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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第2章 真紅の誕生編

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牢獄での再会

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―――紅蓮の口から告げられた、


紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー第五位の名は―――『杖を振るう者』ゴンドゥルよ」


「―――えっ?」


その名を聞いてイェンリンは時が止まったように固まる―――


ブリュンヒルデと同じく、ずっと会いたかった人物が今この城の地下深くの牢屋に投獄されていることを知り、イェンリンの思考は暫く時が止まる。


「そんな……どうして……ゴンドゥルさんが……えっ?……ゴンドゥルさんも……紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーの一人?」


昨日から目まぐるしい事態にその身を翻弄されたイェンリンにとって、この場でブリュンヒルデと再会したことの上に恩人であるゴンドゥルまでこの城にいる―――


―――ずっと会いたかった二人の存在を全身で感じたイェンリンは、思わず涙が自然と込み上げてきて頬を伝っていく……


「イェンリン……これではすぐに宴という訳にもいかないわね」


小さな溜め息を吐いてイェンリンを見据えた紅蓮は、


「ゴンドゥルのことも知っているようね?―――ブリュンヒルデ、貴女はイェンリンといつ出会ったの?」


そこでブリュンヒルデにイェンリンとの縁にについて問い掛けた。


「はい……それは私とゴンドゥルがハリタス海洋自治領の情報員として滞在していた折に、村の結界の復元を頼みに来た子供がおりました」


「それがイェンリンだったと?」


「はい。そしてゴンドゥルと共に彼女の村、ゴルゴダ村に赴いた際に、例の地脈の魔力を操作する施設の者と遭遇した事件が起こりました」


「あの時の……そう……ではゴンドゥルの……」


投獄の切っ掛けがその後に起こったゴルゴダ村の不幸だったのかと、視線で紅蓮に問われたブリュンヒルデもそのことを察してコクリと頷いて返す。


「分かったわ……イェンリン?」


「―――は、はい」


急に名を呼ばれてハッと正気に戻ったイェンリンが返事をすると、


「ゴンドゥルに……会いたいかしら?」


玉座に並んで座るイェンリンに問い掛けた。


「ッ!―――会わせてくれるの!?」


玉座から身を乗り出して迫るイェンリンを見て、紅蓮は頷くと、


「そうね……もしもゴンドゥルが貴女を御子と認めたなら、あの子を牢から出してあげましょう」


「私を……御子と……」


その言葉の真意に戸惑うイェンリンだったが、ゴンドゥルを牢から出してもらえると思えば形振りを構う気はない。


「―――分かりました。必ずゴンドゥルさんを説得します!」


此処にゴンドゥルがいると知ったイェンリンは、確固たる決意を紅蓮に告げた。


その燃えるような瞳を見て、紅蓮は微笑む。


「―――ではブリュンヒルデ。貴女が見届け役として案内なさい」


「ッ!―――はい、承知致しました」


紅蓮より指名を受けたブリュンヒルデはその場で片膝をつくと、深く頭を下げた。


それはゴンドゥルが投獄から解放されるための絶好の機会なのだ。


紅蓮の気が変わらないうちに、何としてもイェンリンのことを御子と認めさせて彼女を解放してもらうことをブリュンヒルデは願っていた―――






―――玉座の間からブリュンヒルデに案内されて、


紅龍城の地下深くにある牢獄の階層に下り立ったイェンリンは、冷たい空気の中で不気味に広がり牢獄の並ぶ廊下を見つめる。


先が見えない暗闇の続く廊下の左右の壁には幾つも鉄格子が設置されており、聞いていた以上の不気味さにイェンリンは背筋を冷たいものが駆け抜ける感覚を覚えていた。


「―――こっちだ。暗いから足元に気をつけろ」


「は、はい!」


ブリュンヒルデの声に導かれて、案内される牢獄の並ぶ廊下を共に進むイェンリン。


硬い石畳と壁も天井も石で覆われた廊下に魔法石の照明ランプが掛けられていて、地下深くまで下りてきた認識からイェンリンに圧迫感を与えていた。


コツン、コツンと靴音を響かせながら進むイェンリンの前を歩くブリュンヒルデは―――


(ゴンドゥル……ここ数年間、お前から生きる気力を感じることが出来なかった。だが!この子がいれば、イェンリンと再会すればお前は……)


―――あの時、アルヴィトと共にゴンドゥルを止めたことを心のどこかで後悔していたブリュンヒルデは、イェンリンの手脚が痩せ細り弱々しい姿を見て益々その後悔が込み上げていた。


長い廊下を進み、漸く目的の牢屋の前にやってきた二人―――


―――そんな覚悟を決めた表情の二人を前に、牢屋の中から声が届く。


「……ブリュンヒルデかい?よく来るねぇ……御子様の御披露目の儀の後は宴が始まるんじゃないのかい?」


牢獄の隅に配置されたベッドの上で横になり、壁の方を向いたままでそう呟いたのは紛れもなくゴンドゥルだった。


その姿を目にしたイェンリンは、唇が無意識に震えながら―――


「……ゴンドゥルさん」


―――その背中に向かって名を呼んだ。


「ッ……誰だ?……ブリュンヒルデじゃないのか?」


此処に来て訪れる者はブリュンヒルデと食事を運ぶ紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーのみだったため、聞き慣れないその声にゴンドゥルはベッドの上で身体を起こしながら振り返った―――


「まったく、返事くらい……しな……よ……」


―――ブツブツと文句を言いながら身体を起こしたゴンドゥルは、牢の格子の向こうに立つ一人の少女を見て瞳を見開いた。


「―――ゴンドゥルさん!」


その少女は涙目になりながら目の前の格子を掴み、声を張り上げゴンドゥルの名を呼んだ―――


「……イェンリン……なのかい?」


―――投獄されて七年近く経って、


目の前に現れたのは当時十歳だった溌剌とした幼い少女ではなく―――


―――手足が痩せ細ってはいても十七を迎えた成長した姿のイェンリンだった。


「うん……私だよ……イェンリンだよ……ゴンドゥルさん」


涙が頬を伝いながら、必死に言葉を搾り出すイェンリンはゴンドゥルの幻覚でも幻想でもなかった。


「でも……どうして紅龍城に……まさか……新たな御子っていうのは―――」


「―――この炎零イェンリン=ロッソが『紅神龍』紅蓮様の新たな御子だ。ゴンドゥル」


イェンリンの隣から姿を現したブリュンヒルデがイェンリンのことを改めてゴンドゥルに伝える。


「そんな……そんなことって……」


「―――紅蓮様はイェンリンを御子に迎え、我等と謁見させた時に、彼女が紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー第五位の抜けていることに気づいたのだ」


「それでこんなところまで態々御披露目に来てくれたって訳かい?こんな状況じゃあ、対して歓迎も出来ないけどね……イェンリン、あれから……どうしていたんだい?」


ゴンドゥルはこの数年間ずっと気になっていたことを、イェンリンに問い掛けた。


「長い話になっちゃうけど……いいかな?」


涙を拭いながらゴンドゥルに微笑みを作って問い掛けるイェンリン。


「投獄されて時間は幾らでもあるさ♪ 辛い思いをしたのだろうけど、話してくれるかい?」


ゴンドゥルの言葉にイェンリンはコクリと頷くと、


「……二人が村を出ていってから―――」


そこからイェンリンの身の上に起こったことをゆっくりと思い出し、ゴンドゥルに伝えるのだった―――






―――そこから湖の畔で紅蓮と出会い、御子になって紅龍城までやってきたことを伝えた。


「そんな辛い思いをして……」


ゴンドゥルの表情はこれまでにないほど悔やみ怒りを表した顔に変わっていった。


それは七年前のゴルゴダ村の惨劇を前に、ブリュンヒルデとアルヴィトに抵抗してでもイェンリンを追うべきだったという過去に対する怒りだ。


だがそこでイェンリンは玉座の間を出る際に紅蓮から告げられた言葉を思い出していた―――




『―――会いに行くのは構わないわ。けれど、先ほどの解放の条件をゴンドゥルに教えてはダメよ。貴女の言葉で説得してゴンドゥルを従わせなさい。出来なければ……あの子を一生あのままにしておくわ』




―――ゴンドゥルがイェンリンに従えば彼女を解放すると約束した紅蓮だったが、それにはそのような条件がつけられていた。


紅蓮は『紅神龍の御子』となったからには、自らの言葉で『紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー』を従えることが必要だとイェンリンに試練を与えたのだ―――


「―――ゴンドゥルさん。私は……あの時連れ去られたエリシラとマルクを探したいの!だから貴女の力を貸してほしいの!」


イェンリンは自分の思いを正直にゴンドゥルへ伝える。


だが、その言葉にゴンドゥルは何故か哀しげな表情を浮かべて、


「悪いね……イェンリン。残念だけど、私は紅蓮様の御意向に逆らって投獄された身だ。その願いには力を貸せないよ」


此処を出ることが叶わないその身を悔やみながら、イェンリンの申し出を断る。


「それは―――ッ!……それはそうだけど……」


紅蓮の出した条件をもう少しで口にしてしまいそうだったイェンリンは、自分の言葉でゴンドゥルに御子である自分に従う言葉を導き出さなければならない。


余計な条件が邪魔をして彼女を解放することが出来ないもどかしさが、イェンリンに焦りを生み出す。


「新たな御子を迎えられたなら……私はこのままだと第五位の序列も剥奪になるだろう」


「―――そんな!?」


焦っているところでゴンドゥルの地位が剥奪されるという話が余計イェンリンの鼓動を跳ね上げていく―――


―――するとその瞬間、


「―――そんな……ダメぇええ!!!」


跳ね上がった鼓動を打つ心臓に、全身から熱い何かが流れ込む感覚を覚えたその時―――


―――イェンリンが叫ぶ。


それと同時に彼女の全身を真紅の輝きが包み込み、そしてそれを目にしたゴンドゥルとブリュンヒルデは目を見開いて驚いていた―――


「……『龍気』だと……まだ御子になったところだというのに……」


ブリュンヒルデはその真紅の輝きの正体を知った様子で囁く―――


「……御子の……『龍気オーラ』を纏い……イェンリン……お前……」


―――顕現した御子の力にゴンドゥルはイェンリンを只見つめることしか出来ない。


「……ゴンドゥルさん……私は……御子になったといっても、何も知らない……」


真紅の『龍気オーラ』に包まれながら、イェンリンがゆっくりとゴンドゥルに話し掛ける。


「でも、貴女とブリュンヒルデさんは……私にとって、子供の頃から憧れる人達なの!そんな貴女の弱気な言葉なんて聞きたくない!!」


「……」


黙って聴いているゴンドゥルにイェンリンは続ける―――


「―――私はエリシラとマルクの行方を探したいの!二人の顔を知っているのは……もう私以外はゴンドゥルさんとブリュンヒルデさんしかいない……そんな貴女が此処から出ないなんて、それはエリシラとマルクを見つけることが遠ざかることでしかないの!!」


「エリシラちゃんと……幼馴染の……」


―――ゴンドゥルの呟きを聞いて、イェンリンの紅の瞳が燃えるように輝く。


「さあ!『紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー』第五位ゴンドゥル―――此処から出るのよ!そして……今度こそ私を助けて!!そしていつか必ず、もっと強くなって私が貴女を助けるわ!!!」


そう言い放ったイェンリンの身体から膨大な真紅の『龍気オーラ』が解き放たれた―――


「オォ……」


その姿を目にしたゴンドゥルは小さく唸り声を上げると、


「―――ッ」


目の前で突然床に手をつき、深々と頭を上げて土下座の姿勢を見せたことにイェンリンは驚く。


「……御子の御前を拝しまして、恐悦至極でございます……紅神龍様の牙より生み出された我が身……この身が御子の役に立てますものなら、何なりと御申し付けください。必ずや御子の願いを成すことに全力を尽くすと、此処に誓いましょう」


ゴンドゥルから告げられた口上は、イェンリンに従うという意志を示していた。


その時―――


「―――どうやらゴンドゥルを従えることが出来たみたいね」


―――廊下の先から聞こえた声にイェンリンとブリュンヒルデが振り返る。


「紅蓮!―――それにフレイアさんも」


「―――私にも、いえ……『紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー』全員に、さん付けはいりません」


紅蓮の後ろに従うフレイアからそう告げられて、イェンリンは困惑していたが、


「前向きに考えます……/////」


まだ慣れないこの城と先ほど紹介されたばかりの紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーにそこまで距離を詰めることはすぐには無理だと頬を赤らめて答えた。


「さてと……フレイア。ゴンドゥルの『結界牢獄』を解きなさい」


「―――承知致しました」


命じられたフレイアは右手をゴンドゥルの封じられた牢獄へ向けると、


パキンッ!と何かが弾けたような高い音と共に結界が解除され、同時に鉄格子の扉が自然と開かれた。


「出なさいゴンドゥル―――これより貴女の『紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー』第五位の復権を許します」


そう宣言した紅蓮の前で跪いたゴンドゥルが深々と頭を下げる。


「―――私の御子のことを、どうかお願いね?」


それは紅蓮から放たれた優しい声色の願いだった。


「はい―――我が命に代えてでも必ず御護りし、つき従います」


その言葉を聞き、イェンリンは手探りの御子の道へ第一歩を踏み出したのだった―――



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