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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第2章 真紅の誕生編

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―――紅龍城へ入城してから翌日の朝


イェンリンは身形を整えて改めて豪華な自室の扉を開くと、廊下へと足を踏み出す―――


「―――おはようございます」


「ッ!―――お、おはよう……ございます」


背後から声を掛けられてビクッと身体を震わせたイェンリンがゆっくりと振り返ると、そこにいたのは―――


―――紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー第九位


『盾を壊す者』ランドグリーズだった―――


この城の侍従長を勤めるという彼女は、ピンク色の巻き髪を揺らしながら青い瞳で見つめていた。


「そろそろお目覚めの頃かと思いまして、朝食の準備が出来ておりますわ」


「朝食……そうか……食事、あるんだ……」


毎日の食事を手にすることも困難な貧困層の生活を送っていたイェンリンにとって、朝起きてずっとお腹を空かせているまま仕事を求めていた時と違い、こうして誰かが朝食を用意していてくれる生活に戻るのは家族と暮らしていた時以来だった。


「―――さあ、食事の間は此方ですから、憶えておいてください♪」


微笑みながら案内してくれるランドグリーズの背中を追って、城の長い廊下を進んでいく。


すると進んでいく先から漂う美味しそうな香りがイェンリンの鼻を擽る。


(何だかとっても美味しそうな匂いがする……)


そうして到着した部屋の扉を開き中に入ると、そこには広間の端まで届きそうな長テーブルに一人分の料理が既に用意されている光景が見えた。


「さあ♪ 此方へどうぞ」


ランドグリーズに促されて、皿が並べられている席に腰掛けるイェンリン。


スープ皿には野菜と肉の入った透明感のあるスープが注がれ、柔らかそうな白パンが詰められたバスケットが配置されている。


別の皿にはローストビーフと目玉焼きにされた卵が用意されていて、また別の盛り皿に赤や黄色のフルーツが積み上げられていた。


これまでイェンリンが見たこともない豪華な朝食に思わず瞳を見開き、ゴクリと喉が鳴ってしまう。


「どうぞ♪ 召し上がれ♪」


ランドグリーズの言葉でハッと正気に戻ったイェンリンは、ガッついて口に頬張りたい衝動を抑えながらスプーンでスープを啜ってみる。


「ズズッ……お、美味しいぃ♪」


透明感のあるスープだが、その味わいは深く口の中に広がって予想以上にまろやかなで濃い味だった。


それを皮切りにイェンリンはパンに手を伸ばし、フォークでビーフを突き刺して次々に口へ運んでいく―――


「そんなに慌てなくても取ったりしませんよ♪」


―――ランドグリーズの言葉はイェンリンに届いているのだが、


村が滅んだ後は食べ物を奪い合いになることも珍しくはない生活を送っていたイェンリンにとって、目の前の料理を誰かに取られるのではないかという不安が自然に根づき、早く食べてしまおうと必死になってしまうのだ―――


―――それでも少しずつ落ち着いて食べる様にして、漸く食事が終わった後で食事の間に姿を現したのは、


「おはよう♪ 食事は終えたみたいだね」


「―――おはよう。イェンリン」


これから鍛錬につき合ってくれるゴンドゥルとブリュンヒルデだった―――






―――此処は紅龍城の中庭である。


常日頃より紅龍城の紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー達が庭の手入れをしており、頂点を極める十二名の序列者以下の者達はこうして城の雑務をこなしているのだ。


その広い芝生に覆われた中庭に立つのは、イェンリンと指導係のブリュンヒルデにゴンドゥルだった。


「……広い」


その広い中庭に驚くイェンリンだったが、ブリュンヒルデはそれに構わず『収納』スキルからある物を取り出す。


「イェンリン―――これを」


「これは……剣……」


ブリュンヒルデが取り出したのは―――


―――鋼で鍛えられた一振りのロングソードだった。


その剣を受け取った瞬間、予想以上の重さに思わず剣を落としそうになるイェンリンにブリュンヒルデが告げる。


「重いだろう?しかし鍛錬するのなら、自分が重いと思う位の剣を用いるのが丁度いいのだ」


「そ、そうなの?」


両手で柄を握りしめ、改めて構えを取ってみるイェンリンにブリュンヒルデは続ける。


「まずはLevelを一つ上げてみることで紅蓮様の加護がお前にどのような御子としての加護を受けるのか……それを見てみないと今後の方針も決まらない」


「Levelを?……でも、Levelを上げるのなら魔物を倒すとかダンジョンに行くんじゃないの?」


冒険者でもないイェンリンの乏しい知識では、Levelを手っ取り早く上げるのなら魔物を討伐するかダンジョンに潜って同じく魔物を相手に踏破するものだと思い込んでいた。


「何か勘違いをしているみたいだが、お前は今Level.10だと言っていたけれど魔物を倒してそこまでLevelが上がったの?」


「いいえ……いつの間にかLevelが上がっていたわ」


「そう―――人は魔物を倒して経験を積む場面がなくても、そうしてLevelが上がっていくわ。只の平民であればLevelは10から20程度で一生を終えてしまうこともおかしくない」


この世界では冒険者や城に務める兵士など、経験を多く積む者はそれだけLevelも高くなるが、平民の人生では先ほどブリュンヒルデが告げたLevelくらいで一生を終えることもおかしくはないことなのだ。


「―――Levelとは、人が経験したことを積み重ねることで達する新たな領域を示している指標なの。だからその重たい剣を振り続ける反復的な訓練であっても、Levelは上がるのよ」


「だから普段の生活を送っていても、いつの間にかLevelが上がっていたのね……」


ブリュンヒルデの説明に納得したイェンリンへ今度はゴンドゥルが告げる。


「その理屈は魔術でも同じさ。何度も魔術を発動することで経験値を得るのさ。そうすることで魔術の練度とLevelが共に上昇するって訳さ」


「私は生活魔術以外、殆ど使えないや……」


魔術についての話には顔を顰めてしまうイェンリンに、ゴンドゥルはそっと頭を撫でる。


「別に魔術が絶対って訳じゃない。だったら剣を極めるってことだって出来るんだ。時間はある……その長い時の中で自分をどれだけ研ぎ澄ますことが出来るのかが重要だよ」


「……うん!」


ゴンドゥルの言葉は慰めも入っていることは分かっているが、イェンリンは素直に返事をした。


「さあ、まずはその剣を次にLevelが上がるまで振り続けてみせろ」


そこで容赦のないブリュンヒルデの指導が飛ぶと、意を決したイェンリンが剣を両手で握りしめて構える―――


「フム……構えは様になっているな」


―――構えを見てブリュンヒルデが評価をすると、


「ハアアア―――ッ!!」


イェンリンは気合いを込めて振り被り、そして剣を振り下ろした―――


―――その剣の重さだけで思わずバランスを崩して前のめりに倒れ込みそうになるのを、右足を前に出してグッと支える。


「―――続けるんだ。Levelが上がるまで只管に振り続けろ」


腰に手を当てながら放たれたブリュンヒルデの命令に、イェンリンは黙々と剣を振り続けた―――






―――朝から始めた鍛錬は気がつけば陽が傾くまで続けられた。


徐々に赤く染まり出した西の空を背に、イェンリンはブリュンヒルデに渡された剣を振り続けた。


既に掌の皮には赤く豆が出来始めて、その皮が破れて痛みを伴っている。


しかし、それでもイェンリンにとって、街にいた頃の屈辱に塗れた生活に比べれば食事も寝床も確保されている今は楽園のような場所なのだ。


「―――ハァ!……ハァ!……ハアッ!」


―――全身は汗に塗れて髪はベッタリと頬や額に貼りつき、腕は筋肉が痙攣を起こして脚はガクガクと震えていく。


しかしそれでもイェンリンはたった一つ与えられた目標に向かって、盲目的に続けていく―――


「……そろそろ今日はここまでにしておこう」


―――ずっと様子を見ていたブリュンヒルデが、赤く染まっている空を見上げてイェンリンに告げた時、


「ッ!―――上がったぁ!!!」


突然イェンリンが汗塗れの顔を向けて、ブリュンヒルデとゴンドゥルに叫んだ―――


「Levelが上がったのか!?」


その声に驚いたブリュンヒルデが問い掛けながら、


(―――Level.10から一日でLevelを一つ上げるとは、これも何か加護が働いているのか?)


本来であれば10まで上がっているLevelを簡単に上げることは一日の素振りだけで出来るものではないのだが、そのことがブリュンヒルデに新たな疑問を提示する。


「お疲れさん♪ それで?Levelが上がって、何か変化があったかい?」


ゴンドゥルがLevelが上がり安心して気が抜けたことで、その場に座り込んだイェンリンに問い掛けた。


「ハァハァ……えっと……」


そこでイェンリンは自らの脳裏に能力値の一覧を表示させる―――




Name:炎零(イェンリン)=ロッソ

年齢 17歳

Level 11

Class 紅神龍の御子


生命 40/40

魔力 16/16

体力 90/90

攻撃 36/36

防御 20/20

知力 26

器用 40

速度 30

物理耐性 20

魔法耐性 20


―――『紅神龍の加護』


『位置把握』

自身の位置と紅神龍のいる位置が把握出来る。


『従属』

紅神龍の眷属を従える。


『伝心』

紅神龍とその眷属と念話が可能。


『収納』

空間を開閉して物質を保管する能力。


『共有』

紅神龍と同じ寿命を得る。


『剣技』

体力・攻撃・速度を増加し剣技を成長させる。




―――その内容を見たイェンリンは、


「……殆どの能力が二倍になっている」


「二倍だと?……やはり御子として紅蓮様の加護が能力にも反映されているようだな」


その話を聴いてブリュンヒルデが顎に手を当てながら推測した。


「それと……『紅神龍の加護』に新しい加護が加わっている」


「―――新しい加護だって?」


その言葉にゴンドゥルが反応したのは、それが魔術に関わるものかどうか気になったのだ。


「うん……『剣技』っていう加護が現れたの。それによって体力と攻撃と速度の成長が増えるって……確かにその三つは他の能力値より多く上がっているわ」


その言葉を聞いてゴンドゥルはやはりイェンリンの魔術の才能が開花することはないのかと落胆していた。


「……まだLevelが一つ上がっただけだ。どうなるかは分からないぞ」


ゴンドゥルの様子で何を考えているのか察したブリュンヒルデが囁く。


「そうだねぇ……だけど、イェンリンはこのまま剣に進んだ方がいい気がするんだ」


「何故だ?」


「それは私の勘だけどねぇ……でも歴代の『紅神龍の御子』達にも『剣技』なんて加護が現れたことはなかった」


「それは……確かに聞いたことのない加護だな」


ゴンドゥルの言葉にブリュンヒルデも歴代の御子から聞いた加護の内容を思い起こしたが、やはり『剣技』の加護は聞いたことがない。


「案外あの子は剣を極める御子になるかも知れないねぇ♪」


そう言って笑みを浮かべて告げたゴンドゥルに、ブリュンヒルデも釣られて笑みを零す。


「そうだな―――稀代の『剣聖』になるのかも知れないな」


「ハハハッ♪ 剣聖かぁ♪ それはいいね!」


へたり込むイェンリンを見つめながら、ゴンドゥルとブリュンヒルデはそんな冗談を言い合って笑っていた。


こうして今日の鍛錬を終えて、また明日からの鍛錬に励むイェンリンだった―――



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