イェンリンの加護
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―――イェンリンが剣を振り続けながら、紅龍城での暮らしを初めて七日ほど時が過ぎていった。
その間にもイェンリンは一日も休むことなく剣を振り続けていた―――
「フッ!……フッ!……」
紅龍城を朝日が照らし、天頂まで太陽が昇り、そして西の空へと沈み紅龍城を更に紅く染めていく頃になってもイェンリンは只管に剣を振る。
(……最初はあんなに重たいと思っていた剣が、今は小枝のように軽い!)
ブリュンヒルデによって与えられた鋼で鍛えられたロングソードに、最初は振り回されるような感覚を憶えていたイェンリンだったが、今は風の様に振り抜き、素振りの回数も日を追うごとに増えていく。
それもLevelが上がるごとに体力・攻撃・速度の能力数値が跳ね上がるように伸びていった結果だ。
―――この七日間でイェンリンのLevelは21まで上昇していた。
Levelが21に到達した時―――
「ッ!―――やった!また新しい加護が現れたよ!!」
―――様子を見に来ていたブリュンヒルデとゴンドゥルへ嬉しそうに報告するイェンリンだったが、
「えっ!?―――また加護が?」
その時のブリュンヒルデとゴンドゥルの表情は喜びとは違う、訝しんだ表情を浮かべていた。
「……どうしたの?」
その二人の態度に首を傾げるイェンリンが問い掛けると、
「い、いや……それで?どんな加護が現れたんだ?」
話を戻すというより誤魔化すようにブリュンヒルデが問い掛けてきた。
「うん、えっと……」
そこでイェンリンは自らの脳裏に能力値の一覧を表示させる―――
Name:炎零=ロッソ
年齢 17歳
Level 21
Class 紅神龍の御子
生命 240/240
魔力 96/96
体力 690/690
攻撃 276/276
防御 120/120
知力 36
器用 50
速度 76
物理耐性 30
魔法耐性 30
―――『紅神龍の加護』
『位置把握』
自身の位置と紅神龍のいる位置が把握出来る。
『従属』
紅神龍の眷属を従える。
『伝心』
紅神龍とその眷属と念話が可能。
『収納』
空間を開閉して物質を保管する能力。
『共有』
紅神龍と同じ寿命を得る。
『剣技』
体力・攻撃・速度を増加し剣技を成長させる。
『不屈』
弛まぬ研鑽により能力の成長を促す。
―――そして新たに加わった『不屈』の加護について二人に語った。
「……『不屈』……弛まぬ研鑽により能力の成長を促す」
イェンリンの話を聞いてブリュンヒルデは難しい表情を浮かべる。
「これでまた強くなったわ!きっと―――これでエリシラ達を探しに行けるわね!!」
眩しい笑顔を浮かべて二人に告げるイェンリンだったが、ゴンドゥルがそこで、
「コラッ!まだまだ修行は始まったばかりさ!……気が焦っている気持ちは分かるけど、まだその程度の力で外で好きに出来ると思わないことだね」
「ええぇ……」
「―――そうだな。イェンリンは国の騎士団の団長クラスの者がどのくらいのLevelか知っているか?」
「えっ?それは……知らない」
「国によっても違うだろうが、大体Level.40以上だと思っていて間違いじゃない。並みの騎士でも30代のLevelがある」
「そんなに強いの!?それだったらエリシラ達を攫っていった兵士達も強いかも知れないのね……」
「ああ、そうだ。油断ですればすぐに命を奪われる……そんな世界に向おうというのなら、万全の強さを身につけてからにしなくてはならない」
「万全って……どのくらい?」
その問いにはゴンドゥルが答えた。
「Level.100を超えることだね♪」
「―――Level.100!?そ、そんなの無理よ!!」
予想以上に高いLevelを提示されてイェンリンが素っ頓狂な声を上げて驚いた。
「別におかしくはない。イェンリンの加護であれば100も夢ではないだろう。特に今回の『不屈』の加護はそれを後押ししてくれるはずだ」
「そ、そうか……うん、そうよね!だったら頑張れるわ!!」
そう言って再び剣を振ろうとしたイェンリンだったが、その剣を振り被ったところでゴンドゥルが人差し指と親指で摘まみ、ビクともしない力で止めた。
「今日はもう陽も暮れてきた。続きは明日だよ」
「そ、そうね……」
(思い切り振り下ろそうとしたのに……ゴンドゥルの指で摘ままれただけでビクとも動かなかった……)
只の人のように見えるゴンドゥルだが、紛れもなく紅の戦乙女の一人なのだと改めて思い知らされたイェンリンは素直に言うことを聞いて剣を収めるのだった―――
―――その日の深夜
紅蓮の部屋にブリュンヒルデ、ゴンドゥルがやってきた。
部屋には執務机の椅子に腰掛けた紅蓮と、その傍ではフレイアが立っている。
「紅蓮様……イェンリンが本日Level.21に到達致しました」
「それは良かったわ。順調に成長しているようね♪」
自らの御子が成長している報告に紅蓮も微笑みながら報告を受ける。
「―――その際に、新たな加護を得ました」
続けたブリュンヒルデの報告に紅蓮の隣に立つフレイアの視線がピクリと動きを見せる。
「それは……驚きね」
当の紅蓮は他人事のような口調で答えた。
「紅蓮様。今まで御子に七つ目の加護が現れたことなどございませんでした―――これは一体どういうことなのでしょうか?」
ブリュンヒルデが瞳を鋭く細めて紅蓮に問い掛けると、
「あら♪ そんな怖い顔をして問い掛けるなんて、ブリュンヒルデはイェンリンがそんなに心配なの?」
「―――はぐらかさないで下さい。これまで確かに御子には加護が顕現しておりましたが、誰もが同じ加護を顕現させてきました。しかしイェンリンの場合は『剣技』の加護、そして今回の『不屈』の加護と我等も知らぬ加護が現れています」
「―――おやめなさい、ブリュンヒルデ」
その時、紅蓮の隣から諫める静かなフレイアの声が部屋に響く。
「……無礼は承知の上です。しかし、我等は御子を護る使命がございます。だからこそ、このことをそのままにしておく訳には参りません!」
静かに、しかし語気を強めたブリュンヒルデに紅蓮は微笑みを崩さず、視線をゴンドゥルに向ける。
「―――貴女はどう思っているの?ゴンドゥル」
そこで意見を求める紅蓮を、ゴンドゥルは静かに見つめながらゆっくりと答える。
「私の勝手な想像ですが……紅蓮様の加護に制限はない、ということでしょうか?」
「―――正解ね」
そのやり取りを聞いてブリュンヒルデが困惑すると、
「では!これまでの御子は……」
「あれが、あの子達の限界だった……もしくはもっと努力していれば顕現する加護もあったのかも知れないわね……」
そう告げて空を見つめる紅蓮の瞳はどこか哀しげに見えた。
「貴女達は誤解しているかも知れないけれど、『紅神龍の加護』は『位置把握』、『従属』、『伝心』、『収納』、『共有』の五つは私の加護だけど、六つ目の加護から顕現するのは本人の能力によって、その秘めたる可能性を顕現させるの」
「―――では『剣技』と『不屈』はイェンリンの内なるものだと?」
ゴンドゥルが間髪入れず紅蓮に問い掛ける。
「ええ、そうよ。あの子の内にある可能性が貴方達との鍛錬で開花した結果がその加護よ」
「では、イェンリンはこれからも新たな加護を得る可能性もあると?」
今度はブリュンヒルデが問い掛ける。
「可能性としては無いとは言えないわね。あの子はこれまでの御子とは違う……貴女達もそう感じているのではなくて?」
その言葉にブリュンヒルデとゴンドゥルは黙って頷く。
「言葉では上手く表すことが出来ません……ですが、あの子を見ていると何故か喜びを感じる自分がいるのは確かです」
「私もブリュンヒルデに同意ですね。イェンリンは魔力が少ないと言ってもLevelが上がり徐々に魔術も訓練しています。稀代の魔術師にはなれないかも知れませんが、剣の道なら或いは……」
二人の意見を聞いて、今度は紅蓮が頷いて返した。
「そう……フレイア―――明日からは貴女も鍛錬に加わりなさい」
「―――ッ!」
その指名にゴンドゥルとフレイアは息を飲む。
紅蓮からそう告げられたフレイアは、
「―――畏まりました」
静かにそう答えたのだった―――
―――翌日の朝
いつものようにスルーズの用意してくれた朝食を食べて、イェンリンは城の中庭に出た。
いつもはそこにゴンドゥルとブリュンヒルデが待っているのだが、今朝は更に二人の人影が見える。
「……フレイア、それにレギンレイヴ……どうして此処に?」
そう問い掛けたイェンリンにフレイアが答える。
「本日より私も鍛錬に参加させて頂くことになりました。宜しくお願い致します」
「そうなんだ♪ でも紅の戦乙女の第一位のフレイアに教えてもらえるなんて、何だか緊張するわ」
笑みを浮かべながらそう告げるイェンリンだったが、隣で待つレギンレイヴの存在が気になっていた。
「レギンレイヴも鍛錬に参加するの?」
「あっ……はい。私は、万一の時のために……」
「んっ?万一のことって?それって―――」
イェンリンがその意味を問い掛けようとしたその時、フレイアが『収納』から剣を二振り取り出してきて一本をイェンリンに渡した。
「本日から―――実戦形式の鍛錬に切り替えて参ります」
「実戦形式!?それって……剣で打ち合うってこと?」
突然フレイアに実戦形式と言われて驚いたイェンリンだったが―――
―――ゴンドゥルとブリュンヒルデは昨夜フレイアが参加するようにと命じた紅蓮の意図を知っていた。
フレイアが参加すること―――
―――それは実戦さながらに剣を交える鍛錬に切り替えるという合図なのだ。
歴代の御子もこうしてある程度の力を持つとフレイアが実戦稽古をつけて強くしてきた―――
―――しかし、
(まだLevel.20そこそこでフレイアを投入してくるなんて……これまでだったらLevel.30を超えてからだったはずだけど、それだけ紅蓮様もイェンリンの力に期待されているの?)
ゴンドゥルはフレイアの投入が早期であることに不安と期待と疑問が入り混じった感情が渦巻いていた。
それはブリュンヒルデも感じていることであり、フレイアの背中をジッと見つめていた。
「実戦形式の鍛錬は相手がいる分、その経験をより積み上げることが出来ます」
「ということは……Levelも早く上がるようになるの?」
「―――はい。少なくともイェンリン様はもう剣を素振りするだけでは、Levelの向上が遅くなってきていることを感じているのではありませんか?」
「凄い!どうして分かったの?確かに始めた頃に比べると数は触れるようになったんだけど、それでもLevelが上がる間隔が広がってきている気がしていたの」
素直にフレイアへ打ち明けるイェンリンは純真な眼差しを向けて笑みを浮かべる。
その笑顔にブリュンヒルデとゴンドゥルは複雑な表情を浮かべる。
(フレイアの指導は容赦がないからねぇ……『回復』のためにレギンレイヴを呼んでおくところまで手回しがいいのは、裏を返せばイェンリンに対して容赦しないって意思表示にしか見えないんだけど……)
ゴンドゥルは胸の内で不安を膨らませていた。
「では―――どこからでも打ち込んでみてください」
―――そうして紅の戦乙女第一位
『女神』フレイアとの鍛錬が開始されるのだった―――
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