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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第2章 真紅の誕生編

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業炎の力

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―――レギンレイヴの着せ替え人形扱いを受けた日から翌日。


イェンリンは紅龍城の中庭で、その手に真紅の剣を握りしめる―――


その真紅の剣は世界最硬の素材である『紅神龍の鱗』で鍛えられた剣。


黄金の装飾が施された真紅の鞘に納められていた剣の、黒い革が巻かれた柄を握り掲げたイェンリン。


その剣を鍛えた者は『紅神龍の鍛冶師』である紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー第七位―――


―――『武器を轟かせる者』フロック。


「……凄い剣ね……素人と変わらない私の目から見ても、吸い寄せられそうな美しさだわ……」


「―――美しさだけではありません」


そこで剣に見惚れていたイェンリンへ声を掛けた者が近づいてくる。


「フレイア?それに……アルヴィトも一緒なんて、珍しいわね?」


姿を現した紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーの筆頭『女神』フレイアと、第十二位『全知』アルヴィトがイェンリンの前に立つ。


「今日の鍛錬の相手は私がします。その剣についても説明しておかなければなりませんので」


「この剣のこと?えっと……世界一硬い紅蓮の鱗で出来ていて……フロックが御子のために鍛えたって……」


「確かにそれで間違ってはいませんが、それではまだ足りません。その業炎が何故『魔剣=業炎ごうえん』と呼ばれているのか、まずはそれを御話しましょう」


「……魔剣……確かフロックの工房のドワーフ達がそう呼んでいるって、フロックも言っていたわね」


「ええ、その通りです。その紅蓮剣=業炎にはある特殊な効果をもたらす力が付与されています」


「特殊な力?―――何それ!聞きたい!」


特別な事と聞かされてイェンリンの好奇心が途端に膨らむ。


「その業炎には―――『回復』の加護を阻害する【呪術カース】が刻まれているのです」


「えっ?『回復』の加護を阻害?それに【呪術カース】って?」


イェンリンの知識を越える話の内容に首を傾げることしか出来ないでいると、


「加護の阻害とは傷を負った者は『回復』の加護を受けても、その傷が癒えるまでに大きな時間を要することになります。つまり貴女が普段レギンレイヴに施してもらっていた『回復』では傷が治らない状態に陥ります」


フレイアが付与された能力について説明していく。


「そして―――【呪術カース】とは、種類によりますが時間によって解除されるもの、呪術師自身で解除出来るものから、呪術師が死んでも発動し続けるものまで多種多様な効果を持つ、魔術とは違う体系の術式のことです」


「魔術とは違うの?」


「はい―――魔術はこの世界の元素に働きかけて、様々な事象を起こす力を術式として確立したものです。それに対して呪術は呪術師が対象に直接接触して術式を流し込むことで、効果を得るものです」


「フム……呪術は術者が直接触れて力を流し込む……ということは、この業炎にもその術式を刻みつけた術者がいるってこと?」


「その通りです」


「それはフロックなの?」


「いいえ、違います」


「だったら、誰が一体【呪術カース】を……」


誰の仕業だったのかと疑問が浮かんだイェンリンだったが、


「―――ラーズグリーズですよ」


そこでフレイアに同行してきたアルヴィトが答えを口にした。


「ラーズグリーズが?ラーズグリーズって呪術師なの?」


アルヴィトの言葉にイェンリンはフレイアに振り返って問い掛ける。


「―――ええ。とても優秀な『呪術師(カース・マスター)』です。彼女に操れない【呪術カース】はないと言っても過言ではないでしょう」


「へぇ~!どんな【呪術カース】を使うのか、一度見てみたいなぁ」


顎に指を当ててラーズグリーズの【呪術カース】を行使する姿を想像するイェンリンだったが、実際に見たことがないためどこまで考えても想像の域を越えない。


「―――やめておいた方がいいですよ」


するとそこでアルヴィトが冷静な声でイェンリンを止めに入った。


「どうして?」


「貴女が【呪術カース】をどのように捉えているのか分かりませんが、呪術は大半が敵を破壊する目的で使用される術が多いのです……その力は人の肉体を破壊することも容易く行えます」


「人の身体を……破壊……」


これまでそのような強い言葉を使う紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーがいなかったため、見た目は自分と然程変わらないか、むしろ年下にまで見えるアルヴィトの口からそのような言葉が出てくるとは思っていなかったイェンリンは驚きを隠せない。


「そうですね……確かに呪術には敵を弱体化させるものや、直接肉体を破壊、損傷させる術が多いのは事実です」


「そう……なのね。だったら呪術を見たいと思っても、それを受ける相手がいないといけないってことね?」


イェンリンの辿り着いた答えにアルヴィトが頷いて答える。


「はい……ですが、何も敵が人だけと限りません。魔物を相手取り行使する場合もあります。呪術師が多いと言われる東部エストやアンゴロ大陸では狩りや農作物を護るために呪術を用いると聞いたことがあります」


アルヴィトの説明を黙って聴いていたイェンリンは、その話に微笑む。


「……どうかしましたか?」


「ううん♪ アルヴィトはとても物知りなんだなって、そう思っただけよ♪」


「別に……このくらいのこと、紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーなら知っていて当然です/////」


澄ましてはいるが、その頬が仄かに紅潮していることをイェンリンは見逃さなかった。


しかし、アルヴィトのその目が見えないということも知っているイェンリンは、容姿について指摘をするのは止めようと口にすることは思いとどまる。


「さて……それと合わせて業炎には剣速を向上させる能力も備えられています。此方は風属性の魔術の付与による効果です」


「剣の速さが?それは誰が付与してくれたの?」


「―――ゴンドゥルですよ」


フレイアの返事に思わず笑みが零れるイェンリン。


「ゴンドゥルは我等紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーの中でも随一の魔術師です。その力は北部ノルドに並ぶものはなく、この大陸でも屈指の魔術師ですから」


「フレイアがそこまで言い切るってことは本当に凄いのねぇ♪」


まるで自分のことのように嬉しそうにするイェンリンにフレイアが続ける。


「紅蓮様の魔術師はゴンドゥルですが、これも他の神龍様の元にはそれぞれ魔術が得意な眷属がいます。彼女達は太古の昔から交流があり、そして魔術の探求について余念がありません」


「他の神龍様の魔術師……どんな人達なのかな?」


まだ会ったことがない他の神龍の眷属達を想像するイェンリン。


「この先にきっと出会うことがありますよ。特に黒神龍様はよくいらっしゃいますから、アリエスと一緒に連れていらっしゃることもあるかも知れませんね」


「黒神龍……ミッドナイト・ドラゴンよね」


「はい。黒神龍様の魔術師はクレーブスと言って、龍の牙(ドラゴン・ファング)序列三位にいます。魔術も相当な腕前ですが、彼女の強さは戦闘と魔術を組み合わせた戦い方にあります」


「戦闘と魔術を合わせる!?……魔術が殆ど使えない私には無理だわ……」


Levelが上がる度に魔力は上昇しているイェンリンだったが、魔術については発動させる能力が伴っておらず、生活魔術の範囲を超えて行使することが出来ない。


そのことを歯痒く思っているイェンリンだったが、


「焦る必要はありません。貴女は日々確実に強くなっています。そのことを自分自身が認めて、そして次の自分を目指す志を決して絶やさないこと……それが貴女を誰よりも強くするのです」


フレイアの言葉に改めて自分を律する機会を得た。


「そうだよね!少し前までの私と比べても、今の私は別人になったくらいに力が上がっているもの。下を向いていたら前に進めないものね♪」


「その通りです。話が長くなってしまいましたが、それでは鍛錬を始めるとしましょう」


フレイアの宣言で漸く鍛錬の段階を進むイェンリン。


「まずは、少し準備をしましょうか―――」


そう告げたフレイアは自らの『収納』を発動して開くと、その中から―――


「ッ!―――これは!?」


―――大きな音を轟かせて、その場に巨大な岩石を配置した。


「まずはイェンリンも業炎の斬れ味を体感しておいた方がよいでしょう。この岩石を好きなように斬ってみてください」


フレイアがそう言って指差す先に出現した岩石は、その高さ五mほどあり、横幅だけでも三mはあった。


「エエェ……これを斬るの……って岩石って斬れるものなの?」


流石に引いた顔でそう言ったイェンリンに対して、


「―――余裕です」


平然と言い放つフレイアを黙って見つめることしか出来ないイェンリンの肩に、ポンと置かれた手はアルヴィトのものだった。


「貴女のこれまでの努力を思い返してみてください。紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーに師事した貴女は、ここに至るまでずっと努力してきました。努力は貴女を決して裏切りません」


真剣な表情でそう宣言したアルヴィトに、イェンリンは目に見えない力を与えられたような気持ちになる。


「アルヴィト……分かったわ!やってみる!!」


そう言い放ち業炎の柄を両手で握りしめて構えるイェンリン―――


―――黒い革で覆われた柄がキュッと引き絞られる。


真っ直ぐ正眼に構えを取ったいイェンリンは、意識を目の前の岩石に集中させる―――


(さて……これまでの鍛錬で岩を斬ったなんてことはなかったけど……このフロックの剣を受け取った以上は……恥ずかしい真似は出来ないわ)


―――これまで学んできたことを、その構えに集約させていく。


すると―――


(ほう?……『龍気オーラ』を操りますか……)


―――フレイアの見ている前で業炎の刃を覆うように紅い輝きが生じる。


目の見えないアルヴィトも、その輝きを『全知』のスキルで感じ取っていた―――


「フウゥ……」


―――集中したイェンリンは静かに息を吐くと、


「―――ハァアアッ!!!」


次の呼吸の後、気迫と共に岩石にその一撃を放った―――


―――岩石に向かって一歩前に踏み込んだイェンリンと同時に、一瞬で上段に持ち上げられた業炎が超高速で振り下ろされる。


それにより流れるような業炎の刃がスッと岩の中へ吸い込まれるように消えた―――


「まったく……抵抗を感じなかった……」


―――まるで岩がぶつかる感触を得ることがなかったイェンリンは、岩の中で停止させた業炎を驚愕の顔で見つめる。


次の瞬間―――


「ッ!―――岩が!!」


―――真っ直ぐ縦の亀裂が刻まれた岩石の切断面から紅い閃光が走ったかと思うと、そこから左右に切断されて倒れる。


そして中庭には岩石のあった位置から、その後ろに向かって長い亀裂が真っ直ぐ数十mと刻みつけられていた―――


それを目にしたイェンリンは自分の行いに驚愕したが、それと同じくらいにフレイアとアルヴィトも固まっていた……


「こ、これは……想像以上ですね……」


アルヴィトは静かにそう口にすると、隣で見ていたフレイアは頷きながらも、


「イェンリンになら……我等の技を教えるに足る『御子』となるのかも知れません」


まるで何かを決意したような鋭い視線をイェンリンに向けるのだった―――



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