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紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第3章 強者への道編

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隣国への旅立ち

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―――巨大な真紅のドラゴンと化した紅蓮は、その背にイェンリンとシータを乗せて大空を舞う。


そして紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》のフレイアとランドグリーズ、更にヒルドとゲイラホズが同行するために乗っていた―――


「―――凄い!!まさか紅神龍様の背中に乗せて頂けるなんて!!」


今まで大空を舞う紅神龍の姿を見上げることしか出来なかったシータにとって、この大陸の力の象徴たるその背に乗れることは何物にも代えがたい喜びと興奮だった。


「ゲイラホズは兎も角―――ヒルドが一緒に来るなんて驚いたわ」


イェンリンは同行しているヒルドに振り返って告げると、


「丁度ヴァンウルフ自治領区へ向かう予定でしたから。紅蓮様が送ってくださると言われて助かりました」




『紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》』第四位


―――『先駆者』ヒルド


紅神龍紅蓮の紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》にあって、外部諜報員の役割を持つ眷属である。


彼女の配下には序列外だが優秀な諜報員の紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》が集っており、彼女達は大陸各地へ散って常に情報を収集しているのだ。




「―――ヴァンウルフ自治領区に何か用事があるの?」


「ええ。我々は定期的に『魔物暴走(スタンビード)』の兆候を調査しているのです。北部ノルドは紅蓮様の縄張り……そこで好き勝手する魔物の存在は見過ごせません」


ヒルドの話を聴いていてイェンリンは改めてヒルドの調査の重要性を知った。


「―――ヒルド様の調査のおかげでヴァーミリオン皇国は何度も魔物暴走(スタンビード)の脅威から救われたことがあると家庭教師から伝え聞いておりますわ」


「それは光栄なことです。しかし、まさか皇女殿下が御一緒されるとは……」


ヒルドは皇女の立場でイェンリンの鍛錬に同行していることに内心穏やかではなかった。


「これも皇族の慣習というものですわ♪」


「なるほど……皇妃様も且つてはヴァンウルフ自治領区へ行かれましたものね」


(あの時は紅蓮様の命で皇妃様を極秘に護衛していましたが……まさか親子二代で護衛対象になるとは……)


―――当時の皇妃の護衛は近衛騎士達が就いていたが、紅蓮と親交のあった皇帝ヴァンヘルムの皇妃ネメリア=ツイス・ヴァーミリオンを影から護衛していたのもヒルドだった。


ヴァーミリオンの公爵家出身であるネメリアは魔術に秀でた皇妃であり、その血は娘のシータにも受け継がれている―――


「御母様は魔術が得意でヴァンウルフ自治領区で出会った魔物を次々と倒したと幼い頃から聞かされておりました」


シータの話にイェンリンは優秀な魔術師だった母カリオラを思い浮かべる。


「魔術師の……お母さん……」


ここ数年は生きることに必死で母親のことを思い出すことも少なかったが、こうして生活が安定してくると次に襲ってくるのは今の生活が奪われるのではないかという不安だ。


その中で母の最期が焼きついたイェンリンの真紅の瞳には、何度もその光景が繰り返された。


「―――どうしましたの?」


「ッ!―――い、いえ!何でもないわ……」


隣から突然声を掛けられて、ハッと正気に戻ったイェンリンは何かを誤魔化すような笑みを浮かべてシータに答える。


【……】


その二人の様子を紅蓮は黙って見ていたが、


【さあ―――もっと速度を上げるわ。振り落とされないように気をつけなさい!】


背中に乗せた者達にそう言い放つと、


「うわっ!?―――ほ、本当に速い!!!」


一気に音速を超える速度で大空を砲弾のように突き進む。


フレイアが皆の周囲に《防御障壁《シールド》》を展開しているおかげで、猛烈な風圧に晒されることもなく、一気に加速して流れていく周囲の雲の様子から加速を感じ取るイェンリンとシータ。


「一瞬で雲が流れていきますわ!」


シータもこのような速度の世界を見たことがないため、雲の切れ間から見える地上の景色と周囲の流れる雲の速さに驚いていた。


音速を超えた紅神龍の巨体は大空を突き抜けて、あっと言う間にヴァーミリオン皇国の国境を超えるのだった―――






―――ヴァンウルフ自治領区


空を翔ける紅神龍は一気にヴァンウルフ自治領区の大地を進み、北へ向かっていく。


それまでは森や湖、それに点在する街も上空から見えていたイェンリンとシータだったが、


「……随分と木々が減ってきましたわね」


地上に見えていた森が途切れ、所々に木が立っている景色に変わってきていることをシータが口にした。


「ええ……岩場ばかりの景色になってきたわ」


イェンリンも緑が減って岩場だらけになってきた光景に妙な不安が湧いてきて表情にまで出ていた。


するとフレイアが二人を見て―――


「―――もう少し行けばまた森が見えてきますよ」


―――二人の不安を察して行き先にあるものについて告げる。


「そうなの?」


「はい―――間もなく見えてきます」


フレイアがそう言った時―――


―――丁度そこで紅蓮が岩山を飛び越えて、その先にある景色がイェンリンとシータの目に映る。


「えっ?……」


「……あれは……森なの?」


岩山の向こうに広がっている光景は、同じ国なのかと思えるほどの不自然な黒雲が覆う薄暗く広大な森林だった―――


「此処がイェンリンにこれから鍛錬してもらう場所―――『魔物憑きの森』です」


「―――魔物憑きの森?」


「はい―――この森はヴァンウルフ自治領区の最北端に広がっていて、そしてこの森の中では際限なく魔物が生まれます」


「魔物が……生まれる森……」


フレイアの説明にイェンリンは息を飲み、シータは不安そうにイェンリンの腕に掴まってきていた。


するとゲイラホズがその森を見据えて、


「久しぶりに来てみたが、相変わらず暴れ甲斐のある土地だ」


イェンリンとシータの隣でニヤリと歪な笑みを浮かべる。


(エエ……ゲイラホズのあの顔……絶対真面な考えじゃないわ……)


その笑みにイェンリンは、戦闘狂の一面を持つことを知っているゲイラホズの様子だけで此処の危険度を報せられた思いだった。


【―――あそこへ降りるわよ】


皆を乗せた紅蓮が向かう先には、広大な森の中でも目立つ巨大な湖の方角だった。


「湖があるのね」


イェンリンが陽の光を反射する湖を見つめていると、


「あの湖の傍にフロックとドワーフ達が建てた屋敷があります。今日からそこを拠点として鍛錬を行います」


フレイアが目的地について教えてくれた。


「こんな場所にフロックとドワーフ達は屋敷を建てたの!?」


どう見ても真面な土地ではない場所に、屋敷を建てたこと自体がイェンリンにとって驚愕だった。


そうして紅蓮が一直線に湖に向かって飛翔すると、


「あっ!―――何か見えてきましたわ!」


シータが指差して声を上げた。


「あれは……確かに立派な屋敷があるわ!」


そこに見えてきたものはフレイアの言った通り立派な屋敷であり、そしてその屋敷の周囲を城壁のような塀が覆っている景色だった。


「あの塀にはゴンドゥルが施した魔物除けの魔術式が組み込まれていますから、あの中は安心して休むことが出来ますよ」


フレイアの話にイェンリンは、


「それは裏を返すと塀の外だと安心出来ないってことよね……」


言葉とは裏腹に塀の外の危険度がより強調された気がした。


【―――降りるわよ】


紅神龍の声が届くと同時に真紅の巨大な翼を一際大きく羽ばたかせたかと思うと、制動を効かせて地上擦れ擦れで浮かび上がり、ゆっくりと地上に降り立った。


紅神龍は地上に降りると同時に―――


―――その巨体の周囲に真紅の『龍気《オーラ》』が巻き起こり、


やがて人の姿に戻ると、いつの間にか紅蓮の周囲にイェンリン達も立っていた―――


「さあ♪ 着いたわ♪―――此処が私の屋敷よ」


―――紅蓮の指し示した先に建つ屋敷は、


石壁に白壁を組み合わせて頑強な造りをしている三階建ての屋敷だ―――


―――庭には花壇があり、その傍にはガゼボまで設置されている。


「思った以上に立派な御屋敷ね……」


イェンリンは辺りを見渡して素直な感想を述べる。


「その辺りはフロックの拘りです」


フレイアがそう説明するとシータが笑みを浮かべて、


「先ほど見えた湖も近くで見てみたいです!」


身を乗り出してそう進言した。


「あの湖には水棲魔物が数多くいますので、近づきすぎて引き摺り込まれないようにしてください」


「ヒィ!?―――そんなに危険なのですか?!」


空からは巨大な美しい湖に見えていたが、巨大故にその湖には数多くの魔物が棲みついていることを知ってシータが小さな悲鳴を上げた。


「この地は地上の魔物、水棲の魔物、そして空の魔物まで無数の魔物が跋扈しています……油断していると、命の保証はありません」


真剣な顔のフレイアの言葉はイェンリンとシータに精神的な重圧を掛けてきた。


「では早速ですが、屋敷の周囲の様子でも見に出てみましょう」


「それって……あの門を出たら、そこはもう戦場ってこと?」


「はい。その認識で大丈夫です」


(全然大丈夫じゃない……)


フレイアの念を押した大丈夫という言葉に、イェンリンはどこにそんな部分があるのか逆に知りたいほどだった。


「―――それでは参りましょう」


フレイアの言葉に従ってイェンリンとシータ、その後ろにはヒルドとゲイラホズがつき従う。


「わたくしは屋敷の段取りを進めておきますので、皆様お気をつけて」


紅蓮と共に屋敷に残るランドグリーズが手を振ってイェンリン達を見送るのだった―――






―――屋敷の門を通り抜けて外に出るイェンリン達。


「ッ―――シッ!」


その次の瞬間、ゲイラホズが高速の動きを見せると手にした槍を突き出し、その穂先にはどこから現れたのか巨大な蜂が突き刺さっていた。


「キャアッ!!―――こ、この魔物は!?」


突然目の前に突き出された槍で貫かれた人の頭以上に大きな蜂が藻掻きながら足をウネウネと激しく動かす。


「―――森林大蜂《フォレスト・ビー》ですね。ですがこの森の蜂は他の森のものより巨大で毒性も強い魔物ですから、油断してはいけません」


淡々と襲い掛かってきた蜂の解説をしてくれるフレイアだったが、屋敷を出ていきなり襲われたことにイェンリンもシータも硬直してしまう。


「御二人とも……呆けている場合ではありませんよ?」


フレイアが静かに告げると、いつの間にか周囲に無数の人型の影が現れる。


「あれは!?―――ゴブリン!!」


それは体型こそ小柄だが、そのどれもが醜悪な表情を浮かべる変色した肌で全身を覆われ、耳が尖ったゴブリンの群れだった。


しかし只のゴブリンではなく、その手には剣を握って胸当てや手甲足甲を装備している兵隊のようなゴブリン達だった。


「只のゴブリンではありません。この辺りに棲みついたゴブリンの中に上位ゴブリンが誕生していたようです。この数を見るにこの辺りで棲家《コロニー》を形成しているようですね……」


統制が取られているゴブリン達の様子を一見しただけで、フレイアが周囲の環境についてまで鋭い推測を行う。


「つまり棲家が出来たことで、これだけの数が生まれたってことね……」


そう言いながらイェンリンは紅蓮剣=業炎を鞘から抜き放ち、シータは魔術杖を『収納』能力の中から取り出して魔力を込めていく。


その様子を見ていたゴブリン達が一斉にイェンリン達へ襲い掛かってくるのだった―――



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