カリオラの戦い
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―――自警団の訓練場へ駆けつけたイェンリンとマルクを保護して、
「ギューネ……イェンリンとマルクを護ってやってくれ」
ダンクは魔術師のギューネに子供達のことを託す―――
「団長!!でも私の魔術が―――」
ギューネはイェンリン達の見たという兵士達を相手にするのなら、自分の魔術が必要になることを必死に伝えようとする。
「―――分かっている。そんなお前だからこそ、子供達を護れる」
「クッ!……しかし……」
するとそこへイェンリンが前に出ると、
「父さん!―――私達も一緒に行くわ!!」
突然そんなことを言い出してダンクは驚くがすぐに反対する。
「何を言っているんだ!イェンリン!!……これから起こることは、子供が見るものじゃない」
それは人と人が殺し合うことになるだろう戦場の光景を、子供達に見せるようなことはしたくないというダンクの親心だ。
「あの兵士達は団長に伝えるって言っていたわ!私達が見ただけでも百人近くいた。
その人達が他の仲間に伝えるって言っていたってことはどこに逃げ隠れしても一緒よ!だったら、この村で一番安全なのは―――父さん達の傍にいることよ!!」
―――その熱く言い放たれた言葉は幼い子供とは思えないほどに覇気のようなものを纏い、その場にいる自警団員の心に響く。
(これは……やはり血は争えないのか……フーリン様……貴女の娘はこれほどまで立派になりましたよ)
そう思い至るダンクだったが、
「よし!!時間も惜しい!フロップス!お前もギューネと一緒に子供達の傍についてやってくれ!―――このまま移動するぞぉ!!!」
「―――ハイッ!!!」
自警団の皆が一斉に返事を返すと、訓練場からすぐに移動を開始するのだった―――
―――ゴルゴダ村の南西
先に襲撃されたバイド村方面に通じる街道から、凡そ九百の兵士が迫る。
ブラッセン=ガッドナッドが率いるカウスラー王国の王都守護戦士団の視野に、長閑な村の風景が入る。
そして次の瞬間―――
「―――戦士団!!剣を抜けぇええ!!!」
ブラッセンが剣を抜きながら振り返り、突き従う戦士団の戦闘準備を命じる。
「さあ!狩りの時間だぞぉ!!―――突撃だぁああ!!!」
「オオオオオオオオ―――ッ!!!」
ブラッセンの号令により戦士団の屈強な男達が一斉にゴルゴダ村に向かって流れ込む―――
「な、なんじゃあ!?―――ぐぼああぁ!!!」
―――村の中に雪崩れ込んだ見ず知らずの軍隊が、村人を見つける度に斬り掛かる。
「―――ギャアアアッ!!!」
「助けてぇええ!!!―――イヤアアッ!!!」
次々に斬り殺される村人を馬で踏み荒らしながら進み蹂躙する戦士団―――
「ハハハッ!!―――ババアは殺せぇ!若い女と子供を捕まえろぉ!!!」
―――ブラッセンの喜々とした声が辺りに響き渡り、騒ぎを聞いて表に出てきてしまった村人が次々と犠牲になっていく。
長閑だった村には村人達の断末魔が響き渡り、それがまた次の犠牲者を生み出していく惨劇の舞台へと変わっていった―――
―――村の道の彼方此方に血溜を作り倒れ込む村人達。
「や、やめろぉ!!やめてくれぇえ―――ギャアアアッ!!!」
頭を真二つにされる男が倒れ込むと、その先には―――
「―――ヒイッ!」
―――その男の娘だろう若い女が小さな悲鳴を上げて顔を青くする。
「……イヒヒッ♪」
父親を斬り殺した兵士が下卑た笑みを浮かべて、青い顔をした若い娘に舌舐めずりをしてゆっくりと迫る―――
「……団長からは好きに暴れていいって言われているからなぁ♪」
「イ、イヤ……来ないで……」
―――家の開いた扉から家の中に後退っていく娘を追う様に、体格の大きな男が玄関を越えて押し入ると、
「さあ―――楽しませてくれよぉ~!」
兵士は娘の胸倉を掴み引き寄せると、両手で襟元を掴み左右に服をビリビリと引き裂いた―――
「イヤァアアアア―――ッ!!!」
―――半裸にされた娘の悲痛な悲鳴だけが響き続けていた。
村の中で繰り返される惨劇と悲劇の波は、未だに収まる気配など微塵もない―――
―――そしてその喧騒はダンク達の家にまで届くほどだった。
「エリシラ!!―――すぐに隠れて!!!」
「お……お母さん!」
カリオラは真剣な顔でエリシラの手を取り、すぐに家の裏口へ向かおうとしたその時、
「―――イヤァアアアッ!!!」
「ッ!―――ルメイの声!!」
隣の家のルメイの悲鳴がカリオラの耳に届く。
エリシラの部屋の窓から隣の家に目を向けると、屈強な兵士に手を引かれ、表に引き出されるルメイの姿があった。
「―――ルメイ!!」
妊娠しているお腹の大きなルメイを乱暴に扱う兵士達の姿に、同じ母親としてカリオラの怒りが一気に湧き起こる。
「エリシラ!―――この中に隠れて!!」
「お、お母さん!」
そこでエリシラの手を引き一階に下りたカリオラは、一階から地下に通じる床板を開くとそこへエリシラを押し込む。
そこはカリオラの魔法薬を作っている地下室への入口だった。
「いい?お母さんが迎えに来るまで、絶対に此処から出てはダメよ!!」
「お、お母さん……」
これまで見たことがない不安を浮かべるエリシラの頬をそっと撫でるカリオラ。
「大丈夫♪ お父さんがきっと助けに来てくれるから♪……愛しているわ……エリシラ」
「ッ!お母さ―――」
泣きそうになっているエリシラの言葉を最後まで聞かず、カリオラはバタン!と床板の扉を閉じるのだった―――
―――家から無理矢理引き摺り出されたルメイは、必死に子供が宿っているお腹を庇いながら抵抗する。
「オラァ!早く歩けぇ!!」
「や、やめて……お腹に子供がいるの!」
泣きながら懇願するルメイだが、それを囲む数名の屈強で醜い笑みを浮かべる兵士達は聞く耳など持っていない。
「―――そんなことは見れば分かる!!」
怒鳴りつけた兵士の傍にいた別の兵士は、
「おい、妊婦なんてどうするんだ?」
身重の女にどんな価値があるのかと問い掛けた。
「ああ~お前知らないのか?こういう妊婦を嬲って楽しむ変態の貴族に高く売れるのさ」
「ヒィ!―――イヤァアッ!!」
兵士の話を聞き、途端に子供の危険を悟ったルメイが悲鳴を上げたが―――
「―――うるせぇえええ!!!」
―――その直後パシーンッ!と頬を打つ音が鳴り響いた。
男の大きな掌で頬を打ちつけられたルメイは、吹き飛び地面に転げてしまった。
「ウウゥ……カハッ!」
殴られると同時に口の中を切ったルメイはその場で血を吐き、地面を赤く染める。
「オラァ!もたもたしてんじゃねぇ!!すぐに―――」
「―――《氷槍》!!!」
その時―――
「―――ギャアアアッ!!!」
―――ルメイの頬を叩いた兵士の背中から、図太い氷の槍が胸まで貫く。
「ッ!?―――ま、魔術師だ!!!」
振り返ってそう叫ぶ兵士の大声に、周囲で村人を襲っていた兵士達が一斉にカリオラへ視線を向けた。
「魔術師だと!?―――なんでこんな田舎の村に上位魔術を使える魔術師がいやがるんだ!!」
人の皮を被った外道の集団であっても戦士団であり、今カリオラの放った魔術が水属性魔術・上位の魔術だと知識を持っている。
「―――捕えろぉ!!!殺してもいい!」
兵士の一人が叫ぶとカリオラに向かって数名の兵士が一斉に襲い掛かる。
剣を振り被り襲い掛かってくる兵士達に向かって魔術杖を向けたカリオラは―――
「―――《氷弾》!!!」
―――その魔術杖の先端から無数の氷の弾を撃ち出す。
「グギャアアアッ!!!」
「グオオオ!!!―――痛ぇええよぉ!!」
「―――へぶうぅ!?」
無数に放たれた氷の弾は先ほどの太い氷の槍とは違い、弾の大きさは小さいが数が多く身体の彼方此方に穴を穿っていくと、頭を打ち抜かれた兵士達はその場に倒れ込む。
「―――ルメイ!!大丈夫!?しっかり!」
倒れ込んだルメイの傍に駆け寄るカリオラを見て、痛みと恐怖で涙を浮かべていたルメイが少しだけ笑みを浮かべる。
「……カ、カリオラ……ありがとう……」
「さあ、立てる?今のうちに―――」
そこでルメイの手を取って立ち上がらせたカリオラだったが、
「―――ほう?これはお前がやったのかぁ?」
そこへ現れたのは鈍い銀色の鎧を赤い返り血に染め上げ、口髭を蓄えた茶色い短髪に赤い瞳をした一際屈強な男だった。
「―――団長!!この女、魔術師ですぜ!!!」
そこで離れた場所で先ほどの魔術を見ていた兵士が団長と呼ぶその男―――
―――ブラッセンに必死の形相で報告した。
「―――馬鹿なのか?お前は?……この殺され方を見れば魔術によるもんだってことは一目で分かる」
部下の報告を馬鹿にしながら流し目でカリオラを睨みつけるブラッセン。
「女ぁ……なかなかの腕前のようだな?」
「ええ!―――だから死にたくなかったら村から出ていきなさい!!」
必死の形相を浮かべてカリオラがブラッセンに怒鳴りつけると、
「ハハハハッ!!―――この俺に尻尾を巻いて帰れだって?随分と笑わせてくれるねぇ……」
鋭く細めた視線で射抜くブラッセンの『殺気』を感じ取ったカリオラは、魔術杖を差し向ける―――
「―――《氷槍》!!!」
―――間髪入れずに《氷槍》魔術を発動したカリオラ。
空中で氷結され形成された氷の槍が凄まじい速度でブラッセンに襲い掛かる―――
―――しかし、
迫りくる氷の槍に臆することなく、手にした剣を一閃横薙ぎにすると氷の槍がその瞬間、粉々に粉砕される―――
―――そして次の瞬間、
「―――ウグウッ!?」
『身体加速』を発動させたブラッセンの姿が掻き消えて、一瞬でカリオラの首を片手で吊り上げていた。
「……魔術師なんてもんは、喉を締めてやれば詠唱も出来なくなって手詰まりになる」
「―――ゲホッ!ゴホッ!」
息が出来ないほど喉を握られたカリオラはすぐに窒息寸前で顔が赤くなっていく。
「魔術師との戦闘で重要なことは、発動した魔術を退けて近接戦闘に持ち込むことだ。魔術師なんて所詮は遠距離攻撃主体の肉弾戦には弱いヤツばかりだ」
ブラッセンの講釈は窒息状態のカリオラの耳に響いているが、思考が上手く働かず朦朧としていく。
剛腕の力で吊り上げられたカリオラは、その手からゆっくりと魔術杖が地面に落ちていき、それを見ていたルメイは―――
「―――カリオラァアッ!!!」
―――顔色からも危険な状態だと分かるカリオラの名を叫んだ。
「さあ、それじゃあ楽しい処刑を始めようかぁ」
虫の息のカリオラを睨みながらブラッセンはニヤリと歪んだ笑みを浮かべるのだった―――
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