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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第2章 真紅の誕生編

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魔剣『業炎』

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―――紅蓮が呼んでいると報せを受けて、城内を駆けるイェンリン。


その行く手に現れたのは―――


「イェンリン―――紅蓮様は玉座の間だよ」


「えっ?そうなの?……分かったわ!ありがとう、ゴンドゥル!」


廊下で出会ったゴンドゥルから紅蓮の居所を聞いたイェンリンは、廊下を玉座に向かって進んでいく。


「……」


その背中を黙って見つめるゴンドゥル……


(大体想定通りに皇帝からの使者も御到着か……さて、これからどうなることやら)


街中で騒動を広める立役者となったのは自分自身だという自覚を持ちながら、ゴンドゥルは他人事のようにそれを楽しんでいるかの様だった―――






―――玉座の間の両開きとなっている重厚な扉を開くと、


「紅蓮―――呼んでいるって聞いたけど!……って、御客様だった?」


入場した玉座の間では、その玉座に腰掛ける紅蓮の前に片膝をつき伏礼する者達が見える。


「イェンリン―――此方へ来て私の隣に座りなさい」


そう告げて隣にあるもう一つの玉座を細い指先で示す紅蓮に、イェンリンは黙って従う。


それは紅蓮の表情が普段の様子とは違い、まるで余所行きの表情を張りつけたような印象をイェンリンに与えたからだ。


そうして玉座の間の紅い絨毯を渡り歩き、そのまま壇を登り空席だった玉座に腰を下ろすところを見届けた紅蓮は―――


「ダーストン将軍……此方が私の新たな『御子』―――炎零イェンリン=ロッソよ」


―――イェンリンへその手を差し伸ばして、玉座の間で傅く男へ向けて紹介した。


その男は警備隊長レグルス=ルターンよりイェンリンについて報告を受けた銀髪蒼眼の―――


―――皇国軍将軍ジャックス=ダーストンだった。


そのダーストンの後ろには、配下と思われる鎧姿の男達が同じく傅いていた。


その中の一人は―――


(あっ……あの人は、確か昨日の……)


―――イェンリンも憶えがある顔で、昨日の騒動に駆けつけた首都警備隊の第十三部隊長レグルス=ルターンだった。


ジャックスは一瞬後ろへ視線を向けると、レグルスがコクリと小さく頷いて返す。


それは目撃者であるレグルスにイェンリンが同一人物であるか、そのことを確かめさせたのだ。


それを確かめてからジャックスは前を向き、


「この度は紅神龍様の新たな御子様が生誕なさいましたこと、心よりお慶び申し上げます」


儀礼に則った御子生誕の祝いの言葉を贈る。


「皇国軍の将軍自らが祝いを届けてくれたことに感謝するわ。そのことをヴァンヘルム皇帝にも伝えてもらえるかしら?」


「―――はい!必ず皇帝陛下へ御伝え致します」




―――ヴァンヘルム=ホウム・ヴァーミリオン


当代のヴァーミリオン皇国皇帝であり、歳は五十八となる皇帝は今、後継者となる皇太子を育てている。


このヴァーミリオン皇国では他国より比較して叛乱や簒奪といった行為が殆どない。


それは国母アルタニアの血統であることが畏敬を集めていると同時に、ヴァーミリオンには紅神龍の眼が光っているという畏怖が皇族に伝えられているためだった。


紅神龍は人の政には口を挟まないが、理不尽な行いには生物として断罪の牙を突き立てると、そう皇族には伝えられていることから自らの行いを顧みてこれまでも悪政を敷くような皇帝は現れていなかった。


ヴァンヘルムもまた、その皇族の意志に則り、現在の国政を真摯に行う皇帝であった。




「―――恐れながら申し上げます」


そこでジャックスが紅蓮に断りを入れると、


「何かしら?」


紅蓮は短く了承の言葉として問い掛ける。


「此度の御子様生誕により、皇帝陛下と皇族の皆様におかれましては―――御子様との謁見を執り行いたいとの御意向を受け賜って参りました」


「……えっ?……謁見?」


突然そこで知らされる皇帝への謁見という話題に、そこまで黙って聴いていたイェンリンは困惑の色を顔に浮かべる。


本来はハリタス海洋自治領の小さな村出身である村娘のイェンリンが、国の皇帝から謁見を申し込まれることなどあり得ないことだ―――


―――しかも呼び出しではなく、皇帝が謁見を申し込む側だという途方もない違和感がイェンリンを困惑させていた。


「謁見の儀ねぇ……どうかしら?イェンリン」


そこで紅蓮は笑みを浮かべながら、イェンリンの意思を確かめるように声を掛けた。


「へっ?……皇帝陛下に……私が?」


崩れ切った表情で汗を浮かべたイェンリンが紅蓮の問いに困惑している様子を見たジャックスは―――


(やはりレグルスの報告にあった通りの人物のようだ……紅神龍様が御子に選ぶほどの御方だから、どのような御方かと思って来てみたが、見た目は街にいる娘と何ら変わらぬように思える……)


―――その狼狽える様子を見ても、イェンリンが街の娘達と然程違いがないことを知った。


「私の歴代の御子は、その時代の皇帝と謁見を行ってきたわ。それは国を興したアルタニアと私の関係から、皇室が敬意を表して行っていることなの」


「そ、そうなんだ……伝統みたいな?」


恐る恐る告げたイェンリンに紅蓮は、


「その様なものね。別に畏まることはないわ。歴代の御子達も別に貴族や王族などではなかったもの。挨拶をしておきたいというだけよ♪」


最後に少し適当な雰囲気を纏いながら笑顔でそう言い放った紅蓮に、イェンリンの顔は少し渋い顔に変わっていた。


「で、でも……畏まった言葉使いなんて、出来ないし……」


「そんなこと、気にする必要はないわ♪ もしも私の御子にケチをつける度胸があるのならば……」


そこまで言った紅蓮の全身から仄かな真紅の『龍気オーラ』が立ち昇っていく……


「……そんなこと、ある訳ないでしょう?……ねぇ?ダーストン将軍」


微笑みを浮かべている紅蓮の真紅の瞳だけは、鋭く研ぎ澄まされた刃のようにジャックスを射抜く。


「勿論でございます!―――紅神龍様の御子様に礼を尽くすことが我が国の国是にございます」


国の方針とまで言い切るジャックスの姿勢に、紅蓮は『龍気オーラ』を収めて落ち着いた声で語る。


「その言葉を聞けて安心したわ。でも此方も準備が必要だから今日すぐには無理よ。そうね……三日後くらいなら、どうかしら?」


「―――何も問題ございません」


ジャックスが即答したが、それを聞いたイェンリンは―――


(いや、私が問題だらけなんだけど!?)


―――口に出来ない抗議を胸に抱いていた……


「それでは、三日後に紅神龍様と御子様には『セキト城』までお越し頂けるということで、よろしいでしょうか?」


「ええ。皇帝にもその様に伝えてくれるかしら」


「―――畏まりました」


そう答えたジャックスと共に護衛の男達とレグルスも共に玉座の間から退室していった。


彼等が外へ出たことを見送ったイェンリンは―――


「ねぇ?!―――本当に皇帝陛下のところへ謁見に行くの!?」


―――漸くここで普段の声を上げることが出来た。


「ええ♪ だからそれまでに、色々と準備しておかないとね♪」


不安に冷や汗を掻くイェンリンを他所に、紅蓮はニコニコとして楽しげに答えるのだった―――






―――玉座の間から城の外に出たジャックス達。


「―――如何でした?御子様は」


外で待機させていた皇国近衛兵団と合流したところで、レグルスはジャックスの背中に問い掛ける。


「お前の言う通りの御方のようだ。ソワソワとした様子は街にいる娘達と然程の違いもなく見えたが……義憤に駆られて子供達を救うような人物にも見えなかったな」


「確かに……ですがその実力は本物のようです。曲りなりにも警備隊だった者達が翻弄されたほどですから」


首都の警備隊に入隊するためにも体格や腕力、それに魔力と魔術など基準は設けられている。


その基準を満たしていた男達が、先ほどの娘に敗れたと言われたら、それはそれでジャックスの中で疑問と畏怖が入り乱れる思いだった。


「いずれにせよ謁見の約束は頂けた……まったく……陛下も何故私を使者に選ぶのだ」


「判断を丸投げしようとしたことを見抜かれたのではございませんか?」


「ウグッ?!……お前も言うようになったな……」


生意気な小僧を見るような視線を向けて、ジャックスが馬に跨る。


「これより城に帰還する!!」


そうして号令を放つと馬を反転させて一路、セキト城へと帰還する道を進んでいくのだった―――






―――その頃、


「―――イェンリン!ちょっといいかい?」


玉座の間に現れたのはフロックとランドグリーズだった。


ジャックス達が玉座の間から出ていく様子を確認して、二人は玉座の間にやってきた。


「フロック?どうたの?……鍛錬の続きなら悪いけど、ちょっと気分が……」


「―――ああ!鍛錬じゃないよ」


「うん?……それじゃあ、どんな用事なの?」


鍛錬の続きじゃないと聞いて、イェンリンは何か大切なことなのかと耳を傾ける。


「いや、さっきの鍛錬でイェンリンの剣を折っちまっただろう?だから、その代わりの剣を持ってきたのさ♪」


そう告げたフロックの手には、革製の袋に包まれた剣が差し出される。


「私のために!新しい剣を!?」


先ほど折れてしまった剣のことを気にしていたイェンリンだったが、そこにフロックが新たな剣を持ってきてくれたことに感謝と喜びが込み上げてきた。


「さあ、手に取って直接感想を聞かせておくれよ」


フロックの言葉に玉座から立ち上がったイェンリンは、壇から降りてフロックの元へ駆け寄る。


そうして彼女の手から革製の包に覆われた剣を受け取ると、


(これまでの剣より、重い……でも、それよりも……)


その重さを感じると共に、包に覆われていても分かる剣の凄まじい気配を感じ取り思わず息を飲んでいた。


ゆっくりとその包を解き、その中から現れた剣の鞘を掴む―――




―――それは黄金の装飾が施された真紅の鞘だ。


黒い革が巻かれた柄を握りしめ―――


―――イェンリンはゆっくりと鞘から剣を引き抜いていく。


鞘の中から姿を現した刃は真紅で鏡面のように美しく―――


―――引き抜いたイェンリンの顔がその刃に映り込んでいた。




「これは……」


まだ剣に対して駆け出しの剣士であるイェンリンだったが、その剣の美しさと神々しさには只の剣ではなく業物だと直感を覚えた。


「その剣の銘は―――紅蓮剣ぐれんけん=『業炎ごうえん』と名づけた」


「紅蓮剣……業炎……」


「まあ、うちのドワーフ達は―――魔剣『業炎』なんて呼んでいるけどね♪」


感動で言葉が繋がらないイェンリンに、フロックが満足そうに頷くと、


「その剣は紅蓮様の鱗―――紅神龍の鱗を素材にして鍛えた剣だよ」


その剣の素材についてイェンリンに語る。


「紅蓮の鱗で出来ているの!?」


その話に驚くイェンリンへ向けてフロックの話は続いていく―――


「ああ、そうだよ。神龍様の鱗は世界一硬い素材なのさ。だから鱗一枚でも莫大な価値があるくらいだ」


「そ、そうなんだ……でも、世界一硬い鱗なのに、どうやって武器にしたの?」


そこでイェンリンには当たり前の疑問が浮かんでいた。


「良いところに気がつくねぇ♪ 神龍様の下にはそれぞれ『鍛冶師』の役を任された眷属がいるのさ。紅蓮様の鍛冶師は言うまでもなく私だけどね♪」


自慢気に親指を立てて自らを指し示すフロックへ、イェンリンは少し呆れた顔を見せていた。


「―――その鍛冶師は特別な加護を持っている。その鍛冶師の加護が覚醒すると、神龍様の鱗を加工する力を得るのさ」


「なるほど!それでフロックは鱗を加工出来るって訳ね」


納得したイェンリンが改めて業炎を見つめる。


「……こんな凄い剣を……本当に私が貰っても?」


自分自身が半人前以下だということは誰よりイェンリン自身が自覚していることだ。


―――そんな自分に国宝級の剣を持つ資格があるのか?


イェンリンの中でその自問が繰り返されていた。


「何言っているんだい!その剣は……御子のために鍛えた剣だ。御子が持たなかったら、その子は主を得ないままで永遠に仕舞われたままになっちまうよ……」


少し寂しそうな表情でそう言い放ったフロックの気持ちが、僅かでもイェンリンに伝わってきた気がした。


「ありがとう……フロック。この業炎、きっと大切にするわ!」


そう決断したイェンリンをフロックは微笑みながら見つめていた。


「―――それでは次は、わたくしの番ですわね♪」


そこで横から声を上げたのはランドグリーズだった。


「えっと……ランドグリーズは、何の用事なの?」


微笑みながら近づくランドグリーズに、何故か恐怖が走ったイェンリン。


「当然!三日後の皇帝謁見に向けた準備でございますよ♪」


ランドグリーズがそう言って肩を掴むと、


(あれ?……どうしてからしら?なんだか嫌な予感がする……)


イェンリンの脳裏に嫌な感覚が走った。


「では、行きますよ♪」


「へっ?―――ちょっと!?どこへ行くの!ランドグリーズ!?」


そして急に腕を掴まれて玉座の間から連れ出されるイェンリン。


その後ろ姿を見てフロックは、


「……任せておいて、よろしいので?」


出て行った方向を指差しながら紅蓮に問い掛けた。


「ランドグリーズに任せておけば、大丈夫よ♪」


そう微笑みながら答えた紅蓮にフロックは苦笑いを送るのだった-――



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