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紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第3章 強者への道編

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ゴブリンとの戦闘

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―――ヴァンウルフ自治領区の北部にある『魔物憑きの森』へとやってきたイェンリン達。


紅蓮の屋敷を一歩外に出てみると、そこには早くも魔物が姿を現した―――


「只のゴブリンではありません。この辺りに棲みついたゴブリンの中に上位ゴブリンが誕生していたようです。この数を見るにこの辺りで棲家(コロニー)を形成しているようですね……」


統制が取られているゴブリン達の様子を一見しただけで、フレイアが周囲の環境についてまで鋭い推測を行う。


「つまり棲家が出来たことで、これだけの数が生まれたってことね……」


そう言いながらイェンリンは紅蓮剣=業炎を鞘から抜き放ち、シータは魔術杖を『収納』能力の中から取り出して魔力を込めていく。


その様子を見ていたゴブリン達が一斉にイェンリン達へ襲い掛かってくる―――


「―――ゴブリンくらいで!!」


―――襲いくるゴブリンの姿にイェンリンは言葉で気迫を込める。


それと同時に―――


―――『身体加速』


―――『身体強化』


―――『思考加速』


身体強化系の能力を総動員してゴブリンと対峙する―――


「あれが―――ゴ、ゴブリン!?」


―――イェンリンに対してシータは初めて間近で目にする魔物に、思わず身体が硬直して真面に詠唱が頭に浮かばず集中力が乱れていた。


「ハアアア―――ッ!!!」


シータの状況を把握したイェンリンは少しでもゴブリンを接近させまいとして、自ら前に出る―――


【GYABAAAッ!!!】


―――解読出来ないゴブリンの号令が掛かると、先陣を切る五匹のゴブリンが手にした剣を振り被りイェンリン目掛けて襲い掛かる。


「ヤアアア―――ッ!!!」


そのゴブリンの振り下ろす剣に合わせにいったイェンリンの一撃は―――


【ッ!?―――GYAGYU!?】


―――剣戟を響かせることもなく紅蓮剣=業炎はゴブリンの剣を両断し、そのままゴブリンの鼻から上を切断する。


(剣ごと斬れた?!―――これが業炎の斬れ味なのね)


顔を半分にされたゴブリンの頭が宙を飛び、残された身体からは赤黒い鮮血が噴き出す―――


―――だがゴブリンは次から次へと襲い掛かってきた。


「ハァアアアッ!!!」


イェンリンは業炎を握りしめ、次々と迫るゴブリンを討伐していく―――


―――二匹目の剣は回避して、大きく振り抜いたゴブリンを頭から真二つに斬り裂いて、


三匹目と四匹目が左右から剣を振り下ろす動きを『思考加速』でハッキリと捉え、まず右側に回り込み剣と同時にそのゴブリンを斬る―――


【GYAAAAOOッ!!!】


―――断末魔を上げるゴブリンを突き放すと、左側から来ていたゴブリンに突きを繰り出して胸の心臓位置を貫く。


【GOBO……GOFUッ!】


貫かれると同時に牙が並ぶ口元から大量の吐血をして地面に倒れ込むゴブリンを振り払った―――






―――その戦闘を見ていたシータは、


「アァ……ハァ……ハァ……イェンリン……」


息を荒げながらイェンリンの凄まじい戦闘から目を離すことが出来なかった。


しかし同じようにイェンリンを見ていたフレイア、ゲイラホズ、ヒルドはその戦い方を睨むように見つめて、


「……いけませんね」


「ああ……あれは完全に飲まれてやがる」


フレイアの一言にゲイラホズが腕を組みながら、その言葉に続ける。


「……えっ?」


二人の言葉が聞こえてきたシータは冷や汗を浮かべる顔を紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》へ向けた。


「シータ皇女殿下……貴女は戦わないのですか?」


その時、ヒルドの深い緑の瞳で静かに見つめながらシータへ問い掛ける。


「わ、わたくしは、あのような……戦いは……」


シータはどう答えればいいのか分からず、そこで言葉が途切れて困惑の表情を浮かべる。


するとヒルドは淡々とした口調で、


「別に責めている訳ではありません。恐れるのは当然のことです。最早あそこまで接近されては魔術師にとっては不利な戦況です。無理に飛び込んでいけば、下手をすると未熟なイェンリンに斬られ兼ねない」


怯える様子のシータに語って聴かせる。


「イェンリンが未熟!?……あんなに強いのに?」


シータの目から見ても、今のイェンリンの強さはセキト城のどの騎士よりも強いとすら思えた。


そのイェンリンを未熟と言い放つヒルドに驚く。


「確かに強いでしょう。人族の中にあって、あれほどの力を持つ者は少ない。ですが―――あれではダメなのですよ」


「何がダメなのですか?」


シータにはその答えが分からず、ヒルドに問い掛ける。


「見ていれば、お分かりになるでしょう……」


それだけ言ってイェンリンに視線を戻したヒルドに魅かれるように、シータも瞳をイェンリンへと向ける―――


―――その時にはもう、襲撃してきたゴブリンの群れは最初に三十体いたはずが残っているのは十体もいない。


無数のゴブリンの骸の中でイェンリンは―――


「ハァハァ!……ハァハァ……」


―――肩で息をしながら残りのゴブリンを睨みつけていた。


だが残ったゴブリンの中には、明らかに他のゴブリンとは別物の存在がイェンリンを静かに睨みつける。


(あのゴブリン……他の者よりも明らかに大きくて、筋肉のつき方も違う……)


その存在に気がついているイェンリンは、先ほどまでの激闘から水を浴びたように冷静な眼で敵を分析していく。


それは後ろで様子を見ているフレイア達も同様だった―――


「―――ゴブリン戦士《ソルジャー》だな」


―――ゲイラホズが一回り以上大きな体躯のゴブリンを見て、それが上位ゴブリンの『ゴブリン戦士《ソルジャー》』であることを看破する。


「それでも今のイェンリンにとっては敵ではないでしょうが……」


フレイアはそこまで言って、相手のゴブリン戦士(ソルジャー)をジッと見る。


するとシータが恐る恐る問い掛ける。


「あの……ゴブリン戦士《ソルジャー》とは?」


それを聞いてヒルドが答える。


「そうですね……ゴブリン戦士《ソルジャー》とは―――」




―――『ゴブリン戦士《ソルジャー》』


通常は小柄な体格のゴブリンだが、進化体系を経た戦士(ソルジャー)は通常よりも一周り大きな体躯を持ち、その力も数倍強く武器の扱いにも長けた魔物だ。


戦闘ではゴブリンの兵を率いて戦場で指揮を執り、自身の戦闘力も高いという特殊な個体である。




「―――つまりゴブリンの群れを統率する隊長のような存在です」


「ゴブリンにもそのような存在がいるのですね……ハッ!で、ではあの戦士《ソルジャー》が相手ではイェンリンも危険なのでは!?」


話を聴き、その個体能力の高さ故にイェンリンに危機が迫っていると感じたシータは焦る。


「―――確かに真面にぶつかれば危険もあります。それにあの戦士《ソルジャー》……相当な場数を踏んでいる者のようです」


「で、では!やはり皆で助太刀を―――」


「―――皇女殿下。貴女は此処へ何をしに来られたのですか?」


そこへ静かだがシータにとっては厳しく感じる言葉を放ったのは、紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》第一位フレイアだ。


「イェンリンは自らの強さに今、真剣に向き合っています。人を超えるには、この戦いが必要なのです」


フレイアの言葉がシータの胸を貫いた時―――


「ハアアアア―――ッ!!!」


―――先に動いたのはイェンリンだった。


【ッ!―――FUUUUU!!!】


その加速した動きにも難なく追いついたゴブリン戦士《ソルジャー》は、背負っていた武器の柄を握りしめてイェンリンへ振り下ろす―――


「―――なにっ!?」


―――そして次の瞬間、


激しい剣戟が火花を放ち、激突の衝撃が周囲に広がる―――


「業炎を受け止めたか……なかなか業物のようだ」


―――その光景にゲイラホズが呟く。


目の前でイェンリンの業炎の刃を受け止めたその武器は、余りにも分厚い刃で二m近くある大剣だった。


「グクッ!―――このぉ……」


そこで鍔迫り合いとなってイェンリンとゴブリン戦士《ソルジャー》が、互いに力の限り押し合いになると剣同士がギリギリと金属の擦れる音を響かせていく。


「な、何故あの剣はイェンリンの剣で斬れないのですか?」


傍に立つヒルドに問い掛けるシータ。


「先ほどまでのゴブリンの剣は数打ちの、言うなれば安物の剣です。ですが、あの戦士《ソルジャー》の手にする大剣はかなりの腕を持った鍛冶師の手による物でしょう……物が大きいこともありますが、武器を破壊されないための剣を戦士《ソルジャー》はこれまでの戦闘経験で身につけているのです」


「破壊されないための剣?」


「単純に打ち合えば斬れるというものではありません。剣と剣がぶつかる瞬間、一瞬だけ剣の身を退いたのです。それによりイェンリンの斬撃の力が逃がされました」


「そ、それは、かなりの高等技術なのでは?」


聞いただけでも高等技術だと分かるその剣技についてシータは問い掛ける。


「ええ。恐らくですが、あの戦士《ソルジャー》が持つスキルによるものでしょう。進化した戦士《ソルジャー》、騎士《ナイト》、魔術師《メイジ》―――更に進化した将軍《ジェネラル》、王《キング》まで至れば、強力なスキルを持つ者になります」


「ゴ、ゴブリンにも王が……」


ヒルドから聞かされたゴブリンの階級にシータは息を飲み、まだ見ぬ王《キング》に畏怖する。


「―――王《キング》の尖兵である戦士《ソルジャー》にすら勝てないようでは、これから先に訪れるかも知れない脅威に立ち向かうことは出来ません」


そんな中でもフレイアは冷静に淡々とイェンリンの道を示す。


当のイェンリンは―――


「―――イアアアアアッ!!!」


―――業炎を振り翳し、ゴブリン戦士《ソルジャー》の剣と打ち合っていく。


【―――FUOAッ!!】


『身体加速』しているイェンリンの剣にも、短く息を吐きながらゴブリン戦士《ソルジャー》は正確に剣を合わせ、更には自ら先んじて斬撃を繰り出してきた―――


(こ、このゴブリン!―――とんでもなく強い!!)


―――イェンリンが上段から袈裟斬りに繰り出した斬撃を、


ゴブリン戦士《ソルジャー》は易々と受け流し―――


―――加速してほぼ同時に襲いくるイェンリンの横薙ぎの斬撃には、


手にした大剣を斜めに翳して、これも受け流した―――


―――しかしゴブリン戦士《ソルジャー》も一瞬の間を突いて、


イェンリンに向けて斜め下から刈り取るような一撃を繰り出す―――


「―――クウウゥ!!」


―――その一撃を躱しながら、イェンリンは仕切り直すために後方へと飛び間合いを取った。


「ハア、ハア……お前……強いね」


息を整えながらゴブリン戦士《ソルジャー》に言い放つ。


【……】


しかしゴブリン戦士《ソルジャー》はそんな言葉にも動じずに、両手で大剣を構え直してイェンリンを睨みつけていた。


「言葉なんて通じる訳ないか……」


イェンリンも業炎を構えながら、ゴブリン戦士《ソルジャー》と向き合う。


その闘いをシータも紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》達も黙って見守る。


しかしそれは生き残っていた他のゴブリン達も魔物の本能が停止しているかのように動くことをしなかった―――


―――それは統率者であるゴブリン戦士《ソルジャー》の戦いに、横から割り込んでは自分の命がないことを知っているからだ。


知能の低い魔物と思われがちなゴブリンだが、人族が思っている以上に彼等は考えて行動する―――


―――力の弱い魔物だからこそ群れを成し、卑怯と思える戦いを行い、人族に忌み嫌われても生きることに執着しているのだ。


そんなゴブリンでも、この二人の戦いに巻き込まれたなら命がないことを本能で察している―――


―――周囲の者達が息を飲む空気の中で、


イェンリンは正眼に構えた業炎の狙いをゴブリン戦士《ソルジャー》に向けて鋭い眼で睨みつけるのだった―――



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