンに助太刀する気配がない。


そのことにシータは息を飲み、胸の鼓動が早まっていく。


頭上からギリギリと押し込むように力を込めるゴブリン戦士《ソルジャー》に、歯を食い縛るイェンリンは―――


「―――コォノォオオ!!」


―――『身体強化』を駆使して大剣を押し返す。


押し込まれていた大剣を持ち上げていくイェンリンに、周囲で戦いを見ている配下のゴブリン達は目を見開く―――


―――ゴブリン戦士《ソルジャー》と比べれば小柄な子供のように見えるイェンリンが、指揮官である戦士《ソルジャー》の大剣を押し返しているのだ。


だが、その時―――


―――押し込んでいた大剣を一気に退いて、それにより押し返していたイェンリンの身体が浮かぶように上昇したところを狙って、ゴブリン戦士《ソルジャー》の回し蹴りが左脇腹に入る。


「―――ゴフウゥ!!!」


鋭い蹴りが容赦なくイェンリンへ襲い掛かり、ミシミシと脇腹が軋むような感覚と共に激痛が走る―――


「あっ……真面に食らったな」


そこでも冷静に腕を組み、イェンリンが蹴り飛ばされる様を見つめるゲイラホズが淡々と呟く。


「イェンリン!!!―――助けなくていいのですか!?」


吹き飛ばされたイェンリンを見て、シータがフレイアに問い掛けるが、


「どうやら骨は折れていません……装備の差で助かりましたね」


イェンリンの纏う白地に燃える炎のような赤い模様が入ったロングコートは、裏地に紅神龍の革を用いている。


その防御力は鋼鉄のプレートアーマーを凌駕するのだ。


吹き飛ばされたイェンリンは地面に一瞬倒れたが、すぐに起き上がる。


「ッ!―――速!?」


しかし、もうゴブリン戦士《ソルジャー》は容赦などない魔物の本性が牙を剥いて一気に間合いを詰めてきた。


そこから放たれる高速の斬撃―――


「ウグゥ!!―――このぉ!」


―――残像すら放つ斬撃を繰り出すゴブリン戦士《ソルジャー》に、イェンリンも追従して業炎の斬撃を放つ。


残像が交差するほどの斬撃の打ち合いに、周囲では火花が瞬いて互いの頬に傷をつけると血が舞い飛ぶ―――


―――そして正面で剣と剣を激突させると、そこで押し合いながら互いの眼を睨み合う。


(このゴブリン!どれほどの研鑽を積んできたっていうの!!)


これまでの自分の鍛錬と上がったLevelが霞んで見えるほど、目の前のゴブリン戦士《ソルジャー》は強く、そして何より戦いに慣れていた―――


(経験の差がはっきりと分かる!―――こいつは本当に生きるための戦いをしてきたんだ)


―――そう思った時、


ゴブリン戦士《ソルジャー》は両手で握っていた大剣から左手を放し、イェンリンの顔面を右側から殴りつけた。


「―――カハァアッ!!!」


側面から絡みつけるように歪曲された拳打は、完全にイェンリンの死角から飛び込んできたことで不意打ちとなる。


(お、女の顔を殴るなんて―――)


―――そう思った時、


右から左に吹き飛ばされた視界の端で見えたゴブリン戦士《ソルジャー》に、イェンリンの中の常識が弾けた―――


(私は……何を勘違いしていたの……)


頬に熱い痛みを感じながらイェンリンの頭は真逆に冷めていく。


(このゴブリンは最初から私を女だとは見ていない……)


―――本来のゴブリンであれば、人族の女と見れば犯し、孕ませ、同族を増やすための家畜といった扱いをするのが本能だ。


しかしゴブリン戦士《ソルジャー》は対峙したその時から、ずっとイェンリンに対して戦士としての本能で向き合っていた。


【―――GAAAAAッ!!!】


そんな今もゴブリン戦士《ソルジャー》はイェンリンを倒すことだけに全力を注ぎ、大剣を振るいその命を狙っている。


容赦なく襲い掛かる大剣の刃に、不意打ちを食らって足元がふらつくイェンリンは辛うじて業炎で応戦していく。


(このゴブリンは……戦士は私を戦士として見ている)


視点と思考をそう切り替えた時、イェンリンの中で何かが噛み合い―――


―――身の危険が迫っている中で驚くほど思考が澄み渡っていった。


『―――その程度か!!!』


まるでそんな言葉を浴びせられているような、ゴブリン戦士《ソルジャー》の叫び声にイェンリンが真紅の瞳を見開く―――


「ッ―――イェンリン……漸く、ですか」


フレイアがイェンリンの瞳の変化に気づき、静かにそう呟く。


そしてイェンリンはゴブリン戦士《ソルジャー》との間合いを取るためバックステップで距離を開ける―――


(私は知らなかった……ゴブリンにもこんな戦士がいることを)


―――そして再び業炎を正眼に構え、切先をゴブリン戦士《ソルジャー》へと向ける。


「ゴブリンなんて、汚くて醜いだけの女を犯すか殺すことしか頭にない魔物だと思っていた……」


向かい合って語り掛けるイェンリンの言葉を、大剣を構えたゴブリン戦士《ソルジャー》は黙って聞いている。


「小柄でずる賢いだけの魔物だと……そう思っていた。だけど違った……貴方は凄い戦士だ」


魔物に人族の言葉が通じる訳がない。


しかしそのイェンリンの言葉を聞いた時―――


「―――ッ!」


―――ゴブリン戦士《ソルジャー》の口元がニヤリと口角を上げた。


それはゴブリン特有の下卑た笑みや歪んだ醜いものではない。


まるで目の前の好敵手の言葉の意味が伝わったかのような、そんな微笑みにも似た笑みだった。


それに応えるように微笑みを浮かべたイェンリンだったが、静かに真剣な表情に戻ると、


「……いきます」


まるで人族を相手しているかのような合図と共に剣を構えた。


その姿にゴブリン戦士《ソルジャー》も大剣を上段に大きく構える。


「……次の一撃でお互い決める気だ」


それを見てゲイラホズがシータに告げると、


「……イェンリン」


両手を胸の前で祈るように組んだシータがイェンリンを見つめ続ける。


(なんて潔い覚悟なの……魔物なんて……ゴブリンなんて考えることなんてしない、知能も矜持もない魔物だと思っていたけど、それは改めるわ)


ゴブリン戦士《ソルジャー》の構えは完全に胴体をがら空きにした誘いの構えだ。


そんな構えを下級魔物であるゴブリンが人の前で見せるなど、これまで聞いたこともない。


しかしイェンリンはその覚悟に応えなければならない。


何故ならそれがフレイアの言った『人を超える』ための第一歩なのではないかと、そう思えてきたのだ。


(きっとこれで負けたら命がない……死……それなのに、何故か怖さよりも……)


イェンリンの中で恐怖よりも大きくなっていくそれは―――


―――闘争本能


そして強敵と出会えたことに打ち震える悦びだった―――


「イェンリン……笑っている……」


シータの目にゴブリン戦士《ソルジャー》と対峙しながら、笑みを浮かべるイェンリンの姿が焼きつく。


そして次の瞬間―――


【GUUUOOO―――ッ!!!】


「ハァアアアアア―――ッ!!!」


―――まったく同時に踏み出したイェンリンとゴブリン戦士《ソルジャー》が激突する。


上段に構えていた大剣をこれまでで間違いなく一番速い剣速で振り下ろすゴブリン戦士《ソルジャー》―――


―――踏み込むと同時に横薙ぎに剣を振り抜くイェンリン。


その振り下ろされた大剣と―――


―――横薙ぎに空を斬り裂く業炎が激突する瞬間、


【―――GUUOッ?!】


互いに『身体加速』を発動した高速の世界で、目の前から消えたイェンリンは業炎を更に加速させてゴブリン戦士《ソルジャー》の脇をすり抜ける―――


―――ゴブリン戦士《ソルジャー》の振り下ろした大剣が地面に激突して、周囲まで陥没させるほどの衝撃を伝える。


そしてすれ違いと同時にゴブリン戦士《ソルジャー》の身体をすり抜けた業炎―――


―――それは確実にゴブリン戦士《ソルジャー》の身体を斬り裂いた軌跡だ。


互いに背中を向けたまま、動きを止めた……


―――そして、


【……GOHAAAッ!!!】


ゴブリン戦士《ソルジャー》は大量の血を吐き、脇腹には深く斬り裂かれた傷が開いて鮮血と共に内臓が飛び出してきた―――


「ハアハア……」


―――イェンリンの荒い吐息が辺りに響くと同時に、ゴブリン戦士《ソルジャー》は地面に倒れ込んでいった。


「―――イェンリン!!」


無事なイェンリンの姿を目にして、思わず涙が込み上げていたシータは駆け寄ろうとするが、そんな彼女をヒルドが腕を掴み留まらせる。


「―――ッ!?」


驚いたシータだったが、それは生き残っていた六匹の配下のゴブリンが倒れ込んだゴブリン戦士《ソルジャー》に駆け寄ったためだ。


そして虫の息のゴブリン戦士《ソルジャー》を、四匹のゴブリンが四肢を掴んで持ち上げ、残り二匹のゴブリンは剣を構えながらイェンリンに威嚇の態度を示す。


どう見ても助かる見込みなどないゴブリン戦士《ソルジャー》に、それでも配下のゴブリン達は必死の形相で威嚇を放ちながら持ち去ろうと、撤退しようとしている。


その必死に仲間を助けようとする姿に、イェンリンはゴブリンと人が被って見えた。


「……追いかけたりしない……だから、行きなさい」


ブルブルと剣を震わせて、必死の形相を向けるゴブリン達にイェンリンは静かにそう告げた。


しかし人族の言葉が分からないゴブリンには届くことはない……


茂みの中へ消えていく最後まで、その威嚇を解くことはなく只睨みつけていった姿を見て、漸く息を吐くイェンリン。


「フウゥ……」


そんなイェンリンにシータが駆け寄ると、


「―――イェンリン!!勝ちましたわ!」


まるで自分のことのように喜び、涙を浮かべて微笑みを浮かべるシータを暫く見つめて、


「ええ……そうだね♪」


イェンリンも微笑みを浮かべるのだった―――






―――漸く落ち着いたイェンリンとシータを前に、


「イェンリン―――ゴブリン戦士《ソルジャー》と闘って、どうでしたか?」


フレイアがイェンリンに問い掛ける。


「ゴブリン戦士《ソルジャー》?……それってあの大きなゴブリンのこと?」


「ええ、そうです。只のゴブリンではありません。ゴブリンの進化した個体です」


「そう……なんだ……だから、あんなに強かったのね……」


フレイアの言葉でイェンリンは納得がいった。


「此処ではあのような上位個体も数多く出現します。イェンリンが望む力とは、先ほどのような闘いで何を感じ、何を掴むかで大きく変わってきます」


フレイアの言葉は今のイェンリンにとって、とても難解な言葉だ。


だが、ゴブリン戦士《ソルジャー》との戦闘はこれまでにない何かを確かに感じ取っていた。


「……人を超えるために、必要なことが此処にはあるのね?」


「はい。先ほど何かを感じたように、この地でイェンリンの中の常識が打ち砕かれていくことでしょう。ですが、それが必要なことだと理解しておいてください」


フレイアの言葉に、イェンリンは静かに頷くとゴブリン戦士《ソルジャー》から流れた血が零れて続いていく茂みの奥を見つめ続けるのだった―――



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