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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第2章 真紅の誕生編

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首都レッド

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―――北部ノルド


ヴァーミリオン皇国首都レッド―――


首都レッドは北部ノルドの中では発展している都市になる。


広大な平野に広がる都市は、中央にヴァーミリオン皇帝の城があり、その皇帝の城の名は『セキト城』という。


その白壁の城とは別に、首都レッドの傍にある高い丘の斜面に沿って築かれた巨大な真紅の城があった。


その城の名は―――


―――『紅龍城』という。


『紅神龍』クリムゾン・ドラゴンの住まう『紅龍城』―――


神龍と盟約を結んだ女性達のことを各地の皇国では『国母』と呼び、国母となった彼女達がその皇国を統治した。


そしてこの北部ノルドのヴァーミリオン皇国の国母の名は―――


―――アルタニア=ヴァン・ヴァーミリオンという。


神龍と結ばれた盟約はアルタニア本人と紅神龍のみが知っており秘匿されているもので、既にアルタニアは崩御しているため、その盟約は紅神龍が知るのみとなった―――


―――そして、


「わぁ~♪ これが……レッドの街なんだ……」


紅蓮からゴンドゥルとブリュンヒルデと共に、城から出て街を見てみることを促されたイェンリンは街に聳え立つ数々の大きな建物に感嘆の声を漏らしていた。


「フフッ♪ このレッドは北部ノルドでも指折りの大都市だよ。国母アルタニアが紅蓮様の御力を借りて切り開いた皇国は、北部の中心として栄えていったからね」


隣を歩くゴンドゥルが語っていくと、


「国母様って皇国を最初に建国された御方なのよね?」


イェンリンが問い掛ける。


「ああ、そうだ。アルタニアは美しい女性だったが、その見た目とは裏腹に強かな一面を持ち、当時の近隣に点在していた豪族を纏め上げてヴァーミリオン皇国を築いた」


その質問には同行するブリュンヒルデが答えてくれた。


「凄い人だったのね……今この国を治めている皇帝は、そのアルタニア様の血筋ということなの?」


するとそれにはゴンドゥルが答える。


「ああ、そうだよ。当代の皇帝は、まあ、まだマシな方かな」


「えっ?……マシな方?」


皇帝をまだマシだと言い放つゴンドゥルの態度を見て、呆気に取られるイェンリン。


「コラッ!―――大きな声でそんなことを言っていると、警備兵に捕まっても知らんぞ」


ゴンドゥルの不遜な口振りにブリュンヒルデが釘を刺した。


「誰が捕まるって?この都市の警備兵如き、今のイェンリンでも振り切れる程度なのに?」


「そのようなことを言っているのではない。我々が騒ぎを起こせば、下手をすると紅蓮様の御手を煩わせることになるのだぞ!」


「紅蓮様も笑って流してくださるさ」


「―――ゴンドゥル!」


語気を強めるブリュンヒルデに対してゴンドゥルは肩を竦めると、


「ハイハイ……分かってますよ。それで、イェンリンはどこに行きたい?」


話題を変える様にイェンリンに向かって話を振ったゴンドゥル。


「私はまだこの街のことを何も知らないから……でも、そうね……丁度お昼時だから食事が出来るところがいいかも」


午前中の鍛錬を終えて紅蓮に呼び出されたため、そのまま昼食を食べずに城を出てきてしまった。


「食事かぁ……よし!分かった♪ 私が飛び切り美味しいところを紹介してあげよう♪」


「ゴンドゥルのオススメなの?それは楽しみ♪」


嬉しそうに微笑むイェンリンにゴンドゥルも笑みを返すと、


「それじゃあ、こっちだよ♪ はぐれないようについてきてよ!」


張り切って先頭に立ち、街道を歩み始める。


「子供じゃないわよ……」


子供扱いをされているようで軽く憤慨したイェンリンだったが、嬉しそうに案内するゴンドゥルの後ろ姿を見てブリュンヒルデと呆れ顔を浮かべながらも笑顔でついていくのだった―――






―――紅龍城からかなり歩いたその先に広がるのは、


「さあ♪ 着いたよ!―――此処が私のオススメの店達さ♪」


両手を広げるゴンドゥルの向こうに見える光景は、数々の屋台が並び立つ『屋台街』だった。


「此処は……」


予想もしていなかった光景にイェンリンは言葉を失う。


「おい、ゴンドゥル!いくら何でも此処は―――」


『紅神龍の御子』を食事するために案内した先が、簡易的な佇まいで通りの左右に広がる屋台だとは思ってもいなかったブリュンヒルデがゴンドゥルを問い詰めようとしたその時―――


「―――凄いぃ!!お店がこんなに沢山並んでいて、それぞれ色々な食べ物を扱っているなんて♪」


―――当のイェンリンは真紅の瞳をキラキラと輝かせてゴンドゥルとブリュンヒルデに言い放つ。


「お、おう♪ そうでしょう♪ イェンリンならこの場所の良さを分かってくれるって私は信じていたよ~♪」


嬉しそうなイェンリンを見て、ゴンドゥルも上機嫌になった。


「お前達は……」


この面子の中で唯一の常識枠であるブリュンヒルデは頭を抱えて首を振っていたが、


「ブリュンヒルデは何が食べたい♪ あっ!あれは串焼きかな?良い匂いがするわ♪」


腕を掴みながら楽しそうに笑っているイェンリンを見て、肩の力が抜けてしまった。


「あれは鶏肉を串に刺してタレ焼きにしているようだな」


イェンリンの気にしている料理についてブリュンヒルデが答えると、


「……ニヤニヤ♪」


「何をニヤついている?ゴンドゥル……」


ゴンドゥルが目を三日月のように歪めて細めながら笑っている態度にムッとして睨みつけた。


「アンタも隠れて屋台回りしていたのかい♪」


「なっ!?―――ち、違う!私は只あの料理をイェンリンが気にしていたから!!/////」


しかしゴンドゥルの指摘は図星を突いており、ブリュンヒルデも独りで街に出た時はこうした屋台が嫌いではなかった……


「ブリュンヒルデのオススメは何なの?私、こんなに沢山の屋台を見たことがないから、出来れば美味しいお店を教えて欲しいわ♪」


「うっ!?……そ、そうだな……では、先ほどの鶏の串焼きから頂いてみるか?」


「うん♪ 楽しみ♪」




―――そこから、


イェンリンはゴンドゥルとブリュンヒルデから様々な屋台の料理について説明を聴きながら堪能していく―――


―――最初に鶏肉の串焼きを堪能して、


次にゴンドゥルがお気に入りの棒にパンの生地を巻いて炭火で焼き、砂糖や塩を好みで振り掛けた物を頂き―――


―――大鍋でじっくり煮込んだスープに、野菜や肉を盛り込んだ熱々の煮込みを食べて舌を火傷したのも良い思い出となった。


その他にも果物を扱う屋台では―――


「―――お城の皆にもお土産に買って帰ろう♪」


―――そう言ってイェンリンは果物を袋に詰めてもらい、紅蓮からお小遣いだと渡されたお金から料金を払った。


「毎度あり~♪」


果物屋の中年女性から愛想笑いと挨拶をイェンリンは笑顔で手を振って返した―――




「―――どれも美味しかったわね♪」


屋台の料理に満足したイェンリンは笑顔でブリュンヒルデとゴンドゥルへ告げると、


「次はどこに行こうかねぇ~?」


ゴンドゥルは次の目的地をどうするか迷っていた。


しかしその時―――


「―――やめてください!!」


―――突然そこへ少女の悲鳴のような叫び声が響く。


「テメェ……俺達に逆らおうって言うのか?あぁ?」


屋台街の並びで一番端にある小さな屋台に、同じ鎧姿の装備を纏う男達が群がっているのがイェンリンの目に入る。


「そんな……私達はちゃんと場所代をお支払いして、此処で商売を……」


「―――俺達は何も聞いてねぇ~なぁ~!この街を護っている俺達、警備隊に断りもなく此処で商売なんてしやがって!!」


警備兵はそう怒鳴りつけると同時に、木で作られた箱で組み上げた屋台を破壊する。


「や、やめてぇ!!!」


「―――キャアアアッ!!」


止めようとして声を上げたのはイェンリンよりも年下に見えるブラウンの長い髪に青い瞳をした少女で、その娘の腰に抱き着く更に幼い容姿の女の子も悲鳴を上げて泣いていた。


「……あいつ等……また、みかじめ料とか言って金を……」


「クッ!―――此処は自由商売が許された場所で、安い場所代で誰でも商売が出来るはずなのに!!」


周囲で様子を見ている他の店の店主達は、少女達を助けてやりたいが相手は腐っても皇国軍に所属するレッドの警備兵なのだ―――


―――文句を言えば濡れ衣を着せてでも詰め所に連れ去り、拷問の末に命を落とすかボロボロにされて帰ってくることを今まで何度も見てきているため、あからさまに文句をつけることも出来ない。


「オウオウ……こんなに道を散らかして、許されると思っているのかぁ!!!」


―――そう怒鳴りつけながら、先ほど蹴った反動で散らばった果物の一つをグシャ!と踏みつける髭の警備兵。


「ああ……うちで育てた大切な実が……」


少女の家で育てた果物の実を踏み潰されて、思わず涙が瞳に溜まっていく……


「へっ!こんな実一つに何泣いていやがる?」


―――その様子を見ていたイェンリンは、


「あいつ……許せない!」


そのまま飛び出しそうになったのをブリュンヒルデが腕を掴み止める。


「……何をする気だ?イェンリン!」


語気を強めて問うブリュンヒルデを見つめながら、


「あんなこと―――見過ごして言い訳がないわ!」


溢れ出る感情をそのまま素直に口にしていた。


「お前の気持ちは分かる……だが、我等は紅神龍様に連なる者だ。この国のことは、この国の皇帝の政なのだ。我等が関わることではない」


「―――でも!!」


「よく考えろ……今あの警備兵共を退けることは容易いだろう。だが、その後はどうする?この国の警備兵から次は正規軍が出てくるぞ?お前はそこまで相手にして戦う心算なのか?お前はそこまでして、あの少女達を救うのか?」


「うぐっ……それは……」


局地的に解決することは容易い。


だがその先に起こる事態にも対応出来なければ、只の無法者として処分を受ける側になってしまう。


イェンリンも紅蓮に出会うまでは妹達を探して、様々な場所を渡ってきた経験があり、この様な光景はこれまで何度も見てきた―――


―――しかしその頃と決定的に違うのは、


(私自身、力に溺れそうになっていた?……こんな場面は何度も見て知っているのに……)


御子になりLevelを上げたことから起こる驕りのような感情が、今のイェンリンに芽生えかけていたことであり、それによって助けることが出来ると確信していたことだった―――


「お前……よく見ればなかなか可愛い顔しているじゃねぇか?なあ?」


「い、痛い!!―――放して!イヤァ!」


少女の長い髪を握りしめて引っ張り上げると、泣きながら少女は解放を願う慟哭を響かせる。


少女を捕まえて振り返った髭の警備兵は背後の仲間の兵に向かって、


「確か、変態貴族がこのくらいの歳の娘を希望していたよな?」


「―――ああ、確かに変態野郎がこの前売った娘をすぐに殺しちまって次を探せと、せっついてきていたな」


「丁度いいじゃねぇか♪ このままコイツを売っちまおうぜ!」


下衆な会話をしながら、少女の髪を引っ張りそのまま引き摺っていこうとすると―――


「やめて!―――お姉ちゃんをどこに連れていくの!!」


―――もう一人の幼い少女が必死に警備兵の脚にしがみついた。


姉妹だと分かる肩くらいに切り揃えたブラウンの髪に、青い瞳をした幼い少女―――


「チィ!―――放せ!クソガキィがぁ!!!」


―――しがみつく幼い少女を振りほどこうと足蹴にすると、その勢いに呆気なく吹き飛ばされて地面に転がり顔の擦り傷から血が滲む。


「―――アーニャ!!!やめて!妹には手を出さないでください!!言う事を聞きますから!!!」


アーニャと呼んだ少女が怪我をした姿を見て、男に捕まった少女が懇願する様子を見て、幼いながらも自分のために姉が悪いヤツの言いなりになろうとしていることを察した。


それは酷く幼い心を傷つける……


……力のない自分には何も出来ない


……助けて


……誰か、助けて!


心の中と泣顔でグチャグチャになったアーニャは―――


「おねえちゃあああ―――ん!!!」


連れ去られそうになっている姉に小さな手を差し伸ばして、心の限り叫ぶ―――


「―――ッ!!」


―――姉を呼ぶその声は、イェンリンの心に幼い頃のエリシラを思い起こさせる。


それはゴルゴダ村で連れ去られた妹に何も出来なかった自分の姿まで幻視させるほど、イェンリンの全身に震えるほどの感情を駆け巡らせた―――


―――その時、イェンリンに残ったのは、


狂おしいほどの後悔だけだった―――


「―――うるせえガキだなぁ!」


―――アーニャの泣き声を鬱陶しく思えた髭の警備兵が、地面に這いつくばる幼い少女を蹴り上げようとした。


その次の瞬間―――


「此処で大人しく―――グボオォオオッ!!!」


―――気がついた時には頬に拳がメリ込み、そのまま全身が一瞬で反転して頭部がズドォン!と地面に激突した。


「ッ!?―――き、貴様ぁ!!警備兵に手を出したなぁ!!!」


地面に激突してピクピクと痙攣する髭の警備兵を見て、他の警備兵が槍や剣を構えて飛び出してきた者を取り囲む―――


「あいつ……やってしまった……」


―――ブリュンヒルデは右手を顔に当ててそう呟く。


屋台街の一角で起こった姉妹を傷つけた警備兵に向けて、イェンリンの怒りの炎が激しく燃え上がるのだった―――



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