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紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第2章 真紅の誕生編

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真紅の御子の生誕

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―――皇妃の隣に控えていた者が続いて声を上げる。


「御挨拶させて頂きます。ヴァーミリオン皇国第二皇女―――シータ=ヘイン・ヴァーミリオンと申します」


長い水色の髪をした蒼い瞳の皇女はイェンリンが目を見開くほど美しい少女だった―――


「……綺麗」


思わず玉座でそう呟くイェンリンに、一瞬その蒼い瞳を見開いたシータだったがすぐに母親譲りの朗らかな微笑みを浮かべる。


「このシータ、御子様にそのような御言葉を頂けまして、心より嬉しく思います♪」


「あっ……ど、どうも」


皇国の皇女に眩しいくらいの微笑みを向けられて、イェンリンはどう返せばいいのか分からずに当たり障りのない返事を返す。


「クスクスッ♪ 御子様はとても御可愛らしいのですね♪」


「―――えっ!?/////」


皇女に可愛いという言葉を掛けられ、これまで平静を保っていたイェンリンの中で恥ずかしさが溢れ出てしまう。


(これは……これ以上は色々とボロが出てきそうだね……)


その様子を見ていたゴンドゥルはイェンリンが早くも限界を迎えそうになっていることを察する。


しかし『謁見の儀』には皇族、貴族と定められた順に御子へ挨拶を贈ることが決められていた。


現に今も皇女に続いて他の皇族が挨拶のために列を成しており、その後には皇国の貴族達が爵位に沿って並ぶ始末だ。


(こればかりは儀式である以上、イェンリンに頑張ってもらうしかないねぇ……)


その光景を眺めながら、ゴンドゥルは生温かい目を向けるのだった―――






―――長々と続いた御子との謁見の儀は、漸く終わりが見えてきた。


皇族は兎も角として地方の貴族達は少しでも紅神龍との繋がりを築こうと必死に自分自身を誇り、虚栄心剥き出しでイェンリンに迫る者ばかりだった。


「……アハハッ……」


最早その時には引き攣った笑みしか浮かべることが出来ないイェンリンは、必死に相手の話に耳を傾けながらも、まるで拷問を受けているような気分になる。


そうして―――


―――皆との挨拶を終えたイェンリンに隣の玉座に腰掛けていた紅蓮が、


「―――お疲れ様♪」


微笑みながらイェンリンに労いの言葉を掛ける。


「こんなに大変だとは……正直思っていなかったわ……」


意気消沈しているイェンリンだったが、そこで立ち上がった紅蓮に続いて自分も玉座から腰を上げた。


「これにて『謁見の儀』を終ります―――ヴァンヘルム!セキト城に『龍旗』を!!!」


「ハッ!―――『龍旗』を掲げよぉ!!」


皇帝の号令に玉座の間を警備していた近衛騎士へ、紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》第一位フレイアが真紅の旗を手渡した。


―――その真紅の旗を玉座の間で近衛騎士達が端を持って大きく広げる。


広げられた旗の中心には―――


「あれは……紅蓮の『龍紋』……」


―――真紅の生地に栄える金糸で刺繍された円型に龍の絵が描かれた『龍紋』と呼ばれる紋章が刻まれていた。


皇国の皇帝に手渡された『龍旗』―――


「―――『龍旗』を塔に掲げよ!!!」


ヴァンヘルムの号令でその『龍旗』を手にした近衛騎士達は、一礼すると玉座の間から退室していく。


皇帝の住まう城の一番高い塔に『龍旗』が掲げられる意味とは―――


―――それはヴァーミリオン皇国に紅神龍の御子が生誕したという事実を伝える合図だった。


こうして謁見を終えたイェンリン達はセキト城から紅龍城へと帰還するのだった―――






―――紅龍城へ帰還したイェンリンは、独りで自室のベッドに横たわっていた。


「……何とか……終わった……」


ベッドの天蓋を見つめながら、イェンリンは全身から力が抜けていくのを感じた。


しかし、そのようなイェンリンの脳裏に浮かぶ光景がある。


それはセキト城を出る際に―――




「―――御子様ぁ♪」


漸く帰れると思っていたイェンリンを呼び留める声が聞こえた。


その声に振り返ってみると、そこにはドレスのスカートを両手で摘まみながら足早に追いかけてきたシータが傍へ来て立っている。


「―――皇女殿下!?そんなに慌ててどうされたのです?」


流石に皇女自らが息を切らせて追いかけてきたことに、イェンリンも困惑するしかない。


「ハァハァ……御子様♪ あの、もし御子様が宜しければ……」


「……はい?」


駆け寄ってきたシータは両手を胸の前で組みながら、身体を僅かにモジモジとさせてイェンリンを熱い眼差しで見つめてくる。


「うっ!?……ど、どうされ……ました?」


先ほどまでのお淑やかな雰囲気とは打って変わり、年相応の仕草で迫るシータにイェンリンの脳裏には嫌な予感が走る。


「―――宜しければ、わたくしの……お友達になって頂けませんか!/////」


「……はい?」


(今……この皇女殿下……何て言ったの?)


「わたくし!―――御子様と御友達になりたいのです!/////」


「……とも……だち?……友達?」


その宣言に困惑するのはイェンリンだけではない―――


―――流石に驚いて口元を手で抑える紅蓮と、


皇女の無邪気な行動に、イェンリンへの接近を容易く許してしまった紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》達も目を見開き―――


―――皇女の父親である皇帝ヴァンヘルムは顔を歪ませて硬直し、


兄である皇太子カイザエルも息を飲んだ―――


―――そのような中で、


「オホホッ♪ シータと御子様が御友達だなんて、とっても素敵だわぁ♪」


唯一人だけシータとイェンリンへ嬉しそうにそう声を掛ける皇妃ネメリアは、やはり皇族の中でも一番の大物だった―――


「こ、皇女殿下と友達だなんて!?そんな―――」


慌てて身分違いだと否定しようとしたイェンリンだったが、


「―――やはり紅神龍様の御子様に、わたくしのような者が御友達になるのは……相応しくございませんか?」


哀しそうな表情で問い掛けるシータは肩を少し震わせており、それに先ほどの言葉も想像とは真逆の立場であるように聞こえたことも益々イェンリンを困惑させる。


流石にこれは勝手に返事してもいいものか、思わず視線を紅蓮に向ける―――


―――するとそのイェンリンの視線に気がついた紅蓮は溜め息を吐きながら、


「ハァ……皇女殿下♪ いつでも紅龍城へ遊びに御出でなさい♪ イェンリンと友になりたいのなら、まずはそうやって互いのことを知っていくところから始めればいいでしょう♪」


微笑みを浮かべてシータに友人関係の第一歩を指南した―――


「よろしいのですか!?―――ウワァ~♪ 紅神龍様に御許しを頂けて、わたくしとっても幸せです♪」


「……えぇ……」


「良かったじゃない♪ 御友達が出来て♪」


気のない返事をしたイェンリンの肩に手を置いた紅蓮がそう告げながら、面白いことになったと顔に書いているような笑みを浮かべていた。


「なんと……我が娘が紅神龍様の城の出入りを許されただと……」


本来であれば入城することなど容易には叶わぬ、紅龍城への出入りを許された我が娘に驚きの視線を向けるヴァンヘルム。


「羨ましい……」


常日頃から自由奔放な妹だとは思っていたシータが、イェンリンに友人になりたいと言って紅蓮から城へ来る許可を得た光景をカイザエルは羨望の目で見ていた。


「では!明日にでもお邪魔して宜しいでしょうか♪」


「えっ!?―――明日ぁ!?」


間髪入れず約束を結びにきたシータに、思わず後退りしようとするイェンリンだったが、紅蓮にグッと肩を抑えられて逃げられずにいる。


「いいわよ♪ では明日、紅龍城でお待ちしているわ♪」


困惑したままのイェンリンの代わりに紅蓮が返答すると―――


「―――ちょっと!?」


―――紅蓮は有無を言わせぬ勢いでイェンリンを抱えて空に浮かび上がった。


そうして全身に膨大な真紅の『龍気(オーラ)』が渦巻き纏われると、それが大きな球体を形作り―――


―――そして次の瞬間、


その球体が弾け飛ぶと、その中から巨大な真紅のドラゴンが姿を現した―――


「ちょっと!―――紅蓮!!」


―――いつの間にか背中に乗せられているイェンリンは、勝手に話を進めた紅蓮に文句の一つも言ってやろうとしたが、


【―――此度の『謁見の儀』は、これまでにないくらい充実したものだったわ!!】


ドラゴンの姿で紅蓮の声が満足げにそう響かせると、大空に巨大な翼を羽ばたかせて白い雲の浮かぶ上空へ飛び立つ―――


―――それと同時に地上には突風が吹き荒び、誰もが頭を抱えるように目を閉じた。


そうして再び目を開いた時には、背に御子を乗せて紅龍城に向かって遠ざかる真紅のドラゴンが映り、そして同時に先ほどまで立ち並んでいた紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》達の姿は一人としてそこには残っておらず、風のように掻き消えていた……




―――その様な出来事を自分のベッドに横たわりながら思い出していたイェンリンは、再び溜め息を吐く。


「フゥ……皇女殿下と友達だなんて……どうすればいいか……」


ゴルゴダ村にいた幼い頃のイェンリンであれば、物怖じすることなく皇女という立場など関係無く仲良くしていたのかも知れない。


しかし、今のイェンリンは妹のエリシラと幼馴染のマルクを探しつつ彷徨って、物乞いのような身分にまで堕ちて人から蔑まれていた経験が、素直に人と接する気持ちを失わせかけていた。


紅蓮や紅の戦乙女《クリムゾン・ヴァルキリー》達は別次元の存在のため、人として接する感覚とは違うが故に意識していなかったが、今日の皇帝や皇妃、それに皇太子や皇女には緊張が走ってしまうのだ。


「……ハッ!本当に明日は皇女殿下が来るのかしら!?いや、あの口振りなら……絶対来るわよね……ウウウ~ン!」


思い出しながら明日はどうすれば良いのか、ベッドの上でゴロゴロと転がりながら頭を抱えるイェンリン。


そのイェンリンの耳に扉をノックする音が届いた。


「……どうぞぉ」


気のない返事で入室を許可したイェンリンの前にやってきた者は―――


「―――やぁ♪ 御機嫌みたいだねぇ♪」


―――鎧を脱いで面白そうに笑うゴンドゥルと、心配そうな顔でいるブリュンヒルデだった。


「お疲れ様だったな。イェンリン」


ブリュンヒルデは素直にイェンリンの今日の頑張りを労う。


「本当に疲れたわよ……それに明日はあの皇女殿下が城に来るのよね?」


ベッドの縁に腰掛ける体勢に身体を起こしたイェンリンが問い掛けると、


「そうだねぇ……紅蓮様に直接許可を得たことなんだ。本人の気持ちとは別で皇族としては何があっても優先して来させるだろうねぇ」


その質問にゴンドゥルが顎に指を持っていって考える素振りをしながら答える。


「ハアァ……私、お姫様の相手なんて無理よ?」


死にそうな顔で目の前に立っている二人を見上げるイェンリンの姿を見て、流石にゴンドゥルも困った顔を見せたが、


「そんなに難しく考えることなんてないさ♪」


励まそうと笑顔でそう言い放つ。


「いや、相手は皇女殿下なんだよ!私は只の村娘で―――」


「―――今は『紅神龍の御子』だよ」


イェンリンの言葉に被せてゴンドゥルが静かに、しかし重厚な音を声にして言い切った。


「……イェンリン、皇女殿下は御歳十七だよ。アンタと一緒さ。彼女が皇女なのは生まれた星の下が皇帝の娘だったっていうだけなのさ」


「そんな……簡単な話じゃないと思う」


「簡単じゃないのはアンタの心だよ。イェンリン」


「……」


ゴンドゥルの言葉にイェンリンはそれ以上、何も返す言葉が見つからなかった。


「明日……もしも皇女殿下が来たら……その時、自分の心をはっきりさせたい……」


「それでいい。それもまた、イェンリンにとっての成長に繋がる」


ブリュンヒルデがイェンリンの気持ちを察して、そしてそれを鼓舞するように告げる。


「そこまで難しく考えることかねぇ?只の友達になるってことだろう?」


そこでゴンドゥルが何気なくそう言い放つと、


「―――そう言うゴンドゥルは友達いるの?」


透かさずイェンリンに切り返された。


「―――うぅ!?おっとぉ……それ言っちゃう?」


「プフッ♪ フフフッ♪」


「―――アハハッ♪」


顔を顰めるゴンドゥルに、思わずブリュンヒルデとイェンリンは笑ってしまう。


―――こうしてイェンリンの『謁見の儀』も終わり、


正式にヴァーミリオン皇国に新たな御子が生誕したことを、セキト城に翻る『龍旗』が国内外へと示していくのだった―――



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