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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第2章 真紅の誕生編

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イェンリンの決心

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―――脳裏に浮かべた自らの能力値の中で、


『紅神龍の加護』について紅蓮から教えられたイェンリンは硬直したまま思考が上手く働かなかった―――


「―――大丈夫?」


そこで紅蓮が心配した声を掛けると、ハッとした表情で正気に戻るが、


「……これ……『紅神龍と同じ寿命を得る』って……」


脳裏に現れた加護の言葉をそのまま口にする。


「そのままの意味よ。貴女はこれから先、私と共に年も取らず十七歳の姿のまま生き続けることになる」


「……永遠の……命……」


余りにも現実味のない加護にイェンリンはどうすればいいのか分からない。


「勘違いしてはいけないから注意しておくけど、その加護は不老になるという意味で不死身になる訳ではないわ」


「えっ?―――そうなの?」


「ええ……だから貴女まで『紅神龍の御子』は代替わりしているのよ」


「それって……これまでの三人いた御子達は……」


「皆、命を落としているわ」


その言葉にイェンリンは少しだけショックを受けていたが、顔も知らない前時代の御子達のことにそこまで感情移入出来るほど知っている訳ではなかった。


「そうなんだ……でも、御子ってそんなに命を落とすほど危険なものなの?」


その一点においてはイェンリンも無関係ではない事柄であることから、恐ろしくても訊かずにはいられない。


「それは貴女次第よ、イェンリン。貴女の生き様がそれを決めるわ」


「……」


その返答にイェンリンは濃い靄に行く手を阻まれている気分だった。


「難しいことばかりだと考えるよりも、貴女が今やりたいことを考えて御覧なさい」


「私が……私は、妹と幼馴染を見つけたい。例えもう……手遅れだったとしても、その足取りを追いたい」


「そう、分かったわ。そのために私は貴女に力を貸しましょう。だけどそれには貴女自身が変わらなければならない」


「私が……変わる?」


紅蓮の言葉の真意が見えないイェンリンは首を傾げて彼女を見つめていた。


「貴女が貴女自身を護れるだけの力を身につけることよ。貴女には私の加護で今後身につける力が大きくなるわ。つまりLevelが成長すれば貴女の能力も上がっていく」


「私の能力が……」


「だから明日からは強くなるために、このブリュンヒルデとゴンドゥルに学びなさい」


「ゴンドゥルとブリュンヒルデに!?……それって剣を学んだり、魔術を学んだりということ?」


「具体的にはそうなるわね。この二人なら申し分ないでしょう。貴女とも昔馴染みのようだし」


そう言いつけられてイェンリンは二人に視線を向ける―――


―――ゴンドゥルはニコニコと笑みを湛え、


ブリュンヒルデはやれやれといった疲れた表情を浮かべていた―――


「私の御子になった以上、貴女を簡単に失う心算はないわ。だけどそれには貴女自身の生きるということへの想いの強さが大切なの」


その言葉にイェンリンは紅蓮と初めて出会い、そして掛けられた言葉を思い出す―――




『生きることを決して諦めない強さを持つ貴女は、とても美しくて―――愛おしいから』




―――それは家族を失ってから、一度として掛けられたことのない素敵な言葉だった。


(そうだ……私は生きる……エリシラとマルクを見つけるまでは……絶対に死ねない!)


心の中でそう決意したイェンリンだが、その覚悟は表情に出ていたことには気がついておらず紅蓮とブリュンヒルデ、そしてゴンドゥルはその気持ちを察していた。


そのことは言葉にせずに、只黙って微笑んでいる。


「私―――強くなるわ!」


決意の宣言を紅蓮達の前で掲げたイェンリン。


「では今日はもうお休みなさい。明日からのことは二人に任せるわ」


「―――承知致しました」


「―――御任せを」


紅蓮の命にブリュンヒルデとゴンドゥルは仰々しく礼を行い、


「それじゃあイェンリン。部屋に案内しようか♪」


ゴンドゥルがニコリと微笑みイェンリンへ立ち上がるように促した。


「その―――紅蓮!」


立ち上がってから紅蓮に呼び掛ける。


「どうしたの?」


「あの……ありがとう/////」


少し頬を赤らめながらそう告げたイェンリンに紅蓮は、


「……フフッ♪ いいのよ。さあ、お休みなさい」


「お休みなさい♪」


挨拶を交わして部屋を出ていく三人を紅蓮は見送ってから独り部屋でソファーに深く腰掛けた紅蓮は、


「……あの子は……いつまで御子でいてくれるかしら……」


誰もいない部屋でそう呟いたのだった―――






―――ブリュンヒルデとゴンドゥルに案内され、廊下を再び進んでいくとその先には紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーの一人ランドグリーズが待っていた。


「―――お待ちしておりました♪ イェンリン様」


笑顔で出迎えるランドグリーズにイェンリンは戸惑ってしまう。


「紅蓮様から御子のお部屋に御案内するように仰せつかっていたのです」


ランドグリーズの説明で漸く彼女が待っていた理由を理解したイェンリンは、


「お、お願いします……/////」


まだ慣れない巨大な紅龍城で自分の部屋が用意されていることに驚きつつ、ランドグリーズに礼を述べた。


「それじゃあ、私とブリュンヒルデは明日の朝に部屋まで迎えに行くから、今夜はゆっくり休んでおくといい」


ゴンドゥルの言葉でイェンリンが途端に不安に駆られると、


「い、一緒に来てくれないの?」


思わずそう問い掛けてしまう。


「何だい?もしかして、子供の頃みたいに一緒に寝てほしいって言うのかい?」


ニヤニヤとした笑みを向けゴンドゥルがそう言い放つと、


「そ、そうじゃなくって!でも……少しだけ、昔のこととかも話したいなって……」


俯きながらそう告げたイェンリンに、ゴンドゥルはブリュンヒルデの顔を見つめると、互いに苦笑いを浮かべる。


「ハァ……仕方ないね!それじゃあ、遅くなる前までなら昔話でもしようか」


呆れ気味の口調でイェンリンにそう答えると、


「ホント!ありがとう♪」


素直に満面の笑みを向けるイェンリンを見て、益々肩を竦めて誤魔化していたが、本心ではイェンリンに慕われることが満更でもない気分のゴンドゥルとブリュンヒルデだった―――






―――ランドグリーズが案内してくれた部屋は、


「こ、こんな豪華な部屋を……本当に私が使ってもいいの?」


紅蓮の部屋に負けず劣らずの豪華な部屋で天井にはシャンデリアが光を放ち、革のソファーやテーブルも配置され、部屋の隅には調度品として花瓶や壁に絵画が掛けられている。


その壁には隣の部屋に向かう扉が設置されており、そこを恐る恐る開けたイェンリンの目には天蓋が設けられた大きなベッドが真っ白なシーツを敷かれて待ち受けていた。


「これから毎日イェンリンが寝起きする部屋なんだから、早い目に慣れておいた方がいいよ♪」


ゴンドゥルは気軽にそんなことを告げるが、ほんの昨日まで平民以下の身分で地べたを這うような生活を送っていたイェンリンには落ち着けない部屋だった。


「こんなとところで眠ったら……朝起きたら全部夢だったなんてオチにならない?」


「どんな心配をしているんだい?そんなことを言う御子は~♪」


そう言いながらゴンドゥルがイェンリンの両頬をキュッと摘まみ上げて軽く引っ張る。


「い、いひゃいわ……」


「おい!ゴンドゥル!―――御子になんてことをしているのよ!!」


その態度には流石に看過出来ないブリュンヒルデが割って入ると、


「どうだい?夢じゃないだろう♪」


何故か得意気にそう言い放つゴンドゥルを見て呆れて睨みつけた。


「確かに……頬がジンジンする……」


両頬を撫でて返事をするイェンリンに、様子を見ていたランドグリーズもクスクス♪ と微笑んでいる。


「私はこの城の侍従長をしておりますから、何か必要な物があればいつでも申し付けくださいね♪」


笑顔でイェンリンにそう伝えると、ゴンドゥルとブリュンヒルデに遠慮してかランドグリーズは部屋から出ていった。


「さて、それじゃあお姫様のお望み通り、寝物語でも致しましょうか」


「もう!絶対に私のことを揶揄っているでしょう!!」


その言い回しに頬を膨らませるイェンリンを見て、ゴンドゥルは笑いながら、


「ゴメン♪ ゴメン♪ それで?どんな話をしよう?」


問い掛けるとイェンリンが急に真面目な顔つきに変わった。


「……私が強くなるために、何をすればいいのか教えて欲しいの」


「……」


突然そんなことを言い出したイェンリンにゴンドゥルとブリュンヒルデは無言で顔を見合わせると、先ほどまでの笑みは消えていた。


「どうしたんだい?どうせ明日には色々と始めるんだよ?」


イェンリンの考えを探るようにゴンドゥルが問い掛けると、


「私……あの時から何かを失うことが怖いの……」


イェンリンは静かに答える。


「あの日……父さんと母さんを喪って……エリシラとマルクも……それだけじゃないわ。村の皆も全部……失った」


イェンリンの言葉に二人は黙って聴き入る。


「だから……もう後悔する明日を迎えたくない。私は、今何かが出来るならやりたいの!だから、最初に何をするべきかだけでも二人に教えてもらいたいと思ったの」


「なるほどねぇ……それじゃあ、先に言っておこうか」


ゴンドゥルがそう言って話を進める。


「イェンリン自身も分かっていると思うけど、今のイェンリンの魔力じゃあ大した魔術は使えない」


「そう……だよね……そこだけは母さんに似なかったみたい」


魔術師として高い能力を持っていたカリオラのことを思い出すイェンリンだったが、ゴンドゥルはまったく別の人物を思い浮かべる。


(イェンリンの本当の母親は恐らく『ロッソの魔女』だ……だとすると、魔力が貧困なのは父親譲りなのか?)


そう思案していたゴンドゥルは、


「紅蓮様の言っていた通り、お前の能力は加護によってこれから開花する。それが魔力に振られるのか、力に振られるのかは結果次第だ」


イェンリンに分かりやすく解説した。


「うん、分かったわ」


「そのためにも私の魔術の指導より、最初はブリュンヒルデの指導を受けて体力と武術を学ぶことだろうね」


するとそれまで黙って聴いていたブリュンヒルデが話し始める。


「イェンリンの腕前がどの程度か見てからになるが、まずは剣を振ってみるのが良いだろう。そうすれば体力も自ずとついてくるだろうし、同時に剣の扱いも憶えることが出来る」


「剣……剣なら父さんに手解きしてもらったから、素振りくらいは出来るわ!」


まずやるべきことの目途がついて、イェンリンも安心したことから思わず欠伸が出てしまう。


「ふわぁ……んんっ、何だか安心しちゃったら、眠気が出てきちゃった」


「無理をする必要はないさ。今夜はもう眠った方がいい。また明日から始めよう」


そう言って頭をそっと撫でてくれるゴンドゥルに、微笑みを返すイェンリン。


「うん……色々とありがとう、二人とも」


「いつでも力になるさ。そう誓っただろう?」


「そうだ。だから今日はもう休め」


二人の言葉に従って、イェンリンは白地に赤い模様の入ったコートを脱いで上着掛けに掛けると、


「お休み……ゴンドゥル、ブリュンヒルデ」


そう挨拶をしてベッドへ横になる。


「お休み……我が御子」


そう告げたゴンドゥルの声は既に眠りに落ちたイェンリンには届いていなかった―――






―――翌朝


朝陽の差し込む窓からの温もりと眩しさで、ゆっくりと瞼を開けたイェンリン。


「……此処は……そうか……私……紅龍城に……」


まだ寝惚けている頭で必死に昨夜のことを思い返すイェンリンは、


「ッ!―――今日から頑張らないと!!」


一気に意識が覚醒して朝から気合いを入れるのだった―――



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