あれから一ヵ月
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―――フレイアとの初鍛錬で死を体感する傷を負わされたイェンリン。
その鍛錬から早一ヵ月の時が過ぎていった―――
「―――ハァアアアッ!!!」
振り被るロングソードを今、目の前の相手に振り下ろすイェンリンの動きは、一カ月前とは間違いなく違った。
「―――フンッ!」
そしてイェンリンの斬撃を軽く一息に受け流した者は紅の戦乙女第八位―――
―――『槍を持ち進む者』ゲイラホズだった。
イェンリンの剣を弾いた後、手にした訓練用の槍をグルグルと手元で高速回転させるゲイラホズは、銀色の瞳が鋭く尖らせる。
「―――フッ!!」
すると次の瞬間―――
「―――ッ!」
―――イェンリンに向かって槍の穂先が十数本の残像を生じさせて襲い掛かってくる。
「ハァアアア―――ッ!!!」
真紅の瞳を見開いてイェンリンも高速でその手にした剣を振るい、次々とゲイラホズの槍を打ち払って対抗した―――
―――しかし、
「―――クウッ!!」
打ち払われても次々と繰り出される槍の穂先は、無情にイェンリンの肩、左腕、右太腿へと突き刺さる―――
(不味い!!―――このままだと!)
―――その一瞬で後方へ飛び跳ねようとしたイェンリン。
だが―――
「ッ!―――」
「―――ここで下がるのは愚策だ」
―――後方へ飛んだイェンリンの身体にピッタリと寄り添って追いつくゲイラホズの姿が瞳に映った時、
「―――ハアァ!!」
白銀の長い髪を風に靡かせて、一直線にイェンリンへと放たれた槍が腹部を貫いた―――
「―――ゲフゥ?!」
―――圧迫感と共に腹を貫かれる激痛がイェンリンの身体を駆け抜けると同時に大量の吐血を引き起こしたイェンリンが中庭の彼方へと吹き飛ばされる。
大地の上を転がっていくイェンリンが通った跡には、大量の血が点々と続いていった―――
「―――イェンリン!!」
倒れ込んだイェンリンに駆け出したのはレギンレイヴだ。
あれからイェンリンの鍛錬にはレギンレイヴが欠かせない存在となっていた。
この一ヵ月の間にイェンリンはゴンドゥル、ブリュンヒルデ、フレイアの他に双剣の使い手である第四位『先駆者』ヒルド―――
―――そして今回の槍の名手であるゲイラホズと、紅の戦乙女の序列上位の者達が交代で手が空いた際に鍛錬の相手をしていた。
それはフレイアが宣言した通り、様々な戦い、様々な敵と対峙することを想定した鍛錬にするために、得意の武器でイェンリンに戦い方を指導していった結果、イェンリンのLevelは急激な成長を遂げている。
「―――大丈夫ですか?」
そう問い掛けながら『回復』の加護を発動して穴が空いたイェンリンの腹部や他の傷を癒し、元に戻していくレギンレイヴが顔を上げてキッ!とゲイラホズを睨みつける。
「やり過ぎです!―――ゲイラホズ!!」
イェンリンの傷の深さから、そう怒鳴りつけたレギンレイヴだったが、
「……この程度で死ぬことはないさ」
当のゲイラホズはどこ吹く風といった顔で平然と答える。
この一ヵ月の間レギンレイヴが治療していないイェンリンの身体の部位はないと言うほど、全身に多くの傷を負ってきた―――
―――ある時は腕を斬り飛ばされ、
またある時は片脚を切断され―――
―――ある時は両腕を同時に切断される時まであった。
「あううぅ!……いっだあぁい……」
「―――動かないで!イェンリン……大丈夫。すぐに治しますから」
激痛でのたうち回るイェンリンを押さえて、レギンレイヴは『回復』の加護を発動し続ける。
すると横たわるイェンリンの足元に立ったゲイラホズは、
「何度同じことを言わせる?槍と剣では間合いが違うんだ。槍の名手を相手に槍の間合いで打ち合えば、お前は必ず負ける……だから何としても懐に潜り込まなければならない」
「ううぅ……わ、分かっているけど……ハァハァ!……ゲイラホズの懐に入るなんて……無理よ」
治療を受けながらゲイラホズに言い返すイェンリンを、その銀色の瞳で見下ろしながらゲイラホズは小さく溜め息を吐き、
「フゥ……だったら、お前はいつまで経っても槍使いに勝てないままだぞ?懐に入れないのであれば、もっと速く動け。速さが足りないなら別の攻撃で牽制して隙を作らせろ。お前の全力を注いで目の前の敵を倒せ」
自分が嫌な攻められ方を教えていく。
「もっと……速く……別の……方法……」
反芻するように呟くイェンリンに、治療を終えたレギンレイヴはイェンリンの顔を覗き込む。
「―――今日は此処までですよ!イェンリン」
そう告げて右手の人差し指でイェンリンの鼻の頭を突くレギンレイヴ。
今イェンリンの鍛錬を継続するか終了するかの判断は、『回復』役のレギンレイヴに委ねられている。
―――その理由は『回復』の加護では傷は治せても、流れ出た血を生成することは出来ないのだ。
そのため深手を負ったイェンリンの身体から消えた血液が限界を超えると、傷は癒えても失血死を招く恐れがあるためだった―――
このことは第一位フレイアから紅の戦乙女全員に厳命されている。
これまでも四肢を失う傷を負った際には、すぐさまレギンレイヴが治療を行っているが、その実は流れ出る血を抑えるためでもあった。
「フン……仕方ない。今日はここまでにしよう」
無愛想なゲイラホズだが、この一ヵ月の間でイェンリンは、実は彼女がとても世話好きな性格だということに気がついた。
―――ある時、紅龍城の中で道に迷ったイェンリンを自室まで送り届けてくれた。
またある時は城の厨房の責任者である第六位スルーズが、食糧調達のため厨房を離れた時、代わってイェンリンに食事を用意したりもしてくれたという意外な一面まで見せてくれるようになっていた―――
「それでイェンリン……Levelは上がったのか?」
―――この鍛錬はイェンリンのLevel向上を主とした目的の鍛錬である。
自分が担当している時に、イェンリンがLevelを上げているか密かに気になっていたゲイラホズは徐に問い掛ける。
「えっ?……ちょっと待ってね―――」
そう言って脳裏に自らの能力を表示するイェンリン―――
Name:炎零=ロッソ
年齢 17歳
Level 50
Class 紅神龍の御子
生命 820/820
魔力 328/328
体力 2430/2430
攻撃 972/972
防御 420/420
知力 65
器用 79
速度 100
物理耐性 59
魔法耐性 59
―――『紅神龍の加護』
『位置把握』
自身の位置と紅神龍のいる位置が把握出来る。
『従属』
紅神龍の眷属を従える。
『伝心』
紅神龍とその眷属と念話が可能。
『収納』
空間を開閉して物質を保管する能力。
『共有』
紅神龍と同じ寿命を得る。
『剣技』
体力・攻撃・速度を増加し剣技を成長させる。
『不屈』
弛まぬ研鑽により能力の成長を促す。
《取得魔法》
『身体強化』
魔力量に応じて体力・攻撃力・防御力上昇
『対魔法防御』
魔力量に応じて対魔法攻撃防御能力上昇
『火属性魔術』下位/下位
『水属性魔術』下位/下位
『土属性魔術』下位/下位
『風属性魔術』下位/下位
『光属性魔術』下位/下位
『闇属性魔術』下位/下位
『無属性魔術』下位/下位
《取得スキル》
『鑑定眼』
物質の理を視る
『精神耐性』
あらゆる精神攻撃に対する耐性
『身体加速』
速度を瞬発的に上昇させる
『思考加速』
任意で思考を加速させる
『索敵』
周囲の索敵能力 索敵対象:生物・物質
『視覚強化』
『夜目』『顕微視』の能力 遠くを見る能力と極小物質を見る能力
『危機検知』
危機接近を感知する能力
『隠蔽』
対象の看破能力と比較し高い能力が有効となる
『看破』
対象の隠蔽能力と比較し高い能力が有効となる
『見切』
戦闘時の行動予測 武器軌道推測能力
『遠見』
『索敵』から派生した遠方を見る能力
「―――Level.50になったわ!それと……スキルがまた増えている……『遠見』スキルが増えているわ!」
「……そうか」
一見して無表情なゲイラホズだったが、これまでのイェンリンに対する彼女の接し方は素気ないように見えて実際はかなり面倒見がいいことは知れていた。
それだけに鍛錬に参加すれば、こうして彼女の成果を常に気にして結果を知りたがる傾向があることに、イェンリンは親しみを感じるようにまでなっていた。
「ゲイラホズのおかげね♪」
「いや……それはお前が自ら身につけた努力の結果だからな。私は鍛錬の相手をしているだけに過ぎない」
最近ゲイラホズの性格が分かってきたイェンリンは、ゲイラホズのその槍裁きのように真っ直ぐな性格が好きになっていた。
「さあ、それじゃあ、もう一本―――」
「―――もうダメです!先ほどの傷でかなりの血を失っています!!これ以上続けると、失血で危険な状態になりますから」
「そんな……もう少し―――おっと!?」
反論して立ち上がろうとしたイェンリンだったが、その瞬間に貧血を起こして身体がぐらついてしまった。
「ホラッ!―――貧血まで出てきましたよね?これ以上はダメです。スルーズに言って食事を用意して貰って、血を造るようにしないともちませんよ!」
レギンレイヴの勢いに押されてイェンリンも従わざるを得ない。
「分かったわ……でも、本当に一ヵ月でLevel.50まで来たのね……」
感慨深くそう呟くイェンリンにゲイラホズが、
「最強の神龍である紅蓮様の紅の戦乙女が日々鍛錬をつけているのだから当然だ。それにお前の『剣技』と『不屈』が能力の向上を助けているから、動きも日に日に良くなってきているぞ」
「ホント!?……自分でも確かに最初に比べたら色々出来るようになってきたけど、ゲイラホズにそう言われると自信が持てるわ」
「フン……我等から見ればまだまだ児戯だが、その辺の剣士程度ではもう相手にならないだろう。そもそも能力値が四桁に届く人族などいないのだから」
「そうなんだ……」
(でも『生命力』と『攻撃力』も、もうすぐ四桁に乗りそうなのよね……)
自分の能力値を脳内で眺めながら、イェンリンは独りそんなことを思い浮かべていた。
するとその鍛錬の場に人影が現れる―――
「―――イェンリン」
「あっ、ゴンドゥル。どうしたの?」
―――そこへ現れたゴンドゥルにイェンリンが問い掛けると、
「紅蓮様がお呼びだよ♪ 何か御用があるようだ」
そう告げながらニヤニヤと笑みを浮かべるゴンドゥルにイェンリンは首を傾げる―――
「紅蓮が?何かあったかな?」
「分かりませんが、早く行った方がいいんじゃないですか?大事な用事かも知れません」
心当たりがないイェンリンにレギンレイヴがすぐに向かうように促した。
「そうね……それじゃあ、行ってくるね!」
そう答えてイェンリンはゴンドゥルと共に紅蓮の元へ向かうのだった―――
―――紅蓮の執務室
執務机の椅子に座り、手元の書状に目を通す紅蓮に扉がノックされる音が耳に届く。
「―――入りなさい」
そう答えると重厚な扉が開いていく。
「呼んでいるって聞いたけど、何かあったの?」
そこに姿を現したのはイェンリンだ。
開いた扉から中に入ると、開口一番で紅蓮に問い掛けた。
すると手元の書状から視線を上に上げた紅蓮は微笑みながら答える。
「ええ。貴女の鍛錬も順調に進んでいると報告を受けているわ。それで、貴女は此処に来てから鍛錬ばかりで首都に出たことがなかったでしょう?」
「えっ?確かにそうね……今まで強くなることばかりに気を取られていたから、レッドのことを気にする暇もなかったから」
『紅神龍の御子』となって以来、この紅龍城に入場してこれまで一度も城の外に出たことがなかったイェンリン。
「そろそろ見聞を広げるにも良い頃合いでしょう。ゴンドゥルとブリュンヒルデと一緒に首都を見てくるといいわ」
「えっ!?―――城の外に出てもいいの!?」
「……禁止した憶えはないけれど?」
御子という立場になって勝手に城の外に出ることはいけないことだと思い込んでいたイェンリンに衝撃が走った。
「た、確かにダメとは言われなかったわね……」
「クックッ♪―――囚われのお姫様じゃないんだよ?」
どこか馬鹿にしたようなゴンドゥルの含み笑いとニヤついた表情にイェンリンはムッとしたが、
「それじゃあ、街まで御供をしなさい♪ ゴンドゥル」
わざと胸を張り、偉そうな命令口調でゴンドゥルへ言い渡すイェンリンを、一瞬呆気に取られたゴンドゥルが眺めていたが、
「―――畏まりました♪ 我が御子」
仰々しく胸に右手を当てながら、深々と頭を下げて答えてくれるゴンドゥルにイェンリンは満足そうな笑みを返していた―――
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