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紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第3章 強者への道編

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皇女の来訪

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―――昨日の『謁見の儀』を越えて、


紅龍城での日常が再び始まったイェンリンの日常のはずだったが、そこには―――


「まさか……本当に来るなんて……」


紅龍城の城門の前には近衛騎士団の隊列に護られた一台の豪華な馬車が止められて、その車内から石畳に降り立った人物に出迎えに出てきたイェンリンの表情が引き攣っていた。


「―――御子様♪」


嬉しそうな声を上げてイェンリンの元へ近づいてくるヴァーミリオン皇国第二皇女―――


―――シータ=ヘイン・ヴァーミリオンの眩しい笑顔がそこにあった。


「―――殿下!慌てては危ないです!」


突撃するかのように駆け出したシータに対して、護衛の近衛騎士を統率してきた銀髪で蒼い瞳をした皇国軍将軍―――


―――ジャックス=ダーストンが声を上げる。


しかしその瞬間、


「―――キャアアッ!?」


石畳の境目で飛び出していた角に足を取られ、前のめりに倒れ込むシータ―――


―――そのまま顔から石畳に倒れ込む寸前、


「―――危ない!」


「キャッ?!……み、御子様……/////」


一瞬で倒れ込むシータの身体を掴み、転倒を防いだのはイェンリンだった―――


「し、失礼しました!」


身体を掴み受け止める形だったとはいえ、この国の皇族の身体を安易に触れてしまったことを謝罪するイェンリンだったが、


「でも……そんなに慌てたら危ないですよ」


シータの体勢を真っ直ぐ戻しながら、危険な行為を諫めたイェンリンをシータはボゥ~とした表情で頬を赤らめながら見つめる。


「ハッ!?―――も、申し訳ございません!御子様に御迷惑を……/////」


呆けていた顔からすぐに正気に戻ったシータは、抱きとめてくれたイェンリンにキラキラとした瞳を向けて申し訳なさそうに見つめる。


(うっ!?女同士なのに、何この眼力は……ま、眩しい!)


吸い込まれそうな美しい瞳に、思わずギュッと目を瞑って魅了されそうだった自分の正気を保つイェンリンを、不思議そうに首を傾げてシータが覗き込んできた。


「皇女殿下……余り御子様に近づきすぎて御不自由を掛けては」


その様子を見兼ねたジャックスが、イェンリンへ助け舟を出す様にシータへ声を掛けた。


「あらっ!?わたくしとしたことが、失礼致しました」


「い、いえ……お気になさらず……」


既に疲れた表情を浮かべるイェンリンに、心配になって共に出迎えに出てきていたゴンドゥルは思わず笑ってしまう。


「プフッ♪……ククッ♪」


そんなゴンドゥルに同じく隣で見ていたブリュンヒルデは、肘でコツンとゴンドゥルに注意をする。


「此処が紅神龍様のお城なのですね♪ 以前から見ていたお城ですが、こうして自分の足で傍までやってきたのは初めてです♪」


(そうか……紅蓮が会った時は、まだ皇女殿下は赤ちゃんだったから……)


赤ん坊という言葉を思い浮かべた時―――


(ウッ?!……ルメイ……さん……)


―――その言葉にイェンリンが深く意識の底に沈めていたゴルゴダ村の惨劇の中でも、忘れられない妊婦だったルメイの最期の姿が思い起こされていた。


急に険しい表情へ変わったイェンリンに不安を感じるシータ。


しかしそれは出迎えの場にいるブリュンヒルデとゴンドゥルも同じく首を傾げて顔を見合わせていた。


「あの……御子様?」


「えっ?あ、ああ、ごめんなさい!」


ハッと正気を取り戻してイェンリンは慌ててシータを城内へと促す。


「さ、さあ、どうぞ♪ 此方です」


精一杯の笑顔を作ってイェンリンは先導してシータを案内していく。


「護衛の方々はどうなさいます?」


その場で集結している護衛の近衛騎士に声を掛けるゴンドゥルへ、ジャックスが返答する。


「私が御同行させて頂いてもよろしいか?」


「皇国軍将軍ですね。いいでしょう♪ 御同行を」


軽快な返事をしてゴンドゥルはジャックスも城内へと案内するのだった―――






―――紅龍城の中にある貴賓室の一室へ皇女を案内したイェンリンは、


「お茶をお願い」


そこで控えていたランドグリーズへお茶の手配を指示する。


「―――畏まりました♪」


家令として礼儀正しく美しい笑みを見せたランドグリーズは、貴賓室に備え付けられた紅茶セットに向き合い手際よく準備していく。


その間にシータは紅龍城の中を珍しそうに眺めながら、嬉しそうな顔をして、


「紅龍城はセキト城とはまた違った趣なのですね♪」


イェンリンに向かって正直な感想を述べた。


「あっ……それ、私がセキト城で感じたことと同じ……」


思わず呟いたイェンリンの言葉をソファーに腰掛けるシータは聞き逃すまいと耳を澄ませていた。


「―――御子様もセキト城に来た時、同じように思われたのですか?」


「えっ?は、はい……廊下の景色や玉座の間の広さとか、この城とは別の城に入って中の景色を見るなんてことなかったから」


「ウフフッ♪ それはわたくしと同じですわね♪」


クスクス♪ と口元を手で抑えながら、上品に微笑むシータの様子を見ながら、


(皇女様も……私と同じようなこと考えるんだ……)


これまでがまるで雲の上の存在のように思えていたシータのことを、今はとても身近な存在に感じられていた。


その時、ゴンドゥルの言葉が脳裏を過ぎる―――




『……イェンリン、皇女殿下は御歳十七だよ。アンタと一緒さ。彼女が皇女なのは―――生まれた星の下が皇帝の娘だったっていうだけなのさ』




―――人は生まれる先を選ぶことは出来ない。


(生まれた星の下が……そうなんだ……皇女殿下に生まれても、この子は私と同じ十七歳の女の子なんだ)


そう考えたと時、イェンリンの中で重苦しかった何かがフッと肩から抜け落ちたような感覚を覚えた。


「フフッ♪……なんだ♪ そうなんだ」


そう思ったら何か思いつめていた気が抜けて、思わず笑いが込み上げてきたイェンリンを不思議そうに見つめたシータは、


「御子様?何か面白いことでもございましたか?」


首を傾げながら問い掛けた。


最早その首を傾げる仕草も可愛らしく思えたイェンリンは、


「皇女殿下……私のことはどうかイェンリンとお呼びください♪」


自らを名前で呼ぶことを願い出た。


「まあ♪ よろしいのですか!では……わたくしのことも皇女殿下ではなく、シータと名前で御呼びくださいませ」


「えっ!?―――皇女殿下を名前で御呼びするのは……」


「ダメですか?……本当に?」


シュンとした顔で伏せがちに問い掛けるシータを見て、


(何故……同い年の女の子にこんな思いを抱かないといけないの?)


その可愛らしい仕草に見惚れてしまった自分に自問自答してしまう。


「その……公的な場面でなければ……」


「はい!―――それで構いませんから!ウフフッ♪ 何だか御友達として発展した気がします♪ あっ!それと、畏まった言葉遣いもいりませんから!」


「分かりまし……ウンンッ!……分かったわ」


要望に出来るだけ応えてあげようと、言葉を言い直したイェンリンを見て、シータは再び笑みを零す。


「―――失礼致します♪」


そこでタイミングを計ったようにランドグリーズが紅茶を淹れたカップを二人の前に配膳する。


そして次に二人の間に置いたのは―――


「うわぁ♪ とっても綺麗で美味しそう……」


―――感動した表情で言葉を失うシータの前に現れた、厨房のスルーズから届けられた特製のケーキや焼き菓子といったティーセットに載せられた数々の菓子だった。


「確かにこれは……美味しそう♪」


笑顔を見せるイェンリンにシータは一瞬目を見開いて驚くが、すぐに自分も笑顔を見せながら、


「ウフフッ♪ 御子様もそんな可愛らしい顔をするのですね♪」


またイェンリンの新たな一面が見られて喜んでいる様子だった。


「なによぉ~!シータだってお菓子は好きなんでしょ!」


既に崩れた体裁を取り繕うつもりはなく、頬を膨らませてシータに言い放つイェンリンに、シータは喜んでいるが部屋の隅で様子を見ていたジャックスは驚きの表情で固まっていた。


そのジャックスの驚きで固まった様子を見て、ゴンドゥルやブリュンヒルデは思わず笑みが零れるのだった―――






―――今日だけですっかり打ち解けていったイェンリンとシータ。


「シータは皇女なのに―――自分で料理や裁縫までするの!?」


そう言って驚くイェンリンへシータは、


「わたくしは第二皇位継承権を持っていますが、御兄様が皇帝を継承する以上はどこかに嫁ぐ身ですもの。その嫁ぎ先で最低限必要なことは身につけていますわ」


そう言って現実的な事実を伝えた。


「結婚かぁ……私には想像もつかないわ」


そう言ったイェンリンだったが、脳裏に浮かぶのは少年時代のマルクの姿だった。


生きていればイェンリンと同じく十七になるマルクは、きっと立派に成長しているだろうと勝手に想像する。


(マルク……今も生きていると信じているけど……エリシラと一緒にいてくれたら……)


そう考えずにはいられないイェンリンは、再び表情が暗くなっていた。


「―――どうかしましたの?」


そんな様子を見逃さないシータはイェンリンへ問い掛ける。


「ッ―――いいえ、何でもないわ♪」


「だったら良いのですが……それよりも、御父様が来月の夜会にイェンリンにも是非、参加して欲しいとのことでしたわ♪」


「へ?―――夜会?夜会って……」


「―――セキト城で皇族や貴族の皆様を御招待して行われるのですわ。御母様も是非にとお誘いなさっていらっしゃいました」


そのように伝えると同室で話を聞いていたジャックスが右手で顔を覆う様にしていた。


「……ダーストン将軍。今、皇女殿下が言われた夜会の話は?」


そんなジャックスに声を掛けるゴンドゥル。


「ああ、はい。昨日、皆様が御退室された後に皇族の皆様から皇帝陛下と皇妃様にそのような話が上がったのだと……」


どうやら事実であることはジャックスの言質で証明された。


「―――夜会ねぇ……私には想像も出来ない世界だわ」


只の村娘だったイェンリンには母親から聞かされた寝物語の中の御伽話の世界のような話だったので、遠いものを見る様な瞳でそう告げた。


「いいじゃありませんか♪ わたくしはイェンリンと夜会を過ごしたいと思っていますわ♪ 一緒に踊ってくださってもよろしくてよ♪」


「踊る!?そんなの……やったこともないから、無理よ」


御伽話で聞いたダンスなど、イェンリンには想像も出来ないものだ。


「―――それならば僭越ですが、私がお教え致しましょうか?」


横からそう提案してきたのはランドグリーズだ。


「ランドグリーズって踊れるの!?」


「ウフフッ♪ 城のことを預かる者として、ダンスの一つも出来なければ失格ですわ」


そう言って誇らしげに胸を張るランドグリーズの意外な一面を知れて、イェンリンは嬉しさが込み上げると共に、自分の知らない世界が再び皇帝の住むセキト城で展開されようとしている状況に不安が広がっていく。


「イェンリン様もダンスの一つや二つ嗜みとして身につけておいても間違いではございませんよ?」


「アハハ……」


その気持ちを察したように先回りして告げるランドグリーズに、愛想笑いを浮かべるしか出来ないイェンリンだった―――



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